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41 侯爵令嬢のお茶会⑥
フレデリック様もフローレンス様も険しい表情で私たちを見ていた。
氷点下の日のような肌に突き刺すピリピリした空気が会場内を包み込む。
「……これは、どういうことかしら?」
剣呑な空気に追い打ちをかけるように、フローレンス様の冷たい声が響いた。
「これは――」
「そこの平民が彼女のネックレスを盗んだんですっ!」
セルゲイが説明する前に、令嬢が大音声で叫んだ。
「平民のポケットの中に! これが!」
彼女は握ったネックレスを突き出すように侯爵令嬢と王太子に見せ付けた。
フローレンス様の綺麗な眉が微かに動いた気がした。
フレデリック様のほうは……怖くて見られなかった。私は決して盗みなんてやっていないけど、彼に一瞬でも疑われるのが怖かった。
「フローレンス様、テーブルに置いてあったネックレスを平民が盗ったんです」
「ち、ちが――」
「黙りなさいよ、平民!」
「そうよ! 泥棒のくせに!」
「だから、違うって言って――」
「もう止めろ。見苦しい」
そのとき、フレデリック様の朗々とした声が私たちの言い合いを一時停止させた。号令のように皆揃って黙り込む。
「セルゲイ公爵令息、状況の説明を」
「承知しました、王太子殿下」
セルゲイはさっき起きた事件を理路整然と事細かに説明した。フレデリック様は頷いてから、続いて当事者の令嬢たちに説明を求める。こちらは支離滅裂でどう見ても嘘だと分かる酷い有様だった。
私はその間もフレデリック様の顔をまともに見られないままだった。彼の前で罪人扱いされていることが屈辱的で悔しくて悲しかった。さっきとは打って変わって全身が凍えるように冷たくなるのが分かった。
「……なるほど。大体の状況は分かった」フレデリック様は令嬢たちのほうを向いて「で、君たちはこんな騒ぎを起こしてどう責任を取るつもりなのか? 自身の浅はかな行動が主催者に恥をかかせるとは想像しなかったのか? フォード家とシェフィールド家に楯突くことになる可能性は考えなかったのか? 家門のことは? 貴族としてあまりにも浅慮すぎる。恥を知れ」
「「「「「もっ、申し訳ありませんでした!!」」」」」
令嬢たちはフレデリック様に向かって深く頭を下げた。
それからフレデリク様はフローレンス様の側に行って深刻そうな顔で会話を始めた。
きっと私が壊した物のことなどもあるだろう。これらは一生かけてでも弁償しなきゃいけないと思う。理由はどうあれ、けじめは付けないといけない。だから学園を主席で卒業して高給な職に就けるように、今日から勉強の量を増やしてもっと頑張るわ。
騒動が一段落したときだった。令嬢たちが再びざわめき出した。
「ちょっと! あなたのせいであたしが恥をかいたじゃない! どうしてくれるの?」
「はぁ? 言い出しっぺはあんたでしょう?」
「私たち、関係ないし」
「誰があんなこと言い出したのよ」
「どうせグレースたちでしょ?」
「はぁっ!? あたしじゃないわよ!」
「なによ。あなたたちはいつも率先して平民に嫌がらせをしているじゃない」
「今回は違うわ! あたしたちは見てただけよ」
「いいえ。グラスを三個もまとめて平民に押し付けてたわ」
……またぞろ、令嬢たちの低次元の口論が始まる。
私は呆れ返った。彼女たちはさっきフレデリック様から言われたことをもう忘れたのかしら。貴族としての自覚が低すぎる。
そう考えている間にも彼女たちの争いはどんどん激しくなった。
「っていうか、グレースって王太子妃に帝国の皇女様を推しているんでしょう? 邪魔なフローレンス様に平民を使って嫌がらせを目論んだじゃないの?」
「はあぁぁぁっ!? なに言ってるの! そんなこと考えてないわよ!」
「どうだか」
「なんなのよ! あたしに喧嘩を売ってるの!?」
「別に。本当のことを言っただけよ」
「お前ら、いい加減にしろ」と、セルゲイが咎めるが、ヒステリックに怒る彼女たちは聞く耳を持たなかった。
