15 / 76
15 新入生歓迎パーティー②
「あぁ~ら、ごめんなさぁい? 手が滑っちゃったぁ~!」
グレースが空になったグラスを片手にニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべてながら私を見た。
赤い液体が顎から滴り落ちる。下を見ると、ドレスにも赤い染みがみるみる広がって行っていた。
グレースは嘲り笑いながら、
「ごめんねぇ~! わざとじゃないのよぉ~?」
「これは事故ね、事故。わたし、見ていたわ」
「運の悪い平民さんねぇ。可哀想に」
周囲の貴族たちもくすくすと笑いながら私を見る。またぞろ平民の悪口大会の始まりだ。
そう来たか……。
きっと私もオリヴィアもちゃんとダンスを踊れたから難癖を付けられず、腹いせにドレスに葡萄ジュースを掛けたのだろう。なんて幼稚なのかしら。
……でも、こっちも負けてられないわ。
私はすっと息を吸ってから、
「大変っ! ストロガノフ家のエレーナのドレスが汚れてしまったわ! どうしましょう!」
周りに聞こえるように声を張り上げて大仰に叫んだ。
「ストロガノフ家の! エレーナが!!」
ここは大事なことなので二回言ってみたわ。さぁ届け、貴族のお坊ちゃんお嬢ちゃんたちまで。
「エ……エレーナですって!?」
「ストロガノフ家のドレスを汚した!?」
「素敵なドレスと思っていたけどエレーナだったのね!」
「なぜ平民がエレーナを?」
「さすがにこれは不味いのでは……?」
「ストロガノフに宣戦布告しているのと同じだぞ」
不穏な空気が一気に広がった。
皆、さっきとは打って変わってグレースを非難するような視線を送る。思惑通りね。
「なっ……!」グレースは目を見張ってよろよろと一歩下がる。「う、嘘よ! 平民なんかが最高級のエレーナのドレスを着ているはずないわっ!」
「嘘なんかじゃないわ。ね、セルゲイ?」と、私は彼に目配せをした。彼はニヤリと口の片端を上げて、私の作戦に乗ってきた。
「リナの言う通りだ。今度エレーナから若い令嬢向けのカジュアルドレスを出す予定なんだ。だから今日のパーティーで彼女にその宣伝をしてもらうことになったんだよ。これは間違いなくエレーナのドレスだ。本物の、ストロガノフの、エレーナだ」
あら、セルゲイも大事なことを二回言ったわね。しかもゆっくりと分かりやすいように。
グレースは完熟の林檎のように顔を真っ赤にさせて、
「そんなの、聞いてないっ!!」
「そうね。これから宣伝回りをする予定だから言っていないわ」
「くっ……!」と、彼女はきっと私を睨む。私は蔑むように彼女を見て鼻で笑った。
「エレーナのドレスを意図的に汚すということは、ストロガノフ家に喧嘩を売っていると解釈してもいいんだな、グレース・パッション伯爵令嬢?」と、セルゲイが言うと会場がざわついた。
グレースは今度は顔を真っ青にしてガクガクと小刻みに震えている。下手な王家より強い大貴族のストロガノフ家は伯爵家が太刀打ちできる相手ではない。
セルゲイは追い打ちをかけるように、
「もうお前ら三人には一生うちのドレスは売らないからな。一生だ、一生」
「「えぇえぇっ!?」」
ジェシカとデイジーが素っ頓狂な声を上げた。
「だって、二人もそこの伯爵令嬢と一緒にリナに嫌がらせをしていただろう?」
二人は首をぶんぶんと横に振って、
「じっ……ジュースを掛けたのはグレース一人だけよ!」
「そうよ! わたしたちはなにもやっていないわ!」と、全力で否定した。
「ち、ちょっと、あんたたち! あたしを裏切る気っ!?」
グレースが金切り声で叫ぶ。
「だって……ねぇ?」
「憧れのエレーナのドレスを着られないなんて……ねぇ?」
「あんたたちぃぃぃぃぃぃぃっっ!!」
グレースはまたもや顔を真っ赤にさせた。
「おいグレース、これからは俺の家の生地も買うなよ」
「買わないわよっ!!」
あら、自棄になって開き直ったわ。
「グレースが今している髪留めの絹のリボン、ストロガノフの絹糸でしょ? あなた、前にパーティーに付けて行くって自慢してたじゃない」と、私も追撃する。
「取ればいいんでしょ! 取ればっ!」
――そのときだった。
「なにをしている」
朗々とした令息の声が響いた。
声のほうに顔を向けると、フレデリック様が険しい表情でこちらを見ていた。
グレースが空になったグラスを片手にニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべてながら私を見た。
赤い液体が顎から滴り落ちる。下を見ると、ドレスにも赤い染みがみるみる広がって行っていた。
グレースは嘲り笑いながら、
「ごめんねぇ~! わざとじゃないのよぉ~?」
「これは事故ね、事故。わたし、見ていたわ」
「運の悪い平民さんねぇ。可哀想に」
周囲の貴族たちもくすくすと笑いながら私を見る。またぞろ平民の悪口大会の始まりだ。
