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32 エカチェリーナ捜索隊
「リナ、セルゲイ、こっちよ! 早く早く!」
意気揚々と前を歩くアメリア様が振り返って私たちを急かした。
「あんまり走るなよ、転ぶぞ」
「そうですよ。危ないからちゃんと前を見てください」
「分かってるわよ! 二人とも早く来て!」
私たちは約束した通り次の休みの日に早速エカチェリーナを探しに王都の中心街へと繰り出した。
捜索といっても、アメリア様は久し振りに来た街の散策を楽しんでいるようで、さっきからずっとはしゃいでいる。
無邪気な彼女の様子をセルゲイはぼんやりと眺めながら、
「このまま皇女探しを忘れてくれるといいんだが……」
「そうね……」
私はあのあと、すぐさまセルゲイにアメリア様と二人のお茶会での事の顛末を話した。彼からはすっごく怒られたけど、彼女がエカチェリーナ捜索を諦めるように協力してくれることになった。
そして今日は、私がこれ以上襤褸を出さないように彼も付いて来てくれたのだった。
表向きは彼も旧帝国民として皇女捜索に協力したいと志願してやって来たということになっているが、実のところはアメリア様にエカチェリーナのことを諦めてもらうために上手いこと誘導しようと今日は参加したのだ。
でも、彼女は意外に勘が鋭いのよね……。用心するに越したことはないわ。
アメリア様とセルゲイは意外にも出会ってすぐに意気投合して、まるで昔からの友人のように仲良くしていた。彼女は今もぎゅっと彼の手を握っている。
さすが美形のセルゲイ、相変わらず令嬢の心を掴むのに長けているわ。恐ろしい。
オリヴィアの話によると、公爵家の三男の彼はリーズ国内のいくつかの貴族から婿養子にならないかと声を掛けられているらしい。この様子だとその列にシェフィールド家が加わる日も近いかもしれない。
「ここよ! 早く入りましょう!」
アメリア様が向かった先は、オープンテラスのとってもお洒落なカフェだった。陽の光を取り込むような明るい設計で、黄色を基調にして木材をふんだんに使っている内装に、ところどころ配置されている観葉植物の緑が映えて洗練されてる空間になっていた。
「メイドたちが話していたわ。今、王都で人気のカフェなのよ!」と、アメリア様は得意げに説明してくれた。たしかに若い令嬢たちや恋人同士の客で賑わっていた。
「お父様に予約をしてもらってるの。さ、行くわよ!」
私とセルゲイはアメリア様にぐいぐいと背中を押されながら席に着く。私たちは顔を見合わせながら苦笑いをした。これは完全に当初の目的を忘れているようね。やっぱりまだ無邪気な子供よね。良かった、良かった。
「まぁっ! こんなところに平民がいるなんて、なんて最低な休日なのかしら!」
「ここは平民が来る場所じゃないわよ、図々しい!」
「休日までセルゲイと一緒よ。どこまで男たらしなのよ、あの平民!」
楽しい休日の晴れやかな気分ににわかに豪雨が直撃した。思わずため息が出る。はぁ……なんで休日までこの三人と顔を合わせないといけないのよ。
「あなたたちも来てたの」と、私は眉間に皺を寄せた。
「はぁっ!? それはこっちの台詞よ! 休みの日まで平民の顔を見るなんて最低」とグレース。
「本当よ。平民は平民向けの店に行きなさいよ」
「そうよ。ここは平民には相応しくないわ」
三人が私に嫌味を言うと、それまで黙っていたアメリア様がドンと机を叩きながら立ち上がった。
「あなたたち、さっきからリナに失礼じゃなくて? 平民平民って、リナはれっきとした元貴――」
「わあぁぁぁっ! アメリア様、ストップ、ストップ!」と、私は慌てて彼女の口を塞ぐ。
「ふぁ、ふぁんでぇっ!?」
「元貴族のことは内緒なんです。面倒なことになりますから」と、私は耳打ちする。もしグレースたちに知られて、これ以上話がややこしいことになったら困る。
「べっ、別にいいじゃない!」
「もし喋ったらリナが困ることになるんだよ。リナが悲しいのはアメリアも嫌だろう? だから黙っていような」と、セルゲイも説得に加わると、アメリア様はコクンと素直に頷いた。よし、こういう時のためのセルゲイよね。令嬢殺しのセルゲイよ。便利なセルゲイだわ。
「はいはい。顔を見たくないのはお互い様。――っていうか、あなたたちは休日まで三人一緒なのね。デートする相手もいないの?」と、私は三人の顔を一人一人じっくり見てから鼻で笑った。嫌味には嫌味で返す、やられっぱなしの平民ではないわ。
グレースたちはみるみる顔を真っ赤にさせて、
「まあぁぁぁっ! なんですってぇっ!」
「なんて嫌な子なのかしら!」
「男を誑かすことしか頭にないのよ!」
面白いくらいに怒り出した。
「黙りなさいっ!」
私の腕からするりと抜け出したアメリア様が叫ぶ。