令嬢たちは罪の擦り付け合いを始めだして、場が再びごたつき出す。
私は戸惑ってその様子を見つめた。
不味い。このままでは若い貴族たちに亀裂が入って将来に禍根を残してしまう。未来のリーズ王国を導く貴族たちがこのような有様では、政治が混乱して最悪は国を滅ぼしかねない。
もしそうなったら、なによりフレデリック様に危険が及ぶ可能性がある。それだけは絶対に嫌だ。彼に私の家族のような目には絶対に合って欲しくない。
私は意を決して、軽く息を吸ってから、
「王太子殿下、侯爵令嬢様!」
会場の隅まで行き渡るように大声で叫んで、
「私が騒ぎを起こしたせいで、お二人や会場の貴族の方々にご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでしたっ!!」
跪いて、頭を擦り付けるように地面に付けた。
「リナ、止めろ!」と、セルゲイが私の腕を掴むが振り払う。
「全ては私が招いたことです。責任は全て私にあります。ですから、罰するのならどうか私だけに……!」
楽しいはずのお茶会の会場は、深夜の森のように静まり返る。
これでいい。平民の自分一人が悪者になれば全てが丸く収まる。令嬢たちも憎しみ合わなくて済むし、むしろ私を共通の敵にすることで団結力が高まるかもしれない。
裁かれるのは平民だけでいい。貴族たちは未来のリーズ王家を支えて行くという大事な使命があるのだから。
「顔を上げなさい」
しばらくして、フローレンス様が声を上げた。目の前には満面の笑顔の彼女の姿があった。その完璧な様相になんだかぞっとした。
「そんなことをしないで? むしろ謝るのはわたくしのほうよ。このようなことになって、ホストとして心が痛むわ。ごめんなさいね」
「で、ですが……場をめちゃくちゃにして……それに弁償を……」
「あら、いいのよ。これくらい。気にしないで」
「フローレンス嬢、そのことは後でリーズ家とシェフィールド家で話し合おう」とフレデリック様。
「本当にいいのに」彼女はふっと微笑を浮かべる。「リナさん、今日は疲れたでしょう? もうお帰りなさいな」
優しいはずの彼女の言葉は有無を言わせないような迫力があった。
「分かりました……」
私はふらふらと立ち上がった。
「わたしも――」
アメリア様が言いかけたが、フレデリック様が彼女の両肩を掴んだ。
そして、
「リナ嬢、待ってくれ」と、私のもとへ駆け寄った。
「で、殿下……こ、この度は申し訳ありませんでした」
「その話は後で。破片で怪我をしているじゃないか。見せてごらん」
見ると、両手がところどころ切れて血まみれになっていた。事件のせいで全然気付かなかったわ。
フレデリック様は回復魔法を唱える。
私は日々の労働で荒れた手を彼に見せるのがなんだか恥ずかしかった。周囲の令嬢たちの美しい手を目の当たりにして、もう身分が違うのだと改めて実感した。
そんな風にまだ未練がましく過去の位にしがみついて、平民の自分を受け入れていないことに気が付いて、激しく自己嫌悪した。
回復魔法の光は私のねとつくようなどす黒い考えと反比例をしてとても暖かく、ますます惨めな気分になった。
「これでよし。今日はゆっくり休んで。またね?」
「ありがとうございました。……では、失礼いたします、王太子殿下」
私は一礼する。こんな大事になってしまって、もう彼に合わせる顔がない。
「俺が送りますので」と、セルゲイが私の隣に立った。フレデリック様は深く頷く。
「あ、お待ちになって」
フローレンス様がこちらに向かって来た。
「今日のことは不問にするわ。だから、胸を張って学園にいらっしゃい?」
「慈悲深いお言葉、ありがとうございます……」
そして彼女は私の耳元に顔を近付けて、誰にも聞こえないような小声で囁く。
「本当にあなたには感謝しているのよ? だって、今日の出来事のおかげで殿下との婚約話がぐんと進展しそうなんですもの。ありがとう、リナさん?」
フローレンス様はくすりと笑った。
私は目を見張った。
身体が凍り付いて、一瞬で流氷のように重くなる。
全ては、彼女の掌の上で踊らされていたのね……!
