14 / 35
14
しおりを挟む
夜会での一件以来、セラフィーナ嬢は完全に社交界から姿を消した。よほど堪えたのか、それとも次の悪巧みを考えているのか。
いずれにせよ、表立った動きがない今こそ、水面下で証拠を固める好機だった。
そして今日、先日依頼していた調査員から、決定的な報告がもたらされた。
私はお忍びで訪れた情報屋の奥の部屋で、分厚い報告書の束に目を通していた。隣には、護衛と称してついてきたカイがいる。
「…これは」
報告書を読み進めるにつれ、私の眉間の皺が深くなるのを自覚した。
そこには、セラフィーナ・ミルティという女の、驚くべき過去が記されていた。
「どうした、リリアンヌ様。そんな怖い顔しちゃ、せっかくの美人が台無しだぜ」
カイが私の顔を覗き込む。
「静かになさい、カイ。今、重要なところを読んでおりますの」
私は彼を手で制し、再び報告書に集中した。
セラフィーナ嬢は、アカデミーに入学する前、隣町の裕福な商家の息子と懇意にしていたらしい。
『当時、セラフィーナ・ミルティは、その家の息子に「家の借金で苦しんでいる」「両親から酷い扱いを受けている」などと涙ながらに訴え、多額の金品を貢がせていた模様』
「…同じ手口ですわね」
私は思わず呟いた。アルフレッド殿下にしたことと、全く同じだ。
『商家の息子は彼女にのめり込み、店の金にまで手を出す始末。最終的に、彼の両親が事態に気づき、息子とセラフィーナを引き離したが、その時には既に、店の経営が傾くほどの大損害を被っていた』
報告書は、さらに衝撃的な事実を告げていた。
『その後、セラフィーナの一家は、まるでその金を元手にしたかのように、現在の男爵領へと移住。アカデミーへの入学金も、その金で賄われた可能性が極めて高い』
「…つまり、彼女は詐欺の常習犯。そして、その悪事で得た金で、今の地位を手に入れた、ということですわね」
私は静かに報告書を閉じた。怒りよりも先に、冷たい感情が心を支配する。
彼女は、人の善意や恋心を踏み台にして、自分の欲望を満たすことしか考えていない。アルフレッド殿下への「愛」も、全ては王太子妃という地位と富を手に入れるための、計算ずくの演技だったのだ。
「なるほどな。こいつは思った以上の悪党らしい」
隣で報告書を一緒に読んでいたカイが、感心したように言った。
「感心している場合ではございませんわ。これは、立派な犯罪です」
「で、どうするんだ? この報告書を突きつければ、あの王子も目が覚めるんじゃねえか?」
「いいえ」と私は首を振った。「今の殿下は、セラフィーナ嬢に夢中です。このような報告書を見せても、『リリアンヌが仕組んだ罠だ』と決めつけ、信じないでしょう」
「じゃあ、どうする?」
「証人が必要ですわ。この、被害に遭われたという商家の方に、直接証言していただくのです」
「そいつは難題だな。自分の息子が女に騙されたなんて、家の恥だ。そう易々と口を割るとは思えねえ」
カイの言う通りだった。商家にとって、信用は何よりも大事な財産だ。それを失いかねない証言など、してくれるはずがない。
だが、ここで諦めるわけにはいかなかった。
「それでも、わたくしは行きます。この方の無念を晴らすためにも、そして、これ以上被害者を増やさないためにも」
私は、報告書の最後に記された、商家の名前と住所をじっと見つめた。
「…わたくし一人で、説得してみせますわ」
私の決意に満ちた目に、カイは何も言わず、ただ静かに頷いた。
セラフィーナ・ミルティ。あなたの過去の亡霊が、今、あなたの喉元に迫っているのですよ。
いずれにせよ、表立った動きがない今こそ、水面下で証拠を固める好機だった。
そして今日、先日依頼していた調査員から、決定的な報告がもたらされた。
私はお忍びで訪れた情報屋の奥の部屋で、分厚い報告書の束に目を通していた。隣には、護衛と称してついてきたカイがいる。
「…これは」
報告書を読み進めるにつれ、私の眉間の皺が深くなるのを自覚した。
そこには、セラフィーナ・ミルティという女の、驚くべき過去が記されていた。
「どうした、リリアンヌ様。そんな怖い顔しちゃ、せっかくの美人が台無しだぜ」
カイが私の顔を覗き込む。
「静かになさい、カイ。今、重要なところを読んでおりますの」
私は彼を手で制し、再び報告書に集中した。
セラフィーナ嬢は、アカデミーに入学する前、隣町の裕福な商家の息子と懇意にしていたらしい。
『当時、セラフィーナ・ミルティは、その家の息子に「家の借金で苦しんでいる」「両親から酷い扱いを受けている」などと涙ながらに訴え、多額の金品を貢がせていた模様』
「…同じ手口ですわね」
私は思わず呟いた。アルフレッド殿下にしたことと、全く同じだ。
『商家の息子は彼女にのめり込み、店の金にまで手を出す始末。最終的に、彼の両親が事態に気づき、息子とセラフィーナを引き離したが、その時には既に、店の経営が傾くほどの大損害を被っていた』
報告書は、さらに衝撃的な事実を告げていた。
『その後、セラフィーナの一家は、まるでその金を元手にしたかのように、現在の男爵領へと移住。アカデミーへの入学金も、その金で賄われた可能性が極めて高い』
「…つまり、彼女は詐欺の常習犯。そして、その悪事で得た金で、今の地位を手に入れた、ということですわね」
私は静かに報告書を閉じた。怒りよりも先に、冷たい感情が心を支配する。
彼女は、人の善意や恋心を踏み台にして、自分の欲望を満たすことしか考えていない。アルフレッド殿下への「愛」も、全ては王太子妃という地位と富を手に入れるための、計算ずくの演技だったのだ。
「なるほどな。こいつは思った以上の悪党らしい」
隣で報告書を一緒に読んでいたカイが、感心したように言った。
「感心している場合ではございませんわ。これは、立派な犯罪です」
「で、どうするんだ? この報告書を突きつければ、あの王子も目が覚めるんじゃねえか?」
「いいえ」と私は首を振った。「今の殿下は、セラフィーナ嬢に夢中です。このような報告書を見せても、『リリアンヌが仕組んだ罠だ』と決めつけ、信じないでしょう」
「じゃあ、どうする?」
「証人が必要ですわ。この、被害に遭われたという商家の方に、直接証言していただくのです」
