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契約と芽生えた愛情

契約と芽生えた愛情2

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 真剣な表情でそんな質問をされて、私は凄く戸惑ったの。まさか聖壱せいいちさんの方からこの結婚を続けたいかどうかを聞かれるとは思っていなかったから。
 狭山さやま常務の事が解決して、囮役だった私にはもう用はなくなったという事なの……?

「そうね、私はそのつもりだったけれど聖壱さんはそうでは無かったのね。それにしても、離婚の約束までの5年間も待てないなんて――――」

 こんな性悪な私が彼に愛され大切に思われていると勝手に思い込んでいたなんて……なんだか可笑しくなってクスリと笑ってしまう。
 こんな悲しい時にだって、素直に悲しい顔も出来ない女なのよね。

 聖壱さんの契約結婚を受けた時から、その覚悟はしていたつもりだった。それでも少なくとも二人で決めた契約期間の間は聖壱さんの傍にいられるのだと思っていた。
 私達の契約結婚を解消して、聖壱さんはこれからいったいどうしたいの?

「そうじゃない!俺が香津美かつみに聞いているのは、そういう意味じゃないって分かるだろ?」

 私の両肩に手を置いて、少し怒ったような顔を見せる聖壱さん。どうしてそんな顔をするのよ、今傷付いているのは私の方なのよ?

「そうじゃないのなら、一体何なのよ!聖壱さんの言っている事は訳が分かんないわ。」

「だから……俺が香津美に聞いているのは、このまま俺の契約妻のままでいいのかって事だ!香津美は俺と本当の意味での夫婦になりたくないのか?」




「ええっ、なんですって!?」

 驚きでつい大きな声を出してしまう。聖壱せいいちさんはそんな私の腰に腕を回してぐっと抱き寄せた。ちょっと待って、今この状況でそんな事をされてしまうと……!
 彼の言動で一気に顔に熱が集まってしまい、きっと聖壱さんにもすぐにバレてしまうほど赤面してしまったと思うの。必死に両腕で顔を隠そうとするけれど、そんな私を見たがる聖壱さんに両腕を捕まえられてしまって……
 
「……よし、今度こそちゃんと理解出来たようだな?それに今の香津美かつみの反応もまあまあ悪くない。」

 何がまあまあ悪くない、よ!私にこんな恥ずかしい思いさせておいて。
 両腕を伸ばして意地悪な聖壱さんから逃れようとするのに、ビクともしない。もう、本当に腹が立つわ!

「私の反応ばかり見てばかりいないで、自分はどう思っているのかを言わないの?そんなの狡いと思わないのかしら。」

 そう言い返すと、その台詞を待ってましたとばかりに聖壱さんが嬉しそうに微笑んだ。

「俺か?俺は勿論さっさと契約結婚なんて解消して、香津美と本当の意味での夫婦になりたいに決まってるだろ?身も心も……今すぐにでも結ばれたい。」

 最後の一言は耳元で色っぽく囁くように……そういう行為に慣れていない私には刺激が強くてクラクラしてしまいそうだった。
 私の予想を裏切らない聖壱さんの甘い言葉に、心の芯からどうにかなってしまいそうで。

「……馬鹿。」



 素直で可愛い返事なんて私に出来る訳ないから、こんな捻くれた言葉を返すことで精一杯だった。
 いつまでもこんな態度ではきっと聖壱せいいちさんにも呆れられる、そう思って焦ってしまったの。それなのに聖壱さんは……

「それが香津美かつみの返事でいいんだな?そんな言い方じゃ俺は自分にとって都合のいいようにしか受け取らないぞ?」

「え……?それってどういう……こらっ、ちょっと待ちなさい!」

 聖壱さんは勝手に自分だけで何かを納得した様子を見せると、いきなり私をベッドへと押し倒してきたのよ。私の話はまだ終わっていないのに!
 私は両腕を突っ張って聖壱さんの身体を何とか押し返そうとしているんだけど……

「どうしてだ?さっきの香津美の『馬鹿』は照れ隠しで、本心は俺と同じだって事だろう。香津美は二人の関係をもっと深めたいとは思わないのか?」

「そんな事いきなり言われても……!」

 まだ私はそこまで考えてはいなかったのよ、いきなりそんな風に迫られたってまだ心の準備が……聖壱さんの気を逸らす、何かいい方法はないの……!?
 
「……隣っ、隣の部屋には柚瑠木ゆるぎさんと月菜つきなさんもいるのよ?そんな状況で何かをしようだなんて、私は恥ずかしくて無理よ!」

 これが理由ならばきっと聖壱さんも納得してくれるはず、そう思ったのに……




「……だったら、ここじゃなきゃ香津美かつみも俺と同じ気持ちだって事でいいんだよな?」

「はあっ!?」

 どうしてそうなるのよ?私は隣の柚瑠木ゆるぎさん達の事が気になるって言っただけじゃないの。それなのに、聖壱せいいちさんの言い方だと……
 焦ってそうじゃないと伝えようとすると、聖壱さんはポケットからスマホを取り出して誰かに電話をかけ始めた。

沖名おきなか、いま時間あるか?ああ……あの時の話、ちゃんと覚えているだろう。ああ……今からだ、頼んだぞ。」

 沖名さんって、職場で私に仕事を教えてくれている沖名さんよね?
 今は仕事と関係ないはずなのに、どうして彼の名前が……それに「頼んだぞ」っていったい彼に何を頼むというの?

「ねえ、聖壱さん。今の電話、沖名さんって……きゃあっ!」

 聖壱さんにいきなり抱き上げられて、悲鳴を上げてしまう。どうしてこの人はすぐに私をお姫様扱いするのよ!

「何を頼んだのかは後でのお楽しみ、だ。香津美、目的地に着くまでしっかり捕まってろよ?」

 そう言うと聖壱さんは私を抱いたまま、ズンズンと歩きだしホテルの部屋から出てしまう。もしかして私を連れて別の場所に行くつもりなの?

「……え?ちょっと待ってよ、聖壱さん。まだ柚瑠木ゆるぎさんと月菜つきなさんが……!」

 そうよ、まだあの二人の事は解決してないんでしょう。まさか、このままにしておくつもりなの?

「柚瑠木と月菜さんだってきちんとした大人なんだし、2人で解決しなきゃいけない問題もある。しばらくは放っておくべくだ。」

 そうハッキリと言われて……



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