私の愛する王子様

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第1章

リュンヌは我慢する。

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ガードン様に会えない日々、登城する時に必ず持参するのが手作りお菓子とオペラグラス。

リュンヌが作った事は秘密にしてもらい、午後に食べるケーキやクッキーをガードン様へ出してもらう。オペラグラスは遠くからでもガードン様を見つめ続ける為である。

「男性はガードン様だけじゃありませんわよ」

ローザは、オペラグラスを真剣に覗くリュンヌに呆れて思わず言ってしまう。

「そうそう、あんな子豚よりお似合いの方がいらっしゃるわ」

ヴィオレットもついつい言ってしまう。しかし、ローザと目が合った瞬間。

「「ギレル様は渡しませんわ」」

「ギレル様は興味ありません。それよりガードン様が少しお痩せになったみたいで、早朝に登城して食事をお作りしようかしら?
いや、朝食だけではダメね。夜もお作りして差し上げなければ、あぁ、疲れた時に甘い物も必要ね。
リュンヌが作ったのは全て美味しい!と、あのふくよかな胸に抱かれて、長い前髪から覗く瞳が私だけを見つめ……」

ぶつぶつ言いながら頬を赤らめるリュンヌ。内容を聞かなければ、可憐な美少女に見惚れてしまうだろう。

現に護衛が、うっとりとリュンヌを見ているのだ。そう、彼らまで声は届いていない。

「そんなに好きなら会いに行けば宜しいのでは?」
「お話を聞く限り、リュンヌが嫌いって言った訳じゃないと思いますわ」

二人共、何だかんだ言ってもリュンヌが不憫だと思っている。彼女達から見ても、お妃教育は完璧で、既に学園へ通っているローザと学力は変わらないのだ。

ローザもヴィオレットも、ギレルが誰を選んでもお互い祝福する気持ちはあるが、もし、リュンヌを選んでしまうと、ガードン様一筋なのを知っているから、リュンヌが可哀想で、それだけは阻止しようと話していた。

「そう言えば、そろそろ入学試験じゃありまん?」
「今年から平民でも学力か魔力が高い場合、特待生として迎えると聞きましたわ」

未だ、ガードン様との妄想を続けるリュンヌは、全く聞いてなかった。


試験は2日間。基礎的な学力と魔力、武術は希望者のみで行われ、ガードン様を守る為にリュンヌは武術まで試験した。勿論、女性はリュンヌとラーウス辺境伯の長女アニエル二人のみ。

「そんな細くて武術なんてムリだろう」

アニエルはバカにしてリュンヌを見ていた。白い肌に細い身体、男が多い武術に来る男好きな令嬢。しかし、彼女は知らなかっただけだ、リュンヌが、あのオラージュ公爵家だと。

「あら?はじめまして、リュンヌと申します。武術は意外と好きですのよ、自分のレイピアは毎晩手入れしておりますの」

フワリと笑うリュンヌに、周りの男子は頬を赤らめる。アニエルがリュンヌの手を持つと見事な剣だこがあり、己の狭量が恥ずかしくなった。

「いや、すまない。見た目で判断してしまった。私はアニエルだ、リュンヌ殿良ければ友人になって頂けないだろうか」

素直なアニエルを好意的に捉え、リュンヌはアニエルの手を両手で包み微笑んだ。

「宜しくお願い致しますわ。リュンヌとお呼び下さい」

アニエルは女性だ!確かに見た目は背が高く筋肉もあるが女性なのだ!
なのに、リュンヌが微笑んだ時、少し頬を赤らめてしまったのは是非とも秘密にして頂きたい。

ナニコレ、めっちゃ可愛い。

ニコニコするリュンヌの頭を撫でれば、艶やかな黒髪は柔らかく、上目遣いする瞳は吸い込まれそうな黒目で可愛がっていた黒猫のようだ。

そんな事は全く知らないリュンヌは、お友達が出来たわ!と喜んでいる。周りの男子が耳まで真っ赤にしていた事も気付かずに。

それを遠くから見ていた人影は、苦笑いしながら踵を返し廊下へ歩き去って行くのであった。

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