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秘密の約束 ショーティver. ⑤
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そこまで思考して、ショーティ・アナザーは目を開いた。
その瞳で天蓋を認め、起き上がろうとすると同時に枕を引き抜き、
「バン!」と出入り口らしい扉にぶつける。
そのまま枕が床に落ち、ほんのひと呼吸、扉を開いて入ってきたのは一人の男だった。
「お目覚めですか。ご気分は」
男は、時間的に言うと午前中だろうに、燕尾服を着用していた。この屋敷の執事なのだろう。
あくまでも落ち着いた口調が、むしろ空々しくて、より一層怒りを助長させる。
「いいわけないよ、拉致られてるのに」
ショーティは不機嫌さを隠さずにそう伝えるが、男はおや?という表情をした。
「拉致と言われましたか?」
「起きたら全く知らない場所。枕が落ちるとともにセンサーが作動してたからその扉付近に何らかの細工があるよね?」
「我々は、泥酔したあなたを介抱していただけかもしれませんが」
「じゃあ僕は帰っていいわけだ。お世話になりました。お礼はまた今度来ます」
棒読みでそう伝えると、執事はにこやかな表情はそのままに、
「旦那様は心配しておられたのですが…目覚めていて我々の話をきいていたということでしょうか?」
「だとしても、僕が謝罪する必要はないよね?」
その時だった。
「ははは、お前も形無しだな」
どうやら時間稼ぎされたらしいと…ショーティは舌打ちした。
真打ちの登場だった。60代らしき男だった。年齢なりに腹も横に大きく、ぷよぷよした印象だ。しかし一見穏やかで誠実そうな印象だが、ヘーゼルの瞳だけが妙に生々しかった。
「ショーティ・アナザー、わたしは」
「アーネストの母親……エメラーダ・サリレヴァントの右腕、ロバート・ゴールドマン、ですね」
ショーティは、面白くなさそうに言い放った。
「おや、私を知っていましたか?」
「……噂程度には」
知らないはずもないだろう、と心でつぶやきながらもそう言い放つ。
「ほう、どんな噂を」
「あなたの噂に興じるつもりはありません。それよりなぜ僕はここに?」
「君に1週間、ここで過ごしてもらいたいのだよ」
まるで…子か孫に語るように、にこやかにゴールドマンは語る。しかも選択は委ねているような話し方だが、実際は命令である。
「はあ?なんで、僕が?そんなことに付き合う必要があるわけ?」
ショーティが納得などするはずなく。
「もちろん、我が社のためだよ」
あまりにも堂々とした返しに、ショーティは訝しんだ。
何だ?と思う。
「………解放されたら、それを曝露していいんだ」
「その記事は買収させて頂きたい…というところだが、君の記事が出る頃にはもっと大きなやつが紙面を賑わせるだろう」
まるでだから大丈夫と語るゴールドマンに、ショーティは考える。
会社のダークイメージの記事を書くと言っているのに、それを優に覆すほどの何か。
それは、慶事に他ならない。
——————アーネスト!
パリの旅行に行く理由を…。アーネストは裏で動かれている見合いを断らせるためと語っていた。それは確かにありうる可能性で。ただアーネストですら捉えきれていないらしく、なんとなく同性の恋人がいると匂わせたいと語っていた。
まさか、真実なわけ?
この1週間で何かがあるんだ。
アーネストと何も話せてないのに。こんな所に閉じ込められている場合じゃないのに。
「それは何?」
「おおよその見当はついているのではないかね?」
質問を質問で返すのはアーネストだけにしてもらいたい。
辟易する、とショーティは思う。
特に、こういった状況は。
「僕を監禁する、ってことはアーネストに関係することだよね。それだけしかサリレヴァントが僕を気にすることはない」
「大丈夫、少なくとも私は君を気に入っているからね。さて、一緒にいたご友人はこの状況をどのように思っただろうか。警察は動いてなさそうだよ。君の友人は知らせなかったようだ。賢明な判断だね」
言葉から、カナンは一緒だったことがわかった。
カナンのことだから、警察より先にスイへ連絡するだろう。
スイに連絡がいったなら…アーネストが一緒にいたはずだ。
アーネストが一緒にいたはずだが……。
—————怒りが復活する。
「アーネストは知らない、ということ?」
では、この計画は?ゴールドマンだという所業は?その理由は?
