退屈だ

でち

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あぁ、退屈だ。

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母の壁を叩く音が体に響く。
まるで水中かのようにか細く、怯えて目を開ける。

目の前の時計が無理やり目の中に入り、今日を教える。

自分を包む優しく暖かい布団から、冷たく、残酷な世界へと1歩を踏み出す。

ドアを開け、階段降り、そこには焼かれたパンがある。
まだここは狭間のようだ。

腹に無理やりパンを押し入れ、重いバッグを、更に重く、硬く、実に脆い肩へ乗っける。

ドアを開けると、不安や、憎悪や、絶望の入り交じった、けれども美しい渦のような、そんな空気が鼻から、口から、あるいは目、爪、足から自分の内へ入り、汚す。いや、馴れさせてくれる。

街ゆく人々は皆、下を向き、小さな世界へと目をくれている。
少し目線を上げればこんなにも美しい世界が広がっているのにな。
思ってもいないことを思う。

自分だけが目線を上にあげ、この世界と向き合っている。
こんなにも勇敢な自分を誰がけなそうか。
誰もできまい。

そして、肩に違和感を覚える。
あぁ、またここに来たのか。

透明な兵士が中世のような武器を上げ、自分を通す。

仕組みもよく分からない乗り物に乗り、何故か上へ上がる。

なまあたたかく、鈍く、むせるような空気を頭からかけ、出る。

そこには、数十、数百の人間?が皆同じ椅子、つくえを使い、指を限界まで動かし、液晶へと写していく。

そこに並ぶ。

すると、王が来て、その姿に見合わないほどの重さを持った白く、薄いものを渡す。

頭を限界までさげ、逆らわず、従順な下僕となり、その白く薄いものに命を注ぐ。

とうに、現世は暗く、昼間なのはこの空間だけではないか、と思ってしまうほどの孤独感に苛まれる。

使命を終え、現世に帰る。

少し綺麗な空気が自分を覆う。

変わらず人々は下を向き、無意味で、無意義で、無駄そのものな、小さな世界を目へ押し込む。
そんなものに目をくれた所で何になる。
何が手に入る。

そんな顔で下を向くな。

上向いて悔しがる自分とは、真反対な人々がいた。

もう社会は、そちらを受け入れるのか。
そちらを勧めるのか。

汗水垂らす訳では無いが、命かけてる自分には見向きもしない。

あぁ、世界はなんとも残酷である。

そしてこの日々はなんとも、退屈である。

いつの間にか足元には足場はなく、澄んだ水が泳いでいる。

これでいい。







また、体に響く。
あの地獄の音が。
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