サイゴノセカイ  ~異世界かと思ったら冥界でした~

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第5話 「エンジェラバース、それは過去を未来へ繋ぐ『世界』」

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「……ムイさんが、死んだ?」

 全身が、強ばる。息が、乱れる。なんで、どうして、頭のなかが……ぐちゃぐちゃになる。
 ちょっとお茶目だけど、自分に何もかもを教えてくれた人。命を救ってくれた恩人。そんな彼女を……僕が、僕のエゴが、殺してしまった。

「あ、あ……」

 どす黒く、冷ややかな何かが僕を染め上げていく感覚。どれだけ踠こうと、手を上に伸ばそうと、無数の手に沈められていく感覚。息が苦しい。頭が痛い。

「うぅ……」

 僕には、涙を流す資格さえない。僕が、もしも僕が前のめりにならなければ、彼女は……彼女はもっと……


『ストーーーップ!!!』


   サイゴノセカイ
      ~異世界かと思ったら冥界でした~


「……へ?」

 ……不意に、あの自動販売機から耳馴染みのある声が聞こえた。程なくして、そこから青い粒子が噴き出すと、それはあの時のムイさん、僕と初めて出会った、あの半透明なムイさんの姿を構築していった。

『彼は新参なんだから変な勘違いしちゃうでしょ!』
「はぁ? アンタ新参をこんな激戦区に……あぁ、うん。想定外の事態って事ね」
『本当に察しが良すぎますわよマヨイちゃん様』

 二人がガールズトークに華を咲かせる横で、自分の感情は行き場を見失っていた。

「あの、ムイさん……ですよね?」
「ん? そだよームイちゃんだよーうりゃうりゃ」

 と言いながら彼女は僕のほっぺをつつこうとした。だが、触られた感覚は一切ない。彼女の手が僕をすり抜けているのだ。

「……と言っても、今はこの通り。実戦用インスタンスが接続不可能になっちゃったからホログラム形態のムイちゃんってワケ。うりゃりゃ」

 インスタンス? なんだっけ、どこかで聞いたような……。

「アンタさぁ、もう少し空気っての読めない?」

 僕を助けてくれた彼女――マヨイさん、と言っただろうか?――は、そんなムイさんの様子を見て辟易した様子を見せる。

「ま、来てくれて助かったよマヨちゃん。フレア焚いても来てくれるか心配だったのよね、過疎区域だったし」
「丁度近くに居ただけ。報酬、期待してるよ」

 へいへーいと彼女は言いながら、僕の目の前ですとんっと座り込んだ。

「おつかれさま」

 そういうとムイさんは柔和な笑みを浮かべた。僕はその笑顔に妙なひっかかりを覚えた。その笑みの裏には確かにあった。

「だーかーらー、空気を読めっての! コイツかなりムチャしてたんだんだぞ?」

 微かな恐怖、そして安堵。

「んべー」

 隠された感情からわかる、その大いなる覚悟と多大なる責任。そして、そこまでして己を殺し、人を安心させる事に徹する。そしてどこか――――こう、なぜか身に覚えがある。

「後でほっぺ磨いて待ってろ、ビンタしに行ってやる」

 マヨイさんがムイさんを睨み付ける横で、僕はムイさんに向けてこう語りかけていた。

「……大丈夫ですよ、ムイさん。僕は、貴女の事を、嫌ったりなんてしませんから」

 できる限りの笑顔で。でも、その言葉の意味は自分でもわからない。咄嗟に出た言葉だった。

「はぁー……お人好しにも程があるっつーの」

 とマヨイさんは呟いた。一方、ムイさんは一瞬だけ、ハッキリと目を見開くと、どこか恥ずかしげに目を泳がせた。

「……ん、とにかく、さっき近くのフォンタ……噴水にゲート開通の処理を送ったよ。そろそろ救護部隊が駆け付けると思う」

 彼女はそう告げると、ふっと青い粒子となって消えてしまった。

「ったく……とりあえず、あんたはここから動かないこと。また下手に動いて消えかけられても困る」
「あ、はい……えっと、ありがとうございます」
「ん? あぁ気にしないで。巡り巡って己が為って奴よ」
「……情けは人の為ならず?」
「そう、それそれ」
「後半部分だけ覚える人初めて見ました」
「ま、私は利己主義だから。んで、あんた。名前は?」
「クロ、です」

