10 / 76
10 フレデリックの手紙①
手紙だけでしか言葉を交わしたことのない相手を好きになるなんて馬鹿げているだろうか?
僕の婚約者のエカチェリーナ・ニコラエヴナ・アレクサンドルは、ここリーズ王国から三つ離れたアレクサンドル帝国の皇女だ。
僕たちは遠い距離を埋めるように、何通も何十通も手紙を送り合った。
正直を言うところ、最初は婚約者としての義務感だったが、彼女からの手紙はいつも楽しくて僕は夢中になって何度も読み返した。
そして、いつの間にか僕は彼女のことを好きになっていた。
手紙から垣間見える彼女の優しいところ、前向きで明るいところ、ちょっと意地っ張りで負けず嫌いなところ、頑張り屋なところ……その全てを愛おしく思うようになった。
だから、いつの日かエカチェリーナと婚姻を結ぶことを本当に楽しみにしていた。
だが、革命のうねりは怒涛の勢いで広がった。
きっかけはアレクサンドル帝国で数百年振りに起こった記録的な寒波だった。元より寒冷の帝国がこの影響で食物が育たずに、深刻な食料不足に陥ったのだ。これに不満を抱く地方の国民が反乱を起こしたのだ。
流れはもう止められなかった。内乱はみるみる帝都まで押し寄せ、ついに現体制は倒れてしまった。
エカチェリーナも、死んでしまった。
新政府から皇女の死亡と婚約の解消の連絡を受けたときは頭が真っ白になった。
その事実を信じられなくて、認めたくなくて、悔しくて、悲しくて、声を出して泣いた。
しばらく失意の日々を送っていたが、あるとき、彼女に関する妙な噂を側近から聞いた。
全員が死亡したと発表された皇族一家だが、なぜか皇女の死体だけは誰も確認していないらしい。
だから、もしかすると皇女はどこかで生き延びているのではないか、と……。
天地を揺るがすような衝撃が襲った。
エカチェリーナは、生きている。
そのことだけが瞬く間に僕の心を支配した。
彼女を、探し出そう。
そう、誓った。
◇◇◇
親愛なるエカチェリーナ様
あなたは今、どこで、なにをされているのでしょうか。
僕はあなたに会いに、ついにアレクサンドル連邦国に足を踏み入れました。
あなたの言う通り、初春の雪解けのドロドロの道を行くには骨を折りました。でも、まだ残る真っ白な雪と新緑のコントラストがとても幻想的で、朝日に光るその景色に心奪われました。
いつか、あなたと二人でこの道を歩けたらと思います。
………………
………………
◇◇◇
僕は今でもエカチェリーナに手紙を書き続けている。いつか彼女と出会えたときに渡すためだ。
彼女は僕の気持ちが重いと苦笑いするかもしれないが、自分の真剣な想いを知って欲しかった。
エカチェリーナと巡り会えた日には、これまでの互いの手紙の感想を述べながらゆっくりとお茶でもしたいなと思う。
彼女の作ったスミレの砂糖漬けを食べながら。
僕の婚約者のエカチェリーナ・ニコラエヴナ・アレクサンドルは、ここリーズ王国から三つ離れたアレクサンドル帝国の皇女だ。
僕たちは遠い距離を埋めるように、何通も何十通も手紙を送り合った。
正直を言うところ、最初は婚約者としての義務感だったが、彼女からの手紙はいつも楽しくて僕は夢中になって何度も読み返した。
そして、いつの間にか僕は彼女のことを好きになっていた。
手紙から垣間見える彼女の優しいところ、前向きで明るいところ、ちょっと意地っ張りで負けず嫌いなところ、頑張り屋なところ……その全てを愛おしく思うようになった。
だから、いつの日かエカチェリーナと婚姻を結ぶことを本当に楽しみにしていた。
だが、革命のうねりは怒涛の勢いで広がった。
きっかけはアレクサンドル帝国で数百年振りに起こった記録的な寒波だった。元より寒冷の帝国がこの影響で食物が育たずに、深刻な食料不足に陥ったのだ。これに不満を抱く地方の国民が反乱を起こしたのだ。
流れはもう止められなかった。内乱はみるみる帝都まで押し寄せ、ついに現体制は倒れてしまった。
エカチェリーナも、死んでしまった。
新政府から皇女の死亡と婚約の解消の連絡を受けたときは頭が真っ白になった。
その事実を信じられなくて、認めたくなくて、悔しくて、悲しくて、声を出して泣いた。
しばらく失意の日々を送っていたが、あるとき、彼女に関する妙な噂を側近から聞いた。
全員が死亡したと発表された皇族一家だが、なぜか皇女の死体だけは誰も確認していないらしい。
だから、もしかすると皇女はどこかで生き延びているのではないか、と……。
天地を揺るがすような衝撃が襲った。
エカチェリーナは、生きている。
そのことだけが瞬く間に僕の心を支配した。
彼女を、探し出そう。
そう、誓った。
◇◇◇
親愛なるエカチェリーナ様
あなたは今、どこで、なにをされているのでしょうか。
僕はあなたに会いに、ついにアレクサンドル連邦国に足を踏み入れました。
あなたの言う通り、初春の雪解けのドロドロの道を行くには骨を折りました。でも、まだ残る真っ白な雪と新緑のコントラストがとても幻想的で、朝日に光るその景色に心奪われました。
いつか、あなたと二人でこの道を歩けたらと思います。
………………
………………
◇◇◇
僕は今でもエカチェリーナに手紙を書き続けている。いつか彼女と出会えたときに渡すためだ。
彼女は僕の気持ちが重いと苦笑いするかもしれないが、自分の真剣な想いを知って欲しかった。
エカチェリーナと巡り会えた日には、これまでの互いの手紙の感想を述べながらゆっくりとお茶でもしたいなと思う。