「どう、思うかね?」
この、狸おやじっ!
「……僕さ、最近、アーネストに避けられていたんだよね。ようやく、会えるかなと思ったのに、結局会えずに……」
逃げた…と思っていいのだろうか。
今にして思えばアーネストにしては珍しい行動だった。
「友人だと思っているのだけど……」
話しながらついと前髪をかきあげる。指先に触れたのは耳のピアス…。
アーネストの行動はわからなくても、カナンの行動はわかる。
連れ去られた、と騒ぐカナンにアーネストは………諭すだろう。大丈夫だからと。
7年の付き合いは伊達ではない。
ショーティが危険なことを手掛けている場合、警察にすぐ届けることはしない。
まずは場所を確認するはずだ。アーネストにはそれができるのだから。そして、警察が動いてないということは、危険ではない、とアーネストが判断したということだ。
それは場所を確認したから、だろうか?
ならばここは?
「ねぇ、せめてさ、ここはどこか教えてくれてもいいんじゃない?」
軽くため息をついて思考を止める。
「ここは、私の屋敷だよ。君を迎えるのならば無粋な場所には招待できないだろう?」
……拉致監禁は十分無粋だろうに!
「そっか」
それならば、アーネストも手を出して来ないだろう。
ゴールドマンの屋敷に連れ込まれ、あまつさえ何一つ隠すことをしない。つまり、ショーティの身の安全は保障されている。
本当にここにいてもらいたいだけなのだ。
さらに言うならショーティのことを避けていたアーネストにとってそれは願ってもないことではないか。
…………しかし、ショーティにとっては由々しき問題だ。
逃げ出さなければならない、と思う。
けれど、情報も必要だ。
慶事、といっても結婚ではないはずだ。それだったらもっと周囲が騒がしくなるはずだし、さすがに隠し通せることではないだろう。
とすると、見合いからくる、………婚約か。
思考するショーティは近づく影に気づいた。もちろん、歩き出した時からそう理解していた。
理解できるから、待つ。
そういう性格なのだから仕方がない。
「そんなに、寂しそうにしなくとも」
頬に触れる指と、言葉がほとんど同時降りてきた。
ぷよぷよとしたゴールドマンの指が、ショーティの頬を撫で、意味ありげに耳のピアスを掠め、栗色の髪を掬う。
「…寂しくはないよ。それで僕は一週間、ここで何をしていたらいいのかな?仕事を中座して友人の結婚式に駆け付けたんだけど」
「仕事の方は保障しよう。デバイスは渡せないが、この2階は自由にして貰っても構わないよ。けれど抜け出すのはなしだ。見かけは古いがセキュリティにはうるさくてね。1階に降りることも窓から抜け出すこともできないと思ってくれていいよ」
「………へぇ。そのセキュリティについて聞いたら教えてくれるのかな?」
「解除の方法以外ならばね。いくらでも。君がそう望むのなら」
ほほ笑むゴールドマンの指先が、再び栗色の髪に触れた。
解除の方法を教えてくれるならまだしも、そんなことでこのまま触れられていたくはない。
「でも、ま、それは置いといて、まずはシャワーを浴びたいなぁ。なんかわけわかんないのに、抱え込まれて連れてこられたみたいだしね。そしてお腹空いた。その後は、2階を自由にみさせて貰おうかな」
ゴールドマンの指から抜け出すように立ち上がりかけたショーティは、下から覗き込むようにヘーゼルの瞳を捕らえた。
「で、僕のデバイスは……どこ?」
先ほどデバイスは渡せないと言っていた。
腕から外されたということは、データは家のパソコンに送られ、ロックされている。けれどあれを置いて逃げるわけにはいかない。
「……君の分身は屋敷の中で大切に預かっているよ」
にこりと百戦錬磨の男は笑みをこぼす。
世の中ほんとにままならない。
ショーティは、深いため息をこぼした。
その瞳で天蓋を認め、起き上がろうとすると同時に枕を引き抜き、
「バン!」と出入り口らしい扉にぶつける。