「そいつは難題だな。自分の息子が女に騙されたなんて、家の恥だ。そう易々と口を割るとは思えねえ」
カイの言う通りだった。商家にとって、信用は何よりも大事な財産だ。それを失いかねない証言など、してくれるはずがない。
だが、ここで諦めるわけにはいかなかった。
「それでも、わたくしは行きます。この方の無念を晴らすためにも、そして、これ以上被害者を増やさないためにも」
私は、報告書の最後に記された、商家の名前と住所をじっと見つめた。
「…わたくし一人で、説得してみせますわ」
私の決意に満ちた目に、カイは何も言わず、ただ静かに頷いた。
セラフィーナ・ミルティ。あなたの過去の亡霊が、今、あなたの喉元に迫っているのですよ。
798
あなたにおすすめの小説
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。
灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。
曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。
婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。
前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。
覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―
Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。
白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』
鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」
公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。
だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。
――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの?
何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。
しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。
それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。
そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。
温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。
そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。
「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」
「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」
離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。
そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。
義母と義妹に虐げられていましたが、陰からじっくり復讐させていただきます〜おしとやか令嬢の裏の顔〜
有賀冬馬
ファンタジー
貴族の令嬢リディアは、父の再婚によりやってきた継母と義妹から、日々いじめと侮蔑を受けていた。
「あら、またそのみすぼらしいドレス? まるで使用人ね」
本当の母は早くに亡くなり、父も病死。残されたのは、冷たい屋敷と陰湿な支配。
けれど、リディアは泣き寝入りする女じゃなかった――。
おしとやかで無力な令嬢を演じながら、彼女はじわじわと仕返しを始める。
貴族社会の裏の裏。人の噂。人間関係。
「ふふ、気づいた時には遅いのよ」
優しげな仮面の下に、冷たい微笑みを宿すリディアの復讐劇が今、始まる。
ざまぁ×恋愛×ファンタジーの三拍子で贈る、スカッと復讐劇!
勧善懲悪が好きな方、読後感すっきりしたい方にオススメです!
『悪役令嬢は、二度目の人生で無言を貫く。~処刑回避のために黙っていただけなのに、なぜか冷徹宰相様から「君こそ運命の人だ」と溺愛さています~』
放浪人
恋愛
「もう、余計なことは喋りません(処刑されたくないので!)」
王太子の婚約者エリスは、無実の罪を着せられた際、必死に弁解しようと叫び散らした結果「見苦しい」と断罪され、処刑されてしまった。 死に戻った彼女は悟る。「口は災いの元。二度目の人生は、何があっても口を閉ざして生き延びよう」と。
しかし、断罪の場で恐怖のあまり沈黙を貫いた結果、その姿は「弁解せず耐え忍ぶ高潔な令嬢」として称賛されてしまう。 さらに、人間嫌いの冷徹宰相クラウスに「私の静寂を理解する唯一の女性」と盛大な勘違いをされ、求婚されてしまい……!?
「君の沈黙は、愛の肯定だね?」(違います、怖くて固まっているだけです!) 「この国の危機を、一目で見抜くとは」(ただ臭かったから鼻を押さえただけです!)
怯えて黙っているだけの元悪役令嬢と、彼女の沈黙を「深遠な知性」と解釈して溺愛する最強宰相。 転生ヒロインの妨害も、隣国の陰謀も、全て「無言」で解決(?)していく、すれ違いロマンティック・コメディ! 最後はちゃんと言葉で愛を伝えて、最高のハッピーエンドを迎えます。
教養が足りない、ですって
たくわん
恋愛
侯爵令嬢エリーゼは、公爵家の長男アレクシスとの婚約披露宴で突然婚約破棄される。理由は「教養が足りず、公爵夫人として恥ずかしい」。社交界の人々の嘲笑の中、エリーゼは静かに会場を去る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる