冷遇令嬢なのに、優遇人生を歩めるのですか?

桜井ことり

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シフォンは、ミロルの無実を証明するため、独自の調査を開始した。
騎士団の部下に命じ、薬草園が荒らされた夜の、屋敷の見回りの記録や使用人たちの動向を、徹底的に洗い直させていた。

しかし、犯人は相当用意周到だったのか、決定的な証拠はなかなか見つからなかった。

その間にも、ミロルの孤立は深まるばかりだった。
食事は離れの自室に運ばれるようになり、他の使用人たちと顔を合わせる機会さえ、ほとんどなくなった。

彼女の世界は、荒れてしまった薬草園と、小さな離れの部屋だけになってしまったようだった。

(シフォン様は、わたくしのことを信じてくださっている……)
(でも、そのせいで、シフォン様が屋敷の中で孤立してしまったら……?)

その考えが、重い鎖のようにミロルの心を縛り付ける。

ある日の夕暮れ、ミロルは一人、薬草園のベンチに座ってぼんやりと空を眺めていた。
そんな彼女の元へ、シフォンがやってくる。

「……まだ、ここにいたのか」

その声には、疲労の色が滲んでいた。犯人捜しが難航しているのだろう。

「シフォン様……」

「少しは休め。お前の体も、万能ではないんだぞ」

彼はそう言って、自分のマントをミロルの肩にかけた。
夕暮れの冷たい空気から守るように。

「ありがとうございます……」

マントから伝わる彼の温かさと香りに、ミロルの涙腺が緩む。

「シフォン様、あの……わたくし……」

「何だ」

「わたくし、ここを、出て行った方が良いのではないでしょうか」

思い切って口にすると、シフォンの表情が険しくなった。

「……何を、馬鹿なことを言っている」

「ですが、わたくしがここにいることで、シフォン様にご迷惑が……。それに、公爵家の中も、ぎくしゃくしてしまっています。全て、わたくしのせいです」

俯いて、か細い声で告げるミロル。
すると、シフォンはミロルの両肩を掴み、無理やり顔を上げさせた。

その青い瞳が、強い光を宿してミロルを見据えている。

「いいか、よく聞け。俺は、お前に迷惑などかけられていない。お前がここにいることは、俺の望みだ」

「でも……!」

「お前がいなくなることの方が、俺にとってはよほど迷惑だ。……わかるか?」

その声は、命令とも、懇願ともつかない響きを持っていた。

「わたくしは……」

ミロルは、返事ができなかった。
彼の側にいたい。その気持ちに嘘はない。
けれど、彼を苦しませたくないという気持ちも、同じくらい強かった。

どうすればいいのか、わからない。
愛する人を想えば想うほど、自分の存在が彼を傷つけるのではないかという恐怖に苛まれる。

「……少し、考えさせてください」

そう言うのが、今のミロルには精一杯だった。

シフォンは、ミロルの揺れる心を見透かしたように、何も言わずにそっと彼女の肩を抱きしめた。
その腕の力強さに、ミロルは抗うことができない。

ここにいたい。
でも、いてはいけないのかもしれない。

相反する二つの想いに引き裂かれそうになりながら、ミロルはシフォンの胸の中で、ただ静かに涙を流すのだった。
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