【本編完結】元皇女なのはヒミツです!

あまぞらりゅう

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24 新たな仕事を

「リナ嬢、おはよう」

「おはよう」

「お、おはようございます! 王太子殿下、オスカー様」

 私は立ち止まって深々と頭を下げた。
 フレデリック様もオスカー様も「そんなに畏まらなくてもいいのに」と苦笑いをする。でも私は平民なのでそこはきちんと線引きをしないといけないわ。

 狩り大会以来、フレデリック様とはぐんと距離が近くなった。
 学園内で顔を合わせたら挨拶をしてくださるし、ちょっとした世間話もするようになった。きっと共闘したときに魔力の相性が良かったから、少しは心を許してくださったのかしら?

 オスカー・バーリー侯爵令息様はフレデリック様の親友だ。
 曰く、幼い頃からの腐れ縁らしいけど、学園ではよく二人で行動しているのを見かけるから本当に仲が良いのだと思う。彼は気さくな方で王太子殿下が平民と会話をしていても苦言を呈することもなく、むしも自身もその輪の中に入ってくるような方だった。
 実は彼はフレデリック様の手紙で何度も名前が上がっていたので、初対面のときも昔から知っているような懐かしい感覚だったわ。


「まぁまぁっ! リナさん、こんなところにいらっしゃったの!」

 私たちが立ち話をしていると、背後からグレースがわざとらしく大声で話し掛けてきた。

「は……?」

 思わず眉間に皺が寄る。彼女がこんな風に親しげに声を掛けてくるときは絶対になにか裏があるのだ。
 グレースはフレデリック様とオスカー様にカーテシーをしてから、

「アルフィー先生がリナさんを呼んでいたわよ。さ、行きましょう?」と、ジェシカとデイジーとともに私を引っ張って行った。

「えっ! ちょっ……! で、殿下、オスカー様、失礼いたします!」

 私は三人に押さえ付けられて抵抗できずに、そのままずるずると引きずられて行く。
 そして、

「出過ぎた真似をしているんじゃないわよ! この平民がっ!」

 乱暴にゴミ捨て場に打ち捨てられた。
 衝撃で尻もちをつく。顔を上げると、三人は勝ち誇ったように私を見下していた。

「なんのこと?」と、私も負けずに彼女らをギロリと睨む。

「はぁっ!? なんのこと、ですってぇ! 平民さんは分からないのかしら? 王太子殿下とオスカー様に馴れ馴れしく話し掛けるんじゃないわよっ!!」

 私は目をぱちくりして、

「さすがにそんな無礼なことしていないわよ。いつも殿下たちのほうからお声を掛けてくださるの」

「はああぁっ!? なによそれ! 自慢!? 自慢してるのぉっ!?」

「なにかしら、この図々しい平民は!」

「なんて厚かましい女!」

 三人は口々に私を罵った。

「だって、身分の上の方から話し掛けられて、無視をするほうがいけないことでしょう? 貴族社会ってそういうものじゃないの?」と、私は首を傾げた。
 水が上から下に流れるように、身分の高い者から低い者に声を掛ける。川は決して逆流しないのだ。

「あんたがっ!」グレースは声を張り上げる。「あんたが殿下の周りをうろちょろしているからお優しい殿下は仕方なく相手をしてあげてるんでしょうっ!? なんでそんなことも気付かないのかしら、この愚かな平民はっ!」

「別に私は殿下の周りをうろついていないわ」

「なんですってえぇぇぇぇっ!?」

 グレースは顔を真っ赤にさせて悪魔のような形相で私を見た。
 はぁ……これ以上彼女を怒らせると厄介なことになりそうだわ。ここは引き下がるほうよさそう。

「分かったわよ。次からは失礼のないように最低限の挨拶だけにするわ」

「そう? 分かればいいのよ、分かれば。これからは気を付けなさい!」

「はいはい。平民のくせに出過ぎた真似をして申し訳ありませんでした」

 グレースは打って変わって上機嫌で子分二人を連れて去って行った。あぁ、疲れた。本当に面倒な子たちだわ。

 私も教室へ向かおうと腰を上げた折も折、

 ――バシャッ!

