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第33話 虚弱聖女と新たな聖女
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私たちの姿は、謁見の間にあった。
とても広くて華やかな部屋だ。
キラキラと輝くシャンデリアが頭上で揺れている。
真っ赤な絨毯が敷かれていて、その両端には武装した騎士たちが並んでいた。貴賓を迎えるのに相応しい場所だ。
もし私がこの場を歩くとなったら、あまりの煌びやかさに緊張し、右手と右足を同時に出してしまいそう。
なのにその人物は、こういった場所に慣れているかのように、堂々とした足取りで赤絨毯を歩いている。
やってきたのは、美しい女性だった。
明るい緑色の髪を上でまとめているため、首元やうなじが露わになっている。見える肌は、健康的な小麦色をしていた。この国ではあまり見ない肌色だ。
首には頭上のシャンデリアに負けないほどの輝きを放つ、無数の宝石がちりばめられたネックレスを付けていて、耳元を揺れる耳飾りも大きくて豪華だ。
両手首には太めの金の腕輪が部屋の明かりを反射し、腕輪から伸びた細い鎖が中指の指輪と繋がっている。見たことのないデザインだ。
だけど一番驚いたのは、服装。
上半身は、豊満な胸を白い布で覆っているだけ。コルセットを着けずとも細いウエストもおへそも見えていて、下半身には大きなスリットが入った白く長いスカートが揺れていた。彼女が歩く度に、布の隙間から肌が見える。
こんなにも、肌の露出が多い服は初めて見た。
見慣れていないせいで、見ている私の方が恥ずかしく思えて、目のやり場に困ってしまうほどだ。
これら特徴だけでも、女性が、クロラヴィア王国にもルミテリス王国にも属さない存在であることがうかがえた。
レイ様は玉座に座り、ラメンテも彼の横に座った。
私はどこにいるべきか迷ったけれど、ティッカさんからラメンテの後ろにいるように言われ、素直に従うことにした。私とラメンテの反対側には、ルヴィスさんが立っている。
三人と一体、そして多くの騎士たちの視線を一身に浴びながらも、女性は堂々とした様子で歩き続け、私たちの前にやってくると胸に手を置いて深く頭を下げた。
「お初にお目にかかる、ルミテリス国王陛下。今日は突然の訪問にもかかわらず、お目通りをお許し頂き、感謝する」
女性にしては太く低い声。しかし威厳のある力強い声色だった。
顔を上げると、少しつり上がった深緑の大きな瞳が、宝石のような輝きを見せていた。レイ様と同じような、生命力の力強さを感じさせる輝きだった。
どう見ても、ただの使者とは思えない。
この人は、一体……
動揺する私とは正反対に、レイ様は、悠然とした構えを崩すことなく、笑みを浮かべながら女性を出迎えた。
「よくぞ参られたな。まさか、結界の外から来訪があるとは思わなかった。改めてだが、俺はここルミテリス国王、レイ・オルシア・ルミテリス。失礼だが、あなたは何者なのだ?」
「わしとしたことが失礼した」
え?
わし?
独特な呼称に思わず目を瞠った。私だけでなく、周囲も若干ざわついている。
しかし彼女は、周囲の空気など意に介した様子なく、再び胸に手を当て、堂々と名乗った。
「わしの名は、システィーナ・レナン・フェンレア。フェンレア王国女王でありーー」
彼女――システィーナ様の鋭すぎる視線が、レイ様を射貫く。
「神聖連合守護獣ルゥナの聖女である」
聖女?
私の他に、聖女が……?