 そこからは、救護部隊が到着するまでマヨイさんとはしがない話をした。

「つまり……ほぼあんた一人でティア7のボス級オーマを制圧したって事? はぁーっ……よーやるわ」
「いや、僕一人じゃないですよ……」
「んなこたない、私は落ちてたゴミをゴミ箱に捨てただけ。下処理の殆どをクロがやったのは事実でしょ」

 ぶっきらぼうな人かと思ったけど、何かと気遣ってくれる優しい人だった。

 なんだかんだ文句を言いながら、彼女は僕が担架に乗せられ運ばれるまでずっと話に付き合ってくれた。僕はその優しさに包まれるようにして、一度瞼を閉じた。


   * * *


「エンジェラバース、それは過去を未来へ繋ぐ『世界』」
TRE-MK1 ―― 三人称視点記録用ドローン
待機中、現在データは記録されておりません。
コロヤ ムイの図書館

 音も立てず回り続けるシーリングファン。小綺麗な部屋に似つかわしくない、乱雑に積まれた本の中、響くは彼女が物を書く音のみ。
 ムイは、クロが医療措置を受けている間、今のラスールに起きている事を整理していた。

「おいーっす」

 と、勝手知ったる他人の家の様に、マヨイはノックもせずに扉を開けた。彼女の目の前には整理なぞ一切なされていない本の塔ばかりがそびえたっており、ムイはその中にまるで隠れるようにして、今日の記録をしたためていた。

「……少しは休みな、ムイ」
「ダメ。事態は一刻を争う状況へと移り変わりつつある。今は一秒でも惜しいの」
「さいですか」

 と、ため息をつきながらマヨイは辛うじてスペースが確保されていたソファへと腰を落ち着ける。

「……まあ、あんたが不意を突かれたって時点で相当なのはわかる」
「あの2個体は明らかな新種。しかも、リキッドを採取する為じゃない。採取を邪魔する人間を殺すためのオーマ。……明らかな人工オーマね」

 マヨイは複雑な面持ちを浮かべ、頭をかきながら、こう続けた。

「出所はアンダーバースの無法地帯産ってとこ?」
「あるいはより質の悪い何か。そういうのがついにライバースへ干渉しようとしてきている……つまりは、より最悪かも」

 はぁ、とマヨイは大きな溜め息を吐いた。また面倒が増えるのか、と言いたげに。

「んで、どうせ書きながら聞いて話すくらいはできるんでしょ? だったら新参について色々と聞きたいことがあるんだけど」
「クロの事?」
「そう」
「……あまり人の事を詮索するのはどうかと思うんだけど」
「いや、あいつリキッドが完全に切れた状態で戦ってた」

 それを聞くなり、ムイもまた溜め息をついた。本来なら「手が止まる」と表現するべきなのだろうが彼女にとってそれは当てはまらない。

「……なるほどね、彼がどうしてここに来ちゃったかなんとなく察しがついた」
「過労死、ってとこ?」
「そう、それに……」
「それに?」
「彼は洞察力に優れてる。私でさえ気付かなかった感情の些細な変化にも気付いた」

「ベタ褒めなんて珍しい」
「……それから、おそらく私の『役割』も見抜かれた。初めてだよこんなの」
「いつも見抜く側だもんなー」

 マヨイは腕を組むと、壁に背をつけながらそう言った。

「つまり、クロは察しが良すぎると」
「そう、そして優しすぎる。自分の事なんか鑑みず他人を気にかける。無知な状態でも全力を振り絞って行動を起こす」
「あー……不慮の事態はクロがテレポハックでもやらかしたってとこね。でもなんでそんなこと」

「親の事が心配だったんだって」

 マヨイは思わず、おお、と声を漏らす。

「ここに来てまだ一週間も過ぎてないのに、もうそこまで理解してるんだ」
「そうね。そして、見ての通り彼は限界を超えることを厭わないし、……あるいは」
「自分の限界を正しく知らない、ってとこね」
「そ、私みたいにね」

