61 / 76
61 エカチェリーナの手紙
あのあと、私はフレデリック様たちと王宮へ向かって今回の事件に関する簡単な調査を受けた。
侯爵令嬢の闇魔法の疑惑はフレデリック様たちが以前から調べていたらしい。今回の件が確たる証拠となって、フレデリック様との婚約話も無事に白紙になったそうだ。
フォード侯爵家の当主自身は娘の闇魔法のことを本当に知らなかったのと、彼個人は国に対してこれまで忠義を尽くしていたので、伯爵位への降爵と王家への賠償金で手打ちとなった。
でもその金額は天文学的な数字のようで、フォード伯爵家の没落は免れないだろうと言われている。
そしてフローレンス・フォード侯爵令嬢はというと、闇魔法を隠匿していた罪、魔法で国王を暗示にかけた罪、皇女を殺害しようとした罪で貴族籍の剥奪……その後、処刑となった。
私は王宮での調査が終わったあとは国王陛下と王妃様と謁見して今後の方針について話し合った。
といっても既にフレデリック様がアレクセイさんと話をつけていて、私はただその報告を受けるだけな感じだったけど。自分の知らないところで彼がこんなにも動いてくれていたと分かって、凄く嬉しかったわ。
陛下も王妃様も私の生存をとても喜んでくださって、特に王妃様は涙を流しながら抱きしめてくれて、お母様みたいでちょっと照れくさかった。
その日は晩餐もご一緒して王宮に泊まらせてもらったんだけど、翌朝起きたらフレデリック様の私室の隣に王太子妃の部屋が用意されていて、学園の寮にあった私の荷物も全てそこに移動されていて仰天した。さすが王家、こういうことの仕事が早いわね。
それから二週間後、私はフレデリック様との婚約式を終えて、正式に王太子と皇女の婚約が発表された。
私は革命後に極秘でリーズ王国に亡命をして王家が匿っていた、ということになっていた。そのことは皇女の命の危険のために連邦政府にも知らされていなくて、身の安全が確保されたので公表と至った……って設定なんですって。
淡々と話が進んでいって思ったより呆気なくて、なんだか拍子抜けで笑っちゃうわよね。
まぁ、ここに至るまで両国間でいろいろあったみたいだけど、私たちのために多くの人たちが動いてくれたことに本当に感謝している。
そして自身の身位の影響力というものは計り知れないものだと改めて実感したので、これからはもうちょっと責任のある行動を取ろうと思った……。
二週間の欠席のあと、学園に復帰した際はそれはもうお祭みたいに大騒ぎだった。
これまで平民と蔑んでいた相手が旧帝国の皇女だったので、彼らの掌返しがおかしくてイタズラをしているみたいで楽しかったわ。
でも今度は未来の王太子妃の皇女に取り入ろうと多くの生徒が近寄ってきたけど、グレースが力強い防波堤になってくれて、今では平穏な学園生活を送っている。
お世話になった定食屋さんは辞めることになって、放課後は生徒会の仕事や王太子妃教育で大忙しだ。これからもマーサさんに教わったことを決して忘れないで、私は国民に寄り添う王太子妃になりたいと思う。
部屋の窓際で陽の光を浴びながら、フレデリック様からの手紙を読む。
彼にはいただいた手紙は燃えてなくなってしまったと謝罪をしたら、革命後に書いたと言う手紙をどっさりと渡されて、今はそちらをじっくりと読み進めているのだ。
私のほうも、革命後に彼に宛てた日記のような手紙の数々が手元に残っていたので、恥ずかしながらも全て手渡した。彼はとっても喜んでくれて、毎回読んだ手紙の感想と質問を嬉しそうに言ってきた。
それは離れていた空白を少しずつ埋めていっているようで、彼の積極性に苦笑いしながらもじんわりと温かい気持ちになった。
◆◆◆
まっさらな新雪のようなドレスを身に纏った私は、机に向かってペンを取る。
「あっ! エカチェリーナ様! 駄目ですよ、インクで衣装が汚れたらどうするんですか!?」
「そ、そうですよ! せっかくの衣装なのに、危険です!」
「大丈夫よ。少しだけだから」
「「もうっ~!」」
侍女見習いのグレースとオリヴィアに窘められるが、聞き流してペンを走らせると二人が慌てて私の膝にハンカチを広げた。そして二人は大判のハンカチの両端をそれぞれにつまんで、私の胸元に持って来る。
「いいですか! ゆっくり、そぉ~っと書いてくださいね!」
「絶対にインクを飛ばしたら駄目ですからね!」
「平気だって」
とは言うものの、両側の二人の視線が痛いので私はゆっくりと丁寧に言葉を綴った。
◇◇◇
親愛なる フレディ
あなたと巡り合ってからもう三年がたちました。
リーズに来てからの三年間は本当にあっという間で、今日が結婚式だなんて信じられません。まだ、あの地下牢の中で夢を見ているんじゃないかしら、なんて思ってしまいます。
でも、嬉しいことに現実なのですね。あなたに触れたぬくもりは今もずっと肌に感じています。そしてこれからも、あなたの側でこの温かさを感じていたいと思います。もう一生離れるつもりはないので、覚悟していてくださいね?
