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恐怖の炎とムスペルの騎士
すれ違う思い
しおりを挟む「カズちゃんには分からないよ!!戦場に出てないから…………分かりっこない!!」
感情的に声を張り上げて絵美はそう言うと、その場から離れて行く。
一真は自分を呼び捨てにした………「ミーちゃん」って呼ぶ事を、必死過ぎて忘れたのだろう………自分の双子の姉、智美がいなくなった時は、あんなにも冷静だったのに………
腹立たしさと、苛立ちと、悲しみと………
言いようのない感情が溢れ、その歩幅を大きく、地面を蹴る力も自然と強くなっていた。
「一真さん!!水、持って来ました!!」
そんな絵美と入れ代わるように、ティアが茶色の綺麗な髪を灰で白く染めながら、その髪を振り乱して走ってきた。
額には大量の汗をかき、手には水の入った重そうな桶を持っている。
必死に走るティアとすれ違いながら、絵美はどうしようもないぐらい心が痛んだ。
それでも………………………………それでも、シェルクードを………………一真を許す事は出来ない。
俯きながらその場を離れる絵美の横を、エリサが心配しながら通り過ぎるが、今は何も言ってあげられなかった……………
今にも死んでしまいそうな人がいる……………医療隊のメンバーとして、命を優先しなければいけなかった。
一真の緊張感に包まれた顔を横目に、エリサは自分に出来る事を探す。
そんなエリサを見る余裕も無く、しかし息遣いでエリサが到着した事を悟った一真は、頼もしい援軍に安堵した。
「よし!エリサさんは水の増量と殺菌を!!ティアさんは患者に水をかけて!」
一真は的確に2人に指示を出し、ティアとエリサは忠実に指示を実行していく。
魔法ではない医療技術と知識、更には回復魔法についても貪欲に調べ、それらを融合し駆使して人を救う事に必死な一真に、2人は信頼を寄せていた。
一真の指示に従って治療すれば、回復魔法だけの治療よりも生存率が格段に上がる…………その期待通り、シェルクードの呼吸も落ち着いてきた。
「後は戻ってから処置しよう。少し落ち着いたみたいだしね」
ティアは持っていたハンカチを水で濡らすと、一真の額から溢れ出す大量の汗と顔中についた灰を、優しく拭き取る。
「ありがとう、ティアさん。でも、ハンカチ汚れちゃうよ」
一真はティアに優しく声をかけると、まだ汚れたその顔を気にする事もなく立ち上がり、ランカストと他のホワイト・ティアラ隊の隊員に声をかけ、男手でシェルクードを馬の引く荷台に寝かせた。
「一真…………お疲れ様。いい処置をしたわね。けど、航太や絵美と溝ができてるように見えるけど………大丈夫なの?」
ホワイト・ティアラ隊の隊長を任されるネイアは、仲間達と溝が深まっていくように見える一真が心配だった。
「はい…………今は仕方ないです。義兄もミーちゃんも、必ず分かってくれる日がくると思うんで………命は、誰のものでも大切って事に………その思いが皆にあれば、戦争なんて無くなるはずなのに………」
最後の言葉は誰にも聞き取れないぐらい小さな声で、呟くように口から零れる。
怪訝そうな顔で覗き込んでくるネイアに一真は軽く微笑むと、「大丈夫」と言わんばかりにシェルクードの乗せた荷台に飛び乗った。
(どんな人でも………ヨトゥンでも、神でも、命は平等だ。でも………僕は選択しなきゃならない………いや………もう覚悟は決めただろ!!でも、その時までは、救える命は助け続けてみせる!!)
一真の強い意思を持った瞳は、遥か地平線の先を捉えていた………
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