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本編
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「ハニー、元婚約者殿が公爵夫人になったね」
「やはり幼い頃からの努力は報われるのねダーリン」
こんな軽い会話をしているのは、元公爵令息であるコズモと平民でありながら実家は莫大な富を持つマーラ。
二人の出会いはある国の学園である。
貴族と富裕層しか通えないその場所。
コズモは次期公爵として育てられたが、いつも逃げ出したいと考えていた。
「なぁ、コジモ。お前が公爵になる方が良いって思うんだ」
「兄さんまたその話?」
「当たり前だろ! 俺は放浪がしたい! 色々な国へ行って遊びたいんだ!」
「はいはい。また始まったよ、いい加減諦めた方が良いと思うよ。
成績はそこそこ優秀だし何かしらのおっきな瑕疵がないのに、後継者を変更なんて出来る訳ないじゃないか。
それにベルティーナの事はどうするつもり?
僕には愛するオルガが居るからね」
この兄弟のやり取りでおわかりかと思うが、コズモは後継者になりたくない。
いっそ廃嫡してくれれば良いと思ったが、何をすれば廃嫡されるかも分からず。2日に一度は弟であるコジモへ直談判をしていた。
最初の頃は両親へ訴えていたが、
「お前が多少バカであってもベルティーナが支えてくれる。だから何も心配はいらない」
「そうよ! あぁベルティーナちゃんがワタクシの娘になる日が待ち遠しいわ」
コズモは決してバカでは無い。だがしかし、幼い頃からの婚約者であるベルティーナは完璧であった。
「おおきくなったら、このこうしゃくけもコズもわたしがまもってあげる!」
「ベルをまもるのはボクじゃないの?」
「コズにまもられるなんて、そうぞうできないわ」
ちびっこの頃から尊大なベルティーナは、その態度に見合うだけの努力家でもあった。
コズモは別にベルティーナを嫌ってはいないが、恋愛的な意味では全く興味を持てなかった。
それはベルティーナも同じで、二人の会話は。
「コズ、ちゃんと聞いてまして? 新たに発見された鉱石はワタクシの読み通り、社交界でジワジワと注目されていますわ!」
「うん、ベルが自ら加工したんだろ? でもさ、ベルは本当に良いの?」
「何のお話でしょう」
「本当はさ、俺と結婚したくないよね」
「まぁ! 貴族の結婚は契約ですわ! ワタクシちゃんと理解しておりますのよ」
見た目は妖艶で近寄りがたい雰囲気もあり、しかも努力を続けた彼女は所作も美しい完璧な令嬢。
学園の噂は、落ちこぼれを婚約者に持つ可哀想なベルティーナ嬢。
まぁ、間違っちゃいないが落ちこぼれまで言わなくても…
と、凹んだ事もなく。
「きみがマーラ嬢かい?」
フワッフワの風に飛ばされそうな雰囲気を持つ彼女は、大富豪の次女であるマーラ。
砂糖菓子のように、くりくりの瞳も淡いピンク髪もちんまい背丈に男の浪漫を感じさせるお胸も。
「あー! あなた落ちこぼれさんね! それにしても見た目だけは完璧に私の理想だわ」
「うんうん、きみの見た目に騙された話は男子の間じゃ有名だよ。
そんなきみに頼みがあるんだ」
コズモが聞いた噂は色々あるが、見た目に反して過激な性格のマーラは守銭奴でもあると。
金にならない事は1ミリも動かないが、儲け話にはグイグイ食らいつく。
「俺と付き合うふりをして欲しいんだ。謝礼は俺が立ち上げた会社の利益1割を一年間、卒業までの一年間と同じだね」
「立ち上げたって、利益が無ければお話にもならないわね」
「いや、きみは必ず取引するよ。なんたってきみのお祖父さんも投資してる位だ」
そう、コズモはバカでは無い。
能ある鷹は爪を隠す。とはちょっと違うが、コズモの趣味は発明であった。
だが、公爵令息としては減点としか言えない。
派閥の管理、人脈、高位貴族としての責務。これらが重要視される中に、部屋へ閉じこもり奇声が度々響くコズモへ、家族は滾々と言うのだ。
『くだらない事は止めろ』
それでも諦められないコズモは、街へ出て自分の発明品を商会へ売り込みに行っていた。
当然、飛び込みで来た怪しげな少年を誰も相手にしなかったが。
断られてもめげないコズモだったが、この日持ってきた小箱は少し重く。木陰で小箱を下ろし石に座り込んでいた時。
『坊主、それはどんな事が出来るんだ?』
『じいさんにも分かるように説明すると、この中にこの魔石を入れる。このまま30分待つと中が真冬みたいになるんだ!』
道端で少年が板の小箱を指差し、得意げに話す事を聞きながら待つこと30分。
『じいさん、この中に手でも顔でも突っ込んでくれ』
得意気な少年の顔を見て、指差された小箱に手を入れると。
『ほぅ… 確かに中は冷たい。これは何だ?』
『凄いだろ、そうだろうそうだろう。これは僕が発明したんだ』
この出会いが元で、ピエロ商会との関係が始まった。
「ちょっと待って! じゃあお祖父ちゃんが見つけ出した覆面の発明家って!」
「そう俺だな」
「今やピエロ商会の看板商品である、冷え箱の利益1割…
この話、のった!」
こうして、恋愛で堕落した公爵令息と守銭奴… じゃなく恋愛脳でお花畑の住人となった平民少女の関係は始まった。
あの日から一年後。
「この愛しいマーラと離れる事は出来ない! よってベルティーナとは婚約破棄する!」
「ベルティーナ様… 本当にごめんなさい。私がダーリン、いえコズモ様を愛してしまったから…」
見つめ合う二人と無表情で二人を見るベルティーナ。
「… 分かりましたわ。コズモ様、婚約破棄を受け入れます」
誰もが見惚れるほど、優雅なカーテシーをしてから踵を返し、出口へ向かったベルティーナ。
「本当に良かったの? だって…」
「彼女は素晴らしい人だから大丈夫」
☆手紙
ベルティーナ様へ
ダーリンとの出会いは、今考えても有り得ない事だらけ。
いきなり偽装の恋人になってなんて面倒くさい雰囲気に断ろうとしたけど、報酬が冷え箱の利益1割に負けた。
見た目で女の子達から嫌われてたし、貴族の男の子は好きだから愛人になれって。
それ告白じゃありませんからー!
でも、ダーリンは最初から偏見なく私を見てくれた。
自分でも馬鹿な事をしているのは分かっていたけど、ダーリンと過ごす時間が本当に楽しくて本気でダーリンを愛してしまった。
ベルティーナ様から送られる視線に気付いた時。本当なら全て打ち明ける事も出来たわ、でも私はしなかったの。
ダーリンは気付いていなかったけどベルティーナ様は本当に愛していたわよね。
私には分かる、だって同じ人を好きになってしまったんだもの。
ベルティーナ様、私は謝らないわよ。
だって、一番近くで自分の気持ちを言える立場にいたのに何もしなかったのは貴女。
「私が幸せになるには、コズモが必要なの!
私の夫として、世界中を回るわよ!」
「マーラはいつもめちゃくちゃだな。いいよ、二人で放浪の旅をしよう」
卒業して一度も実家へ戻らず、私達は駆け落ちしたのは勿論知っているわよね。
ダーリンから初めて、愛していると言われた時は泣いてしまったけどね。
私達は幸せに暮らしています。
何か困りごとがあれば一度だけ力になるわ。その時は私の力の限りやるから安心して。
ご結婚おめでとうございます。ベルティーナ様のご多幸を心よりお祈り致しております。
マーラより
とある国で、他国から花嫁に来たのはとても美しい人だった。
花嫁を見つめたまま動かない花婿は、周りから暖かく見守られる。
「生涯、あなただけを愛するとここに誓う」
「ワタクシも、あなたを愛しております」
幸せに包まれた結婚式。
「ハニー、元婚約者殿が公爵夫人になったね」
「やはり幼い頃からの努力は報われるのねダーリン」
幸せな二人を遠くから見守る影が2つ。
「彼ならベルを幸せにしてくれる。昔からベルを好きだったからね」
コズモの親類である彼は、あの学園へも留学してきていた。
コズモとマーラに何度も別れるように苦言を呈し、ベルティーナにずっと寄り添っていたのだ。
「さ! 幸せな姿も見たし、ダーリン次はどこの国へ行く?」
「マーラについて行くよ。俺のハニー」
花嫁の控室には、一通の手紙が置いてある。
その封筒に花嫁が書いた言葉はまだ誰も知らない。
誰よりも幸せになる自信しかないわ!