今思えば、侯爵家のメイドや執事たちがあんなこと見過ごすはずがない。彼らなら令嬢たちが私に食器を寄越す前に、すっと動いていたに違いない。きっと主人の命令で敢えて見てみぬ振りをしていたのだ。
それもこれも、フレデリック様と婚約するため……?
眼前の美しい侯爵令嬢がにわかに別の恐ろしい生き物に見えた。その笑顔も優雅な振る舞いも全部、彼女の中にある底知れぬ暗い闇を隠すための、まやかしだったのね……。
冷や汗が額を伝った。
セルゲイに乗せてもらった帰りの馬車の中で、私は力が抜けてがくりとうなだれた。
「リナ、大丈夫か?」
「セルゲイ……私……うぅっ…………」
ずっと堪えていた涙が堰を切ったように溢れ出た。
「わ、私のせいで……フレデリック様の立場を悪くしてしまった……。私が……調子に乗ったせいで、フレデリック様が……」
フレデリック様は今日はアメリア様の保護者としてお茶会に参加した。そこには付添人である私のことも含まれる。その私が騒動を起こしてしまった。フローレンス様のあの様子では、きっとそこを突くだろう。そして責任感の強い彼は、申し開きなんてしないで甘んじて受け入れる……。
「わざわざリーズまで来て、彼の足を引っ張って……私は、なにをやっているんだろう……」
「リナ……」
「こんなことなら、アレクセイさんの言う通りに隣国の彼の親戚の家に行けば良かった……欲張った私が悪いんだわ……私だけ革命から逃れて生き延びたから、その罰なんだわ…………」
「そんなことはない!」セルゲイが私をきつく抱きしめた。「そんなことないから……だから自分を責めるな…………」
私は彼の腕の中でわんわんと声を出して泣いた。
夕闇がゆらゆらと暗い影を運んで来た。
氷点下の日のような肌に突き刺すピリピリした空気が会場内を包み込む。
「……これは、どういうことかしら?」
剣呑な空気に追い打ちをかけるように、フローレンス様の冷たい声が響いた。
「これは――」
「そこの平民が彼女のネックレスを盗んだんですっ!」
セルゲイが説明する前に、令嬢が大音声で叫んだ。
「平民のポケットの中に! これが!」
彼女は握ったネックレスを突き出すように侯爵令嬢と王太子に見せ付けた。
フローレンス様の綺麗な眉が微かに動いた気がした。
フレデリック様のほうは……怖くて見られなかった。私は決して盗みなんてやっていないけど、彼に一瞬でも疑われるのが怖かった。
「フローレンス様、テーブルに置いてあったネックレスを平民が盗ったんです」
「ち、ちが――」
「黙りなさいよ、平民!」
「そうよ! 泥棒のくせに!」
「だから、違うって言って――」
「もう止めろ。見苦しい」
そのとき、フレデリック様の朗々とした声が私たちの言い合いを一時停止させた。号令のように皆揃って黙り込む。
「セルゲイ公爵令息、状況の説明を」
「承知しました、王太子殿下」
セルゲイはさっき起きた事件を理路整然と事細かに説明した。フレデリック様は頷いてから、続いて当事者の令嬢たちに説明を求める。こちらは支離滅裂でどう見ても嘘だと分かる酷い有様だった。
私はその間もフレデリック様の顔をまともに見られないままだった。彼の前で罪人扱いされていることが屈辱的で悔しくて悲しかった。さっきとは打って変わって全身が凍えるように冷たくなるのが分かった。
「……なるほど。大体の状況は分かった」フレデリック様は令嬢たちのほうを向いて「で、君たちはこんな騒ぎを起こしてどう責任を取るつもりなのか? 自身の浅はかな行動が主催者に恥をかかせるとは想像しなかったのか? フォード家とシェフィールド家に楯突くことになる可能性は考えなかったのか? 家門のことは? 貴族としてあまりにも浅慮すぎる。恥を知れ」
「「「「「もっ、申し訳ありませんでした!!」」」」」
