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言葉の裏に隠したモノ ~契約…?秘密をバラすなってこと?

推測 ② 〜それぞれの思惑

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「第6ドームに君も居たと聞いたが」

 再度問われて、ショーティはジェームズを見上げた。真っ直ぐに見つめる黒っぽい瞳が射抜くように鋭いものとなっていた。伊達に情報部ではないらしいその視線に、思わず頬が緩んでしまう。

「確かに居ました。そんなの調べればすぐにわかりますよね?それが何か?」

 本当に、それが何か?である。

 あの事件については本当に巻き込まれただけなのだ。偶然が重なり、結果重要な要素を含む場面に居合わせたが、基本的には巻き込まれただけ。多分アーネスト自身もそう思っているだろう。

 いい迷惑だ、と—————!?
 だからかっ!

 ショーティは思わず今は居ないアーネストを振り返っていた。
 ていよく押し付けられたのか!?
 尋ねても返事があるはずもなく、苛立ちを抑えつつ紅茶を口にする。
 こうなったら覚悟を決めて、根掘り葉掘り聞くだけだ。

「それで?第6ドームがなに?」

 至って友好的な笑みを見せて促すショーティに、ジェームズも話が早いと視線を柔らかなものにする。

「第6ドームのメインコンピュータ、通称 ”ルナ” の最後を聞きたいのだ」
「ルナ?…報告は、あげたけど」

 事を起こしたのは軍に属する人であったため、醜聞が悪いからと報道陣をシャットアウトし、それらの代表者数名が在籍し、状況検分は成された。
 爆破を促した理由を聞きたいのか、それとも。
 そ、れ、と、も————————。
 ショーティの脳裏を一抹の不安がよぎった。

 もしかしてアーネストは、〝成長促進液″のデータに気付いていて、それを知った自分にジェームズを使って、探りを入れてきたのだろうか?
 いつになくマイナス思考へ陥り、疑い深い自分に嫌気がさすショーティである。がそんなことは露知らず、ジェームズはコーヒーを口にすると、

「自身の耳で聞かねば納得できないのだよ」

 にこりと笑みを覗かせた。
 瞬間的にショーティは、それがどこか癖のあるものだと気付く。
 確かエマは、地球から来たばかりだと言っていた。
 地球から来たばかりの男。事を公にしたくない軍と管理局。

「もしかして、情報部って管理局から独立してるの?月機関とは全く別物?地球機関に属しているの?」

 素朴な疑問であった。それならば情報局が独自で動くほかない。管理局から独立した部署に不祥事を洗いざらい報告することなどないだろう。
 各会社の出資によって作られた第6ドーム。
 爆破したのは軍の人間であり、事後処理をしたのは月管理局。地球でのエリート集団である彼らが、地球政府の目をごまかして処理を済ませることくらい朝飯前だ。もしも、本当に一個人による単なる爆破事件ならば、情報部が動く必要がない。

「月の独立宣言とか?」
「発想が飛躍している、とは思わないか?」
「第6ドームの噂はそう流れていたから、別に思わないけど。実質地球から独立して、月になんのメリットがあるのかが疑問。月のない地球って考えられないけど、必要性を考えた場合、月表面を削るくらい、地球の偉い方はなんとも思わないし。月管理者が宇宙放浪を考えれば別だけど」
「つまり、月の独立はない、と?」
「メリットが、ね。火星なら考えられるのかな?」
「はっ!はははは」

 ジェームズは思わず、と言った具合に笑い声を上げていた。笑うと随分幼い様子を覗かせる。

「面白い子だなあ」

 笑みをかみ殺しながら、ショーティを見る瞳は柔らかく細められている。その様子にショーティも素直に笑みを見せた。

「ありがと。褒められるのは嬉しいけど、それで、本当のところは何?」


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