「さっきからうるさいのよ、あなたたち。リナのことを平民って蔑むのなら、わたしはシェフィールドよ! 公爵家より身分の低い者は出てい行きなさい!」
彼女の剣幕に三人はたじろいだ。悔しそうに私たちを見る。
そしてグレースが私をきっと睨んで、
「ちょっと平民! あんた、今度はシェフィールド公爵令嬢に取り入って、そこまでして王太子殿下を狙っているの!? どこまで非常識な平民なのかしら!」
彼女の飛躍しすぎた想像力に私は呆れ返った。
「はぁ? アルフィー先生から公爵令嬢様の家庭教師を頼まれただけなんだけど」
「ま、また自慢っ!? 何様なの、あんたっ!?」
「その辺にしておけ。迷惑だぞ。静かにしろ」と、セルゲイが注意するとグレースは今度は彼に突っかかる。
「なによ、帝国人。休日までお姫様のお守りなんて白馬の王子様もご苦労なことね」
「今日は俺たちはエカチェリーナ様を探しに来ているんだよ」
「セルゲイ!」
「グレースを黙らすには丁度いい話題だろ?」と、彼は私に耳打ちをした。
そんなこと言ったって、グレースなら絶対に乗って来るじゃない。これ以上、捜索隊が増えたらどうするのよ。
「あら?」グレースの表情が打って変わって穏やかになった。「エカチェリーナ様はリーズにいらっしゃるの?」
ほらね……。
「さぁな。だが公爵令嬢がそうおっしゃるんでな」
「わたしの勘よ。きっとエカチェリーナ様はフレディお兄様の近くにいらっしゃるわ。あなたたちもなにか情報があれば教えなさい」
「もちろんですわ、公爵令嬢」と、グレースは嬉しそうに答えた。
「……あなたもエカチェリーナ様のことが好きなの?」
「当然! エカチェリーナ様こそ我がリーズの王太子妃に相応しいわ!」
それを聞くと不機嫌だったアメリア様はパッと笑顔になって、
「そうなの! エカチェリーナ様が王太子妃になるべきよね!」
「そうですわ! あんなに慈愛に満ちて民を愛する方、他にいないわ!」
「そうよね! 皇女殿下はとってもお優しい方なのよ!」
二人でエカチェリーナの話題で盛り上がり始めた。
「ね、ねぇ……ちょっと静かにしてくれないかな……?」と、私が言っても二人とも聞く耳を持たずに話を続ける。
「ねぇ、もう止めよう……?」
「人気者だな、皇女様は」と、セルゲイがくつくつと笑った。
その日はカフェでお開きとなった。
帰り際、グレースもエカチェリーナの捜索に加わると聞いて激しく目眩がした。
もうっ、セルゲイが余計なことを言うから! 諦めるどころか仲間が増えているじゃないの!
意気揚々と前を歩くアメリア様が振り返って私たちを急かした。
「あんまり走るなよ、転ぶぞ」
「そうですよ。危ないからちゃんと前を見てください」
「分かってるわよ! 二人とも早く来て!」
私たちは約束した通り次の休みの日に早速エカチェリーナを探しに王都の中心街へと繰り出した。
捜索といっても、アメリア様は久し振りに来た街の散策を楽しんでいるようで、さっきからずっとはしゃいでいる。
無邪気な彼女の様子をセルゲイはぼんやりと眺めながら、
「このまま皇女探しを忘れてくれるといいんだが……」
「そうね……」
私はあのあと、すぐさまセルゲイにアメリア様と二人のお茶会での事の顛末を話した。彼からはすっごく怒られたけど、彼女がエカチェリーナ捜索を諦めるように協力してくれることになった。
そして今日は、私がこれ以上襤褸を出さないように彼も付いて来てくれたのだった。
表向きは彼も旧帝国民として皇女捜索に協力したいと志願してやって来たということになっているが、実のところはアメリア様にエカチェリーナのことを諦めてもらうために上手いこと誘導しようと今日は参加したのだ。
でも、彼女は意外に勘が鋭いのよね……。用心するに越したことはないわ。
アメリア様とセルゲイは意外にも出会ってすぐに意気投合して、まるで昔からの友人のように仲良くしていた。彼女は今もぎゅっと彼の手を握っている。
さすが美形のセルゲイ、相変わらず令嬢の心を掴むのに長けているわ。恐ろしい。
オリヴィアの話によると、公爵家の三男の彼はリーズ国内のいくつかの貴族から婿養子にならないかと声を掛けられているらしい。この様子だとその列にシェフィールド家が加わる日も近いかもしれない。
「ここよ! 早く入りましょう!」
アメリア様が向かった先は、オープンテラスのとってもお洒落なカフェだった。陽の光を取り込むような明るい設計で、黄色を基調にして木材をふんだんに使っている内装に、ところどころ配置されている観葉植物の緑が映えて洗練されてる空間になっていた。
「メイドたちが話していたわ。今、王都で人気のカフェなのよ!」と、アメリア様は得意げに説明してくれた。たしかに若い令嬢たちや恋人同士の客で賑わっていた。
「お父様に予約をしてもらってるの。さ、行くわよ!」
