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新婚生活の幸せを感じて!
新婚生活の幸せを感じて!4
しおりを挟む結局、なほと父の二人にレジデンスまで送られることになってしまった。事情を知らない父は私が具合が悪いのかと心配そうにしていたけれど……
一緒に暮らしていた時はそれが当たり前だと思っていたのに、離れてみるとどれだけ家族が私の事を気遣っていてくれているのかが分かる。
「いいですか、姉さん。ちゃんと義理兄さんに自分で伝えるんですよ?」
「しつこいわね、何度も言わなくてもちゃんと分かってるってば」
部屋のドアの前までしっかりとついて来たなほに念を押されて、私は妹に早くロビーで待つ父の所へ戻るように手を振ってみせる。
私たちの事を考えて言ってくれているのは嬉しいけれど、こっちだって緊張と不安で落ち着かないのよ。
「……大丈夫ですよ、姉さん」
「何がよ?」
そっと私の手を取って優しく撫でるなほは、いつもの無表情ではなく口元に微かな笑みを浮かべている。そのままゆっくりと私を見上げて……
「姉さんの今の不安も焦りも、そして期待も全部義理兄さんが受け止めて包んでくれます。もう一人で不安になる必要は無いんです。それに私と父や母だって姉さんの力になる事は出来るんです、だから……」
「なほ……」
口下手な妹がこんなに喋るのは珍しかった。それだけなほが私に必死で伝えようとしてくれているという事、それが嬉しくて……
「もういいわ、身体を冷やしちゃいけないし私は部屋に入るから」
「……はい。そうしてください」
玄関の扉から一歩下がるなほ、扉を閉める前に少しだけ振り返って……
「ありがとう、その気持ちだけで十分嬉しいわ。結果が分かったらメッセージを送るわね」
「……はい!」
なほの少し大きな返事が聞こえると同時に、私は静かに玄関の扉を閉めた。
リビングの灯りを点けると冷蔵庫からミネラルウォーターのペットボトルを取り出しグラスに注いだ。そのままソファーへと腰を下ろして、ごくごくとそれを飲み干す。冷えた水で喉を潤せば、少し気持ちも落ち着いてくるような気がした。
「夕飯の支度しなきゃ……」
そう思うのに、何となく身体はまだついてこないようで。私は空になったグラスを持ったままソファーに座り込み動けないままでいた。
そうしているうちにいつの間にか時間だけが過ぎて……ガチャリと玄関の鍵が開かれる音がした。
いつもなら夫である聖壱さんを玄関まで迎えに行くのに、これから彼になんて話そうかと迷っているせいでそれも躊躇ってしまったの。
もちろん聖壱さんがそんな私を不思議に思うのは当たり前で、少し速足で廊下をこちらに向かって歩いて来ている音がする。
そのまま少し乱暴にリビングの扉が開かれて……
「香津美? どうした、具合でも悪いのか?」
私がソファーに座り込んでいるのを見つけると、聖壱さんはすぐに私の傍へ。私が何か言う前に手のひらで熱が無いかを調べ、顔色を確かめた。
「大丈夫よ、どこも調子が悪いとかじゃないの。ただちょっと実家に帰っていたから、疲れて体がだるいだけ」
「香津美が実家に……?」
私が実家に滅多に帰らなかったからか、聖壱さんは少し戸惑ったような表情をした。別に私は家族と仲が悪いわけではないのだが、彼は心配なのかもしれない。
「それでね、今日私は聖壱さんに大事な話が……」
「俺は嫌だ!」
……え? 私は一瞬、聖壱さんに何を言われたのか理解出来なかった。今、彼は私にハッキリと「嫌」だと言わなかった?
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