【本編完結】元皇女なのはヒミツです!

あまぞらりゅう

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1 最後の手紙

 お会いしたことのない方との手紙の交換だけで相手を好きになるなんて、おかしいでしょうか?

 私、エカチェリーナ・ニコラエヴナ・アレクサンドルは決められた婚約者がいました。その方は私の住むアレクサンドル帝国の三つ隣にあるリーズ王国の王太子フレデリック・リーズ様です。
 広大な領土を持つ帝国の更に三つ隣ですから、私たちはなかなか会える機会がありません。そこで、その隙間を埋めるように、フレデリック様は私にたくさんの手紙をくださいました。そして私もたくさんの手紙を書きました。それは月日とともに何通も何十通にも積み重なっていきました。
 私は文章から垣間見える彼の人柄にどんどん惹かれていって、いつの間にか恋慕の情を抱くようになっていたのです。





 ――なぁんて。

 努力は必ず報われるなんて嘘。
 諦めなければ夢は叶うなんて嘘。
 頑張っていればいつか王子様が……なんて全部嘘。

 努力は報われなかったし、諦めたくなくても結局夢は叶わなかったし、王子様とは婚約解消。
 革命でアレクサンドル帝国は滅んでしまって、身分も財産も全部毟り取られて、残ったものは命だけ。

 それでも、生きているだけで幸運だったのかもしれない。私以外の家族は全員死んでしまったから。命が途絶えたらそこで全てが停止してやがて朽ち果てて、もうここにはなにも残らないもの。

 私は公式発表では死んだことになっていたけど、革命軍の幹部の一人だったアレクセイさんに保護されて今日までなんとか生かしてもらっていた。
 まだ未成年皇族だった私の顔を知る人は少ないが、それでも帝国の皇女の存命が露見すると命を狙われる可能性が高いとのことで、革命から一年経った今でもアレクセイさんのお屋敷に軟禁状態だった。といっても、お屋敷は皇宮の侍女たちの部屋並みには広かったし外部から見えない中庭もあったので不自由には感じなかった。ま、私は保護される直前の一ヶ月間お城の地下牢に閉じ込められていたから、そこに比べたらどこだって天国に感じるのかもしれないけど。

 この一年間はアレクセイさんの奥様のターニャさんから平民として生きていくレッスンを受けていた。言葉遣い、所作、庶民の常識……彼女からは多くのことを学ばせてもらった。
 はじめは知らないことばかりで戸惑ったけど、特訓を重ねて今では料理や洗濯も一人でできるようになった。ペンより重たい物を持ったことのない元皇女がじゃがいもの皮を剥いたりシーツを干す姿は我ながら滑稽だったけど、思ったより楽しく過ごせている。まだ洗濯の冷水には慣れないけどね。

 フレデリック様からの手紙は城が攻め込まれる直前に機転を利かせた侍女が庭に隠してくれていた。そして革命のほとぼりが冷めた頃にアレクセイさんに頼み込んで代わりに取りに行ってもらった。手紙の束は黒土に覆われて汚れてしまったけど、フレデリック様の言葉の一つ一つは輝いたままだった。

 私は一番上の便箋をそっと取り出す。
 フレデリック様からいただいた最後の手紙。



◇◇◇



 親愛なるエカチェリーナ様


 急ぎの話なので挨拶は省きます。
 革命は帝国全土に広がって、帝都にまで迫ってきていると聞きました。
 貴方は、無事なのでしょうか?
 皇帝陛下や皇族の方々は安全な場所に避難できているのでしょうか?
 僕は心配で心配で夜も眠れません。
 準備が整い次第、リーズ王国の王宮からの使いを送ります。
 貴方は彼らと共に僕の元へ来てください。
 やっと愛しい貴方に会えることを心より楽しみにしています。


 貴方のフレデリックより



◇◇◇


 加速する革命の波濤は止まることを知らず、リーズ王国からの使者は来なかった。
 結局、私は手紙の返事は書けなかった。
 あれよあれよという間に革命軍による新政府が樹立して、死亡したはずの皇女の私に婚約話が待っていてくれるはずもなく……。

 「っつっ……」

 青いインクが雨で滲んだ。

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