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言葉の裏に隠したモノ ~契約…?秘密をバラすなってこと?
まどろみの中で② 〜ものは考えよう
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「ま、ね。愛があったんだと思えば、それもまた納得いくんだけど」
思わず零した言葉は室内に微妙な響きを残す。
納得がいく……。
これは少しニュアンスが違うかもしれない。あの後、エマは下宿を去った。そして、ジャックもまた去って行った。
ショーティは、2年後友人の恋を見る。
初めて付き合ったという彼のたどたどしさ。幼さ。けれど初々しいまでの笑顔。
どうすればいいかわからないという彼の申し出に、引き立て役のように駆り出され、挙句の果て、
『お願いだから、ついて来ないで』と彼女に懇願された。
理由はすぐにショーティの耳に入った。
偶然なのか故意なのか、それは定かではなかったが、通りかかったそこへ声が飛び込んできた。
『かわいいの』
私なんかよりずっと、と友人に告げていた。
一緒に歩かれると自分がおまけみたいなの、と続けられた声。
どうして、と思う。
背格好は確かに小さい方であるが、力がないわけではない。
さらさらの栗色の髪も当時は短く、大きな茶系の瞳も精悍さに欠けていると言われればそうであるが、知力も並以上はあると思っているし、ある程度自分の意見は言い切ることができる。
自分のどこがいけないのか。何が足りないのか。
せめてもう少し逞しくあったら、せめてもう少し精悍な顔立ちであったら。
ショーティは視線をそのままに、シーツを手繰り寄せるようにして、転がった。
街は金色からゆっくりとモノトーン色をつけていく。
そして、またゆっくりと思い出す。
クラブで遊んでいる最中に知り合った男。
彼は10歳以上も上だった。考えもしっかりとしたものを持ち、自分の持て余しているものを見つけてくれるのではないかと思えた。半年そばにいて、学校が休みがちになった時、突き放された。
『人に求めるな』と。
それが彼の愛であったかどうか・・・。
「わかんないな」
つぶやいたショーティはむくりと身を起こした。
今更眠れるはずもなく、ややむしゃくしゃする思いでシャワーを浴びにバスルームへと向かう。
見知った室内を重い足取りで歩き、バスルームの扉を開く。
右横に大きな鏡があり、エマが使った痕跡が残っていた。
そして、無造作に置かれた男物のシャツ。
「なんだ。やっぱりいるんだ」
ショーティはどうでもいいようにつぶやき、鏡の中の自分を見つめる。
なぜ今日に限ってこんなにも昔の自分を思い返すのだろう。
まるで自分に問うようにつぶやいてから、ああ、と小さく納得する。
あれのせいだ。
ショーティは目の前の自分を、いつになく冷ややかな瞳で見つめた。
学園では滅多に見られないだろうその視線は、唯一自分の本性ではないかと思えるものだ。
しかし、人の本性というものは、自分自身が思うものと見せるものと違う。把握されるものが本性なのだとすれ
ば、この視線の主はいったい誰なのか。
誰も知らないショーティ・アナザーは虚像で、自身の否定する部分が本来の自分である可能性の方が幾分も高い。
そもそも、本来の自分とは何なのか。
ショーティはくるりと踵を返した。
そのままバスルームに滑り込み、馴れた手つきでシャワーを浴びる。
同年と比べると小柄な体躯は完璧な白人ではないため濃やかな肌色で、打ちつける熱めのシャワーにほんのりと赤く色づく。
やや長めの栗色の髪は雫を細く滴らせており、茶系の大きな瞳は今、閉じられていた。
だが、ショーティの心情は今まさに嵐であった。衝撃的な事実に自身まで引きずり込まれ、為すべきことが見つけ出せない。
先日、ショーティは友人たちと月に出来たばかりの第6ドームに遊びに行った。
アミューズメントタウンと銘打ったそこで、事件は起きたのだ。
————第6ドーム爆破事件。
思わず零した言葉は室内に微妙な響きを残す。
納得がいく……。
これは少しニュアンスが違うかもしれない。あの後、エマは下宿を去った。そして、ジャックもまた去って行った。
ショーティは、2年後友人の恋を見る。
初めて付き合ったという彼のたどたどしさ。幼さ。けれど初々しいまでの笑顔。
どうすればいいかわからないという彼の申し出に、引き立て役のように駆り出され、挙句の果て、
『お願いだから、ついて来ないで』と彼女に懇願された。
理由はすぐにショーティの耳に入った。
偶然なのか故意なのか、それは定かではなかったが、通りかかったそこへ声が飛び込んできた。
『かわいいの』
私なんかよりずっと、と友人に告げていた。
一緒に歩かれると自分がおまけみたいなの、と続けられた声。
どうして、と思う。
背格好は確かに小さい方であるが、力がないわけではない。
さらさらの栗色の髪も当時は短く、大きな茶系の瞳も精悍さに欠けていると言われればそうであるが、知力も並以上はあると思っているし、ある程度自分の意見は言い切ることができる。
自分のどこがいけないのか。何が足りないのか。
せめてもう少し逞しくあったら、せめてもう少し精悍な顔立ちであったら。
ショーティは視線をそのままに、シーツを手繰り寄せるようにして、転がった。
街は金色からゆっくりとモノトーン色をつけていく。
そして、またゆっくりと思い出す。
クラブで遊んでいる最中に知り合った男。
彼は10歳以上も上だった。考えもしっかりとしたものを持ち、自分の持て余しているものを見つけてくれるのではないかと思えた。半年そばにいて、学校が休みがちになった時、突き放された。
『人に求めるな』と。
それが彼の愛であったかどうか・・・。
「わかんないな」
つぶやいたショーティはむくりと身を起こした。
今更眠れるはずもなく、ややむしゃくしゃする思いでシャワーを浴びにバスルームへと向かう。
見知った室内を重い足取りで歩き、バスルームの扉を開く。
右横に大きな鏡があり、エマが使った痕跡が残っていた。
そして、無造作に置かれた男物のシャツ。
「なんだ。やっぱりいるんだ」
ショーティはどうでもいいようにつぶやき、鏡の中の自分を見つめる。
なぜ今日に限ってこんなにも昔の自分を思い返すのだろう。
まるで自分に問うようにつぶやいてから、ああ、と小さく納得する。
あれのせいだ。
ショーティは目の前の自分を、いつになく冷ややかな瞳で見つめた。
学園では滅多に見られないだろうその視線は、唯一自分の本性ではないかと思えるものだ。
しかし、人の本性というものは、自分自身が思うものと見せるものと違う。把握されるものが本性なのだとすれ
ば、この視線の主はいったい誰なのか。
誰も知らないショーティ・アナザーは虚像で、自身の否定する部分が本来の自分である可能性の方が幾分も高い。
そもそも、本来の自分とは何なのか。
ショーティはくるりと踵を返した。
そのままバスルームに滑り込み、馴れた手つきでシャワーを浴びる。
同年と比べると小柄な体躯は完璧な白人ではないため濃やかな肌色で、打ちつける熱めのシャワーにほんのりと赤く色づく。
やや長めの栗色の髪は雫を細く滴らせており、茶系の大きな瞳は今、閉じられていた。
だが、ショーティの心情は今まさに嵐であった。衝撃的な事実に自身まで引きずり込まれ、為すべきことが見つけ出せない。
先日、ショーティは友人たちと月に出来たばかりの第6ドームに遊びに行った。
アミューズメントタウンと銘打ったそこで、事件は起きたのだ。
————第6ドーム爆破事件。
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