【本編完結】元皇女なのはヒミツです!

あまぞらりゅう

文字の大きさ
38 / 76

38 侯爵令嬢のお茶会③

「あちらに行きましょうか」

 そのテーブルにはアメリア様と同年代の貴族の子女たちが5、6人集まってお茶とお菓子を頬張りながら、楽しそうにわいわいとお喋りをしていた。

 卒然と、アメリア様の足が止まる。

「アメリア様?」 

 彼女は梃子でも動かないとばかりにその場に踏ん張って、押しても引いても駄目だった。

「どうしたのですか? 行きましょう?」と私が言っても、彼女はふるふると首を横に振るだけだ。

「だって、なんて話しかければいいか分かんないもん……」

 アメリア様はすっかり怖気付いていた。屋敷では威勢がいいのに、意外に内弁慶な子なのよね。

「大丈夫ですよ。ご機嫌ようって挨拶をして、アメリア・シェフィールドですって言うだけですから。あとはお友達のお名前を聞けばいいんです。それで知っている家門だったら、そこから話を広げればいいのですよ」

「で、でもぉ……」

「じゃあ、俺と一緒に行こうか」

「「セルゲイ!」」

 振り返ると、芸術品のような美形の公爵令息がすぐ側まで来ていた。アメリア様はウサギのように俊敏な動きで彼にピュッと抱きつく。

「来ていたのなら声をかけてくれればいいのに、水臭いな。人混みを掻き分けて追いかけて来たんだぞ」

「だってセルゲイはずっと令嬢たちに囲まれていたじゃない。あんなの誰だって輪の中に入れないわよ」

 セルゲイは苦笑いをして、

「ああいうときは助けてくれよ……」

「平民の私には土台無理な話ね」

「セルゲイ」

 そのとき、アメリア様が彼の上着をクイクイっと引っ張った。

「おっ、悪い悪い。さぁ、行こうか」

「うん。あっちにお菓子を食べに行く」

 私とセルゲイは顔を見合わせて、

「よし、こっちのテーブルの子たちに話しかけに行こう」

「そうね。さ、アメリア様、行きましょう」

 二人で無理矢理に小さなお姫様をテーブルまで連れて行く。彼女はムッと口を尖らせてはいたが、セルゲイのことは素直に従うようで渋々近くのテーブルまで進んで行った。
 小さな貴族の子供たちが私たちに気付く。皆、静まり返って興味津々にこちらを見ていた。

「やぁ、皆。今日はこの子と仲良くして欲しいんだ」と、セルゲイが言うと、小さな令嬢たちはポッと頬を赤く染めた。セルゲイの威力は相変わらず凄まじいわね。

 にわかに注目されて、アメリア様は身体がピンとしゃちこばった。

「アメリア様、頑張って! 公爵令嬢の凛とした姿を見せ付けるのです」と、私は背後から小声で囁いた。

 アメリア様は頬を上気させながら、

「ご……ご機嫌よう」

 ちゃんと挨拶できた。私はほっと胸を撫で下ろす。ここまで来ればきっとあとはなんとかなるでしょう。

「わたしはアメリア・シェフィールドよ」と、彼女が名乗ると令嬢たちは嬉しそうに自己紹介し合った。そして、弾けるようにどんどん話題が広がって、話に花が咲く。アメリア様もとっても楽しそうだ。年上もいいけど、やはり同年代の友人というものは大事よね。今日を機に彼女の交流が広がるといいけど……。

 私がほんわかした気持ちになったときだった。

「コイツ、すっげぇ悪いヤツなんだぜぇ! 何人も家庭教師を辞めさせたって父上が言ってたぞ!」

 出し抜けに隣に座っていた小さな令息が物知り顔で言ってきた。途端にアメリア様の眉がつり上がる。

「なんですって……?」

「皆言ってるぞ、シェフィールド公爵令嬢は我儘だって」

 アメリア様はドンとテーブルを叩いて、

「違うわよ! わたしは生まれ変わったの。もう我儘なんかじゃないわ!」

「嘘つけ! 我儘令嬢!」

「黙りなさい! この白豚が!」

「しっ、白豚だとぉっ!?」

 色白の令息は顔を真っ赤にさせながら叫んだ。

「そうよ。あなたは他人のことをとやかく言う暇があったら痩せなさい! あまりにも見苦しいわ。それに肥満は健康に悪いのよ。死にたくなければ食べるのを我慢して運動をしなさい!」

