【本編完結】元皇女なのはヒミツです!

あまぞらりゅう

文字の大きさ
25 / 76

25 家庭教師

「私が貴族のご令嬢の家庭教師を、ですか?」

「そうなんだよ。実は、先方が狩り大会での君の活躍に感動したらしくてね。是非、娘に魔法を教えて欲しいとおっしゃっているんだ」

「あの、平民の私でいいんでしょうか……?」

 にわかに不安の波が押し寄せてきた。狩り大会に来賓されていたということはきっと高位貴族の方だ。そんな家門の令嬢に身分の低い者が教えるなんて、普通ならあり得ない。

「あぁ、それは特に問題はないよ。君に教えて欲しいのは魔法だから身分は関係ない」

「そうですか。ですが……」

 私は躊躇した。貴族の令嬢の家庭教師なんて、きっと定食屋と比べものにならないくらいの収入になるわ。喉から手が出るほどの魅力的な話だ。
 でも、よくよく考えてみると、他に人材は潤沢なはずなのに高位貴族がわざわざ平民に依頼するということは……。

「先生、そのご令嬢の家庭教師は過去に何人が辞めたのですか?」と、私が尋ねるとアルフィー先生は笑顔のまま凍り付いた。

「答えてください、先生!」と、私は詰め寄る。

 先生は降参とばかりに両手を上げて、

「……ここ一月では3人ほど」

「やっぱり!」

 案の定、かなり問題のある令嬢のようだわ。おそらく辞めた家庭教師が多すぎて悪い噂が広まって、もう貴族の中には教師の成り手がいないのだろう。その中には、きっと……。
 私は念の為もう一つ先生に訊いてみる。

「ちなみに、先生はどれくらいで辞めたのですか?」

「……一ヶ月持たなかったよ」

 意外にあっさりと白状した。

「やっぱり!」

 私は訝しげに先生を見た。
 これって、私を生贄にするつもりね! そういえば先生は子爵だったわ。さすが貴族、汚い!

「頼むよ、リナ君! 君はダンス未経験のオリヴィア君に上手に教えていたじゃないか! きっと今回も上手くやれるよ! 先生は信じてる!」と、先生は必死の形相で両手を合わせた。

 私が尻込みしていると、

「先方は最低でも相場の倍は支払うそうだよ?」と、先生はニヤッと黒い笑みを浮かべた。

 私は先生の意外な腹黒い一面に驚愕して開いた口が塞がらなかった。やっぱり貴族ってどこかしら食えないところがあるわ。もう、信じられるのはセルゲイとオリヴィアだけ!

「や……やらせていただきます」

 しかし、平民は悪魔の囁きに陥落した。
 先生は満面の笑みで、

「ありがとう、リナ君! いやぁ~、君が引き受けてくれて本当に良かったよ。では、早速来週から頼むね」

 はぁ……もうこれからは先生の爽やかな笑顔も素直に受け取れないわね。

「分かりました。私も新しい仕事を探していましたし、紹介してくださってありがとうございます。――それで、そのご令嬢はどんな方なのですか?」

「あぁ、まぁ会えば分かるよ……」と、先生は苦笑いした。

 これは相当に面倒な子なのね。グレースみたいなのだったら嫌だなぁ。

「名前はアメリア嬢。年は10歳で、シェフィールド公爵家の一人娘さ」

 その名前を聞いて思わずパッと目を見開いた。

 ――小さなお姫様だわ!

 アメリア・シェフィールド公爵令嬢もフレデリック様の手紙によく登場している人物だった。
 シェフィールド公爵は現国王の王弟なので公爵令嬢はフレデリック様の従妹に当たるのよね。彼は公爵令嬢のことを「小さなお姫様」って呼んでいて、実の妹のように可愛がっているって聞いているわ。

 手紙には「ちょっと我儘だけど、とっても愛らしい小さなお姫様」って書いていたのだけど、家庭教師を何人も辞めさせる子が、ちょっと……?

 嫌な予感がして、背筋が寒くなった。

 でも、一度引き受けた仕事は責任を持って最後までやりとげないといけないわね。紹介してくださったアルフィー先生の顔を潰さないためにも、公爵令嬢がどんな子でも負けないで完遂させるわ!