彼女の作ったスミレの砂糖漬けを食べながら。
あなたにおすすめの小説
私だけが愛して1度も笑ったことの無い夫が、死んだはずの息子を連れてもどってきた
まつめ
恋愛
夫はただの一度も私に笑いかけたことは無く、穏やかに夫婦の時間をもったこともない。魔法騎士団の、騎士団長を務める彼は、23年間の結婚生活のほとんどを戦地で過ごしている。22歳の息子の戦死の知らせが届く。けれど夫は元気な息子を連れて私の元に戻って来てくれた。
私と幼馴染と十年間の婚約者
川村 あかり
恋愛
公爵令嬢ロゼリアは、王子アルベルトとの婚約を結んでいるが、彼の心は無自覚に幼馴染のミナに奪われていた。ミナの魔法【魅了】が無意識に周りの男性を狂わせ、アルベルトもその例外ではない。
それぞれが生まれつき得意な魔法があり、ロゼリアは見たものや聞いたものを完璧に記録できる【記録・再生】の魔法を持ち、二人の関係に耐えきれず胃の痛みに悩む日々。そんな中、彼女の唯一の理解者の冷静沈着なキースや毒舌のマリーが心の支えとなる。
アルベルトの側近であるガストンは、魔法【増幅】で騒動を盛り上げる一方、ミナの友人リリィは【幻影】の魔法を使ってロゼリアを貶めようと画策する。
婚約者と幼馴染の行動に振り回されるロゼリア。魔法が絡んだ恋愛模様の中で、彼女は本当の愛を見つけられるのか?
忘れ去られた婚約者
かべうち右近
恋愛
『僕はレベッカしか選ばない』
甘い声音でそう話したはずの王太子サイラスは、レベッカを忘れてしまった。
レベッカは、王太子サイラスと付き合っていることを、ある事情により隠していた。舞踏会で関係を公表し、婚約者に指名される予定だったのに、舞踊会の夜にサイラスは薬を盛られて倒れ、記憶喪失になってしまう。
恋人が誰なのかわからないのをいいことに、偽の恋人が次々と名乗りをあげ王太子の婚約者の座を狙ってくる。おかげで不信に陥ったサイラスに、レベッカは自分が恋人だと名乗り出せなくなってしまった。
サイラスの記憶喪失を解消するため、薬師兼魔女であるレベッカは恋人であることを隠しながら、事件調査を協力することになった。そうして記憶が戻らないまま二人の距離は再び近づいていく。だが、そんなおりにサイラスの偽の恋人を名乗りでた令嬢たちが、次々と襲われる事件も起き始めて……!?
※他のサイトにも掲載しています。
毎日更新です。
悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています
かきんとう
恋愛
王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。
磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。
その中心に、私は立っていた。
――今日、この瞬間のために。
「エレノア・フォン・リーベルト嬢」
高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。
噂の悪女が妻になりました
はくまいキャベツ
恋愛
ミラ・イヴァンチスカ。
国王の右腕と言われている宰相を父に持つ彼女は見目麗しく気品溢れる容姿とは裏腹に、父の権力を良い事に贅沢を好み、自分と同等かそれ以上の人間としか付き合わないプライドの塊の様な女だという。
その名前は国中に知れ渡っており、田舎の貧乏貴族ローガン・ウィリアムズの耳にも届いていた。そんな彼に一通の手紙が届く。その手紙にはあの噂の悪女、ミラ・イヴァンチスカとの婚姻を勧める内容が書かれていた。
報われなかった姫君に、弔いの白い薔薇の花束を
さくたろう
恋愛
その国の王妃を決める舞踏会に招かれたロザリー・ベルトレードは、自分が当時の王子、そうして現王アルフォンスの婚約者であり、不遇の死を遂げた姫オフィーリアであったという前世を思い出す。
少しずつ蘇るオフィーリアの記憶に翻弄されながらも、17年前から今世まで続く因縁に、ロザリーは絡め取られていく。一方でアルフォンスもロザリーの存在から目が離せなくなり、やがて二人は再び惹かれ合うようになるが――。
20話です。小説家になろう様でも公開中です。
王子様への置き手紙
あおき華
恋愛
フィオナは王太子ジェラルドの婚約者。王宮で暮らしながら王太子妃教育を受けていた。そんなある日、ジェラルドと侯爵家令嬢のマデリーンがキスをする所を目撃してしまう。ショックを受けたフィオナは自ら修道院に行くことを決意し、護衛騎士のエルマーとともに王宮を逃げ出した。置き手紙を読んだ皇太子が追いかけてくるとは思いもせずに⋯⋯
小説家になろうにも掲載しています。
公爵令嬢の辿る道
ヤマナ
恋愛
公爵令嬢エリーナ・ラナ・ユースクリフは、迎えた5度目の生に絶望した。
家族にも、付き合いのあるお友達にも、慕っていた使用人にも、思い人にも、誰からも愛されなかったエリーナは罪を犯して投獄されて凍死した。
それから生を繰り返して、その度に自業自得で凄惨な末路を迎え続けたエリーナは、やがて自分を取り巻いていたもの全てからの愛を諦めた。
これは、愛されず、しかし愛を求めて果てた少女の、その先の話。
※暇な時にちょこちょこ書いている程度なので、内容はともかく出来についてはご了承ください。
追記
六十五話以降、タイトルの頭に『※』が付いているお話は、流血表現やグロ表現がございますので、閲覧の際はお気を付けください。