そう来たか……。
きっと私もオリヴィアもちゃんとダンスを踊れたから難癖を付けられず、腹いせにドレスに葡萄ジュースを掛けたのだろう。なんて幼稚なのかしら。
……でも、こっちも負けてられないわ。
私はすっと息を吸ってから、
「大変っ! ストロガノフ家のエレーナのドレスが汚れてしまったわ! どうしましょう!」
周りに聞こえるように声を張り上げて大仰に叫んだ。
「ストロガノフ家の! エレーナが!!」
ここは大事なことなので二回言ってみたわ。さぁ届け、貴族のお坊ちゃんお嬢ちゃんたちまで。
「エ……エレーナですって!?」
「ストロガノフ家のドレスを汚した!?」
「素敵なドレスと思っていたけどエレーナだったのね!」
「なぜ平民がエレーナを?」
「さすがにこれは不味いのでは……?」
「ストロガノフに宣戦布告しているのと同じだぞ」
不穏な空気が一気に広がった。
皆、さっきとは打って変わってグレースを非難するような視線を送る。思惑通りね。
「なっ……!」グレースは目を見張ってよろよろと一歩下がる。「う、嘘よ! 平民なんかが最高級のエレーナのドレスを着ているはずないわっ!」
「嘘なんかじゃないわ。ね、セルゲイ?」と、私は彼に目配せをした。彼はニヤリと口の片端を上げて、私の作戦に乗ってきた。
「リナの言う通りだ。今度エレーナから若い令嬢向けのカジュアルドレスを出す予定なんだ。だから今日のパーティーで彼女にその宣伝をしてもらうことになったんだよ。これは間違いなくエレーナのドレスだ。本物の、ストロガノフの、エレーナだ」
あら、セルゲイも大事なことを二回言ったわね。しかもゆっくりと分かりやすいように。
グレースは完熟の林檎のように顔を真っ赤にさせて、
「そんなの、聞いてないっ!!」
「そうね。これから宣伝回りをする予定だから言っていないわ」
「くっ……!」と、彼女はきっと私を睨む。私は蔑むように彼女を見て鼻で笑った。
「エレーナのドレスを意図的に汚すということは、ストロガノフ家に喧嘩を売っていると解釈してもいいんだな、グレース・パッション伯爵令嬢?」と、セルゲイが言うと会場がざわついた。
グレースは今度は顔を真っ青にしてガクガクと小刻みに震えている。下手な王家より強い大貴族のストロガノフ家は伯爵家が太刀打ちできる相手ではない。
セルゲイは追い打ちをかけるように、
「もうお前ら三人には一生うちのドレスは売らないからな。一生だ、一生」
「「えぇえぇっ!?」」
ジェシカとデイジーが素っ頓狂な声を上げた。
「だって、二人もそこの伯爵令嬢と一緒にリナに嫌がらせをしていただろう?」
二人は首をぶんぶんと横に振って、
「じっ……ジュースを掛けたのはグレース一人だけよ!」
「そうよ! わたしたちはなにもやっていないわ!」と、全力で否定した。
「ち、ちょっと、あんたたち! あたしを裏切る気っ!?」
グレースが金切り声で叫ぶ。
「だって……ねぇ?」
「憧れのエレーナのドレスを着られないなんて……ねぇ?」
「あんたたちぃぃぃぃぃぃぃっっ!!」
グレースはまたもや顔を真っ赤にさせた。
「おいグレース、これからは俺の家の生地も買うなよ」
「買わないわよっ!!」
あら、自棄になって開き直ったわ。
「グレースが今している髪留めの絹のリボン、ストロガノフの絹糸でしょ? あなた、前にパーティーに付けて行くって自慢してたじゃない」と、私も追撃する。
「取ればいいんでしょ! 取ればっ!」
――そのときだった。
「なにをしている」
朗々とした令息の声が響いた。
声のほうに顔を向けると、フレデリック様が険しい表情でこちらを見ていた。
あなたにおすすめの小説
私だけが愛して1度も笑ったことの無い夫が、死んだはずの息子を連れてもどってきた
まつめ
恋愛
夫はただの一度も私に笑いかけたことは無く、穏やかに夫婦の時間をもったこともない。魔法騎士団の、騎士団長を務める彼は、23年間の結婚生活のほとんどを戦地で過ごしている。22歳の息子の戦死の知らせが届く。けれど夫は元気な息子を連れて私の元に戻って来てくれた。
私と幼馴染と十年間の婚約者
川村 あかり
恋愛
公爵令嬢ロゼリアは、王子アルベルトとの婚約を結んでいるが、彼の心は無自覚に幼馴染のミナに奪われていた。ミナの魔法【魅了】が無意識に周りの男性を狂わせ、アルベルトもその例外ではない。
それぞれが生まれつき得意な魔法があり、ロゼリアは見たものや聞いたものを完璧に記録できる【記録・再生】の魔法を持ち、二人の関係に耐えきれず胃の痛みに悩む日々。そんな中、彼女の唯一の理解者の冷静沈着なキースや毒舌のマリーが心の支えとなる。
アルベルトの側近であるガストンは、魔法【増幅】で騒動を盛り上げる一方、ミナの友人リリィは【幻影】の魔法を使ってロゼリアを貶めようと画策する。
婚約者と幼馴染の行動に振り回されるロゼリア。魔法が絡んだ恋愛模様の中で、彼女は本当の愛を見つけられるのか?
