月明かりの儀式

2章

不穏な兆し

洋館の中は、薄暗く、埃っぽい空気が漂っていた。神藤葉羽（しんどう はね）は、幼馴染の望月彩由美（もちづき あゆみ）と共に、廊下を進んでいた。彼の心臓は高鳴り、好奇心と不安が入り混じった感情が渦巻いている。

「この洋館、本当に怖いね…」彩由美が小声でつぶやく。彼女の声には、微かな震えが混じっていた。葉羽は彼女を見つめ、少し安心させるように微笑んだ。

「大丈夫だよ。何か面白いことが見つかるかもしれないし、一緒に探検しよう。」

葉羽はそう言いながら、前に進んだ。彼らの足音が静寂を破り、廊下の奥からは微かな音が聞こえてくる。何かが動いているのだろうか。心の奥に不安を抱えつつも、葉羽はその音の正体を確かめたくてたまらなかった。

「ねぇ、あの音、何だと思う？」彩由美が不安そうに尋ねる。葉羽は一瞬考え込み、何も答えられなかった。彼自身もその音が気になっていた。

「たぶん、何かのせいだよ。風とか…」彼は言葉を濁らせたが、内心では何か悪い予感がしていた。

廊下を進むにつれて、周囲の壁には古びた肖像画が並んでいる。かつてこの洋館に住んでいた人々の顔が、彼らを見下ろしているようで、葉羽は背筋が寒くなる思いを抱えていた。それでも、彼は一歩一歩進んでいく。彩由美も少しずつ勇気を振り絞っているようだ。

「この洋館には、何か秘密があるに違いないよね。」葉羽はそう言いながら、壁に掛けられた肖像画に目を向ける。その時、彼の視線がある絵に引き寄せられた。描かれているのは、若い女性の肖像だった。彼女の目はどこか悲しげで、まるで何かを訴えているかのように感じられた。

「この人、なんだか不気味だね…」彩由美がそっと呟く。葉羽は頷きながら、その絵に近づく。

「彼女がこの家の人なのかな。なんだか気になるな…」

その瞬間、廊下の奥から再びあの音が聞こえてきた。今度ははっきりとした声に聞こえた。「助けて…」というかすかな声が響いている。葉羽は思わず立ち止まり、彩由美も彼の横で目を丸くしている。

「誰かいるの？」葉羽は声を震わせながら叫んだが、返事はなかった。彼は心の中で葛藤しながら、再び進む決意を固めた。

「行こう、彩由美。何か真実が待っているんだ。」彼は振り返って彼女に言った。彩由美は一瞬躊躇ったが、彼の目を見て頷いた。

二人はさらに奥へ進む。廊下は徐々に狭くなり、暗闇が深まっていく。葉羽は懐中電灯を取り出し、光を照らした。薄明かりの中で、壁の隙間から見える古い書類や、ゴミの山がちらほらと見える。何かが埋まっているような、そんな気配がした。

「ここ、何かがある気がする…」葉羽が呟くと、彩由美がその後ろで小さく「そうだね…」と返す。

葉羽が一枚の書類を拾い上げると、それは古びた日記のページだった。文字は薄れていて読みにくいが、かすかに「月明かりの間」や「儀式」という単語が目に入った。彼はその言葉に興味を引かれ、さらにページをめくった。

「これ、何かの手がかりかも…」彼は彩由美に見せる。彼女はその内容に目を通し、驚いた表情を浮かべた。

「この家には、何か特別な儀式があったのかもしれないね…」

その時、再びあのかすかな声が響いてきた。「助けて…」今度は、より近くから聞こえる。二人は思わず顔を見合わせ、恐怖に震えた。

「行ってみようか…」葉羽は言ったが、心の中では不安が渦巻いていた。果たして、何が待ち受けているのか。

「私、少し怖い…」彩由美が小声で言う。葉羽は彼女の手を優しく握りしめた。

「大丈夫だよ。君と一緒なら、何があっても乗り越えられる。行こう。」

彼はそう言いながら、再び進む決意を固めた。二人はその声の主を求めて、洋館の奥へと足を踏み入れた。暗闇の中、何が待ち受けているのか、彼らはまだ知らなかった。