 と、ムイは嘲る。マヨイはやれやれまたか、とため息をつくも、ムイはそれに被せるようにこう続ける。

「こう、自分の事を鏡で見させられてるみたい。どうすれば彼を理解できるか、私にもわからない。でも彼は……おそらく、私が『人間じゃない』事に、自力で気付きつつある……」

 ムイは、右手を器用に走らせながらも、左手でティーカップを口元に近付け、ゆっくりと口に運ぶ。華やぐ香りを鼻に運びながら一息つけて、こう呟いた。

「でも、理解されるっていうのはこうも、居心地が悪く……心地が良いものなのね」

 自然と笑顔が綻ぶムイ。それを見たマヨイは硬い表情を少し崩し、あの日から随分と変わった友人に言葉を贈った。

「……アンタも既に立派な『人間』だよ」
「……ありがとう。でも、ガワだけ似せても私の根本は違う、どこまでいっても擬似の人格」

 と言いきったところで、彼女はようやく「手を止めた」。その手で顔を覆い、溢すように呟く。

「……いや、擬似人格だからこそ安心できたの。でもこの世界は、偽物を本物へと変えてしまう。変わっていくの。自然かつ、不自然に。本来変わるべきじゃない物が変わっていく」
「意外、あんたに恐怖なんてあったんだ」

 マヨイはそれをスカしたように笑った。

「未知は誰だって怖いものよ、私がばぶばぶだった頃だってそうだもの」
「それを私に言う? まあ、この『世界』はたしかに未知の塊だけどさ」

 と言いながら、マヨイは懐からタバコの箱を取り出した。

「吸うなら他所で。ってかマヨちゃんの享年、多分未成年でしょ」
「タバコは二十歳になってから、ねー。何も死後の世界でまで生前の文化に囚われなくともって私は思うけど」

 マヨイはそのタバコの箱から棒状の砂糖菓子を一本引っ張り出して、それをムイへと向けた。

「シュガレット。タバコを模した砂糖菓子だよ。あんたのお母さんから渡すように言われてね」
「リッチェから?」

 ムイはそのシュガレットを引っ張り出して、一口齧った。

「……ふむ、Drink-a-bilityとBENTの中間みたいな物ね。Drink-a-bilityみたいなパッシブスキルと、BENTみたいなアクティブスキルの両方を付加してくれる。それも相当長く。出撃から脱出まで余裕で持つレベルね」
「ま、この先を考えてるのはあんただけじゃないってこと」

 そういうとマヨイはその小箱を置いて席を立った。

「私もそう、リチェーネもそう。ヴェズだって皆考えてる。だからいくら得意とはいえ一人で処理するのは愚策。分散していかなくちゃ」
「……んー」
「あっ聞いてないなこれ」

 そう察したマヨイが部屋から出ようとした時、ムイはそれを不意に呼び止めた。

「もっとデータが欲しい、より洗練させて実戦に出せれば、きっと皆が助かるはず」

 それを聞くと、マヨイはニカッと笑ってこう答えた。

「もちろん、データなら私たちがたらふく食わせてあげる。このいやしんぼうさん」

 直後、扉が閉まる音と共に、部屋にはムイ独りが残された。右手に残された食いかけのシュガレットを口に放り込むと、彼女はポツリと呟いた。

「もっと、学習していかなくちゃね……人間の事も、この世界の事も」


   * * *


咲間 黒 ――『クロ』
コロヤ所属 エクスプローラー
コロヤギルド 医療施設総合フロア


「……」

 目が覚めたとき、目の前には見覚えのある天井が広がっていた。この部屋は僕がムイさんに初期設定をして貰った場所……のはずである。つまりは、多分医務室。

「よっ」

 と、横から背の小さい女の子が、布団に手をつけながら乗り出すように顔を覗かせた。

「えっと……マヨイさん?」
「正解。いいですか、落ち着いて聞いてくださいね。君が眠りについてから、二日経過しました」

「……?」

「気にしないで、私が言いたかっただけ」

 というと、彼女は布団から飛び降りるように離れた。僕は少し気だるさが残る体を起こして、体の節々を伸ばした。そこから鳴る、ぱきぽきという音が彼女が言った時間の経過を如実に表していた。

