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秘密の約束 ショーティver. ③

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 その後は、ショーティ・アナザーを知る者ならばお約束だった。

 スイを取られたカナンを捕まえて、他のメンバーは置いて、二人だけで飲みなおし。
 カナンに、かなり当たり散らした記憶はある。
 しかし、その後ははっきり言って曖昧であった。
 自覚は、ある。
 基本的には酔い潰れることなどないショーティだが、例外がアーネストとカナンだ。
 ショーティが唯一信頼のおける存在。
 ただ、先も告げた通り、酔い潰れることなど基本的にはない。

 けれど、まさかの拉致監禁……。
 昨日は状況も加わりたまたま泥酔したわけだが、それを狙っていた、ということはないだろう。
 狙われるとしたら、カナンだと思っていた。

 カナン・フィーヨルド。年齢はショーティと同じ23歳。しかし、天使のような面影も、眩しい金髪も、ブループラネットの瞳も。もう彫刻のように飾っておきたいと、思えるほどの美しさ。
 そう、彫刻のように飾って鑑賞したいのだ。

 ………喋らない実像を!

 いやいや理想を勝手に押し付けているのは周囲であって、カナンではない。それは友人なら知っていることだが、その見てくれに騙される話の通じない輩は山といるものだ。
 だからカナンを連れていくのはなんとなく、わかる。
 しかし、閉じ込められたのはショーティ・アナザーであった。

 僕だった…………。

 ベッドの枕に突っ伏しながら、大きなため息をつく。

 ああカナンだったら脱出劇とかまたいい記事になったのにと、ショーティは正直に思った。
 先程の男たちの会話から、確かに目的はショーティ・アナザーであること、自分に危害を加えそうにないことが分かったため、安心して今の状況以外のことを考えられる。
 しかし、どう考えても理由がわからなかった。
 今現在、それほど危険な記事は扱っていない。

 主らしき人物がショーティの髪に触れてきたため、そういう趣味か、と疑うが、カナンほどの価値は自分にはなかった。少なくともないと思っている。
 応対は丁重にと言っていた。理由は教えてくれるかもしれないと。しかし昨日現場にカナンがいたなら警察に連絡がいくのではないかと思う。

 ………カナンがこれを事件だと思っているのならば。いやいくらカナンでも、目の前で連れ攫われればそう考えるだろう。
 それとも、一緒にいなかったのだろうか………。
 そうしたら、どうなるか。
 そこまで考えて、ひと呼吸。
 もしもカナンが一緒にいたのなら……一緒に連れて来てくれればよかったのに。
 本当に残念。心底そう思う。
 この室内の、もちろん見える範囲であるが、青と金の部屋で、あまりの成金趣味に胸やけがする。けれど、カナンの彫像でも置けばまだ見られるものになるような気もするのだ。

 そして、やはり思い出すのはアーネストだ。

 彼の邸宅も高そうな家具が配置されているがオーク調のもので統一されており、アーネストの私室に至ってはシンプルなものだった。ハイソサエティと言うとアーネストを基準に考えてしまうので、ここの趣味はすごいなと思ってしまう。

 いや、まぁそんなことはさておき、とショーティは散らかった記憶を整理する。

 せっかく会えたアーネストと話ができなかった。
 カナンとの飲みを邪魔された。
 そして……13時間…経過していると言っていた。
 仕事を中座してきたのに……。

 そして、やはり思い返す。
 なぜここに来たのか。
 アーネスト・レドモン。
 月学園の学友で、そして契約者。…言い出したのは、彼の方だ。


 7年前。月にあるドームの一つである、研究と教育の〝ミネルヴァ″。
 そこで出会った他の学生とは少し違う雰囲気を醸し出す少年。
 イギリス貴族の父を持ち、アメリカに今やその会社ありと言わせるサリレヴァントカンパニーの会長を母に持つ少年。
 魅力的であった。
 ニューヨークの割とやんちゃなところで育ったショーティにとっては、一見するとまるで王子様のようで。けれど、一度月の一角で見かけた姿は決してそんな甘いだけの雰囲気ではなく、どこか二面性があるのかな、と思った。
 と言っても人に二面性があるのは珍しくもない。
 かく言うショーティ自身だって、それは持っているし、使い分けている。
 そんなことを思いながらアーネストを横目でチェックして。カナンを追いかけて、日々喧騒と冒険で楽しい学園生活を送ったのだった!


 そして学生生活2年目。その時を迎える。




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