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夢
握った手
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あの子が夢から覚めてしばらくの間、夢の世界からあの子の心を通じて外の世界を一緒に眺めていた。
僕たち夢の精、人間たちの言う夢魔は現実世界を見ることはできても干渉することは難しい。
精神世界から人の心を通して現世を知ることはできても、ほとんどなにもすることはできない。
ただひたすら、変化の少ないこの子の日常を眺めていたある日のことだ。
この子は相変わらず一人で遊んでいるけれど、今日はどこかいつもと心境が違うぞ。
夢の中で見つけてから観察し続けていたけれど、ほとんど同じことをしていたこの子がいつもと違うことをする瞬間が見られるかもしれない期待に胸が躍った。
人の変化が、成長する瞬間が好き……なのだと思う。
夢の精は人を通して感情を知り、自分のことのように感じ取るから自分の気持ちが一体何なのかがはっきりしない。
この気持ちはこの子のもので自分のものではない。もしくは周りにいる人間のものであることが多い。
だからきっと、この気持ちもこの子のもので自分のものではないのだろう。
それはさておき、この子の変わらない日常の変化はきっととても興味深いものだ。
生まれてからいろいろな人を通していろいろな世界や人間を見てきた。
この子を通してみた世界の他の子は日々違う遊びをしていて楽しそうだった。
いつも同じことをしないといけないわけではなさそうなのに、この子は頑なに一人遊びを、ほぼ同じ遊びを続けてきていた。楽しそうに。
一人でずっと遊んで一人で同じことばかりをして、気に入ったものがあればそれ以外を使わないところもあった。
とても興味深い子だと思った。
他の誰とも違っていて、他の誰よりも可能性を秘めていて、それなのに閉ざしきっている世界に惹きつけられた。
運動神経がとても良いと言われていて、実際才能に溢れているのに磨かずほったらかしで宝の持ち腐れをしているし、この子自身は知らないようだが、本当にいろいろなことができるのに、なにもしようとしない。なんだかとってももったいなかった。
たとえるなら、閉ざされた宝物庫のような子。
この子に限らず、人には様々な可能性が眠っている。
自分には無理だと思い込んで、自分にはできないと思い込んで、誰もが眠りにつかせている無限の可能性。
この子は世界を閉ざしているからか、眠っている可能性が宝の山のように積みあがっていた。
宝物庫を前にして開けたくなるのが人間の性であれば、夢の精にもそういった感情があるというもの。
これが自身の感情ではない可能性が高いことだってわかっている。他の誰か、この子の周りにいる誰かがそう思っていて、それを拾っているだけなのだろうけれど、どうしても手を出さずには、関心を持たずにはいられなかった。
なぜ? 理由なんてわからない。自分の気持ちがわからない、もしくは存在しないから。もしかすると、この感情の持ち主の気持ちに流されて動いてしまったんだ。
次にまた夢で会えたなら……。
そんなことを考えていると、ついにあの子が動き出した。
遊んでいる集団へと歩いていき、自ら参加したいという意思表示をしてみせたではないか!
きっと、両親が見たらこんなことを言って喜ぶのだろう。
「あの子が自分から遊びに参加しようとするなんて!」
今まさしくそんな心境で見守っているところだった。これはきっと両親の気持ちだろう。
涙ぐましい気持ちを抱きながらそっと見守る。
拒否されないか、いじめられやしないか、様々な心配がわき上がる。
あたたかく迎え入れられ、とても楽しそうにはしゃいでいる君を見て、ほっとする反面、胸の中にもやもやした気持ちが広がってくるのを感じとった。
この気持ちはなんだろう。誰のものだろう?