「んで、どうだった?」
「えっと、何がですか?」
「何がって……そりゃ初陣に初戦の話よ」

 初戦の事を「ういいくさ」と読む人を初めて見た。彼女は急須でお茶を二杯いれると、片方を僕のところへと持ってきてくれた。彼女は隣に椅子を持ってきて座りながらお茶をすする。

「……こういうのも、何ですけど」
「まあ、人には得意不得意ってのもあるからね。そんなに気負うことはないよ」

「すごく、楽しかったです」
 ぶーっ! と吹き出されたお茶が霧となって舞い散る。

「はぁ!? あんた死にかけたんだよ!? 本気で言ってんの!? もしかしてリキッド枯渇の後遺症……?」

 マヨイさんものすごいグイグイ来る。ベッドに乗り上げておでこぺたぺた触られてる。圧が怖い。と、その時。部屋の引き戸が開いた。

「なぁ、マヨイ。毎度の事だが患者にちょっかい出すのは止めてくれないか」

 長身でスレンダーな、白衣を着て、髪を輪ゴムでポニーテールの様にまとめた女性。気だるげに頭をかきながら、これまた気だるげに言葉を投げ掛けた。

「……ごめん、リチェ」
「ま、今回に関しちゃ言いたいことはごもっともだがな」

 と、そのリチェと呼ばれた人はマヨイが座ってた椅子を片手で乱暴に引っ張ると、ガサツに座った。

「一つ聞く。君にとって『その楽しさ』は激痛に見合う程のものだったのか」

 気だるげに発せられたその言葉には半ば呆れと、諦めが混じっていた。

「えっと、喉元過ぎれば、って奴でしょうか……」
「ふーん……」

 それを聞くと、彼女は白衣の右ポケットから箱を取り出した。

「君みたいな人間は良く看るから、これ以上何を言っても無駄なのはわかった。対処療法だが、これを処方しておく」
「これは?」

 煙草箱のような大きさのパッケージの中には、棒状の砂糖菓子が詰められていた。

Claciggaクラシーガ、特定の行動を取ったときのリキッド消費量をかなり軽減してくれる。まだ治験段階でデータが必要だがね」

「……動くだけでもリキッドを使うんですか?」
「身体のエネルギーその物だからね。つか壁走りなんてムチャしたら尚更」
「えっと、良くご存知で……」
「降下後に1本接種するように」

 そういうと彼女は椅子から立ち上がり乱暴に椅子を片付けると戸を開けた。

「もう動けるなら勝手に退院していいから。じゃ、私はこれで」

 そういうと彼女は戸を開けたままその場を後にした。

「……あんまり悪く思わないでやってね、リチェーネは愛想悪いけど腕は確かだから」

 そう言うと、マヨイは戸をゆっくりと閉めた。

「あ、もしかしてすぐ出るつもりだった?」
「いえ……」
「……なんか消化不良って顔してるけど」

 そう言うと彼女はローラー椅子を持ってきて高さを思いっきり上げると飛び登るようにして椅子に座った。

「ムイさんが……この事を気に病んでないか。それだけが心配で」

 すると、マヨイさんは目を見開くと、退屈そうにとびきり長い溜め息を吐いた。

「本当に呆れた」
「えっ」
「君は自分の事より人の事を優先しすぎている。その結果、守りたい人に迷惑をかけている」

 スッパリ。竹を割るかの如く、的の中心を貫くが如く。

「私の言ってる事に心当たりは? 無いとは言わせないよ」
「……」

 俯かざるを得なかった。この無言は、一言一句間違いなくマヨイさんの言葉に肯定するという事を示すに他ならない。

「んで、それはそれとして。私が知りたいのはどうしてアンタがそう考えるようになったのか」
「……はい?」
「生憎、私も利己主義でね。前に言ったっけ?」

 それは……マヨイさんなりのフォロー……なのだろうか?

