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22 狩り大会④
◆◆◆
「グレース、あれは一体どういうことよ!?」
「そうよ、平民をちょっと驚かすだけだって言っていたじゃない?」
「あ、あたしだって知らないわよ! まさかあんなことになるなんて……」
狩り大会が終了して生徒たちも会場をあとにして閑散とした頃、会場の出口付近の隅でグレースとジェシカ、デイジーがなにやらヒソヒソと話し込んでいた。
「あの店主は魔獣を引き付ける効果だって確かに言っていたわ! それ以外のことなんて知らない!」
「……ねぇ、事故がわたしたちのせいだって先生に見つかったら不味いんじゃない?」と、デイジーがおそるおそる言うとグレースもジェシカもみるみる青ざめた。
「平民はともかく、さすがに王太子殿下まで危険な目に遭わせたのは……」
「下手すれば退学……」
「最悪はお家取り潰しかもよ……」
重い沈黙が彼女たちの上にずんとのしかかった。
「だっ……」少ししてグレースが口を開く。「大丈夫よ! 大丈夫! だって薬の効果は10分もしたら消えてなくなるって言っていたし、瓶も処分したし、証拠はないわっ! それに王太子殿下も無事だったし、あたしたちは悪くない!」
「――へぇ。やっぱりお前らが犯人か」
気が付くと、いつの間にかセルゲイが三人の背後に立っていた。激しい怒りを押さえ付けているような歪んだ笑みを浮かべている。
「げっ! 帝国人!」
三人は驚きのあまり揃って仰け反った。
「レ……レディーの話を盗み聞きするなんて、最低!」と、グレースが非難する。
「なにが最低だよ。お前たちのほうがコソコソコソコソ卑劣な手を使って最低だろうが。大会を中止にまで追いやってどうするつもりだ!」
「はあぁっ!? あたしたちが使ったのは魔獣を引き寄せる薬だけで、大会を中止になんてしていないわ!」
「そうよ! 他は関係ないわ!」
「言い掛かりもいいところ!」
「……やっぱりお前らがリナに嫌がらせをしてたんじゃないか! ふざけるなっ!」
セルゲイが指を鳴らすと、ぼうぼうと燃え盛る炎の獅子が飛び出した。
「オオォォォォォォォォッ!!」
「「「きゃあぁぁぁっ!!」」」
グレースたちは炎の獅子の迫力に怯んで後退りする。火の粉がバチリと弾けて舞い上がった。
「さぁ、お前らもリナの気持ちを存分に味わえ」
「ひ……卑怯よ! あたしたちを殺す気!?」
「お前らが先にリナを殺そうとしたんだろうが!」
「ガアァァァァァッ!!」
炎の獅子がグレースたちに飛び掛かった。
「「「ぎゃあぁぁぁぁぁっ!!」」」
三人は飛び上がる。獅子が威嚇するように吠える。その勢いで炎が弾け飛んだ。
「きゃあっ! あたしの髪がぁっ!」
運悪く炎に当たったグレースご自慢の縦ロールがジュッと焦げた。
「て、帝国人~~~っ! 絶対に許さないんだからあぁぁぁっ!!」
「おう、無事に逃げ延びたらいつだって相手になってやるよ。お前らが生きていたらな」
「オオォォォォォォォォッ!!」
「「「きゃあぁぁぁぁぁっ!!」」」
三人は全速力で遁走した。
「安心しろ! 5分もすれば消えるから、それまでせいぜい頑張れよーっ!」
「ふざけないでよっ!」
「覚えてなさいっ!」
「セルゲイ、あとで殺すっ!」
「ガアァァァァァッ!!」
「「「ぎゃあぁぁぁぁぁっ!!」」」
◆◆◆
「嫌ああぁぁぁぁぁああっ!!」
闇雲に走り回っていた三人は袋小路追い詰められた。後ろも前も下も上も、行き場がない。逃げようとあたふたしている間も炎の獅子はぐんぐん迫って来る。
――パァンッ!!