私とセルゲイはアメリア様にぐいぐいと背中を押されながら席に着く。私たちは顔を見合わせながら苦笑いをした。これは完全に当初の目的を忘れているようね。やっぱりまだ無邪気な子供よね。良かった、良かった。
「まぁっ! こんなところに平民がいるなんて、なんて最低な休日なのかしら!」
「ここは平民が来る場所じゃないわよ、図々しい!」
「休日までセルゲイと一緒よ。どこまで男たらしなのよ、あの平民!」
楽しい休日の晴れやかな気分ににわかに豪雨が直撃した。思わずため息が出る。はぁ……なんで休日までこの三人と顔を合わせないといけないのよ。
「あなたたちも来てたの」と、私は眉間に皺を寄せた。
「はぁっ!? それはこっちの台詞よ! 休みの日まで平民の顔を見るなんて最低」とグレース。
「本当よ。平民は平民向けの店に行きなさいよ」
「そうよ。ここは平民には相応しくないわ」
三人が私に嫌味を言うと、それまで黙っていたアメリア様がドンと机を叩きながら立ち上がった。
「あなたたち、さっきからリナに失礼じゃなくて? 平民平民って、リナはれっきとした元貴――」
「わあぁぁぁっ! アメリア様、ストップ、ストップ!」と、私は慌てて彼女の口を塞ぐ。
「ふぁ、ふぁんでぇっ!?」
「元貴族のことは内緒なんです。面倒なことになりますから」と、私は耳打ちする。もしグレースたちに知られて、これ以上話がややこしいことになったら困る。
「べっ、別にいいじゃない!」
「もし喋ったらリナが困ることになるんだよ。リナが悲しいのはアメリアも嫌だろう? だから黙っていような」と、セルゲイも説得に加わると、アメリア様はコクンと素直に頷いた。よし、こういう時のためのセルゲイよね。令嬢殺しのセルゲイよ。便利なセルゲイだわ。
「はいはい。顔を見たくないのはお互い様。――っていうか、あなたたちは休日まで三人一緒なのね。デートする相手もいないの?」と、私は三人の顔を一人一人じっくり見てから鼻で笑った。嫌味には嫌味で返す、やられっぱなしの平民ではないわ。
グレースたちはみるみる顔を真っ赤にさせて、
「まあぁぁぁっ! なんですってぇっ!」
「なんて嫌な子なのかしら!」
「男を誑かすことしか頭にないのよ!」
面白いくらいに怒り出した。
「黙りなさいっ!」
私の腕からするりと抜け出したアメリア様が叫ぶ。
「さっきからうるさいのよ、あなたたち。リナのことを平民って蔑むのなら、わたしはシェフィールドよ! 公爵家より身分の低い者は出てい行きなさい!」
彼女の剣幕に三人はたじろいだ。悔しそうに私たちを見る。
そしてグレースが私をきっと睨んで、
「ちょっと平民! あんた、今度はシェフィールド公爵令嬢に取り入って、そこまでして王太子殿下を狙っているの!? どこまで非常識な平民なのかしら!」
彼女の飛躍しすぎた想像力に私は呆れ返った。
「はぁ? アルフィー先生から公爵令嬢様の家庭教師を頼まれただけなんだけど」
「ま、また自慢っ!? 何様なの、あんたっ!?」
「その辺にしておけ。迷惑だぞ。静かにしろ」と、セルゲイが注意するとグレースは今度は彼に突っかかる。
「なによ、帝国人。休日までお姫様のお守りなんて白馬の王子様もご苦労なことね」
「今日は俺たちはエカチェリーナ様を探しに来ているんだよ」
「セルゲイ!」
「グレースを黙らすには丁度いい話題だろ?」と、彼は私に耳打ちをした。
そんなこと言ったって、グレースなら絶対に乗って来るじゃない。これ以上、捜索隊が増えたらどうするのよ。
「あら?」グレースの表情が打って変わって穏やかになった。「エカチェリーナ様はリーズにいらっしゃるの?」
ほらね……。
「さぁな。だが公爵令嬢がそうおっしゃるんでな」
「わたしの勘よ。きっとエカチェリーナ様はフレディお兄様の近くにいらっしゃるわ。あなたたちもなにか情報があれば教えなさい」
「もちろんですわ、公爵令嬢」と、グレースは嬉しそうに答えた。
「……あなたもエカチェリーナ様のことが好きなの?」
「当然! エカチェリーナ様こそ我がリーズの王太子妃に相応しいわ!」
それを聞くと不機嫌だったアメリア様はパッと笑顔になって、
「そうなの! エカチェリーナ様が王太子妃になるべきよね!」
「そうですわ! あんなに慈愛に満ちて民を愛する方、他にいないわ!」
「そうよね! 皇女殿下はとってもお優しい方なのよ!」
二人でエカチェリーナの話題で盛り上がり始めた。
「ね、ねぇ……ちょっと静かにしてくれないかな……?」と、私が言っても二人とも聞く耳を持たずに話を続ける。
「ねぇ、もう止めよう……?」
「人気者だな、皇女様は」と、セルゲイがくつくつと笑った。
その日はカフェでお開きとなった。
帰り際、グレースもエカチェリーナの捜索に加わると聞いて激しく目眩がした。
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