「な、ん、だ、とぉぉぉ~~~っっ!!」

「こらこらこら」

「二人とも止めて!」

 一触即発の小さな貴族二人を私たちは慌てて止めに入った。二人とも子猫みたいにきぃきぃ怒っている。

「あなた、噂を信じる前に自分の目で確かめて! 彼女が皆とお話していて、そんなに我儘に見えた? アメリア様は人の身体のことを悪く言うのは駄目よ」

「「だって!!」」

 二人は同時に大声を上げた。一瞬のうちに、場の空気が悪くなる。令嬢たちは怯えてしまって、今にも泣きそうだ。彼女たちをセルゲイが慰めているが、すっかり萎縮してしまっているようだ。
 なんとか新しい空気に入れ替えなきゃ……そうだ!

「皆、見て!」

 私は氷魔法で目の前に小さな氷のお城を作った。

「わぁぁっ!」

「すっごーい!」

「綺麗!」

 さっきまで涙目だった子供たちの顔が日が照ったようにパッと明るくなる。

「アメリア様、先日できるようになった魔法でお城に明かりを灯してくださいな」

「あれね! 分かったわ!」

 アメリア様は呪文を唱えながら手を氷の白に翳す。すると、ボワッと柔らかい光が流れ出して城をオーロラのように七色に染めた。

「わぁっ!!」と、子供たちから歓声が上がる。令息も「すっげぇ~~~!!」と興奮しながらそれに見入っていた。

「アメリア様は魔法の操作がちょっと苦手だったけど、努力してここまでできるようになったんですよ。我儘令嬢だったらこんなこと不可能ですから」

「あ……」

 令息は黙り込んだ。

「……白豚なんて言って悪かったわね」とアメリア様がツンとしながらも謝った。

「オレも……ごめんな」

 私は安堵した。二人が仲直りをして一安心だ。とりあえず公爵閣下に頼まれた任務は完遂できたかしら。

「ねぇねぇ、お姉ちゃん。もっと魔法見せて」

「私も見たい!」

「分かったわ」

「リナは魔法学園の特待生なのよ? あなたたち、しっかり見て勉強しなさい」と、なぜかアメリア様が自分のことのように得意気に言った。

「特待生ってもう何十年もずっといなかったんでしょう? すごい!」

「お母様が学園に通っているときよりも、もっと前に一人いただけって聞いてるわ!」

「すっげぇ~~~っ!!」

 私は彼女たちが満足するまで魔法を披露した。ちなみにセルゲイも魔法をせがまれたが、彼は炎の魔法の使い手なので危ないからと辞退したのだった。





◆◆◆





「なんなの、あれ……」

 リナたちのいる騒がしいテーブルを冷めた目で令嬢たちが見ていた。

「付添人のくせに出しゃばり過ぎじゃない?」

「っていうか、平民なのになんで公爵令嬢の付添人なんてやっているの?」

「娼婦みたいなことでもやったんじゃない?」

 彼女たちの平民への憎悪はなにかに掻き立てられるかのように、どんどん膨らんでいる。太陽が隠れて影もおぼろげに曇ってきた。

「やっぱり平民がここにいるのは気分が悪いわ」

「そうだわ、追い出しましょう」

「身分の違いというものを分からせてあげないといけないわ」

「そうね、そうしましょう」

「平民に恥をかかせてやりましょう」

「私にいい考えがあるわ……」と、名もなき令嬢が不気味に笑う。

 黒い影が彼女たちを包んだ。

あなたにおすすめの小説

私だけが愛して1度も笑ったことの無い夫が、死んだはずの息子を連れてもどってきた

まつめ
恋愛
夫はただの一度も私に笑いかけたことは無く、穏やかに夫婦の時間をもったこともない。魔法騎士団の、騎士団長を務める彼は、23年間の結婚生活のほとんどを戦地で過ごしている。22歳の息子の戦死の知らせが届く。けれど夫は元気な息子を連れて私の元に戻って来てくれた。

私と幼馴染と十年間の婚約者

川村 あかり
恋愛
公爵令嬢ロゼリアは、王子アルベルトとの婚約を結んでいるが、彼の心は無自覚に幼馴染のミナに奪われていた。ミナの魔法【魅了】が無意識に周りの男性を狂わせ、アルベルトもその例外ではない。 それぞれが生まれつき得意な魔法があり、ロゼリアは見たものや聞いたものを完璧に記録できる【記録・再生】の魔法を持ち、二人の関係に耐えきれず胃の痛みに悩む日々。そんな中、彼女の唯一の理解者の冷静沈着なキースや毒舌のマリーが心の支えとなる。 アルベルトの側近であるガストンは、魔法【増幅】で騒動を盛り上げる一方、ミナの友人リリィは【幻影】の魔法を使ってロゼリアを貶めようと画策する。 婚約者と幼馴染の行動に振り回されるロゼリア。魔法が絡んだ恋愛模様の中で、彼女は本当の愛を見つけられるのか?

