催眠術にかかったフリをしたら、私に無関心だった夫から「俺を愛していると言ってくれ」と命令されました

・めぐめぐ・

文字の大きさ
7 / 16

第3話 催眠術②

「分かったわ」
「ありがとう! ソフィア、大好き‼」

 立ち上がったメーナが、ソフィアに抱きついた。

 椅子に座ったまま目を瞑るように指示され、それに従う。ソフィアの顔の前でメーナが動いている気配を感じるが、何をしているかまでは分からない。

 闇の中に沈む視界の中で、メーナの声が響く。

「今から三つ数えたら、あなたは今日の夜十刻まで催眠術にかかった状態になる。催眠術にかかった後は、今のこの会話は忘れ、いつもどおり自分の意思で生活を送る。だけど――」

 メーナが一息おき、言葉を続ける。

「特定の相手の命令には何でも応える。命令の合図は、特定の相手が手を叩いた音とする」

(え? 特定の相手の、めい、れい?)

 突然、思ってもみないことを言われ、目を開けようとしたとき、

「三・二・一、ハイ‼」

 パンッと手を打つ音が響き渡った。
 突然大きな音がして、ソフィアは驚き、ビクッと肩を振るわせて固まってしまった。

 静寂が場を支配する。
 次の瞬間、

「よっし! 催眠術、かかったぁああああ‼」

 恐らく、拳を上に突き上げて喜んでいるであろう、メーナの歓声が響き渡った。

 はしゃぐ声が聞こえる中、ソフィアはとても困っていた。
 何故なら、全く催眠術にかかっていなかったからだ。

(た、たしか……さっきメーナが話していた催眠術の内容は、忘れるのよ、ね……?)

 だが、覚えている。
 しっかりと覚えている。

 しかし、

「やだ凄い私! 凄すぎない、私? 初めての催眠術を一発で成功させるなんて‼ 実は魔術よりも、こっちの方に才能があるのかも!」

 と、自画自賛しているメーナに、催眠術が失敗してると言える雰囲気ではなかった。

 以前、絶対成功すると臨んだ魔術に失敗し、十日間ぐらい落ち込み、痩せてしまった義妹を覚えているからだ。

(……仕方ないわ。まあ十刻までの話だし、命令以外は普通に生活していいってことだし……)

 いざとなれば、何か理由をつけて術が解けたことにすればいい。
 メーナは初めての催眠術が成功したのだと言っていたのだから、術が途中で解けても何ら不自然ではない。
 成功したと思ったのに失敗したと告げられるよりは、受けるショックは幾分マシだろう。

 ということで、メーナの催眠術にかかったフリをすることにした。
 
 そんなソフィアの傍で、パンッと手を叩く音が響いた。命令の合図だ。 

「ソフィアは私が良いと言うまで、目を開けない。分かったら頷いて」

 ソフィアはコクリと頷くと、メーナは、面白くて堪らないと言わんばかりの気持ちを声色に出しながら笑った。

「ふふっ……全く、ヘタレな兄を持つ妹は、ほんっと辛いわー」
(ヘタレな……兄? それって……)

 名を思い浮かべるよりも早く、部屋に荒々しいノック音が響き渡った。同時に、低い大声がノック音と重なる。

「メーナ! いるんだろ、出てこい‼」
(オーバル様⁉)

 部屋の外にいるのは、仕事のために出かけたはずのオーバルだった。それも焦りからくる怒りのせいで、声を荒げている。
 結婚して一年。声を荒げた夫など見たことなかったため、何かあったのかとソフィアの心臓の鼓動が速くなった。

 ソフィアの傍から人の気配が離れ、ドアの軋み音が聞こえたかと思うと――

「お前……早馬が来たかと思ったら、【ソフィアの身に何かが起こるから、今すぐ帰れ】ってどういうことだ‼」
「んもう、お兄。そんなにつかかってこないでよ。ソフィアなら、そこにいるわよ」
「そこにって……」