終わり
「やはり幼い頃からの努力は報われるのねダーリン」
こんな軽い会話をしているのは、元公爵令息であるコズモと平民でありながら実家は莫大な富を持つマーラ。
二人の出会いはある国の学園である。
貴族と富裕層しか通えないその場所。
コズモは次期公爵として育てられたが、いつも逃げ出したいと考えていた。
「なぁ、コジモ。お前が公爵になる方が良いって思うんだ」
「兄さんまたその話?」
「当たり前だろ! 俺は放浪がしたい! 色々な国へ行って遊びたいんだ!」
「はいはい。また始まったよ、いい加減諦めた方が良いと思うよ。
成績はそこそこ優秀だし何かしらのおっきな瑕疵がないのに、後継者を変更なんて出来る訳ないじゃないか。
それにベルティーナの事はどうするつもり?
僕には愛するオルガが居るからね」
この兄弟のやり取りでおわかりかと思うが、コズモは後継者になりたくない。
いっそ廃嫡してくれれば良いと思ったが、何をすれば廃嫡されるかも分からず。2日に一度は弟であるコジモへ直談判をしていた。
最初の頃は両親へ訴えていたが、
「お前が多少バカであってもベルティーナが支えてくれる。だから何も心配はいらない」
「そうよ! あぁベルティーナちゃんがワタクシの娘になる日が待ち遠しいわ」
コズモは決してバカでは無い。だがしかし、幼い頃からの婚約者であるベルティーナは完璧であった。
「おおきくなったら、このこうしゃくけもコズもわたしがまもってあげる!」
「ベルをまもるのはボクじゃないの?」
「コズにまもられるなんて、そうぞうできないわ」
ちびっこの頃から尊大なベルティーナは、その態度に見合うだけの努力家でもあった。
コズモは別にベルティーナを嫌ってはいないが、恋愛的な意味では全く興味を持てなかった。
それはベルティーナも同じで、二人の会話は。
「コズ、ちゃんと聞いてまして? 新たに発見された鉱石はワタクシの読み通り、社交界でジワジワと注目されていますわ!」
「うん、ベルが自ら加工したんだろ? でもさ、ベルは本当に良いの?」
「何のお話でしょう」
「本当はさ、俺と結婚したくないよね」
「まぁ! 貴族の結婚は契約ですわ! ワタクシちゃんと理解しておりますのよ」
見た目は妖艶で近寄りがたい雰囲気もあり、しかも努力を続けた彼女は所作も美しい完璧な令嬢。
学園の噂は、落ちこぼれを婚約者に持つ可哀想なベルティーナ嬢。
まぁ、間違っちゃいないが落ちこぼれまで言わなくても…
と、凹んだ事もなく。
「きみがマーラ嬢かい?」
フワッフワの風に飛ばされそうな雰囲気を持つ彼女は、大富豪の次女であるマーラ。
砂糖菓子のように、くりくりの瞳も淡いピンク髪もちんまい背丈に男の浪漫を感じさせるお胸も。
「あー! あなた落ちこぼれさんね! それにしても見た目だけは完璧に私の理想だわ」
「うんうん、きみの見た目に騙された話は男子の間じゃ有名だよ。
そんなきみに頼みがあるんだ」
コズモが聞いた噂は色々あるが、見た目に反して過激な性格のマーラは守銭奴でもあると。
金にならない事は1ミリも動かないが、儲け話にはグイグイ食らいつく。
「俺と付き合うふりをして欲しいんだ。謝礼は俺が立ち上げた会社の利益1割を一年間、卒業までの一年間と同じだね」
「立ち上げたって、利益が無ければお話にもならないわね」
「いや、きみは必ず取引するよ。なんたってきみのお祖父さんも投資してる位だ」
そう、コズモはバカでは無い。
能ある鷹は爪を隠す。とはちょっと違うが、コズモの趣味は発明であった。
だが、公爵令息としては減点としか言えない。
派閥の管理、人脈、高位貴族としての責務。これらが重要視される中に、部屋へ閉じこもり奇声が度々響くコズモへ、家族は滾々と言うのだ。
『くだらない事は止めろ』
それでも諦められないコズモは、街へ出て自分の発明品を商会へ売り込みに行っていた。
当然、飛び込みで来た怪しげな少年を誰も相手にしなかったが。
断られてもめげないコズモだったが、この日持ってきた小箱は少し重く。木陰で小箱を下ろし石に座り込んでいた時。
