旦那様と浮気相手に居場所を奪われた伯爵夫人ですが、周りが離縁させようと動き出したようです(旧題:私を見下す旦那様)

・めぐめぐ・

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第6話 ディア視点

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 奥様の自己評価が低すぎて辛い。

 あたしは頭を抱えていた。
 先日、フェリーチェ奥様に明かされた、旦那様であるレイジィ――いや、あのクソ野郎の浮気。

「……堂々とフェリーチェ様の生まれ育った屋敷で浮気とは……いい度胸してんじゃねぇか、あのクソ野郎」

 怒りのあまり、帳簿をつけながら心の声が洩れ出てしまう。

 あたしは元孤児だ。
 同じような子どもたちと路上で、ゴミ扱いされながら生きていた。

 フェリーチェ様の前では丁寧な所作や言葉遣いを心がけ、あの方の品位を落とさないように細心の注意を払っている。

 でも元々はこんな感じで粗暴な人間だ。

 5年前、あたしは空腹からこの店の商品を奪おうとして捕まった。
 
 やってきたのは、長い金髪を緩く編みこんだ全体的に色の薄い、綺麗で儚げな女だった。
 一目見て、どっかの貴族令嬢だと分かった。

 その女は、あたしと盗んだ食べ物を交互に見比べると、薄い青色の瞳を見開き、驚いた表情を浮かべた。

 この時は、こんな小汚いガキが珍しいのか、と怒りが沸いたんだけど、次に彼女が取った行動は予想外だった。

「早くこの子に食べ物を与えなさい! こんな子どもが飢え、ボロボロになっているのに、何故誰も手を差し伸べないの⁉」

 耳を疑ったね。

 そして泥棒のあたしに、何故か肉の欠片の入った温かいスープとパンがふるまわれた。

 頭が足りないのか?
 それとも珍しいペットとしてあたしを飼いたいのか?

 そんなことを思ったけど、久しぶりの人間らしい食事に食欲は抗えなかった。
 満腹になると、微笑んでずっとあたしを見ていた彼女に尋ねた。

 何で、盗みを働いたあたしに、こんなことをしたのかと。

 そしたら彼女は――フェリーチェ様はこう仰った。

「あなたのような子どもが飢えたのは、私たち大人の責任なのです。だからあなたが盗みを行ったことを、子を守る立場である大人の私が、何故咎められるでしょうか? 子は宝。その宝をないがしろにして国は繁栄いたしません」

 綺麗ごとなら誰でも言える。

 でもあの方の本当に凄いところは、あたしのような子どもたちの状況を聞き、救いの手を差し伸べる為、個人的に孤児院を作られたこと。

 そのために、亡くなったご家族との大切な品を手放したと聞いている。

「温かい場所、お腹いっぱい食べられるご飯、そして見守る大人の目があれば、子どもは真っすぐ育つのですよ」

 そのお考えの下、孤児院ではきちんと食事が与えられ、教育も与えられた。
 望む者には、手に職をつける費用もご用意下さった。 

 そして独り立ちの年齢になると、働き口まで世話して下さった。 

 力仕事しか出来ないバカたちには、ご自身の領地で農民として働かせて下さった。

 ここで出来上がった作物は、そのまま、もしくは加工され、直接トーマ商会で売られる。

 ということは仲介を通らない分、安く商品を売り出せるわけだ。

 一部の孤児たちはトーマ商会で働いている。

 フェリーチェ様は、働き口のなかった子を雇っている、と考えられているけど、実際は違う。皆、あの方の恩に報いたくて、わざと働き口を探さなかっただけ。

 そんな奴らがトーマ商会に集まって来てるんだから、そりゃ優秀な人材が集まってくるだろう。

 さらにフェリーチェ様は、自分の店の発展だけじゃなく、自分と関わる店や人にも良くなって欲しいと思っていらっしゃる方。

 だから自分の利益関係なくどんどん優秀な人同士を引き合わせたり、紹介しあったり、どこかの商会が困っていたら手を差し伸べたりと、業界全体がよくなるように行動される。

 無意識に。
 
 フェリーチェ様があたしたちや周囲を良くする為に考え、実行されていることが、結果的にトーマ商会の利益に繋がっている。

 だからトーマ商会の発展は、あの方の努力の賜物であり、思い出したように口を挟んでは失敗し、それをフェリーチェ様のせいにしてるあのクソ野郎のせいじゃない。

(何とかあの野郎と離縁させたい! ……いや、絶対に離縁させてやるっ‼)

 あの話を聞いてから、フェリーチェ様の表情は沈む一方だ。

 この間は、とうとう頰を腫らしてやって来られた。もしあたしがフェリーチェ様のお立場なら、100倍はやり返してる。

 フェリーチェ様はあれからご自身のことを語らないけど、状況が悪化しているのは簡単に予想できる。

 かといって身分の低いあたしが、ローランド伯爵邸に乗り込むわけにもいかない。あたしは全然いいけど、多分フェリーチェ様が辛い目に遭わされる。

 あたしのせいであの方が傷つくなんて、耐えられない‼

(どうしたもんか……)

 夜、フェリーチェ様を見送り、戸締りをしようとした時、

「おい――」

「あ、申し訳ございません。もう今日はおしま――あ、あなたは……!」

 振り返った先にいた人物に驚いた。
 彼はそんなあたしを見てニヤリと笑った。

「よお、トーマ商会の嬢ちゃん。おまいさん、ちょっと時間あるか?」
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