目の前の女性が、フェンレア王国の女王であること以上に、私の他に聖女が存在することの方が驚きだった。
それに彼女の口から出てきた、新たな守護獣の名前。
目の前の女性の正体が分かったかと思えば、さらに謎が深まった。
しかしレイ様は、笑みを崩さない。ゆっくりと玉座から立ち上がると、システィーナ様に近づいた。
「まさかフェンレア王国女王自ら、ルミテリスに来られるとは。それも聖女だとは驚きだな。だから守護石を持っていたのだな?」
「左様。フェンレア王国を知らずとも、守護石を見せれば、わしに興味を抱くと思っておったからのぅ」
「はははっ、確かにな。あなたの思惑に、我々はまんまとはまったわけだ。それにしてもーー」
レイ様の赤い瞳が、システィーナ様の思惑を探るように細くなった。口から発される声色が低くなる。
「まさか女王自ら、一人で結界を超えてこの国に?」
「案ずるな、レイ王。軍隊など率いてきてはおらん。流石に結界の外で待機させるわけにはいかんしのう」
カラカラ笑いながら答えるシスティーナ様。それを聞いて、背中に冷たい汗が伝った。
レイ様は、見知らぬ他国からの侵略の可能性も考えていたのだ。
私、そんなこと全然考えていなかった。
知らない国から人が来たことに目を向けてばかりで……
システィーナ様の笑いが、ピタリと止まった。大きな瞳を細め、含み笑いを浮かべる。
「じゃが、一人……ではないのぅ」
「一人では、ない?」
レイ様がシスティーナ様の言葉を反芻した瞬間、キュンッという甲高い悲鳴が聞こえたかと思うと、黒い何かとラメンテが絡まりながらレイ様とシスティーナ様の間に転がってきた。
護衛たちが一斉に武器を構えるが、
「止めろっ!!」
レイ様が鋭い声で制止する。
緊張感で満ちる中、システィーナ様の軽やかな笑い声が響き渡った。
「守護獣ルゥナとともにやって来たのじゃ」
深緑の瞳が細め、どこからか取り出した扇を広げて、システィーナ様は口元を隠す。それとほぼ同時に、吠えるような男性の低い怒声が響き渡った。
「……お前、一体何を考えている!!」
それを聞いた瞬間、私の体は弾かれるようにラメンテの方へとかけだしていた。
ラメンテは、自分と同じぐらいの大きさの黒い獣に後ろから首筋をかみつかれた状態で床に押さえつけられていた。
黒い獣……ではあるけれど、ラメンテと同じような長いふわふわの毛並みをしている。だけど顔形が違う。
ラメンテが犬型なら、この獣は、猫。
真っ黒い猫が、ラメンテを押さえつけていたのだ。長いひげが揺れ、小さく動いた口から先ほどの男性の声がした。
「こんなに急速に結界を拡大させて……聖女を殺す気かっ!!」
「こ、殺す……? な、何を言っているの? それに君は……いったい……だれ?」
「はっ? 俺を覚えてない? おい……しらばっくれるのもいい加減にしろ!!」
「し、知らない……ぼ、ぼく、は……」
「てめぇ……聖女を殺そうとするわ、俺のことを知らないとほざくわ……元々なよなよしてて気にくわねぇやつだったが……見損なったぞっ!!」
黒猫の姿をした守護獣――ルゥナ様の怒声が響き渡った。
「シィっ!!」
と――
とても広くて華やかな部屋だ。
キラキラと輝くシャンデリアが頭上で揺れている。
真っ赤な絨毯が敷かれていて、その両端には武装した騎士たちが並んでいた。貴賓を迎えるのに相応しい場所だ。
もし私がこの場を歩くとなったら、あまりの煌びやかさに緊張し、右手と右足を同時に出してしまいそう。
なのにその人物は、こういった場所に慣れているかのように、堂々とした足取りで赤絨毯を歩いている。
やってきたのは、美しい女性だった。
明るい緑色の髪を上でまとめているため、首元やうなじが露わになっている。見える肌は、健康的な小麦色をしていた。この国ではあまり見ない肌色だ。
首には頭上のシャンデリアに負けないほどの輝きを放つ、無数の宝石がちりばめられたネックレスを付けていて、耳元を揺れる耳飾りも大きくて豪華だ。
両手首には太めの金の腕輪が部屋の明かりを反射し、腕輪から伸びた細い鎖が中指の指輪と繋がっている。見たことのないデザインだ。
だけど一番驚いたのは、服装。
上半身は、豊満な胸を白い布で覆っているだけ。コルセットを着けずとも細いウエストもおへそも見えていて、下半身には大きなスリットが入った白く長いスカートが揺れていた。彼女が歩く度に、布の隙間から肌が見える。
こんなにも、肌の露出が多い服は初めて見た。
見慣れていないせいで、見ている私の方が恥ずかしく思えて、目のやり場に困ってしまうほどだ。
これら特徴だけでも、女性が、クロラヴィア王国にもルミテリス王国にも属さない存在であることがうかがえた。
レイ様は玉座に座り、ラメンテも彼の横に座った。
私はどこにいるべきか迷ったけれど、ティッカさんからラメンテの後ろにいるように言われ、素直に従うことにした。私とラメンテの反対側には、ルヴィスさんが立っている。
三人と一体、そして多くの騎士たちの視線を一身に浴びながらも、女性は堂々とした様子で歩き続け、私たちの前にやってくると胸に手を置いて深く頭を下げた。
「お初にお目にかかる、ルミテリス国王陛下。今日は突然の訪問にもかかわらず、お目通りをお許し頂き、感謝する」
女性にしては太く低い声。しかし威厳のある力強い声色だった。
顔を上げると、少しつり上がった深緑の大きな瞳が、宝石のような輝きを見せていた。レイ様と同じような、生命力の力強さを感じさせる輝きだった。
どう見ても、ただの使者とは思えない。
この人は、一体……
動揺する私とは正反対に、レイ様は、悠然とした構えを崩すことなく、笑みを浮かべながら女性を出迎えた。
「よくぞ参られたな。まさか、結界の外から来訪があるとは思わなかった。改めてだが、俺はここルミテリス国王、レイ・オルシア・ルミテリス。失礼だが、あなたは何者なのだ?」
「わしとしたことが失礼した」
え?