令嬢たちはフレデリック様に向かって深く頭を下げた。
それからフレデリク様はフローレンス様の側に行って深刻そうな顔で会話を始めた。
きっと私が壊した物のことなどもあるだろう。これらは一生かけてでも弁償しなきゃいけないと思う。理由はどうあれ、けじめは付けないといけない。だから学園を主席で卒業して高給な職に就けるように、今日から勉強の量を増やしてもっと頑張るわ。
騒動が一段落したときだった。令嬢たちが再びざわめき出した。
「ちょっと! あなたのせいであたしが恥をかいたじゃない! どうしてくれるの?」
「はぁ? 言い出しっぺはあんたでしょう?」
「私たち、関係ないし」
「誰があんなこと言い出したのよ」
「どうせグレースたちでしょ?」
「はぁっ!? あたしじゃないわよ!」
「なによ。あなたたちはいつも率先して平民に嫌がらせをしているじゃない」
「今回は違うわ! あたしたちは見てただけよ」
「いいえ。グラスを三個もまとめて平民に押し付けてたわ」
……またぞろ、令嬢たちの低次元の口論が始まる。
私は呆れ返った。彼女たちはさっきフレデリック様から言われたことをもう忘れたのかしら。貴族としての自覚が低すぎる。
そう考えている間にも彼女たちの争いはどんどん激しくなった。
「っていうか、グレースって王太子妃に帝国の皇女様を推しているんでしょう? 邪魔なフローレンス様に平民を使って嫌がらせを目論んだじゃないの?」
「はあぁぁぁっ!? なに言ってるの! そんなこと考えてないわよ!」
「どうだか」
「なんなのよ! あたしに喧嘩を売ってるの!?」
「別に。本当のことを言っただけよ」
「お前ら、いい加減にしろ」と、セルゲイが咎めるが、ヒステリックに怒る彼女たちは聞く耳を持たなかった。
令嬢たちは罪の擦り付け合いを始めだして、場が再びごたつき出す。
私は戸惑ってその様子を見つめた。
不味い。このままでは若い貴族たちに亀裂が入って将来に禍根を残してしまう。未来のリーズ王国を導く貴族たちがこのような有様では、政治が混乱して最悪は国を滅ぼしかねない。
もしそうなったら、なによりフレデリック様に危険が及ぶ可能性がある。それだけは絶対に嫌だ。彼に私の家族のような目には絶対に合って欲しくない。
私は意を決して、軽く息を吸ってから、
「王太子殿下、侯爵令嬢様!」
会場の隅まで行き渡るように大声で叫んで、
「私が騒ぎを起こしたせいで、お二人や会場の貴族の方々にご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでしたっ!!」
跪いて、頭を擦り付けるように地面に付けた。
「リナ、止めろ!」と、セルゲイが私の腕を掴むが振り払う。
「全ては私が招いたことです。責任は全て私にあります。ですから、罰するのならどうか私だけに……!」
楽しいはずのお茶会の会場は、深夜の森のように静まり返る。
これでいい。平民の自分一人が悪者になれば全てが丸く収まる。令嬢たちも憎しみ合わなくて済むし、むしろ私を共通の敵にすることで団結力が高まるかもしれない。
裁かれるのは平民だけでいい。貴族たちは未来のリーズ王家を支えて行くという大事な使命があるのだから。
「顔を上げなさい」
しばらくして、フローレンス様が声を上げた。目の前には満面の笑顔の彼女の姿があった。その完璧な様相になんだかぞっとした。
「そんなことをしないで? むしろ謝るのはわたくしのほうよ。このようなことになって、ホストとして心が痛むわ。ごめんなさいね」
「で、ですが……場をめちゃくちゃにして……それに弁償を……」
「あら、いいのよ。これくらい。気にしないで」
「フローレンス嬢、そのことは後でリーズ家とシェフィールド家で話し合おう」とフレデリック様。
「本当にいいのに」彼女はふっと微笑を浮かべる。「リナさん、今日は疲れたでしょう? もうお帰りなさいな」