 声が途切れ、重い足音がソフィアの方に近付いてきた。

 メーナとは違う人間の気配がソフィアの傍で止まる。目を瞑っているが、突き刺さるような鋭い視線を向けられていることは感じられた。

 次の瞬間、ソフィアが聞いたことのない大声が部屋の空気を震わせた。

「一体ソフィアに何をした⁉ 俺がいるのに、彼女が座ったまま目を瞑っているなど、あるわけないだろ‼ 一体何をしたんだ、メーナ‼」
「知らせを聞いてすぐに飛び出してきました、みたいなその酷い格好……ソフィアに見せてやりたいわ!」
「お前……一体何を企んでいる?」

 今度は、相手を威圧するような低くゆっくりとしたオーバルの声だった。同時に衣擦れの音がしているので、服を整えているのだろうか。

 いつも冷然としている彼が、怒りを露わにしていることが信じられなかった。さらにその理由が、ソフィアを心配してなのだからなおさらだ。

 ふんっと鼻息を荒げながら、メーナが言い放つ。
感想 2

あなたにおすすめの小説

魔力ゼロと捨てられた私を、王子がなぜか離してくれません ――無自覚聖女の王宮生活――

ムラサメ
恋愛
伯爵家で使用人同然に扱われてきた少女、エリナ。 魔力も才能もないとされ、義妹アリシアの影で静かに生きていた。 ある日、王国第一王子カイルの視察で運命が動き出す。 誰も気づかなかった“違和感”に、彼だけが目を留めて――。

年下で可愛い旦那様は、実は独占欲強めでした

由香
恋愛
政略結婚で嫁いだ相手は―― 年下で、可愛くて、なぜか距離が近すぎる旦那様でした。 「ねえ、奥さん。もうちょっと近く来て?」 人懐っこく甘えてくるくせに、他の男が話しかけただけで不機嫌になる彼。 最初は“かわいい弟みたい”と思っていたのに―― 「俺、もう子供じゃないよ。……ちゃんと男として見て」 不意に見せる大人の顔と、独占欲に心が揺れていく。 これは、年下旦那様にじわじわ包囲されて、気づいたら溺愛されていた話。

異母姉の身代わりにされて大国の公妾へと堕とされた姫は王太子を愛してしまったので逃げます。えっ?番?番ってなんですか?執着番は逃さない

降魔 鬼灯
恋愛
やかな異母姉ジュリアンナが大国エスメラルダ留学から帰って来た。どうも留学中にやらかしたらしく、罪人として修道女になるか、隠居したエスメラルダの先代王の公妾として生きるかを迫られていた。 しかし、ジュリアンナに弱い父王と側妃は、亡くなった正妃の娘アリアを替え玉として差し出すことにした。 粗末な馬車に乗って罪人としてエスメラルダに向かうアリアは道中ジュリアンナに恨みを持つものに襲われそうになる。 危機一髪、助けに来た王太子に番として攫われ溺愛されるのだか、番の単語の意味をわからないアリアは公妾として抱かれていると誤解していて……。 すれ違う2人の想いは?

契約婚約、喜んで白紙に戻します!〜無口な天才魔導具師様が元恋人とやり直したいなら、私はもうお邪魔いたしません〜

恋せよ恋
恋愛
「政略結婚なんてやめて、私のところに戻ってきて!」 没落しかけた商会のため、天才魔導具師レオンと『契約婚約』。 商人の娘リネットは、偶然にも彼が元恋人に抱きつかれ、 復縁を迫られている場面を目撃してしまう。 リネットは悟った。 (彼が冷たかったのは、私との時間が「苦痛」だったからなんだ) 「三年間、お世話になりました。 責任を持って、この婚約は白紙に戻させていただきます!」 愛する人の幸せのため、リネットは身を引くことを決意する。 捨てられたと勘違いして爆走する有能ヒロインと、 言葉が足りなすぎて破滅しかけている天才魔導具師。 すれ違いまくりの二人の逆転溺愛ラブコメディ! 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!