この子はこんなにも愛らしいのだから、見ている誰かがこんなもやもやした気持ちを抱いていても不思議ではない。
嬉しい反面、むしゃくしゃするような、寂しさを覚えるような、腹が立って仕方ないようなこの気持ちは一体なんだろう。
嫉妬や独占欲だろうか。
僕だけのものだったのに……。
そんな気持ちが浮かんでくるのを振り払い、いつものように見守った。
きっと、この子の周りにいる誰かの感情だ。
そう言い聞かせながら、今度は怪我をしないか心配でたまらなくなってくるのだった。
何度か足元に石があったり、でこぼこしている場所があるのに気づいて冷汗をかいたけれど、どれもいらぬ心配で終わってくれた。
親だったらきっとこんな気持ちになるのだろうな。
夢の精は心が空っぽだからいろいろな人の感情を受け取りやすい。
今までたくさんの夢を見せ、観察し、感情を味わってきたけれど、こんなに複雑な感情を今まで抱いたことはあっただろうか。
葛藤しながら見守り続け、ようやくあの子が夢の世界にやってきた。
ずっと待ってた。
これはあの子の気持ちなのか、僕の気持ちなのか、見守りながらであれば気にしていたこの感情の居場所について気にも留めなかった。
「遊ぼう!」
飼い主を待っていた犬のようにはしゃいで誘ってしまう自分を他人事のように感じていた。
夢の精らしからぬ行動だと、仲間たちが見ていたら笑って茶化してくるだろうなんて頭の隅で考えつつも、この子と一緒に過ごせる時を最高のものにしたいという想いばかりが溢れてくる。
もしかしたら手を取ってくれないかもしれないという不安がよぎったその時、あの子が元気よく手を取ってくれた。手を握ってくれた!
嬉しくて思わず人の姿を崩してはじけ飛んでしまいそうになったけれど、何とか持ちこたえた。
自分の気持ちなのかこの子の気持ちなのか考える余裕なんてなかった。
ただひたすら自分の中に流れ込んでくる感情を噛みしめ、堪能した。
バラの花の香りのように、甘くて頭の芯が痺れてとろけてしまいそうな、そんな甘美なこの気持ち。
どうやらこの子は夢でまた会えたらたくさんお話をしたいと思ってくれていたようだ。
その気持ちだけでもう舞い上がってしまって、この気持ちのまま夢の空を飛んで流れ星になってしまいたいくらいに心も体もふわふわしてきてしまうのだった。
浮かれながらも、この子の気持ちに添えるよう、ゆっくりお話ししながら遊べる遊具をたくさん用意した。
これで思う存分話しながら遊べるね。
キラキラした笑顔で楽しそうにたくさんお話してくれて、春の木漏れ日のような温かい気持ちになることができた。
きっと周りに花が散っているのだろうなんて思えるくらいに。
ふわふわした甘い気持ちでお話を聞いていると、不意にこの子が顔色をうかがうような上目遣いでこちらを見つめながら問いかけるのだ。
「……好きなものはなに?」
ノータイムで君が浮かんだけれど、答えることはできなかった。
僕は夢の精、夢魔だ。これが僕の気持ちなわけが……。
否定しきれなかった。好きだ。大好きだ、愛してる。
自覚してしまった、認知してしまった自分の想いが雪崩のように胸を締め付け押しつぶしてくるように感じられた。
でも僕は夢の精。この気持ちが成就することなんてきっとない。
愛してる、愛してる。
気持ちに素直に従って君を手に入れればきっと孤独にさせてしまう。
本当に好きなら、愛しているならば、この気持ちをしまいこまなければならないだろう。
「……わからない」
抱きしめたいくらい大好きだけれど、君はまだ幼いし、この複雑な気持ちを素直に伝えてもきっとわかってはもらえないだろう。
愛してる、愛してる。
伝えられなかった気持ちが心の中で膨らんできてぐるぐるまわって苦しい。苦しいよ……。
人間たちの感情を感じ取って生きている僕たちにとって、自分の感情というイレギュラー、おまけに初恋の、相手のために蓋をした気持ちが毒のように心を蝕んでくるのを感じた。
ああ、僕にも心はあったんだな。
ふとそんなことを思いながら、悶え苦しみ、しかしこの子に気づかれないように気を張った。
僕は夢の精だ。感情なんてないんだから。
そう言い聞かせながら、強がりながら、自分の気持ちに蓋をして、気が付かないふりをして、丁寧に、大切にそっとしまいこんでいく。
先ほどまでふわふわとしていた春のあたたかな気持ちが、真冬の静けさと冷たさを思わせるものへと変わっていく。
それでも、この子への気持ちが完全に消えてくれるわけではなかった。
結ばれなくてもいい。
ただあなたの笑顔と幸せだけが僕の願いだ。