あなたにおすすめの小説

私だけが愛して1度も笑ったことの無い夫が、死んだはずの息子を連れてもどってきた

まつめ
恋愛
夫はただの一度も私に笑いかけたことは無く、穏やかに夫婦の時間をもったこともない。魔法騎士団の、騎士団長を務める彼は、23年間の結婚生活のほとんどを戦地で過ごしている。22歳の息子の戦死の知らせが届く。けれど夫は元気な息子を連れて私の元に戻って来てくれた。

私と幼馴染と十年間の婚約者

川村 あかり
恋愛
公爵令嬢ロゼリアは、王子アルベルトとの婚約を結んでいるが、彼の心は無自覚に幼馴染のミナに奪われていた。ミナの魔法【魅了】が無意識に周りの男性を狂わせ、アルベルトもその例外ではない。 それぞれが生まれつき得意な魔法があり、ロゼリアは見たものや聞いたものを完璧に記録できる【記録・再生】の魔法を持ち、二人の関係に耐えきれず胃の痛みに悩む日々。そんな中、彼女の唯一の理解者の冷静沈着なキースや毒舌のマリーが心の支えとなる。 アルベルトの側近であるガストンは、魔法【増幅】で騒動を盛り上げる一方、ミナの友人リリィは【幻影】の魔法を使ってロゼリアを貶めようと画策する。 婚約者と幼馴染の行動に振り回されるロゼリア。魔法が絡んだ恋愛模様の中で、彼女は本当の愛を見つけられるのか?

忘れ去られた婚約者

かべうち右近
恋愛
『僕はレベッカしか選ばない』 甘い声音でそう話したはずの王太子サイラスは、レベッカを忘れてしまった。 レベッカは、王太子サイラスと付き合っていることを、ある事情により隠していた。舞踏会で関係を公表し、婚約者に指名される予定だったのに、舞踊会の夜にサイラスは薬を盛られて倒れ、記憶喪失になってしまう。 恋人が誰なのかわからないのをいいことに、偽の恋人が次々と名乗りをあげ王太子の婚約者の座を狙ってくる。おかげで不信に陥ったサイラスに、レベッカは自分が恋人だと名乗り出せなくなってしまった。 サイラスの記憶喪失を解消するため、薬師兼魔女であるレベッカは恋人であることを隠しながら、事件調査を協力することになった。そうして記憶が戻らないまま二人の距離は再び近づいていく。だが、そんなおりにサイラスの偽の恋人を名乗りでた令嬢たちが、次々と襲われる事件も起き始めて……!? ※他のサイトにも掲載しています。 毎日更新です。

悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています

かきんとう
恋愛
 王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。  磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。  その中心に、私は立っていた。  ――今日、この瞬間のために。 「エレノア・フォン・リーベルト嬢」  高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。

噂の悪女が妻になりました

はくまいキャベツ
恋愛
ミラ・イヴァンチスカ。 国王の右腕と言われている宰相を父に持つ彼女は見目麗しく気品溢れる容姿とは裏腹に、父の権力を良い事に贅沢を好み、自分と同等かそれ以上の人間としか付き合わないプライドの塊の様な女だという。 その名前は国中に知れ渡っており、田舎の貧乏貴族ローガン・ウィリアムズの耳にも届いていた。そんな彼に一通の手紙が届く。その手紙にはあの噂の悪女、ミラ・イヴァンチスカとの婚姻を勧める内容が書かれていた。

報われなかった姫君に、弔いの白い薔薇の花束を

さくたろう
恋愛
 その国の王妃を決める舞踏会に招かれたロザリー・ベルトレードは、自分が当時の王子、そうして現王アルフォンスの婚約者であり、不遇の死を遂げた姫オフィーリアであったという前世を思い出す。  少しずつ蘇るオフィーリアの記憶に翻弄されながらも、17年前から今世まで続く因縁に、ロザリーは絡め取られていく。一方でアルフォンスもロザリーの存在から目が離せなくなり、やがて二人は再び惹かれ合うようになるが――。 20話です。小説家になろう様でも公開中です。

王子様への置き手紙

あおき華
恋愛
フィオナは王太子ジェラルドの婚約者。王宮で暮らしながら王太子妃教育を受けていた。そんなある日、ジェラルドと侯爵家令嬢のマデリーンがキスをする所を目撃してしまう。ショックを受けたフィオナは自ら修道院に行くことを決意し、護衛騎士のエルマーとともに王宮を逃げ出した。置き手紙を読んだ皇太子が追いかけてくるとは思いもせずに⋯⋯ 小説家になろうにも掲載しています。

公爵令嬢の辿る道

ヤマナ
恋愛
公爵令嬢エリーナ・ラナ・ユースクリフは、迎えた5度目の生に絶望した。 家族にも、付き合いのあるお友達にも、慕っていた使用人にも、思い人にも、誰からも愛されなかったエリーナは罪を犯して投獄されて凍死した。 それから生を繰り返して、その度に自業自得で凄惨な末路を迎え続けたエリーナは、やがて自分を取り巻いていたもの全てからの愛を諦めた。 これは、愛されず、しかし愛を求めて果てた少女の、その先の話。 ※暇な時にちょこちょこ書いている程度なので、内容はともかく出来についてはご了承ください。 追記  六十五話以降、タイトルの頭に『※』が付いているお話は、流血表現やグロ表現がございますので、閲覧の際はお気を付けください。