そして――あら、ノックの音が。どうやらあなたが迎えに来てくださったようです。ちょっと緊張してきちゃいました。私のウエディングドレス姿をあなたは気に入ってくださるでしょうか。
話が逸れてしまいた。この手紙を書き上げるまで少しだけ待っていてくださいね。
そして、これから私はリーズ王国の王太子妃としてあなたを支えていきたいと思います。もしかしたら意見がぶつかることも起こるかもしれませんが、私もあなたと同じくリーズの民を愛していて、国の発展のために尽力したい気持ちは同じです。ともに手を取り合って、リーズをもっと素敵な国にしていきましょう。
愛しています。
あなたの リーナ
◇◇◇
侯爵令嬢の闇魔法の疑惑はフレデリック様たちが以前から調べていたらしい。今回の件が確たる証拠となって、フレデリック様との婚約話も無事に白紙になったそうだ。
フォード侯爵家の当主自身は娘の闇魔法のことを本当に知らなかったのと、彼個人は国に対してこれまで忠義を尽くしていたので、伯爵位への降爵と王家への賠償金で手打ちとなった。
でもその金額は天文学的な数字のようで、フォード伯爵家の没落は免れないだろうと言われている。
そしてフローレンス・フォード侯爵令嬢はというと、闇魔法を隠匿していた罪、魔法で国王を暗示にかけた罪、皇女を殺害しようとした罪で貴族籍の剥奪……その後、処刑となった。
私は王宮での調査が終わったあとは国王陛下と王妃様と謁見して今後の方針について話し合った。
といっても既にフレデリック様がアレクセイさんと話をつけていて、私はただその報告を受けるだけな感じだったけど。自分の知らないところで彼がこんなにも動いてくれていたと分かって、凄く嬉しかったわ。
陛下も王妃様も私の生存をとても喜んでくださって、特に王妃様は涙を流しながら抱きしめてくれて、お母様みたいでちょっと照れくさかった。
その日は晩餐もご一緒して王宮に泊まらせてもらったんだけど、翌朝起きたらフレデリック様の私室の隣に王太子妃の部屋が用意されていて、学園の寮にあった私の荷物も全てそこに移動されていて仰天した。さすが王家、こういうことの仕事が早いわね。
それから二週間後、私はフレデリック様との婚約式を終えて、正式に王太子と皇女の婚約が発表された。
私は革命後に極秘でリーズ王国に亡命をして王家が匿っていた、ということになっていた。そのことは皇女の命の危険のために連邦政府にも知らされていなくて、身の安全が確保されたので公表と至った……って設定なんですって。
淡々と話が進んでいって思ったより呆気なくて、なんだか拍子抜けで笑っちゃうわよね。
まぁ、ここに至るまで両国間でいろいろあったみたいだけど、私たちのために多くの人たちが動いてくれたことに本当に感謝している。
そして自身の身位の影響力というものは計り知れないものだと改めて実感したので、これからはもうちょっと責任のある行動を取ろうと思った……。
二週間の欠席のあと、学園に復帰した際はそれはもうお祭みたいに大騒ぎだった。
これまで平民と蔑んでいた相手が旧帝国の皇女だったので、彼らの掌返しがおかしくてイタズラをしているみたいで楽しかったわ。
でも今度は未来の王太子妃の皇女に取り入ろうと多くの生徒が近寄ってきたけど、グレースが力強い防波堤になってくれて、今では平穏な学園生活を送っている。
お世話になった定食屋さんは辞めることになって、放課後は生徒会の仕事や王太子妃教育で大忙しだ。これからもマーサさんに教わったことを決して忘れないで、私は国民に寄り添う王太子妃になりたいと思う。
部屋の窓際で陽の光を浴びながら、フレデリック様からの手紙を読む。
彼にはいただいた手紙は燃えてなくなってしまったと謝罪をしたら、革命後に書いたと言う手紙をどっさりと渡されて、今はそちらをじっくりと読み進めているのだ。
私のほうも、革命後に彼に宛てた日記のような手紙の数々が手元に残っていたので、恥ずかしながらも全て手渡した。彼はとっても喜んでくれて、毎回読んだ手紙の感想と質問を嬉しそうに言ってきた。
それは離れていた空白を少しずつ埋めていっているようで、彼の積極性に苦笑いしながらもじんわりと温かい気持ちになった。
◆◆◆
まっさらな新雪のようなドレスを身に纏った私は、机に向かってペンを取る。
「あっ! エカチェリーナ様! 駄目ですよ、インクで衣装が汚れたらどうするんですか!?」
「そ、そうですよ! せっかくの衣装なのに、危険です!」
「大丈夫よ。少しだけだから」
「「もうっ~!」」
侍女見習いのグレースとオリヴィアに窘められるが、聞き流してペンを走らせると二人が慌てて私の膝にハンカチを広げた。そして二人は大判のハンカチの両端をそれぞれにつまんで、私の胸元に持って来る。
「いいですか! ゆっくり、そぉ~っと書いてくださいね!」
「絶対にインクを飛ばしたら駄目ですからね!」
「平気だって」
とは言うものの、両側の二人の視線が痛いので私はゆっくりと丁寧に言葉を綴った。
◇◇◇
親愛なる フレディ
あなたと巡り合ってからもう三年がたちました。
リーズに来てからの三年間は本当にあっという間で、今日が結婚式だなんて信じられません。まだ、あの地下牢の中で夢を見ているんじゃないかしら、なんて思ってしまいます。
でも、嬉しいことに現実なのですね。あなたに触れたぬくもりは今もずっと肌に感じています。そしてこれからも、あなたの側でこの温かさを感じていたいと思います。もう一生離れるつもりはないので、覚悟していてくださいね?
そして――あら、ノックの音が。どうやらあなたが迎えに来てくださったようです。ちょっと緊張してきちゃいました。私のウエディングドレス姿をあなたは気に入ってくださるでしょうか。
話が逸れてしまいた。この手紙を書き上げるまで少しだけ待っていてくださいね。
そして、これから私はリーズ王国の王太子妃としてあなたを支えていきたいと思います。もしかしたら意見がぶつかることも起こるかもしれませんが、私もあなたと同じくリーズの民を愛していて、国の発展のために尽力したい気持ちは同じです。ともに手を取り合って、リーズをもっと素敵な国にしていきましょう。
愛しています。
あなたの リーナ
◇◇◇
あなたにおすすめの小説
私だけが愛して1度も笑ったことの無い夫が、死んだはずの息子を連れてもどってきた
まつめ
恋愛
夫はただの一度も私に笑いかけたことは無く、穏やかに夫婦の時間をもったこともない。魔法騎士団の、騎士団長を務める彼は、23年間の結婚生活のほとんどを戦地で過ごしている。22歳の息子の戦死の知らせが届く。けれど夫は元気な息子を連れて私の元に戻って来てくれた。
私と幼馴染と十年間の婚約者
川村 あかり
恋愛
公爵令嬢ロゼリアは、王子アルベルトとの婚約を結んでいるが、彼の心は無自覚に幼馴染のミナに奪われていた。ミナの魔法【魅了】が無意識に周りの男性を狂わせ、アルベルトもその例外ではない。
それぞれが生まれつき得意な魔法があり、ロゼリアは見たものや聞いたものを完璧に記録できる【記録・再生】の魔法を持ち、二人の関係に耐えきれず胃の痛みに悩む日々。そんな中、彼女の唯一の理解者の冷静沈着なキースや毒舌のマリーが心の支えとなる。
アルベルトの側近であるガストンは、魔法【増幅】で騒動を盛り上げる一方、ミナの友人リリィは【幻影】の魔法を使ってロゼリアを貶めようと画策する。
婚約者と幼馴染の行動に振り回されるロゼリア。魔法が絡んだ恋愛模様の中で、彼女は本当の愛を見つけられるのか?