そうだ。恋人じゃなくって、親や友人のような立ち位置で見守ればいいんだ。
恋心を親心や友愛にすりかえ、それでも変わらぬまっすぐな愛としてあなたへ捧げる。
ほんのちょっぴり、いや、本当はものすごく心が痛くて苦しくて辛いけれど、これもきっと君のため。
君のはしゃぎ声が、君の楽しそうな笑顔が、君の愛くるしい瞳が、君の無垢で優しくて可愛いなにもかもが、愛おしい。
傍にいられる幸せを、一緒に遊べる幸運を噛みしめていると、楽しくて幸せな時間はあっという間に過ぎ去った。
もう起きてしまうんだ。
忘れないで、夢を愛して、またここに会いに来て。ずっとここにいてほしい。
いろいろな気持ちが胸を駆け巡るけれど、それは僕のわがままだ。
叶わなくていい。縁があったら、気が向いたらここにきてほしい。
気持ちに蓋をしながらあの子を見つめると、少し寂しそうに俯いているではないか。
我慢していたはずなのに、いつの間にかあの子の手を取り握りしめている自分がいた。
「またね」
様々な思いを押し込め、再会を願う言葉をあの子に伝える。
あの子は明るく優しい笑顔で微笑んでくれた。
「またね」
その返事に身悶えしそうなくらい嬉しくて、飛び跳ねてしまいそうになった。
きっとまた夢を見て、ここへ来てくれる。
来てくれなくたっていい。ここからずっと見守ってるから。
本当は来てほしい、ずっとそばにいてほしい。
でもそれはわがままだ。
本当に好きで、大好きで愛しているから、こちらから傍に寄り添って守って支えさせてほしい。
ここからずっと見守っているから。気づかれなくても良い。
君のことが大好きだ。
僕たち夢の精、人間たちの言う夢魔は現実世界を見ることはできても干渉することは難しい。
精神世界から人の心を通して現世を知ることはできても、ほとんどなにもすることはできない。
ただひたすら、変化の少ないこの子の日常を眺めていたある日のことだ。
この子は相変わらず一人で遊んでいるけれど、今日はどこかいつもと心境が違うぞ。
夢の中で見つけてから観察し続けていたけれど、ほとんど同じことをしていたこの子がいつもと違うことをする瞬間が見られるかもしれない期待に胸が躍った。
人の変化が、成長する瞬間が好き……なのだと思う。
夢の精は人を通して感情を知り、自分のことのように感じ取るから自分の気持ちが一体何なのかがはっきりしない。
この気持ちはこの子のもので自分のものではない。もしくは周りにいる人間のものであることが多い。
だからきっと、この気持ちもこの子のもので自分のものではないのだろう。
それはさておき、この子の変わらない日常の変化はきっととても興味深いものだ。
生まれてからいろいろな人を通していろいろな世界や人間を見てきた。
この子を通してみた世界の他の子は日々違う遊びをしていて楽しそうだった。
いつも同じことをしないといけないわけではなさそうなのに、この子は頑なに一人遊びを、ほぼ同じ遊びを続けてきていた。楽しそうに。
一人でずっと遊んで一人で同じことばかりをして、気に入ったものがあればそれ以外を使わないところもあった。
とても興味深い子だと思った。
他の誰とも違っていて、他の誰よりも可能性を秘めていて、それなのに閉ざしきっている世界に惹きつけられた。
運動神経がとても良いと言われていて、実際才能に溢れているのに磨かずほったらかしで宝の持ち腐れをしているし、この子自身は知らないようだが、本当にいろいろなことができるのに、なにもしようとしない。なんだかとってももったいなかった。
たとえるなら、閉ざされた宝物庫のような子。
この子に限らず、人には様々な可能性が眠っている。
自分には無理だと思い込んで、自分にはできないと思い込んで、誰もが眠りにつかせている無限の可能性。
この子は世界を閉ざしているからか、眠っている可能性が宝の山のように積みあがっていた。
宝物庫を前にして開けたくなるのが人間の性であれば、夢の精にもそういった感情があるというもの。
これが自身の感情ではない可能性が高いことだってわかっている。他の誰か、この子の周りにいる誰かがそう思っていて、それを拾っているだけなのだろうけれど、どうしても手を出さずには、関心を持たずにはいられなかった。
なぜ? 理由なんてわからない。自分の気持ちがわからない、もしくは存在しないから。もしかすると、この感情の持ち主の気持ちに流されて動いてしまったんだ。
次にまた夢で会えたなら……。
そんなことを考えていると、ついにあの子が動き出した。
遊んでいる集団へと歩いていき、自ら参加したいという意思表示をしてみせたではないか!
