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強引な明るさで前進を

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「この話題はそろそろ終わりにして休もう、明日は日が登る頃には動き出さなければならないからな」
「そうだな、先に俺が見張りをする。二人は今のうちに少しでも眠っておいてくれ」

 レーヴェが話を切り上げると、アゼルも周りが良く見渡せる位置に移動して座り込んだ。ロッテはレーヴェに守られる形で、横になると疲れていたためかすぐに眠りの世界へ落ちていく。
 「無理をさせてごめんな」そんな呟きが聞こえたような気がしたが、瞼が重くてその言葉に返事をすることは出来なかった。

「相当疲れていたんだな、この状況ですぐに眠ってしまうなんて」
「もともと貴族の令嬢だからな、こんな旅に慣れている訳がない。それでも彼女の存在はこの国を救うためには必要不可欠だからな」

 緩やかにだが確実にこのゼーフェリング王国は変化していっている。日々濁っていく水と、徐々に枯れ始めた草木……そして少しずつ腐っていく大地。
 王都の中では気付きにくいが、自然豊かな周りの町や村ではその変わりように人々も焦っている。このことをどうやってでも国王に知って欲しい。
 しかし国王や王宮は聖女と呼ばれているアンネマリーに絶対の信頼を置いている、自分の立場でどれだけ真実を伝えることが出来るだろうか?
 レーヴェはロッテの寝顔を見ながら、彼女を聖女として認めてもらうにはどうすればいいのかをずっと考えていた。



「起きろ、アゼル。そろそろ朝日が昇る、今日中に山を越えてしまわないと」
「ああ、もうそんな時間か。しかし誰かと野宿するのなんて初めてなんだが、意外と悪くないな」

 この性格で今まで一人で暗殺者をやっていた方がずっと不思議だと思うんだが、レーヴェもさすがにそこまでは言えない。そういった職業を選ぶということは、何か深い理由があってもおかしくないからだ。
 明るいキャラだからこそ、そこにどんな闇があるのかなんて想像が出来ない。それを簡単に聞けるほど信頼関係を今はまだ築けていないことも分かっていたから。

「おはよう、アゼル。よく眠れた? 私は何の役にも立てなくてごめんなさい」
「いいや、ロッテには王都で大事な役目があるんだろう? それまではしっかり体力も気力も温存していてもらわなきゃだからな」

 そう言って朗らかに笑うから、ロッテもつられて笑顔を見せる。レーヴェと二人きりだとどうしても気を使って頑張りすぎる彼女だったが、アゼルの気軽さが良いクッションになっているのかもしれない。
 朝食はアゼルが魔女の家から持ってきたという固いパンとチーズ、そして薬草のオムレツだった。ロッテたちを追いかけてきたと言いながら、ちゃっかり魔女の家に寄って来ているのがアゼルらしいというか。レーヴェは見慣れた薬草のオムレツを目にした途端ガックリと肩を落とした。
 どうしてあの婆さんは食べ物を作る際に見た目や味ではなく効能を何よりも優先するのだろうか、と。



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