わし?
独特な呼称に思わず目を瞠った。私だけでなく、周囲も若干ざわついている。
しかし彼女は、周囲の空気など意に介した様子なく、再び胸に手を当て、堂々と名乗った。
「わしの名は、システィーナ・レナン・フェンレア。フェンレア王国女王でありーー」
彼女――システィーナ様の鋭すぎる視線が、レイ様を射貫く。
「神聖連合守護獣ルゥナの聖女である」
聖女?
私の他に、聖女が……?
目の前の女性が、フェンレア王国の女王であること以上に、私の他に聖女が存在することの方が驚きだった。
それに彼女の口から出てきた、新たな守護獣の名前。
目の前の女性の正体が分かったかと思えば、さらに謎が深まった。
しかしレイ様は、笑みを崩さない。ゆっくりと玉座から立ち上がると、システィーナ様に近づいた。
「まさかフェンレア王国女王自ら、ルミテリスに来られるとは。それも聖女だとは驚きだな。だから守護石を持っていたのだな?」
「左様。フェンレア王国を知らずとも、守護石を見せれば、わしに興味を抱くと思っておったからのぅ」
「はははっ、確かにな。あなたの思惑に、我々はまんまとはまったわけだ。それにしてもーー」
レイ様の赤い瞳が、システィーナ様の思惑を探るように細くなった。口から発される声色が低くなる。
「まさか女王自ら、一人で結界を超えてこの国に?」
「案ずるな、レイ王。軍隊など率いてきてはおらん。流石に結界の外で待機させるわけにはいかんしのう」
カラカラ笑いながら答えるシスティーナ様。それを聞いて、背中に冷たい汗が伝った。
レイ様は、見知らぬ他国からの侵略の可能性も考えていたのだ。
私、そんなこと全然考えていなかった。
知らない国から人が来たことに目を向けてばかりで……
システィーナ様の笑いが、ピタリと止まった。大きな瞳を細め、含み笑いを浮かべる。
「じゃが、一人……ではないのぅ」
「一人では、ない?」
レイ様がシスティーナ様の言葉を反芻した瞬間、キュンッという甲高い悲鳴が聞こえたかと思うと、黒い何かとラメンテが絡まりながらレイ様とシスティーナ様の間に転がってきた。
護衛たちが一斉に武器を構えるが、
「止めろっ!!」
レイ様が鋭い声で制止する。
緊張感で満ちる中、システィーナ様の軽やかな笑い声が響き渡った。
「守護獣ルゥナとともにやって来たのじゃ」
深緑の瞳が細め、どこからか取り出した扇を広げて、システィーナ様は口元を隠す。それとほぼ同時に、吠えるような男性の低い怒声が響き渡った。
「……お前、一体何を考えている!!」
それを聞いた瞬間、私の体は弾かれるようにラメンテの方へとかけだしていた。
ラメンテは、自分と同じぐらいの大きさの黒い獣に後ろから首筋をかみつかれた状態で床に押さえつけられていた。
黒い獣……ではあるけれど、ラメンテと同じような長いふわふわの毛並みをしている。だけど顔形が違う。
ラメンテが犬型なら、この獣は、猫。
真っ黒い猫が、ラメンテを押さえつけていたのだ。長いひげが揺れ、小さく動いた口から先ほどの男性の声がした。
「こんなに急速に結界を拡大させて……聖女を殺す気かっ!!」
「こ、殺す……? な、何を言っているの? それに君は……いったい……だれ?」
「はっ? 俺を覚えてない? おい……しらばっくれるのもいい加減にしろ!!」
「し、知らない……ぼ、ぼく、は……」
「てめぇ……聖女を殺そうとするわ、俺のことを知らないとほざくわ……元々なよなよしてて気にくわねぇやつだったが……見損なったぞっ!!」
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「シィっ!!」
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