そのとき、突然弾ける音がして炎の獅子は跡形もなく消え、死の追いかけっこはあっさりと幕を閉じた。
グレースたちは脱力して、その場にへなへなと座り込む。
「た……助かったあぁ~~~……」
「死ぬかと思った……」
「もう、駄目……」
三人は疲労で身動きができなかった。ぜいぜいと肩で息をする。とっても長くて永遠のように感じる5分間だった。しばらく激しい呼吸の音だけが辺りの壁に反響した。
息が落ち着くとともにグレースの中にある憤怒の塊はむくむくと膨れ上がっていった。
こんなことになったのもあの生意気な平民のせいだ。あの帝国人の平民が全部悪いのだ。ダンスでも狩り大会でも王太子殿下に近付いて、エカチェリーナ様の婚約者にちょっかいを出す卑しい身分のあの女が。
◆◆◆
炎の獅子を消滅させた影は地を這いながらするすると飼い主のもとへと戻って行った。
まだ5分経っていなかった。
助けたのは彼女たちの労をねぎらってである。彼女たちが用いた薬をきっかけに、今日はなかなか面白いものを見させてもらった。これはささやかなお礼だ。
影はどこまでも伸びていく。どこにでも行くことができるし、どこにでも潜んでいられる。
影はなんでも知っている。
光がある限り、影は消えない。
「グレース、あれは一体どういうことよ!?」
「そうよ、平民をちょっと驚かすだけだって言っていたじゃない?」
「あ、あたしだって知らないわよ! まさかあんなことになるなんて……」
狩り大会が終了して生徒たちも会場をあとにして閑散とした頃、会場の出口付近の隅でグレースとジェシカ、デイジーがなにやらヒソヒソと話し込んでいた。
「あの店主は魔獣を引き付ける効果だって確かに言っていたわ! それ以外のことなんて知らない!」
「……ねぇ、事故がわたしたちのせいだって先生に見つかったら不味いんじゃない?」と、デイジーがおそるおそる言うとグレースもジェシカもみるみる青ざめた。
「平民はともかく、さすがに王太子殿下まで危険な目に遭わせたのは……」
「下手すれば退学……」
「最悪はお家取り潰しかもよ……」
重い沈黙が彼女たちの上にずんとのしかかった。
「だっ……」少ししてグレースが口を開く。「大丈夫よ! 大丈夫! だって薬の効果は10分もしたら消えてなくなるって言っていたし、瓶も処分したし、証拠はないわっ! それに王太子殿下も無事だったし、あたしたちは悪くない!」
「――へぇ。やっぱりお前らが犯人か」
気が付くと、いつの間にかセルゲイが三人の背後に立っていた。激しい怒りを押さえ付けているような歪んだ笑みを浮かべている。
「げっ! 帝国人!」
三人は驚きのあまり揃って仰け反った。
「レ……レディーの話を盗み聞きするなんて、最低!」と、グレースが非難する。
「なにが最低だよ。お前たちのほうがコソコソコソコソ卑劣な手を使って最低だろうが。大会を中止にまで追いやってどうするつもりだ!」
「はあぁっ!? あたしたちが使ったのは魔獣を引き寄せる薬だけで、大会を中止になんてしていないわ!」
「そうよ! 他は関係ないわ!」
「言い掛かりもいいところ!」
「……やっぱりお前らがリナに嫌がらせをしてたんじゃないか! ふざけるなっ!」
セルゲイが指を鳴らすと、ぼうぼうと燃え盛る炎の獅子が飛び出した。
「オオォォォォォォォォッ!!」
「「「きゃあぁぁぁっ!!」」」
グレースたちは炎の獅子の迫力に怯んで後退りする。火の粉がバチリと弾けて舞い上がった。
「さぁ、お前らもリナの気持ちを存分に味わえ」
「ひ……卑怯よ! あたしたちを殺す気!?」
「お前らが先にリナを殺そうとしたんだろうが!」
「ガアァァァァァッ!!」
炎の獅子がグレースたちに飛び掛かった。
「「「ぎゃあぁぁぁぁぁっ!!」」」
三人は飛び上がる。獅子が威嚇するように吠える。その勢いで炎が弾け飛んだ。
「きゃあっ! あたしの髪がぁっ!」
運悪く炎に当たったグレースご自慢の縦ロールがジュッと焦げた。
「て、帝国人~~~っ! 絶対に許さないんだからあぁぁぁっ!!」
「おう、無事に逃げ延びたらいつだって相手になってやるよ。お前らが生きていたらな」
「オオォォォォォォォォッ!!」
「「「きゃあぁぁぁぁぁっ!!」」」
三人は全速力で遁走した。
「安心しろ! 5分もすれば消えるから、それまでせいぜい頑張れよーっ!」
「ふざけないでよっ!」
「覚えてなさいっ!」
「セルゲイ、あとで殺すっ!」
「ガアァァァァァッ!!」
「「「ぎゃあぁぁぁぁぁっ!!」」」
◆◆◆
「嫌ああぁぁぁぁぁああっ!!」
闇雲に走り回っていた三人は袋小路追い詰められた。後ろも前も下も上も、行き場がない。逃げようとあたふたしている間も炎の獅子はぐんぐん迫って来る。
――パァンッ!!
そのとき、突然弾ける音がして炎の獅子は跡形もなく消え、死の追いかけっこはあっさりと幕を閉じた。
グレースたちは脱力して、その場にへなへなと座り込む。
「た……助かったあぁ~~~……」
「死ぬかと思った……」
「もう、駄目……」
三人は疲労で身動きができなかった。ぜいぜいと肩で息をする。とっても長くて永遠のように感じる5分間だった。しばらく激しい呼吸の音だけが辺りの壁に反響した。
息が落ち着くとともにグレースの中にある憤怒の塊はむくむくと膨れ上がっていった。
こんなことになったのもあの生意気な平民のせいだ。あの帝国人の平民が全部悪いのだ。ダンスでも狩り大会でも王太子殿下に近付いて、エカチェリーナ様の婚約者にちょっかいを出す卑しい身分のあの女が。
◆◆◆
炎の獅子を消滅させた影は地を這いながらするすると飼い主のもとへと戻って行った。
まだ5分経っていなかった。
助けたのは彼女たちの労をねぎらってである。彼女たちが用いた薬をきっかけに、今日はなかなか面白いものを見させてもらった。これはささやかなお礼だ。
影はどこまでも伸びていく。どこにでも行くことができるし、どこにでも潜んでいられる。
影はなんでも知っている。
光がある限り、影は消えない。
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