きっと、両親が見たらこんなことを言って喜ぶのだろう。
「あの子が自分から遊びに参加しようとするなんて!」
今まさしくそんな心境で見守っているところだった。これはきっと両親の気持ちだろう。
涙ぐましい気持ちを抱きながらそっと見守る。
拒否されないか、いじめられやしないか、様々な心配がわき上がる。
あたたかく迎え入れられ、とても楽しそうにはしゃいでいる君を見て、ほっとする反面、胸の中にもやもやした気持ちが広がってくるのを感じとった。
この気持ちはなんだろう。誰のものだろう?
この子はこんなにも愛らしいのだから、見ている誰かがこんなもやもやした気持ちを抱いていても不思議ではない。
嬉しい反面、むしゃくしゃするような、寂しさを覚えるような、腹が立って仕方ないようなこの気持ちは一体なんだろう。
嫉妬や独占欲だろうか。
僕だけのものだったのに……。
そんな気持ちが浮かんでくるのを振り払い、いつものように見守った。
きっと、この子の周りにいる誰かの感情だ。
そう言い聞かせながら、今度は怪我をしないか心配でたまらなくなってくるのだった。
何度か足元に石があったり、でこぼこしている場所があるのに気づいて冷汗をかいたけれど、どれもいらぬ心配で終わってくれた。
親だったらきっとこんな気持ちになるのだろうな。
夢の精は心が空っぽだからいろいろな人の感情を受け取りやすい。
今までたくさんの夢を見せ、観察し、感情を味わってきたけれど、こんなに複雑な感情を今まで抱いたことはあっただろうか。
葛藤しながら見守り続け、ようやくあの子が夢の世界にやってきた。
ずっと待ってた。
これはあの子の気持ちなのか、僕の気持ちなのか、見守りながらであれば気にしていたこの感情の居場所について気にも留めなかった。
「遊ぼう!」
飼い主を待っていた犬のようにはしゃいで誘ってしまう自分を他人事のように感じていた。
夢の精らしからぬ行動だと、仲間たちが見ていたら笑って茶化してくるだろうなんて頭の隅で考えつつも、この子と一緒に過ごせる時を最高のものにしたいという想いばかりが溢れてくる。
もしかしたら手を取ってくれないかもしれないという不安がよぎったその時、あの子が元気よく手を取ってくれた。手を握ってくれた!