忘れ去られた婚約者
かべうち右近
恋愛
『僕はレベッカしか選ばない』
甘い声音でそう話したはずの王太子サイラスは、レベッカを忘れてしまった。
レベッカは、王太子サイラスと付き合っていることを、ある事情により隠していた。舞踏会で関係を公表し、婚約者に指名される予定だったのに、舞踊会の夜にサイラスは薬を盛られて倒れ、記憶喪失になってしまう。
恋人が誰なのかわからないのをいいことに、偽の恋人が次々と名乗りをあげ王太子の婚約者の座を狙ってくる。おかげで不信に陥ったサイラスに、レベッカは自分が恋人だと名乗り出せなくなってしまった。
サイラスの記憶喪失を解消するため、薬師兼魔女であるレベッカは恋人であることを隠しながら、事件調査を協力することになった。そうして記憶が戻らないまま二人の距離は再び近づいていく。だが、そんなおりにサイラスの偽の恋人を名乗りでた令嬢たちが、次々と襲われる事件も起き始めて……!?
※他のサイトにも掲載しています。
毎日更新です。
悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています
かきんとう
恋愛
王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。
磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。
その中心に、私は立っていた。
――今日、この瞬間のために。
「エレノア・フォン・リーベルト嬢」
高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。
噂の悪女が妻になりました
はくまいキャベツ
恋愛
ミラ・イヴァンチスカ。
国王の右腕と言われている宰相を父に持つ彼女は見目麗しく気品溢れる容姿とは裏腹に、父の権力を良い事に贅沢を好み、自分と同等かそれ以上の人間としか付き合わないプライドの塊の様な女だという。
その名前は国中に知れ渡っており、田舎の貧乏貴族ローガン・ウィリアムズの耳にも届いていた。そんな彼に一通の手紙が届く。その手紙にはあの噂の悪女、ミラ・イヴァンチスカとの婚姻を勧める内容が書かれていた。
報われなかった姫君に、弔いの白い薔薇の花束を
さくたろう
恋愛
その国の王妃を決める舞踏会に招かれたロザリー・ベルトレードは、自分が当時の王子、そうして現王アルフォンスの婚約者であり、不遇の死を遂げた姫オフィーリアであったという前世を思い出す。
少しずつ蘇るオフィーリアの記憶に翻弄されながらも、17年前から今世まで続く因縁に、ロザリーは絡め取られていく。一方でアルフォンスもロザリーの存在から目が離せなくなり、やがて二人は再び惹かれ合うようになるが――。
20話です。小説家になろう様でも公開中です。
王子様への置き手紙
あおき華
恋愛
フィオナは王太子ジェラルドの婚約者。王宮で暮らしながら王太子妃教育を受けていた。そんなある日、ジェラルドと侯爵家令嬢のマデリーンがキスをする所を目撃してしまう。ショックを受けたフィオナは自ら修道院に行くことを決意し、護衛騎士のエルマーとともに王宮を逃げ出した。置き手紙を読んだ皇太子が追いかけてくるとは思いもせずに⋯⋯
小説家になろうにも掲載しています。
公爵令嬢の辿る道
ヤマナ
恋愛
公爵令嬢エリーナ・ラナ・ユースクリフは、迎えた5度目の生に絶望した。
家族にも、付き合いのあるお友達にも、慕っていた使用人にも、思い人にも、誰からも愛されなかったエリーナは罪を犯して投獄されて凍死した。
それから生を繰り返して、その度に自業自得で凄惨な末路を迎え続けたエリーナは、やがて自分を取り巻いていたもの全てからの愛を諦めた。
これは、愛されず、しかし愛を求めて果てた少女の、その先の話。
※暇な時にちょこちょこ書いている程度なので、内容はともかく出来についてはご了承ください。
追記
六十五話以降、タイトルの頭に『※』が付いているお話は、流血表現やグロ表現がございますので、閲覧の際はお気を付けください。