「私は記憶が飛んでんの。ここに来る前の事ほぼ全部。だから他人の考えをなぞって、どうにかして私の事を逆説的に知っていきたいワケ」
「その、随分な事をさらっと言いますね。記憶喪失、ですか……」

「そ、死因も享年も何もかも。残っていたのは名前だけ」

 マヨイさんはそんな事を当然が如く言ってのけた。その気丈な振る舞いの裏に、どれ程の苦しみを隠しているか。否が応にでも想像がついた。

 僕は、今一度頭を枕につけると、目を閉じて深呼吸した。正直、自分でも思い出したくはない記憶。心構えを行わないと、今でも精神を持っていかれそうになる。

「僕は、一度事故に遭ってるんです」
「……事故?」
「ええ、小学一年の頃に――――」


 ――――夏休みの事だった。そのバイクは、僕を「千切る」ように横切った。


 断片的な記憶、それでも人を変わらせるのには有り余るほどの衝撃。

 僕はあの日、暴走したバイクに下半身を潰された。正面から追突し、地面とタイヤに巻き込まれ、股関節から左脇腹を通るように轢かれた。
 後から聞いた話だと、そのバイクは警察から逃げていた傷害犯が盗んで使っていたものだったらしい。まあ、そこはどうでもいいか。

 救急車、病院、そして手術室。朦朧とする意識、そして視界の中にはいつも赤い液体に満ちた、血液パックがあった。

 手術が終わり、ベッドの上で目を覚ました時、僕は、色んな人から命を分けてもらった事を自覚した。
 そしてその日から、救ってもらった命に、恥じないような生き方をする事を決めた。

「――――と、いう事でして」

 と、僕達をしばしの静寂が包み込んだ。

「……えっと、聞いといて何だけど、思ったより壮絶で罪悪感が」
「あ、いえ、別に僕は大丈夫で……」

  やっぱりだ、一度に話しすぎた。えっと、何か別の話題をしなければ。別の話題、別の話題……

「えっとですね、その、僕がこんなちまっこい体なのもその事件が由来でして」
「どゆこと?」

 あ、詰んだわ。終わった。異性相手に振る話題じゃないよこんなの。あぁもう、どうにでもなれ……。

「…………その、僕の、その……た、タマタマ……がその事故で無くなってしまいまして……」


「えっ! キンタマ無いんだ!」
「ド直球!」


   * * *


「まーなるほどね。理解はできた。てか君、二十歳だって聞いたけどまさか本当だとは」
「ええ、恥ずかしながら……」
「つまり10年位は生きてたってことだよね? 何の不自由もなく」
「そ、そうですね?」

「左足、完治したんだ」
「……それも、僕が生き方を決めた一つの理由ですね」

 と、言いながら僕は自分の左足を擦った。右足となんら変わり無く、かつて大ケガを負ったとは思えないほど歩き、走り、飛び回れる。

「僕を手術してくれた人は、偶然その病院に居合わせたスゴい人だったらしくて。僕が起きた頃にはもう既に別の病院へお呼ばれしてしまったらしく、お礼も言えないまま」
「へー……そりゃ残念」
「……そのまま、テロに巻き込まれて亡くなられたと」

「えぇー……いや、その、えぇ……」

 そう言うと、マヨイさんは大きく息を吐き、んぐぐ、と言いながら体を伸ばした。

「……うん、まあ、私の事には全く繋がらなかったけど、君がそこまでする理由はわかった」
「えっ?」
「悪いけどちょっとムイから話を聞かせてもらったよ。親の世界を守りたいんでしょ?」

 ハッとした。そうだ、僕にはまだやるべき事が――――

「一人で抱え込むんじゃないよ」

 飛び起きた所を、マヨイさんに肩を掴まれて諌められる。

「例えばそうだねぇ……今、君の目の前にはとても経験豊富な先輩ちゃんがいる。そう! 私やムイを雇えば、確実に事を運べる。そうは思わないかね」

 と、怪しげな笑みを見せるマヨイさんに、こりゃまた不器用な人だ、と思いながら。

「……ありがとうございます」

 と、それだけ。
 ただ一言だけ、そう答えたのであった。
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