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夜会での一件以来、セラフィーナ嬢は完全に社交界から姿を消した。よほど堪えたのか、それとも次の悪巧みを考えているのか。
いずれにせよ、表立った動きがない今こそ、水面下で証拠を固める好機だった。
そして今日、先日依頼していた調査員から、決定的な報告がもたらされた。
私はお忍びで訪れた情報屋の奥の部屋で、分厚い報告書の束に目を通していた。隣には、護衛と称してついてきたカイがいる。
「…これは」
報告書を読み進めるにつれ、私の眉間の皺が深くなるのを自覚した。
そこには、セラフィーナ・ミルティという女の、驚くべき過去が記されていた。
「どうした、リリアンヌ様。そんな怖い顔しちゃ、せっかくの美人が台無しだぜ」
カイが私の顔を覗き込む。
「静かになさい、カイ。今、重要なところを読んでおりますの」
私は彼を手で制し、再び報告書に集中した。
セラフィーナ嬢は、アカデミーに入学する前、隣町の裕福な商家の息子と懇意にしていたらしい。
『当時、セラフィーナ・ミルティは、その家の息子に「家の借金で苦しんでいる」「両親から酷い扱いを受けている」などと涙ながらに訴え、多額の金品を貢がせていた模様』
「…同じ手口ですわね」
私は思わず呟いた。アルフレッド殿下にしたことと、全く同じだ。
『商家の息子は彼女にのめり込み、店の金にまで手を出す始末。最終的に、彼の両親が事態に気づき、息子とセラフィーナを引き離したが、その時には既に、店の経営が傾くほどの大損害を被っていた』
報告書は、さらに衝撃的な事実を告げていた。
『その後、セラフィーナの一家は、まるでその金を元手にしたかのように、現在の男爵領へと移住。アカデミーへの入学金も、その金で賄われた可能性が極めて高い』
「…つまり、彼女は詐欺の常習犯。そして、その悪事で得た金で、今の地位を手に入れた、ということですわね」
私は静かに報告書を閉じた。怒りよりも先に、冷たい感情が心を支配する。
彼女は、人の善意や恋心を踏み台にして、自分の欲望を満たすことしか考えていない。アルフレッド殿下への「愛」も、全ては王太子妃という地位と富を手に入れるための、計算ずくの演技だったのだ。
「なるほどな。こいつは思った以上の悪党らしい」
隣で報告書を一緒に読んでいたカイが、感心したように言った。
「感心している場合ではございませんわ。これは、立派な犯罪です」
「で、どうするんだ? この報告書を突きつければ、あの王子も目が覚めるんじゃねえか?」
「いいえ」と私は首を振った。「今の殿下は、セラフィーナ嬢に夢中です。このような報告書を見せても、『リリアンヌが仕組んだ罠だ』と決めつけ、信じないでしょう」
「じゃあ、どうする?」
「証人が必要ですわ。この、被害に遭われたという商家の方に、直接証言していただくのです」
「そいつは難題だな。自分の息子が女に騙されたなんて、家の恥だ。そう易々と口を割るとは思えねえ」
カイの言う通りだった。商家にとって、信用は何よりも大事な財産だ。それを失いかねない証言など、してくれるはずがない。
だが、ここで諦めるわけにはいかなかった。
「それでも、わたくしは行きます。この方の無念を晴らすためにも、そして、これ以上被害者を増やさないためにも」
私は、報告書の最後に記された、商家の名前と住所をじっと見つめた。
「…わたくし一人で、説得してみせますわ」
私の決意に満ちた目に、カイは何も言わず、ただ静かに頷いた。
セラフィーナ・ミルティ。あなたの過去の亡霊が、今、あなたの喉元に迫っているのですよ。
いずれにせよ、表立った動きがない今こそ、水面下で証拠を固める好機だった。
そして今日、先日依頼していた調査員から、決定的な報告がもたらされた。
私はお忍びで訪れた情報屋の奥の部屋で、分厚い報告書の束に目を通していた。隣には、護衛と称してついてきたカイがいる。
「…これは」
報告書を読み進めるにつれ、私の眉間の皺が深くなるのを自覚した。
そこには、セラフィーナ・ミルティという女の、驚くべき過去が記されていた。
「どうした、リリアンヌ様。そんな怖い顔しちゃ、せっかくの美人が台無しだぜ」
カイが私の顔を覗き込む。
「静かになさい、カイ。今、重要なところを読んでおりますの」
私は彼を手で制し、再び報告書に集中した。
セラフィーナ嬢は、アカデミーに入学する前、隣町の裕福な商家の息子と懇意にしていたらしい。
『当時、セラフィーナ・ミルティは、その家の息子に「家の借金で苦しんでいる」「両親から酷い扱いを受けている」などと涙ながらに訴え、多額の金品を貢がせていた模様』
「…同じ手口ですわね」
私は思わず呟いた。アルフレッド殿下にしたことと、全く同じだ。
『商家の息子は彼女にのめり込み、店の金にまで手を出す始末。最終的に、彼の両親が事態に気づき、息子とセラフィーナを引き離したが、その時には既に、店の経営が傾くほどの大損害を被っていた』
報告書は、さらに衝撃的な事実を告げていた。
『その後、セラフィーナの一家は、まるでその金を元手にしたかのように、現在の男爵領へと移住。アカデミーへの入学金も、その金で賄われた可能性が極めて高い』
「…つまり、彼女は詐欺の常習犯。そして、その悪事で得た金で、今の地位を手に入れた、ということですわね」
私は静かに報告書を閉じた。怒りよりも先に、冷たい感情が心を支配する。
彼女は、人の善意や恋心を踏み台にして、自分の欲望を満たすことしか考えていない。アルフレッド殿下への「愛」も、全ては王太子妃という地位と富を手に入れるための、計算ずくの演技だったのだ。
「なるほどな。こいつは思った以上の悪党らしい」
隣で報告書を一緒に読んでいたカイが、感心したように言った。
「感心している場合ではございませんわ。これは、立派な犯罪です」
「で、どうするんだ? この報告書を突きつければ、あの王子も目が覚めるんじゃねえか?」
「いいえ」と私は首を振った。「今の殿下は、セラフィーナ嬢に夢中です。このような報告書を見せても、『リリアンヌが仕組んだ罠だ』と決めつけ、信じないでしょう」
「じゃあ、どうする?」
「証人が必要ですわ。この、被害に遭われたという商家の方に、直接証言していただくのです」
「そいつは難題だな。自分の息子が女に騙されたなんて、家の恥だ。そう易々と口を割るとは思えねえ」
カイの言う通りだった。商家にとって、信用は何よりも大事な財産だ。それを失いかねない証言など、してくれるはずがない。
だが、ここで諦めるわけにはいかなかった。
「それでも、わたくしは行きます。この方の無念を晴らすためにも、そして、これ以上被害者を増やさないためにも」
私は、報告書の最後に記された、商家の名前と住所をじっと見つめた。
「…わたくし一人で、説得してみせますわ」
私の決意に満ちた目に、カイは何も言わず、ただ静かに頷いた。
セラフィーナ・ミルティ。あなたの過去の亡霊が、今、あなたの喉元に迫っているのですよ。
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