嘘をつく唇に優しいキスを

松本ユミ

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恋する胸の痛み

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「桜井、ヘルプに来た」

救世主のごとく現れて、ハンドポンプで風船を膨らませ始めたのは新庄くん。
突然のことに驚いて目を見開いた。

どうして新庄くんが?
自分の担当ブースもあるのに大丈夫なのか聞きたかったけど、新庄くんは子供たちに向かって笑顔で声をかけていた。

「このお姉ちゃん、緊張して失敗しちゃったけどちゃんと作れるから安心しな。一生懸命練習してたし。それにお兄ちゃんも一緒に作るから。んじゃ、青色の服の君はどっちがいい?」

「ボクは犬!」

「了解」

二番目に並んでいた子のリクエストを聞くと、手際よく風船をねじっていく。
そして、あっという間に犬が出来上がった。

「はい、どうぞ」

「ありがとう、お兄ちゃん」

新庄くんから犬を渡された男の子は嬉しそうにお礼を言って、両親の元へと走り出す。

「じゃあ、次の君は?」

「私も犬!」

「オッケー。ほら、桜井もさっさと手を動かせよ」

その言葉にハッとし、再び風船に空気を入れ始めた。

不安そうに見ていた子供たちを安心させるようなことを言ってくれたお陰で、ザワつきもおさまっていた。
チラッと新庄くんを見ると、並んでいる子供たちにと楽しそうに話をしながら犬を作っている。

私は無心で風船をねじり、なんとか犬が完成させた。
後ろに並んでいた子に次々に抜かれてしまったけど、ずっと私のそばで待ってくれていた女の子に手渡す。

「はい、遅くなってごめんね」

「ううん、ありがとう」

笑顔で受け取ってくれた女の子にホッと胸を撫で下ろす。

「お姉ちゃん、がんばってね」

去り際にその子からの励ましの言葉に泣きそうになりながらも「ありがとう」と笑顔で手を振った。

調子を取り戻した私は、完成した風船を並んでいる子供たちに渡していく。
並んでいた最後尾の子に犬を渡すと嬉しそうに親の元へ走り出す。

まだ油断は出来ないが、どうにか山は越えた感じだ。
入場者が増えたら、またバルーンアートの列は増えるだろう。

「取りあえず、落ち着いたな」

「うん、手伝ってくれてありがとう」

「別に礼なんていいよ。ちょうど手が空いてたし。それより久々に桜井がテンパってる姿を見たわ」

フッと意地悪く鼻で笑う。
せっかく素直にお礼を言ったのに、そんな態度をされたら台無しだ。

新庄くんはあっという間にバルーンアートを習得して、悔しいことに私よりも早く作れるようになった。
器用でセンスあるとかホント不公平なんだけど。

「髪、切ったんだな」

不意にそんなことを言われ、ドキッとする。

「あ、うん」

昨日、仕事終わりにいきつけの美容室に行った。
二十二時まで営業していて、仕事をしている人にとってはありがたい美容室だ。

毛先が痛んでいたこともあり、担当美容師と話をしていて思い切ってバッサリ切るのもいいかなと考えた。
ちょうど心機一転したかったので、胸まであったアッシュブラウンの髪の毛をショートボブにした。
髪を切ったからって私を取り巻く状況は変わらないけど、気持ちは髪の毛と一緒で軽くなった気がする。
こんなに短くしたのは子供の頃以来で、鏡に映る自分の姿に違和感があってまだ慣れないけど。
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