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「……鏡の中の私は、まるで見知らぬ誰かのようだわ。アルヴィン」
結婚式当日の朝。
純白のウェディングドレスを纏った私は、鏡に映る自分を見つめ、そっと自らの頬に触れた。
かつての「鉄の令嬢」の冷たさはどこにもない。
そこにいるのは、愛する男にすべてを捧げ、その愛を一身に受けて咲き誇る、一人の幸福な女だった。
「いいえ。……これこそが、私がずっと守りたかった、貴女の真実の姿ですよ。イザベラ」
扉が静かに開き、正装に身を包んだアルヴィンが現れた。
執事の制服よりもさらに洗練された、純白の礼服。
彼は私の背後に立つと、鏡越しに視線を絡め、満足そうに目を細めた。
「……お招きしたゲストの方々は?」
「ええ、この国の王族をはじめ、私たちが信頼する商会の者たちが揃っております。……かつての王国で貴女を笑った者たちは、誰一人ここにはいません」
アルヴィンが私の手を取り、指先を湿らせた。
その瞳に宿る熱量は、出会ったあの日から一分たりとも減っていない。
むしろ、手に入れる直前の今、その執着は最高潮に達しているようだった。
「……ねえ、アルヴィン。思えば遠くへ来たものね。……婚約破棄を拒み続けて、貴方と隠れ部屋で肌を重ねていた頃が、ずいぶん昔のことのよう」
「ふふ。……あの背徳感も悪くありませんでしたが。……これからは、白日の下で堂々と貴女を愛でることができる。……それが、私にとっては何よりの勝利です」
私たちは、腕を組んでゆっくりと教会のバージンロードへと歩み出した。
扉が開くと、鮮やかな花吹雪と温かな拍手が私たちを包み込む。
王宮の冷え切った空気とは正反対の、命の輝きに満ちた場所。
「……誓いますか、アルヴィン。健やかなる時も、病める時も……」
「ええ。……誓うまでもありません。……この魂が尽きるまで、私はイザベラの影となり、盾となり、そして彼女を支配する唯一の伴侶であることを」
神父の言葉を遮るように、アルヴィンは力強い声で告げた。
周囲からは驚きと、それ以上の感嘆の溜息が漏れる。
「……私も誓うわ。……貴方以外の男など、この世界には存在しないも同然よ。……アルヴィン、貴方の腕の中こそが、私の永遠の安息の地だわ」
私たちは、誰の許可も必要とせず、ただ互いの存在だけを理由に、深い接吻を交わした。
それは、過去のすべてを燃やし尽くし、新しい世界を創り出すための炎。
「――おめでとう、イザベラ。……今日から貴女は、正式に私の妻だ」
式を終え、湖を見下ろすテラスで、アルヴィンが私を抱き寄せる。
パーティーの喧騒から少し離れた、二人きりの空間。
「……浮気相手から、旦那様に出世した気分はどうかしら?」
「最高ですよ。……ですが、一つだけ訂正を。……私は最初から、貴女の心の『本命』だった。……あの王子は、ただの舞台装置に過ぎなかったのですから」
アルヴィンが私の腰に手を回し、不敵に笑う。
その瞳には、これからも私を飽きさせることなく愛し抜くという、甘く危険な決意が宿っていた。
「……さあ、イザベラ。夜はこれからです。……これまでの『お預け』の分も、たっぷりと可愛がって差し上げましょう」
「……お手柔らかにね、アルヴィン」
「善処いたしましょう。……私の、愛しいお嬢様」
私たちは、輝く湖と未来を見つめながら、再び唇を重ねた。
悪役令嬢と執事。
二人の共犯関係は、永遠に終わることのない、極上の幸福へと昇華されたのだ。
(完)
結婚式当日の朝。
純白のウェディングドレスを纏った私は、鏡に映る自分を見つめ、そっと自らの頬に触れた。
かつての「鉄の令嬢」の冷たさはどこにもない。
そこにいるのは、愛する男にすべてを捧げ、その愛を一身に受けて咲き誇る、一人の幸福な女だった。
「いいえ。……これこそが、私がずっと守りたかった、貴女の真実の姿ですよ。イザベラ」
扉が静かに開き、正装に身を包んだアルヴィンが現れた。
執事の制服よりもさらに洗練された、純白の礼服。
彼は私の背後に立つと、鏡越しに視線を絡め、満足そうに目を細めた。
「……お招きしたゲストの方々は?」
「ええ、この国の王族をはじめ、私たちが信頼する商会の者たちが揃っております。……かつての王国で貴女を笑った者たちは、誰一人ここにはいません」
アルヴィンが私の手を取り、指先を湿らせた。
その瞳に宿る熱量は、出会ったあの日から一分たりとも減っていない。
むしろ、手に入れる直前の今、その執着は最高潮に達しているようだった。
「……ねえ、アルヴィン。思えば遠くへ来たものね。……婚約破棄を拒み続けて、貴方と隠れ部屋で肌を重ねていた頃が、ずいぶん昔のことのよう」
「ふふ。……あの背徳感も悪くありませんでしたが。……これからは、白日の下で堂々と貴女を愛でることができる。……それが、私にとっては何よりの勝利です」
私たちは、腕を組んでゆっくりと教会のバージンロードへと歩み出した。
扉が開くと、鮮やかな花吹雪と温かな拍手が私たちを包み込む。
王宮の冷え切った空気とは正反対の、命の輝きに満ちた場所。
「……誓いますか、アルヴィン。健やかなる時も、病める時も……」
「ええ。……誓うまでもありません。……この魂が尽きるまで、私はイザベラの影となり、盾となり、そして彼女を支配する唯一の伴侶であることを」
神父の言葉を遮るように、アルヴィンは力強い声で告げた。
周囲からは驚きと、それ以上の感嘆の溜息が漏れる。
「……私も誓うわ。……貴方以外の男など、この世界には存在しないも同然よ。……アルヴィン、貴方の腕の中こそが、私の永遠の安息の地だわ」
私たちは、誰の許可も必要とせず、ただ互いの存在だけを理由に、深い接吻を交わした。
それは、過去のすべてを燃やし尽くし、新しい世界を創り出すための炎。
「――おめでとう、イザベラ。……今日から貴女は、正式に私の妻だ」
式を終え、湖を見下ろすテラスで、アルヴィンが私を抱き寄せる。
パーティーの喧騒から少し離れた、二人きりの空間。
「……浮気相手から、旦那様に出世した気分はどうかしら?」
「最高ですよ。……ですが、一つだけ訂正を。……私は最初から、貴女の心の『本命』だった。……あの王子は、ただの舞台装置に過ぎなかったのですから」
アルヴィンが私の腰に手を回し、不敵に笑う。
その瞳には、これからも私を飽きさせることなく愛し抜くという、甘く危険な決意が宿っていた。
「……さあ、イザベラ。夜はこれからです。……これまでの『お預け』の分も、たっぷりと可愛がって差し上げましょう」
「……お手柔らかにね、アルヴィン」
「善処いたしましょう。……私の、愛しいお嬢様」
私たちは、輝く湖と未来を見つめながら、再び唇を重ねた。
悪役令嬢と執事。
二人の共犯関係は、永遠に終わることのない、極上の幸福へと昇華されたのだ。
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