忘れ去られた婚約者
かべうち右近
恋愛
『僕はレベッカしか選ばない』
甘い声音でそう話したはずの王太子サイラスは、レベッカを忘れてしまった。
レベッカは、王太子サイラスと付き合っていることを、ある事情により隠していた。舞踏会で関係を公表し、婚約者に指名される予定だったのに、舞踊会の夜にサイラスは薬を盛られて倒れ、記憶喪失になってしまう。
恋人が誰なのかわからないのをいいことに、偽の恋人が次々と名乗りをあげ王太子の婚約者の座を狙ってくる。おかげで不信に陥ったサイラスに、レベッカは自分が恋人だと名乗り出せなくなってしまった。
サイラスの記憶喪失を解消するため、薬師兼魔女であるレベッカは恋人であることを隠しながら、事件調査を協力することになった。そうして記憶が戻らないまま二人の距離は再び近づいていく。だが、そんなおりにサイラスの偽の恋人を名乗りでた令嬢たちが、次々と襲われる事件も起き始めて……!?
※他のサイトにも掲載しています。
毎日更新です。
悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています
かきんとう
恋愛
王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。
磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。
その中心に、私は立っていた。
――今日、この瞬間のために。
「エレノア・フォン・リーベルト嬢」
高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。
噂の悪女が妻になりました
はくまいキャベツ
恋愛
ミラ・イヴァンチスカ。
国王の右腕と言われている宰相を父に持つ彼女は見目麗しく気品溢れる容姿とは裏腹に、父の権力を良い事に贅沢を好み、自分と同等かそれ以上の人間としか付き合わないプライドの塊の様な女だという。
その名前は国中に知れ渡っており、田舎の貧乏貴族ローガン・ウィリアムズの耳にも届いていた。そんな彼に一通の手紙が届く。その手紙にはあの噂の悪女、ミラ・イヴァンチスカとの婚姻を勧める内容が書かれていた。
報われなかった姫君に、弔いの白い薔薇の花束を
さくたろう
恋愛
その国の王妃を決める舞踏会に招かれたロザリー・ベルトレードは、自分が当時の王子、そうして現王アルフォンスの婚約者であり、不遇の死を遂げた姫オフィーリアであったという前世を思い出す。
少しずつ蘇るオフィーリアの記憶に翻弄されながらも、17年前から今世まで続く因縁に、ロザリーは絡め取られていく。一方でアルフォンスもロザリーの存在から目が離せなくなり、やがて二人は再び惹かれ合うようになるが――。
20話です。小説家になろう様でも公開中です。
王子様への置き手紙
あおき華
恋愛
フィオナは王太子ジェラルドの婚約者。王宮で暮らしながら王太子妃教育を受けていた。そんなある日、ジェラルドと侯爵家令嬢のマデリーンがキスをする所を目撃してしまう。ショックを受けたフィオナは自ら修道院に行くことを決意し、護衛騎士のエルマーとともに王宮を逃げ出した。置き手紙を読んだ皇太子が追いかけてくるとは思いもせずに⋯⋯
小説家になろうにも掲載しています。
公爵令嬢の辿る道
ヤマナ
恋愛
公爵令嬢エリーナ・ラナ・ユースクリフは、迎えた5度目の生に絶望した。
家族にも、付き合いのあるお友達にも、慕っていた使用人にも、思い人にも、誰からも愛されなかったエリーナは罪を犯して投獄されて凍死した。
それから生を繰り返して、その度に自業自得で凄惨な末路を迎え続けたエリーナは、やがて自分を取り巻いていたもの全てからの愛を諦めた。
これは、愛されず、しかし愛を求めて果てた少女の、その先の話。
※暇な時にちょこちょこ書いている程度なので、内容はともかく出来についてはご了承ください。
追記
六十五話以降、タイトルの頭に『※』が付いているお話は、流血表現やグロ表現がございますので、閲覧の際はお気を付けください。