『坊主、それはどんな事が出来るんだ?』
『じいさんにも分かるように説明すると、この中にこの魔石を入れる。このまま30分待つと中が真冬みたいになるんだ!』
道端で少年が板の小箱を指差し、得意げに話す事を聞きながら待つこと30分。
『じいさん、この中に手でも顔でも突っ込んでくれ』
得意気な少年の顔を見て、指差された小箱に手を入れると。
『ほぅ… 確かに中は冷たい。これは何だ?』
『凄いだろ、そうだろうそうだろう。これは僕が発明したんだ』
この出会いが元で、ピエロ商会との関係が始まった。
「ちょっと待って! じゃあお祖父ちゃんが見つけ出した覆面の発明家って!」
「そう俺だな」
「今やピエロ商会の看板商品である、冷え箱の利益1割…
この話、のった!」
こうして、恋愛で堕落した公爵令息と守銭奴… じゃなく恋愛脳でお花畑の住人となった平民少女の関係は始まった。
あの日から一年後。
「この愛しいマーラと離れる事は出来ない! よってベルティーナとは婚約破棄する!」
「ベルティーナ様… 本当にごめんなさい。私がダーリン、いえコズモ様を愛してしまったから…」
見つめ合う二人と無表情で二人を見るベルティーナ。
「… 分かりましたわ。コズモ様、婚約破棄を受け入れます」
誰もが見惚れるほど、優雅なカーテシーをしてから踵を返し、出口へ向かったベルティーナ。
「本当に良かったの? だって…」
「彼女は素晴らしい人だから大丈夫」
☆手紙
ベルティーナ様へ
ダーリンとの出会いは、今考えても有り得ない事だらけ。
いきなり偽装の恋人になってなんて面倒くさい雰囲気に断ろうとしたけど、報酬が冷え箱の利益1割に負けた。
見た目で女の子達から嫌われてたし、貴族の男の子は好きだから愛人になれって。
それ告白じゃありませんからー!
でも、ダーリンは最初から偏見なく私を見てくれた。
自分でも馬鹿な事をしているのは分かっていたけど、ダーリンと過ごす時間が本当に楽しくて本気でダーリンを愛してしまった。
ベルティーナ様から送られる視線に気付いた時。本当なら全て打ち明ける事も出来たわ、でも私はしなかったの。
ダーリンは気付いていなかったけどベルティーナ様は本当に愛していたわよね。
私には分かる、だって同じ人を好きになってしまったんだもの。
ベルティーナ様、私は謝らないわよ。
だって、一番近くで自分の気持ちを言える立場にいたのに何もしなかったのは貴女。
「私が幸せになるには、コズモが必要なの!
私の夫として、世界中を回るわよ!」
「マーラはいつもめちゃくちゃだな。いいよ、二人で放浪の旅をしよう」
卒業して一度も実家へ戻らず、私達は駆け落ちしたのは勿論知っているわよね。
ダーリンから初めて、愛していると言われた時は泣いてしまったけどね。
私達は幸せに暮らしています。
何か困りごとがあれば一度だけ力になるわ。その時は私の力の限りやるから安心して。
ご結婚おめでとうございます。ベルティーナ様のご多幸を心よりお祈り致しております。
マーラより
とある国で、他国から花嫁に来たのはとても美しい人だった。
花嫁を見つめたまま動かない花婿は、周りから暖かく見守られる。
「生涯、あなただけを愛するとここに誓う」
「ワタクシも、あなたを愛しております」
幸せに包まれた結婚式。
「ハニー、元婚約者殿が公爵夫人になったね」
「やはり幼い頃からの努力は報われるのねダーリン」
幸せな二人を遠くから見守る影が2つ。
「彼ならベルを幸せにしてくれる。昔からベルを好きだったからね」
コズモの親類である彼は、あの学園へも留学してきていた。
コズモとマーラに何度も別れるように苦言を呈し、ベルティーナにずっと寄り添っていたのだ。
「さ! 幸せな姿も見たし、ダーリン次はどこの国へ行く?」
「マーラについて行くよ。俺のハニー」
花嫁の控室には、一通の手紙が置いてある。
その封筒に花嫁が書いた言葉はまだ誰も知らない。
誰よりも幸せになる自信しかないわ!
終わり
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