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ようこそゴールデンジムへ(2)

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僕の加入したパーティー"ゴールデンジム"
男でも惚れるような筋肉を持つナオトさん率いる大規模パーティーである。
パーティーメンバーは50人くらいで、今のところ僕以外はムキムキの人しかいない。
冒険者と言えばモンスターを倒して稼いだお金で酒を飲んでいるイメージだがこのパーティーは違う。
パーティーが所有する宿屋一回に設置されたトレーニングスペースでひたすらに筋トレをしている。
なんなら酒を飲んでいるところを見たことがない。
別に飲んではいけない決まりはないようだが、筋肉と向き合った結果酒を飲むと言う発想自体が生まれないらしい。
このギルドはモンスターよりも自分の筋肉と対峙しているのだ。
実際、クエストに出かけているところをまだ見ていないし、基本ブーメランパンツのみで生活しているメンバー達の体に傷が一つとしてないのだ。
ここのパーティーはどうやって生活をしているのだろうか…

こう言う変わったところから誰でも加入できるパーティーでありながら入ってもすぐ辞めていく人が多いようだ。
行くあてのなかった僕は最後の望みをかけて加入したわけだが今のところ満足している。
宿屋の布団はまるで雲の上にいるかのような柔らかさで全ての疲れが一眠りするだけで吹っ飛んでしまう。
食事はいつでも食べられる上に美味しい。
ここにきて初めて飲んだナオトさんお手製のプロテインというドリンクは不思議な味がするがみんなが飲むので僕も飲むようになった。
とにかくここには安定した生活があるのだ。

筋肉が足りないため見習いとして加入した僕は今、バディとして教育してくれるフキンさんとトレーニングをしている。
「まだまだいけるよー!ほら、あと5回!5…4…3…」
笑顔で僕を追い込む。
フキンさんはとにかく腹筋がすごく、浮かび上がるシックスパックはナオトさんと比肩するほどだ。
そのため今している腹筋のトレーニングは他のものより特に力が入る。
冒険者になるためにトレーニングをして来たつもりだったけどここのトレーニングは生半可ではない。
姿勢を崩すと笑顔でカウントを止められる、決めた数をこなせないと絶妙な力加減で補助をして全てを出し切るまで追い込んで来る
でも、必要以上にするのはオーバーワークになるんだとかで決められた量さえこなせばそれでOKなのだ。
トレーニングはきついが、魔物と戦うことを思えばこんなもの屁でもない。
本当を言えばかっこよく剣で魔物を倒したいけど、今はそうも言っていられないのでここに甘んじている。
「…2…1…ラストォ!よく頑張ったな!筋肉も喜んでいるぞ!」
「はぁはぁ…はい、そうですね!」
自分もここに少しだか染まって来たらしい
「マルス、お前はよく頑張るな!このパーティーには誰でも入れるからよく人が来るんだが2、3日で辞めて行ってしまうんだ。こんなことするために冒険者になったんじゃないってな。だが続けているお前は偉いぞ!この調子で明日も頑張ろう!おっといけない、ゴールデンタイムを逃してしまう急いで食堂に行かねば」
フキンさんは僕の手を取り立ち上がらせて食堂へと連れて行く。
とりあえず入口にあるプロテインを取り喉に流し込む。
ここの食堂はいつでも食べ放題だ。
バイキング形式で様々な体を作るご飯が置いてある。
フキンさんは蒸した鶏肉とゆで卵、おにぎりを、僕もナッツを固めたバーとゆで卵を取り机に座った。
このパーティーの人たちは筋トレ後の30分をゴールデンタイムとして一番大事にしている。
筋肉を作るのに一番大事な時間なのだとか。
この時間に食事をするために食堂は常に開放されいつでもご飯が食べられるのだ。
「ほんとこのパーティーって凄いですよね、僕まだ何もしてないのにこんな至れり尽くせりでいいんでしょうか?」
「まあまあ、これから筋肉をつけてパーティーに貢献してくれたらいいんだから気にしなくていいんだよ。それに筋肉は1日にしてならず、毎日向き合った積み重ねでこの体ができているんだ!」
そう言うとフキンさんは力コブを作った。
自分の腕の3倍くらい太いその腕は僕との圧倒的な力の差を感じさせた。
「そういえば、フキンさんのジョブはなんなんですか?」
フキンさんはキョトンとした顔で僕を見つめてしばらく考え込んだ
「ジョブか…ジョブねぇ…そういえばこのパーティーに入ってからそんなものは関係なくなってしまったなぁ…強いて言えば"筋肉"かなぁ?」
ジョブが関係ないとはどう言うことだろう?前衛職がいて後衛職、ヒーラーがいてそう言う役割あってのパーティーじゃないのか…?
そもそもジョブ筋肉って何?
そりゃみんな筋トレばかりしてるけどこれはクエストじゃないよね…?
「クエストとかはされてるんですよね?」
「そりゃもちろん、俺たちは冒険者なんだから。それにクエストしなきゃ飯だって食えないだろう?」
うん、当たり前のことだ。
冒険者なんだからクエストはするし、お金がなきゃここの生活は維持できない。
うん、当たり前のことだ。
何も変なことは言ってないのだが、
「でも皆さんほとんどトレーニングをして宿にいますよね?」
「まあ、確かにそうだね。でもちゃんとクエストもしてるし、月に一回行われる筋肉夜行で一気に稼いでいるところもあるね。」
「筋肉夜行?」
「ああ、筋肉夜行って言うのはパーティー全員で夜に魔物を狩に行くイベントのことだよ。メンバー全員が集まってぞろぞろと借りに行くから筋肉夜行って名前になったんだ。見習いのうちは参加できないけど正式にメンバーになったらマルスも参加することになると思うよ。」
なるほどそんなイベントがあったのか。夜は強力な魔物が出やすい。だからそこでパーティー全員で討伐して一気にお金を稼ぐと言うわけだったのか。

食事を終え、部屋に戻る。
今日もトレーニング頑張った。
疲れた体を癒すため布団に倒れ込んで眠りについた。
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