そのまま枕が床に落ち、ほんのひと呼吸、扉を開いて入ってきたのは一人の男だった。
「お目覚めですか。ご気分は」
男は、時間的に言うと午前中だろうに、燕尾服を着用していた。この屋敷の執事なのだろう。
あくまでも落ち着いた口調が、むしろ空々しくて、より一層怒りを助長させる。
「いいわけないよ、拉致られてるのに」
ショーティは不機嫌さを隠さずにそう伝えるが、男はおや?という表情をした。
「拉致と言われましたか?」
「起きたら全く知らない場所。枕が落ちるとともにセンサーが作動してたからその扉付近に何らかの細工があるよね?」
「我々は、泥酔したあなたを介抱していただけかもしれませんが」
「じゃあ僕は帰っていいわけだ。お世話になりました。お礼はまた今度来ます」
棒読みでそう伝えると、執事はにこやかな表情はそのままに、
「旦那様は心配しておられたのですが…目覚めていて我々の話をきいていたということでしょうか?」
「だとしても、僕が謝罪する必要はないよね?」
その時だった。
「ははは、お前も形無しだな」
どうやら時間稼ぎされたらしいと…ショーティは舌打ちした。
真打ちの登場だった。60代らしき男だった。年齢なりに腹も横に大きく、ぷよぷよした印象だ。しかし一見穏やかで誠実そうな印象だが、ヘーゼルの瞳だけが妙に生々しかった。
「ショーティ・アナザー、わたしは」
「アーネストの母親……エメラーダ・サリレヴァントの右腕、ロバート・ゴールドマン、ですね」
ショーティは、面白くなさそうに言い放った。
「おや、私を知っていましたか?」
「……噂程度には」
知らないはずもないだろう、と心でつぶやきながらもそう言い放つ。
「ほう、どんな噂を」
「あなたの噂に興じるつもりはありません。それよりなぜ僕はここに?」
「君に1週間、ここで過ごしてもらいたいのだよ」
まるで…子か孫に語るように、にこやかにゴールドマンは語る。しかも選択は委ねているような話し方だが、実際は命令である。
「はあ?なんで、僕が?そんなことに付き合う必要があるわけ?」
ショーティが納得などするはずなく。
「もちろん、我が社のためだよ」
あまりにも堂々とした返しに、ショーティは訝しんだ。
何だ?と思う。
「………解放されたら、それを曝露していいんだ」
「その記事は買収させて頂きたい…というところだが、君の記事が出る頃にはもっと大きなやつが紙面を賑わせるだろう」
まるでだから大丈夫と語るゴールドマンに、ショーティは考える。
会社のダークイメージの記事を書くと言っているのに、それを優に覆すほどの何か。
それは、慶事に他ならない。
——————アーネスト!
パリの旅行に行く理由を…。アーネストは裏で動かれている見合いを断らせるためと語っていた。それは確かにありうる可能性で。ただアーネストですら捉えきれていないらしく、なんとなく同性の恋人がいると匂わせたいと語っていた。
まさか、真実なわけ?
この1週間で何かがあるんだ。
アーネストと何も話せてないのに。こんな所に閉じ込められている場合じゃないのに。
「それは何?」
「おおよその見当はついているのではないかね?」
質問を質問で返すのはアーネストだけにしてもらいたい。
辟易する、とショーティは思う。
特に、こういった状況は。
「僕を監禁する、ってことはアーネストに関係することだよね。それだけしかサリレヴァントが僕を気にすることはない」
「大丈夫、少なくとも私は君を気に入っているからね。さて、一緒にいたご友人はこの状況をどのように思っただろうか。警察は動いてなさそうだよ。君の友人は知らせなかったようだ。賢明な判断だね」
言葉から、カナンは一緒だったことがわかった。
カナンのことだから、警察より先にスイへ連絡するだろう。
スイに連絡がいったなら…アーネストが一緒にいたはずだ。
アーネストが一緒にいたはずだが……。
—————怒りが復活する。
「アーネストは知らない、ということ?」
では、この計画は?ゴールドマンだという所業は?その理由は?