嬉しくて思わず人の姿を崩してはじけ飛んでしまいそうになったけれど、何とか持ちこたえた。
自分の気持ちなのかこの子の気持ちなのか考える余裕なんてなかった。
ただひたすら自分の中に流れ込んでくる感情を噛みしめ、堪能した。
バラの花の香りのように、甘くて頭の芯が痺れてとろけてしまいそうな、そんな甘美なこの気持ち。
どうやらこの子は夢でまた会えたらたくさんお話をしたいと思ってくれていたようだ。
その気持ちだけでもう舞い上がってしまって、この気持ちのまま夢の空を飛んで流れ星になってしまいたいくらいに心も体もふわふわしてきてしまうのだった。
浮かれながらも、この子の気持ちに添えるよう、ゆっくりお話ししながら遊べる遊具をたくさん用意した。
これで思う存分話しながら遊べるね。
キラキラした笑顔で楽しそうにたくさんお話してくれて、春の木漏れ日のような温かい気持ちになることができた。
きっと周りに花が散っているのだろうなんて思えるくらいに。
ふわふわした甘い気持ちでお話を聞いていると、不意にこの子が顔色をうかがうような上目遣いでこちらを見つめながら問いかけるのだ。
「……好きなものはなに?」
ノータイムで君が浮かんだけれど、答えることはできなかった。
僕は夢の精、夢魔だ。これが僕の気持ちなわけが……。
否定しきれなかった。好きだ。大好きだ、愛してる。
自覚してしまった、認知してしまった自分の想いが雪崩のように胸を締め付け押しつぶしてくるように感じられた。
でも僕は夢の精。この気持ちが成就することなんてきっとない。
愛してる、愛してる。
気持ちに素直に従って君を手に入れればきっと孤独にさせてしまう。
本当に好きなら、愛しているならば、この気持ちをしまいこまなければならないだろう。
「……わからない」
抱きしめたいくらい大好きだけれど、君はまだ幼いし、この複雑な気持ちを素直に伝えてもきっとわかってはもらえないだろう。
愛してる、愛してる。
伝えられなかった気持ちが心の中で膨らんできてぐるぐるまわって苦しい。苦しいよ……。
人間たちの感情を感じ取って生きている僕たちにとって、自分の感情というイレギュラー、おまけに初恋の、相手のために蓋をした気持ちが毒のように心を蝕んでくるのを感じた。
ああ、僕にも心はあったんだな。
ふとそんなことを思いながら、悶え苦しみ、しかしこの子に気づかれないように気を張った。
僕は夢の精だ。感情なんてないんだから。
そう言い聞かせながら、強がりながら、自分の気持ちに蓋をして、気が付かないふりをして、丁寧に、大切にそっとしまいこんでいく。
先ほどまでふわふわとしていた春のあたたかな気持ちが、真冬の静けさと冷たさを思わせるものへと変わっていく。
それでも、この子への気持ちが完全に消えてくれるわけではなかった。
結ばれなくてもいい。
ただあなたの笑顔と幸せだけが僕の願いだ。
そうだ。恋人じゃなくって、親や友人のような立ち位置で見守ればいいんだ。
恋心を親心や友愛にすりかえ、それでも変わらぬまっすぐな愛としてあなたへ捧げる。
ほんのちょっぴり、いや、本当はものすごく心が痛くて苦しくて辛いけれど、これもきっと君のため。
君のはしゃぎ声が、君の楽しそうな笑顔が、君の愛くるしい瞳が、君の無垢で優しくて可愛いなにもかもが、愛おしい。
傍にいられる幸せを、一緒に遊べる幸運を噛みしめていると、楽しくて幸せな時間はあっという間に過ぎ去った。
もう起きてしまうんだ。
忘れないで、夢を愛して、またここに会いに来て。ずっとここにいてほしい。
いろいろな気持ちが胸を駆け巡るけれど、それは僕のわがままだ。
叶わなくていい。縁があったら、気が向いたらここにきてほしい。
気持ちに蓋をしながらあの子を見つめると、少し寂しそうに俯いているではないか。
我慢していたはずなのに、いつの間にかあの子の手を取り握りしめている自分がいた。
「またね」
様々な思いを押し込め、再会を願う言葉をあの子に伝える。
あの子は明るく優しい笑顔で微笑んでくれた。
「またね」
その返事に身悶えしそうなくらい嬉しくて、飛び跳ねてしまいそうになった。
きっとまた夢を見て、ここへ来てくれる。
来てくれなくたっていい。ここからずっと見守ってるから。
本当は来てほしい、ずっとそばにいてほしい。
でもそれはわがままだ。
本当に好きで、大好きで愛しているから、こちらから傍に寄り添って守って支えさせてほしい。
ここからずっと見守っているから。気づかれなくても良い。
君のことが大好きだ。
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