忘れ去られた婚約者

かべうち右近
恋愛
『僕はレベッカしか選ばない』 甘い声音でそう話したはずの王太子サイラスは、レベッカを忘れてしまった。 レベッカは、王太子サイラスと付き合っていることを、ある事情により隠していた。舞踏会で関係を公表し、婚約者に指名される予定だったのに、舞踊会の夜にサイラスは薬を盛られて倒れ、記憶喪失になってしまう。 恋人が誰なのかわからないのをいいことに、偽の恋人が次々と名乗りをあげ王太子の婚約者の座を狙ってくる。おかげで不信に陥ったサイラスに、レベッカは自分が恋人だと名乗り出せなくなってしまった。 サイラスの記憶喪失を解消するため、薬師兼魔女であるレベッカは恋人であることを隠しながら、事件調査を協力することになった。そうして記憶が戻らないまま二人の距離は再び近づいていく。だが、そんなおりにサイラスの偽の恋人を名乗りでた令嬢たちが、次々と襲われる事件も起き始めて……!? ※他のサイトにも掲載しています。 毎日更新です。

悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています

かきんとう
恋愛
 王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。  磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。  その中心に、私は立っていた。  ――今日、この瞬間のために。 「エレノア・フォン・リーベルト嬢」  高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。

噂の悪女が妻になりました

はくまいキャベツ
恋愛
ミラ・イヴァンチスカ。 国王の右腕と言われている宰相を父に持つ彼女は見目麗しく気品溢れる容姿とは裏腹に、父の権力を良い事に贅沢を好み、自分と同等かそれ以上の人間としか付き合わないプライドの塊の様な女だという。 その名前は国中に知れ渡っており、田舎の貧乏貴族ローガン・ウィリアムズの耳にも届いていた。そんな彼に一通の手紙が届く。その手紙にはあの噂の悪女、ミラ・イヴァンチスカとの婚姻を勧める内容が書かれていた。

報われなかった姫君に、弔いの白い薔薇の花束を

さくたろう
恋愛
 その国の王妃を決める舞踏会に招かれたロザリー・ベルトレードは、自分が当時の王子、そうして現王アルフォンスの婚約者であり、不遇の死を遂げた姫オフィーリアであったという前世を思い出す。  少しずつ蘇るオフィーリアの記憶に翻弄されながらも、17年前から今世まで続く因縁に、ロザリーは絡め取られていく。一方でアルフォンスもロザリーの存在から目が離せなくなり、やがて二人は再び惹かれ合うようになるが――。 20話です。小説家になろう様でも公開中です。

王子様への置き手紙

あおき華
恋愛
フィオナは王太子ジェラルドの婚約者。王宮で暮らしながら王太子妃教育を受けていた。そんなある日、ジェラルドと侯爵家令嬢のマデリーンがキスをする所を目撃してしまう。ショックを受けたフィオナは自ら修道院に行くことを決意し、護衛騎士のエルマーとともに王宮を逃げ出した。置き手紙を読んだ皇太子が追いかけてくるとは思いもせずに⋯⋯ 小説家になろうにも掲載しています。

公爵令嬢の辿る道

ヤマナ
恋愛
公爵令嬢エリーナ・ラナ・ユースクリフは、迎えた5度目の生に絶望した。 家族にも、付き合いのあるお友達にも、慕っていた使用人にも、思い人にも、誰からも愛されなかったエリーナは罪を犯して投獄されて凍死した。 それから生を繰り返して、その度に自業自得で凄惨な末路を迎え続けたエリーナは、やがて自分を取り巻いていたもの全てからの愛を諦めた。 これは、愛されず、しかし愛を求めて果てた少女の、その先の話。 ※暇な時にちょこちょこ書いている程度なので、内容はともかく出来についてはご了承ください。 追記  六十五話以降、タイトルの頭に『※』が付いているお話は、流血表現やグロ表現がございますので、閲覧の際はお気を付けください。