「どう、思うかね?」
この、狸おやじっ!
「……僕さ、最近、アーネストに避けられていたんだよね。ようやく、会えるかなと思ったのに、結局会えずに……」
逃げた…と思っていいのだろうか。
今にして思えばアーネストにしては珍しい行動だった。
「友人だと思っているのだけど……」
話しながらついと前髪をかきあげる。指先に触れたのは耳のピアス…。
アーネストの行動はわからなくても、カナンの行動はわかる。
連れ去られた、と騒ぐカナンにアーネストは………諭すだろう。大丈夫だからと。
7年の付き合いは伊達ではない。
ショーティが危険なことを手掛けている場合、警察にすぐ届けることはしない。
まずは場所を確認するはずだ。アーネストにはそれができるのだから。そして、警察が動いてないということは、危険ではない、とアーネストが判断したということだ。
それは場所を確認したから、だろうか?
ならばここは?
「ねぇ、せめてさ、ここはどこか教えてくれてもいいんじゃない?」
軽くため息をついて思考を止める。
「ここは、私の屋敷だよ。君を迎えるのならば無粋な場所には招待できないだろう?」
……拉致監禁は十分無粋だろうに!
「そっか」
それならば、アーネストも手を出して来ないだろう。
ゴールドマンの屋敷に連れ込まれ、あまつさえ何一つ隠すことをしない。つまり、ショーティの身の安全は保障されている。
本当にここにいてもらいたいだけなのだ。
さらに言うならショーティのことを避けていたアーネストにとってそれは願ってもないことではないか。
…………しかし、ショーティにとっては由々しき問題だ。
逃げ出さなければならない、と思う。
けれど、情報も必要だ。
慶事、といっても結婚ではないはずだ。それだったらもっと周囲が騒がしくなるはずだし、さすがに隠し通せることではないだろう。
とすると、見合いからくる、………婚約か。
思考するショーティは近づく影に気づいた。もちろん、歩き出した時からそう理解していた。
理解できるから、待つ。
そういう性格なのだから仕方がない。
「そんなに、寂しそうにしなくとも」
頬に触れる指と、言葉がほとんど同時降りてきた。
ぷよぷよとしたゴールドマンの指が、ショーティの頬を撫で、意味ありげに耳のピアスを掠め、栗色の髪を掬う。
「…寂しくはないよ。それで僕は一週間、ここで何をしていたらいいのかな?仕事を中座して友人の結婚式に駆け付けたんだけど」
「仕事の方は保障しよう。デバイスは渡せないが、この2階は自由にして貰っても構わないよ。けれど抜け出すのはなしだ。見かけは古いがセキュリティにはうるさくてね。1階に降りることも窓から抜け出すこともできないと思ってくれていいよ」
「………へぇ。そのセキュリティについて聞いたら教えてくれるのかな?」
「解除の方法以外ならばね。いくらでも。君がそう望むのなら」
ほほ笑むゴールドマンの指先が、再び栗色の髪に触れた。
解除の方法を教えてくれるならまだしも、そんなことでこのまま触れられていたくはない。
「でも、ま、それは置いといて、まずはシャワーを浴びたいなぁ。なんかわけわかんないのに、抱え込まれて連れてこられたみたいだしね。そしてお腹空いた。その後は、2階を自由にみさせて貰おうかな」
ゴールドマンの指から抜け出すように立ち上がりかけたショーティは、下から覗き込むようにヘーゼルの瞳を捕らえた。
「で、僕のデバイスは……どこ?」
先ほどデバイスは渡せないと言っていた。
腕から外されたということは、データは家のパソコンに送られ、ロックされている。けれどあれを置いて逃げるわけにはいかない。
「……君の分身は屋敷の中で大切に預かっているよ」
にこりと百戦錬磨の男は笑みをこぼす。
世の中ほんとにままならない。
ショーティは、深いため息をこぼした。
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