【完結】黒の花嫁/白の花嫁

あまぞらりゅう

文字の大きさ
102 / 124

第十六話(五)

しおりを挟む





 白龍は秋葉との契約の御印みしるしが再び現れたとき、すぐに彼女を迎えに行こうと立ち上がった。
 だが、丁度そのとき。

「どこへ行かれるのですか?」

 出し抜けに、春菜が彼の背後から声を掛けてきた。彼がぎこちなく振り返ると、無表情の彼女がじっと見つめていた。

「春菜……済まない……」

 彼は心苦しそうに顔を歪めて眉を下げる。

「私は、今も秋葉と契約状態にあるようだ。今から彼女を迎えに行く。君のことは申し訳なく思うが、霊力が著しく減少している今、このまま天界ここに置くわけにはいかない。
 幸いにも、私たちはまだ夫婦めおとちぎりを――」

 春菜は光河の言葉を待たずに、ふわりと彼に近付いて、そっと夫の唇に指を置いた。控え目な彼女らしくない大胆な行動に、驚いた彼の動きが一瞬静止する。

「夫婦の契りなら……今、行えばいいじゃないですか」

「君のその霊力では耐え――……っつ……!?」

 突如、春菜から無数の黒い影が出る。それらは腕の形に変容して、瞬く間に光河の両手足を捕らえ体勢を崩して床に押し付けた。

「ぐっ……」

 瞬時に白龍の全ての動きが封じられ、残りの影の手が彼の首に伸びていく。しっかりと両手で掴むと、じわじわと締め上げていった。

 光河はもがき苦しむ。抵抗したいが、手足を押さえられているので頭を左右に振ることしかできなかった。神力しんりょくで振り払おうとしても、全て肌に触れた影の中に吸い込まれてしまう。

「浮気者には、お仕置きしなきゃね?」

 春菜の冷ややかな笑顔が、彼の上に落ちた。綺麗な顔なのに腐った肉の塊のように見えてしまい、おぞましくて身の毛がよだった。

 光河の呼吸が限界を迎える前に、春菜は黒い影の手を離した。
 彼は多くの空気を取り込もうと、何度も大きく呼吸した。だが、胸に何かがつっかえていて上手く息ができない。

「あぁ、良かった。効いているみたいね」

 春菜はニタリと口の端を歪ませた。

「私に、何をした……?」

 体内の細胞が、異物を追い出そうと暴れているのが分かる。
 それは――じゃだ。

 春菜は掌から黒い煙を燻らせて、

「あなたの身体にこれ・・を潜り込ませただけですわ。食物や飲水のみみずと一緒に混ぜて、少しずつね。
 いくら神様とはいえ、肉体の中は無防備ですものね」

 心底気持ち悪いと、光河は粟立った。
 眼前の花嫁は、もう気色の悪い肉の塊にしか見えない。

 この女は、もはや心を持った人間ではなかった。邪に支配された別のなにかだ。

「じゃあ、仕上げに……夫婦の契りをしないと……。
 ――ねぇ、旦那様・・・?」


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全16話+後日談5話⭐︎ 王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。 ……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。 追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。 無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」 騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ!

編み物好き地味令嬢はお荷物として幼女化されましたが、えっ?これ魔法陣なんですか?

灯息めてら
恋愛
編み物しか芸がないと言われた地味令嬢ニニィアネは、家族から冷遇された挙句、幼女化されて魔族の公爵に売り飛ばされてしまう。 しかし、彼女の編み物が複雑な魔法陣だと発見した公爵によって、ニニィアネの生活は一変する。しかもなんだか……溺愛されてる!?

婚約破棄された幼い公爵令嬢、目覚めたら絶世の美女でした

鍛高譚
恋愛
『幼すぎる』と婚約破棄された公爵令嬢ですが、意識不明から目覚めたら絶世の美女になっていました 幼すぎる、頼りない――そんな理由で婚約者に見限られた公爵令嬢シルフィーネ。 心ない言葉に傷ついた彼女は、事故に遭い意識不明となってしまう。 しかし一年後、彼女は奇跡的に目を覚ます。 そして目覚めた彼女は――かつての面影を残しつつも、見る者すべてを惹きつける絶世の美女へと変貌を遂げていた! 周囲の反応は一変。婚約破棄を後悔する元婚約者、熱視線を送る他家の令息たち、さらには王太子からの突然の縁談まで舞い込み――? 「もう、誰にも傷つけられたくない。私は私の幸せを手に入れるの」 これは、冷たく突き放された少女が美しく咲き誇り、誇りと自由を手に入れる、ざまぁ&逆転恋愛劇。

離婚寸前で人生をやり直したら、冷徹だったはずの夫が私を溺愛し始めています

腐ったバナナ
恋愛
侯爵夫人セシルは、冷徹な夫アークライトとの愛のない契約結婚に疲れ果て、離婚を決意した矢先に孤独な死を迎えた。 「もしやり直せるなら、二度と愛のない人生は選ばない」 そう願って目覚めると、そこは結婚直前の18歳の自分だった! 今世こそ平穏な人生を歩もうとするセシルだったが、なぜか夫の「感情の色」が見えるようになった。 冷徹だと思っていた夫の無表情の下に、深い孤独と不器用で一途な愛が隠されていたことを知る。 彼の愛をすべて誤解していたと気づいたセシルは、今度こそ彼の愛を掴むと決意。積極的に寄り添い、感情をぶつけると――

婚約破棄されるはずでしたが、王太子の目の前で皇帝に攫われました』

鷹 綾
恋愛
舞踏会で王太子から婚約破棄を告げられそうになった瞬間―― 目の前に現れたのは、馬に乗った仮面の皇帝だった。 そのまま攫われた公爵令嬢ビアンキーナは、誘拐されたはずなのに超VIP待遇。 一方、助けようともしなかった王太子は「無能」と嘲笑され、静かに失墜していく。 選ばれる側から、選ぶ側へ。 これは、誰も断罪せず、すべてを終わらせた令嬢の物語。 --

余命僅かな大富豪を看取って、円満に未亡人になるはずでした

ぜんだ 夕里
恋愛
傾きかけた家を救うため、私が結んだのはあまりにも不謹慎な契約――余命いくばくもない大富豪の辺境伯様と結婚し、彼の最期を穏やかに看取ることで莫大な遺産を相続する、というものだった。 しかし、人の死を利用して富を得るなど不正義! そう考えた私が立てたのは、前代未聞の計画。 「そうだ、遺産が残らないくらい贅沢の限りを尽くしてもらえば、すべて丸く収まるじゃない!」

【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。

猫屋敷むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で―― 私の願いは一瞬にして踏みにじられました。 母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、 婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。 「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」 まさか――あの優しい彼が? そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。 子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。 でも、私には、味方など誰もいませんでした。 ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。 白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。 「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」 やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。 それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、 冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。 没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。 これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。 ※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ ※わんこが繋ぐ恋物語です ※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

処理中です...