 頭上にバケツ一杯のゴミをぶちまけられた。

「あらぁ~、ごめんなさぁい! ゴミかと思ったわぁ~!」

 上を見ると、名も知れぬ令嬢たちが意地悪そうにくすくすと笑っていた。矢庭にむかっ腹が立ってきて、小さな吹雪を起こして彼女たちの持ち物を全て吹き飛ばしてあげた。






 翌日もフレデリック様とオスカー様に話し掛けられた。
 本当はとっても嬉しいことだけど、しばらくは大人しくしておいたほうが良さそうなので挨拶のみでお別れしようと思っていたのだが、意外にも二人から引き止められた。

「実は今日は君に頼みがあるんだ」

「頼み、ですか?」

 私は目を丸くする。平民に頼みなんて……別に命令で構わないのに。でもこういうところがフレデリック様の優しい人柄が出ている気がするわ。
 フレデリック様はオスカー様に目配せしてから、

「良かったら君も生徒会に入らないか?」

「…………」

 私は意外なお誘いに驚きのあまり目を見開いてしばらく硬直した。

 魔法学園の生徒会は指名制だ。生徒会が相応しいと思う人物に声を掛ける。
 そして基本的には高位貴族の子女を勧誘している。なぜなら、彼らは将来国を動かす中枢に立つので学園いう小さな規模の運営は未来の予行練習にもなるし、高位貴族同士で若い今のうちから交流をしておこう、という意図もあるのだ。現にセルゲイは入学早々に誘われて、今では彼も生徒会の一員だ。
 稀に下位貴族も生徒会に入ることもあるが、その場合は事業などで実家が経済的に力を持っていたり、飛び切りに成績が良いか、だ。

 私が逡巡していると、

「ほら、君は特待生で入学以来ずっと実技試験も筆記試験も一位だろう? 優秀な生徒には是非生徒会に入って欲しいんだ。今年は男爵令息と子爵令嬢もいるから、そんなに肩身の狭い思いはしないと思うから」

「でっ……」やっと声が出た。「ですが、私は平民ですので……」

「そんな、気にすることはないよ。僕は実力のある者は身分に関係なく活躍して欲しいと思っているんだ」

「俺からも頼むよ、リナ嬢」

「…………」

 私は困り果てて押し黙った。
 本音を言うと、物凄く嬉しい。王太子殿下と侯爵令息から認められたということだから、とても光栄なことだ。
 それに、フレデリック様と一緒に働きたいし……もっと彼のお側にいたい。

 でも……、

「せっかくですが……申し訳ありません……」と、私は深々と頭を垂れた。

 生徒会に入ったらきっと書類仕事が待っている。私の筆跡でフレデリック様にエカチェリーナだと気付かれる可能性が高い。
 最初から最後まで平民として接すること――これが命の恩人のアレクセイさんとの約束だ。絶対に破ってはいけない。

「気を遣っているのなら、遠慮しないでいいんだよ。その、なんというか……君は令嬢たちから嫌がらせを受けているだろう? 生徒会に入ったら、僕たちもいるからそういうのは減ると思うんだ。考えてくれないかな?」

「いえ……」私は首を横に振った。「違うんです。実は……私は仕事をしていて、今でも学業との両立に手一杯で、とても生徒会に入る余裕なんてないんです。だから……その……すみません」

 フレデリック様とオスカー様は驚いた表情をして互いに顔を見合わせて、

「そうか。それは君の事情も気に掛けず、悪かったね。もし気が向いたら生徒会室に遊びに来てくれ」

「はい。誘ってくださってありがとうございました。王太子殿下にそのようなお言葉をいただいたこと、とても光栄に思います」




 最近は定食屋の仕事を増やしていた。
 狩り大会以来、令嬢たちの嫌がらせは更に加速して、破壊されて使い物にならなくなる私物も増えていった。制服も予備に購入したし、教科書も数冊買い直した。金銭的な負担は大きかった。

 平民にできる仕事は限られている。その僅かな仕事も高い賃金は望めない。だから、時間を犠牲にして仕事の量を増やすしかない。
 ちょうど掛け持ちでなにか他の仕事もないか探していたところだ。それに加えて生徒会の仕事なんて身体が持たないわ。

 ――そんなことをセルゲイとオリヴィアに話していたら、ある日それを聞きつけたらしいアルフィー先生から新しい仕事をやらないかと話を持ち掛けられた。それは短時間で実入りがよくて、今の私にお誂え向きの仕事らしい。


「リナ君、貴族の令嬢の魔法の家庭教師をしないか?」

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