優しいはずの彼女の言葉は有無を言わせないような迫力があった。
「分かりました……」
私はふらふらと立ち上がった。
「わたしも――」
アメリア様が言いかけたが、フレデリック様が彼女の両肩を掴んだ。
そして、
「リナ嬢、待ってくれ」と、私のもとへ駆け寄った。
「で、殿下……こ、この度は申し訳ありませんでした」
「その話は後で。破片で怪我をしているじゃないか。見せてごらん」
見ると、両手がところどころ切れて血まみれになっていた。事件のせいで全然気付かなかったわ。
フレデリック様は回復魔法を唱える。
私は日々の労働で荒れた手を彼に見せるのがなんだか恥ずかしかった。周囲の令嬢たちの美しい手を目の当たりにして、もう身分が違うのだと改めて実感した。
そんな風にまだ未練がましく過去の位にしがみついて、平民の自分を受け入れていないことに気が付いて、激しく自己嫌悪した。
回復魔法の光は私のねとつくようなどす黒い考えと反比例をしてとても暖かく、ますます惨めな気分になった。
「これでよし。今日はゆっくり休んで。またね?」
「ありがとうございました。……では、失礼いたします、王太子殿下」
私は一礼する。こんな大事になってしまって、もう彼に合わせる顔がない。
「俺が送りますので」と、セルゲイが私の隣に立った。フレデリック様は深く頷く。
「あ、お待ちになって」
フローレンス様がこちらに向かって来た。
「今日のことは不問にするわ。だから、胸を張って学園にいらっしゃい?」
「慈悲深いお言葉、ありがとうございます……」
そして彼女は私の耳元に顔を近付けて、誰にも聞こえないような小声で囁く。
「本当にあなたには感謝しているのよ? だって、今日の出来事のおかげで殿下との婚約話がぐんと進展しそうなんですもの。ありがとう、リナさん?」
フローレンス様はくすりと笑った。
私は目を見張った。
身体が凍り付いて、一瞬で流氷のように重くなる。
全ては、彼女の掌の上で踊らされていたのね……!
今思えば、侯爵家のメイドや執事たちがあんなこと見過ごすはずがない。彼らなら令嬢たちが私に食器を寄越す前に、すっと動いていたに違いない。きっと主人の命令で敢えて見てみぬ振りをしていたのだ。
それもこれも、フレデリック様と婚約するため……?
眼前の美しい侯爵令嬢がにわかに別の恐ろしい生き物に見えた。その笑顔も優雅な振る舞いも全部、彼女の中にある底知れぬ暗い闇を隠すための、まやかしだったのね……。
冷や汗が額を伝った。
セルゲイに乗せてもらった帰りの馬車の中で、私は力が抜けてがくりとうなだれた。
「リナ、大丈夫か?」
「セルゲイ……私……うぅっ…………」
ずっと堪えていた涙が堰を切ったように溢れ出た。
「わ、私のせいで……フレデリック様の立場を悪くしてしまった……。私が……調子に乗ったせいで、フレデリック様が……」
フレデリック様は今日はアメリア様の保護者としてお茶会に参加した。そこには付添人である私のことも含まれる。その私が騒動を起こしてしまった。フローレンス様のあの様子では、きっとそこを突くだろう。そして責任感の強い彼は、申し開きなんてしないで甘んじて受け入れる……。
「わざわざリーズまで来て、彼の足を引っ張って……私は、なにをやっているんだろう……」
「リナ……」
「こんなことなら、アレクセイさんの言う通りに隣国の彼の親戚の家に行けば良かった……欲張った私が悪いんだわ……私だけ革命から逃れて生き延びたから、その罰なんだわ…………」
「そんなことはない!」セルゲイが私をきつく抱きしめた。「そんなことないから……だから自分を責めるな…………」
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