立派な魔王になる方法

めぐめぐ

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第39話 偽り

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「どっ、どうして、アクノリッジさんとシンクさんが、ここに!? てか、アクノリッジさんが、普通にしゃべってる!? いやいやいや!! 別にいいんだけど! むしろ、そっちの方が絶対にいいと思うしっ!! でっ、でも、アクノリッジさんとシンクさんって、仲が悪かったよね? えっ? えっ?? 一体これは、どうなってるの!?」

 絶対に相容れないと思われた二人が一緒にいるという事実に、そしてアクノリッジが普通に喋っている奇跡に、ジェネラルの思考はパニックに陥った。

 支離滅裂な言葉が、少年の口から発される。 

 ジェネラルの見事な壊れっぷりに堪らずアクノリッジは吹き出し、すぐに大きな笑い声となった。

「ぷっ……、あっはははははっ!! ほんとこいつ、おもろいな!!」

「兄い…、そんなに笑っちゃ、ジェネラルに失礼だろ?」

 腹を抱えて笑う兄を、シンクが咎めた。弟の言葉を受け、アクノリッジは何とか笑いを収めた。笑いすぎて涙が出たのか、手の甲で目元をぬぐっている。

 とりあえず笑いを止めてよしとしたのか、シンクの視線が兄からミディへと向けられた。腰に手を当てると、眉頭を寄せてミディに詰め寄る。

「ミディ姉……。何で、ジェネラルに一言言っておいてくれなかったんだよ。ほんと、人が悪いなあ……」

「ん~~、私、言っていなかったかしら、ジェネ?」

 シンクの少し非難の混じった言葉対し、ミディはいつもやるように、人差し指を頬に可愛らしく当て、混乱しているジェネラルを見た。

 白々しい言動に、魔王が半眼になって口を開く。

「言ってない、言ってない……。むしろ隠してたじゃないか。『お・た・の・し・み』とか言ってさ!」

「う~ん、過去の事は覚えてないわねえ~。ほら私って、常に前を向いて歩いている人間だから?」

「……だから、足元にいる僕みたいな者を、気づかず平気で踏みつけて行くわけだね?」

「ふふっ……、言ってくれるじゃない?」

「痛いぃぃいいいいいいい!」

 可愛らしい笑顔を浮かべながら、容赦なくミディはジェネラルの頬をつねり上げた。あまりの痛さに何とも言えない悲鳴を上げ、ジェネラルはその手から逃れると、彼女の行動範囲外に避難した。顔を歪め、つねられ痛む頬をさすっている。

 鏡がないので分からないが、少年の頬にはしっかりとミディの爪あとが残っていたりするので、本当に容赦なくつねりあげたのが分かる。

 その様子をアクノリッジが、体を半分に折って苦しんでいるのが見えた。どうやら、再び笑いの発作が始まったらしい。苦しそうに息をしながら、

「やっぱり……、面白すぎだろ……、ジェネラル……」

など呟いている。 

 もう止めようのない兄を見、シンクは溜息をついた。

「ジェネラルごめんな。とりあえず、ここに来てくれたんだから、事情はちゃんと説明しようぜ、兄い……、ミディ姉……」

「すまんすまん…… あまりに面白すぎて、ついな…」

「面白すぎるって、兄いが勝手に笑ってるだけだろ? ほらほら、ジェネラルに説明しないと。あいつの目、点になってんじゃないか」

 シンクの言葉どおり、痛む頬をさするのを忘れ、ジェネラルは呆然と2人のやりとりを見ていた。
 朝食後に出会った2人とは別人かと思える程の仲の良さに、何も言えずにいるのだ。

 そんな彼をシンクが気の毒そうな視線を向け、申し訳なさそうに口を開いた。

「まあ、見たとおりだよ。今朝見た俺たちの姿は、皆偽りなんだ。仲が悪い演技をしているんだよ」

「いつ…わり……?」

 シンクの言葉を、噛み砕き口の中で反芻する。そして、その言葉の意味を理解した瞬間、再びジェネラルの叫びが響き渡った。

「偽りって!! ってことは、アクノリッジさんの『ですぅ~』とか言う口調も、星が飛んでそうなウィンクしてくるのも、悪戯としか思えない攻撃をしてきたのも、パンにつけるジャムとか取って喜んでいたのも、壷被せた男の人たちのでまかせに納得したのも、シンクさんの挑発も、あなたたち二人が仲悪く見えたのも、皆、皆、嘘だったって事ですか―――——!?」

「何か…、兄いの事ばっかりだな」

「まあ、仕方ないとは思うけれど」

 呆れた様子でジェネラルの叫びを聞くシンクとミディ。そして、

「ふっ、自分の演技力の素晴らしさに、眩暈がしそうだ」

と、ジェネラルの失礼過ぎる発言を聞き、逆に嬉しくてニヤニヤしているアクノリッジ。 

 3人とも反応はさまざまだが、誰一人、ジェネラルの叫びを否定していない。つまり。

“本当なんだ……。僕をからかってるわけじゃないんだ……”

 衝撃的事実を突きつけられ、信じられない様子でジェネラルはモジュール家の兄弟を見ていた。

 ふと隣に気配を感じそちらに視線を向けると、そこには小さくほほ笑む王女の姿があった。ジェネラルの隣に移動したらしい。

「ミディは、知っていたんだね?」

 ジェネラルの問いに、ミディは少し瞳を伏せ頷くと、

「2人とは幼馴染であり、親友でもあるからね」

とだけ言った。

 整った白い手が、くしゃっと魔王の黒髪を撫でる。

「まあこれには、色々と事情があるのよ」

 そう言って、軽く言い合っている兄弟を映す青い瞳は、少し悲しそうだった。

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