十年間虐げられたお針子令嬢、冷徹侯爵に狂おしいほど愛される。

er
恋愛
十年前に両親を亡くしたセレスティーナは、後見人の叔父に財産を奪われ、物置部屋で使用人同然の扱いを受けていた。義妹ミレイユのために毎日ドレスを縫わされる日々——でも彼女には『星霜の記憶』という、物の過去と未来を視る特別な力があった。隠されていた舞踏会の招待状を見つけて決死の潜入を果たすと、冷徹で美しいヴィルフォール侯爵と運命の再会! 義妹のドレスが破れて大恥、叔父も悪事を暴かれて追放されるはめに。失われた伝説の刺繍技術を復活させたセレスティーナは宮廷筆頭職人に抜擢され、「ずっと君を探していた」と侯爵に溺愛される——

虚弱姫はコワモテ将軍の筋肉に触りたい

隙間ちほ
恋愛
◼︎無骨な英雄×病弱な筋肉フェチ姫 ◼︎辺境伯の末娘エルナは、領軍の英雄マテウスとの結婚が決まった。政略結婚――のはずが、実は姫は将軍の熱烈なファン。姫がノリノリで嫁ぐ一方、当のマテウスは「か弱い姫君に嫌われている」と思い込み、距離を取ってしまう……。 ◼︎筋肉と鼻血とすれ違いラブコメ。 ◼︎超高速展開、サクッと読めます。

もう長くは生きられないので好きに行動したら、大好きな公爵令息に溺愛されました

Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユリアは、8歳の時に両親を亡くして以降、叔父に引き取られたものの、厄介者として虐げられて生きてきた。さらにこの世界では命を削る魔法と言われている、治癒魔法も長年強要され続けてきた。 そのせいで体はボロボロ、髪も真っ白になり、老婆の様な見た目になってしまったユリア。家の外にも出してもらえず、メイド以下の生活を強いられてきた。まさに、この世の地獄を味わっているユリアだが、“どんな時でも笑顔を忘れないで”という亡き母の言葉を胸に、どんなに辛くても笑顔を絶やすことはない。 そんな辛い生活の中、15歳になったユリアは貴族学院に入学する日を心待ちにしていた。なぜなら、昔自分を助けてくれた公爵令息、ブラックに会えるからだ。 「どうせもう私は長くは生きられない。それなら、ブラック様との思い出を作りたい」 そんな思いで、意気揚々と貴族学院の入学式に向かったユリア。そこで久しぶりに、ブラックとの再会を果たした。相変わらず自分に優しくしてくれるブラックに、ユリアはどんどん惹かれていく。 かつての友人達とも再開し、楽しい学院生活をスタートさせたかのように見えたのだが… ※虐げられてきたユリアが、幸せを掴むまでのお話しです。 ザ・王道シンデレラストーリーが書きたくて書いてみました。 よろしくお願いしますm(__)m

初恋をこじらせたやさぐれメイドは、振られたはずの騎士さまに求婚されました。

石河 翠
恋愛
騎士団の寮でメイドとして働いている主人公。彼女にちょっかいをかけてくる騎士がいるものの、彼女は彼をあっさりといなしていた。それというのも、彼女は5年前に彼に振られてしまっていたからだ。ところが、彼女を振ったはずの騎士から突然求婚されてしまう。しかも彼は、「振ったつもりはなかった」のだと言い始めて……。 色気たっぷりのイケメンのくせに、大事な部分がポンコツなダメンズ騎士と、初恋をこじらせたあげくやさぐれてしまったメイドの恋物語。 *この作品のヒーローはダメンズ、ヒロインはダメンズ好きです。苦手な方はご注意ください この作品は、小説家になろう及びエブリスタにも投稿しております。