立派な魔王になる方法

めぐめぐ

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第55話 提案

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 ミディが寝てしまい、やることがなくなったジェネラルは、とりあえず外に出た。

 相変わらず、町の人々は王女の誕生日を祝い、盛り上がっている。
 皆、王女の健やかなる成長を喜び、彼女の未来に幸あらんと願っているのだろう。

 当の本人が、ベッドで倒れているのも知らずに。
 そう思うと、中々複雑な気分である。

“せっかくの誕生日なのに。この世界に生まれた、とってもオメデタイ日なのに”

 花飾りをつけて笑う少女たちを横目で見ながら、ジェネラルは当てもなく歩みを進めていた。

 その手には、道で配られていた棒付きの飴が握られている。
 ペロペロ舐めながら歩く様は、ただの少年にしか見えない。

 誕生日に憂鬱になるなど、ジェネラルには信じられなかった。

 自分のために、これだけの祭りを開いてくれているのだ。
 自分だったら嬉しくて、エクスの怒りにかまわず、城を飛び出すだろう。

 城と思ったとき、ふと1つ、疑問が湧いた。

“そういえば、町で祭りを開いているんだったら、きっと城でも盛大にミディの誕生日を祝ってるよね。本人がいなくて、大丈夫なんだろうか……?”

 ジェネラルの誕生日の時は、城で盛大な誕生日パーティーが行われる。
 古今東西、たとえ世界が違っても、その辺はどこの国でも同じだろう。

 しばし、その疑問について考えていたジェネラルだが、

“………何か、王様や城関係者の困った顔が浮かんでかわいそうだから、考えるのやめよ”

 大丈夫なわけがない。
 きっと、王女探しと失踪を隠すため、懸命になってるに違いない。

 同情が心を満たしたが、それ以上考えず心の中にしまっておくことにする。

 無意識のうちに、棒付きの飴を口の中でガリガリ噛みながら、ジェネラルは思う。

“ミディを元気にする方法か……。元気がないと、調子が狂うっていうか……。いや、修行は嫌だけどね! でも元気がないとこっちまで気が滅入ってしまうっていうか……。いや、ちょっとはおとなしくなった方が、世界の為のような気もするけどね! でっ、でも……”

 元気になった方がいい、という気持ちと、大人しくなった方が自分の……いや、この国の為だという気持ちが、ジェネラルの中でぶつかり合う。

 素直におとなしくなっとけと思えないのが、ジェネラルの良さでもあり、魔族たちに心配される甘さと言っていいだろう。

 さらに複雑化してしまった気持ちを抱えたまま、ジェネラルは道なりに歩きつづけた。

 気が付くと、先ほどミディと来た露店の並ぶ通りを歩いていた。
 変わらず、店員たちと客たちの声が飛び交い、祭りとは違った賑わいを見せている。

 魔王の足は自然と、黒石のイヤリングが売っていた店へと向かっていた。

 店頭には、変わらず美しい光を放つ黒い石が、透明な箱に収まって、買い手が現れるのを待ちつづけている。

 エルザの宝石と呼ばれる王女の心を捕らえた、黒石。
 イヤリングを手に持ったミディの表情を思い出し、ジェネラルは心の中でひらめくものを感じた。

“そうだ!! これ、ミディに誕生日プレゼントとしてあげたら喜ぶかも!!”

 あれほど欲しそうな顔をしていたのだ。
 一度諦めた物が手に入ったら、普通に手にする以上に嬉しいに違いない。
 喜びついでに、ふさぎこんだ気持ちも吹っ飛ぶかもしれない。

 名案だと心の中で手を打つ。しかし次の瞬間、重大な事を思い出した。

“そういや僕、自由になるお金、ないや……”

 金の管理はミディがしている。旅の為の金に手をつけたと分かれば、問答無用で魔法が炸裂するだろう。

 まあ、別の意味で、ミディを元気にするという目的が達成されると思うが、ちょっとそこまで命をかける勇気も度胸も性癖も、ジェネラルにはない。

 旅費に手を付けず、プレゼントを買う方法となれば、方法は多くない。

“……強奪? …………………………いやいやいやいやいやいやいや!!!”

 一瞬過った物騒な考えを、頭を振って瞬時に振り落とすジェネラル。

“ちょっと待て、僕!! 強奪ってなんだよ、強奪って!! そんな訳ないじゃないかー!! どこかでお金を稼ぐしか方法はないだろ!?”

 ミディの洗脳……いや修行の成果がじわじわ現れているのを感じ、ジェネラルは本気で恐ろしくなった。
 拒絶しながらも、確実に染まっていっている。

 それに近い事は、日常でも見られる事だが彼の場合、染まってしまっては自分にとっても、プトロコルにとっても、魔界にとっても、はた迷惑な事なのだ。
 喜び得をするのは、ミディだけである。

 改めて自分というものを見つめなおし、これ以上ミディの思考に染まらないぞ!と心の中で拳を握り締めていると、丁度客を見送った店員が、ジェネラルを見つけたようだ。

 少し不信そうな表情をしているのは、きっと先ほど会った少年が、可愛らしい彼の雰囲気に似合わない険しい表情をしていたからだろう。

「さっき来た女兵士さんと一緒にいた子じゃない? 今度は一人で買い物?」

 ジェネラルの歳に合わせたのか、口調が親しげなものになっている。
 自分よりも背の高い店員を見上げながら、ジェネラルは尋ね返した。

「あの……、店員さん。この町でどこか、1日だけ雇ってくれる所ってないですか? そのイヤリング、欲しいんですけど、僕、自由になるお金がなくって……」

 彼の問いに、店員は少し考え込む表情をした。目を閉じ、懸命に記憶を探っているのだろう。時折、低い唸り声が聞こえる。

 しばらくそうしていたが、ふっと力を抜くと、心なしか申し訳なさそうな表情で答えた。

「うーん……、今日1日、雇ってくれる所はないんじゃないかな。生憎、ここも人手が足りてるからね」

「そうですか、ありがとうございます」

 しょんぼりと顔を伏せ、ジェネラルは礼を言った。

 可愛らしい少年の表情が曇った事に心が痛んだのだろうか。
 店員がジェネラルに提案をした。
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