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プラチナリング
2-①
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Scene.2
やられたっっ!!
それしかなかった。
あの時、ケインは『アパートの契約は解除されていた』と言っていた。ショーティはそれを調べもせずに信じたわけであるが、まああの後実際そんな余裕はなかったといったところだろう。
しかし、だからこその盲点であった。
ニューヨークの物件は、今も昔も高額であるにも関わらず120%以上埋まっていることで有名であった。賃貸であったにせよ、契約解除をしたら新たな借主が即座に決まっていたであろうし、おそらく調べてもアーネストとは関係ない家主の名前が出てくるのだろう。
そんな細やかな工作ができるとは、随分と……余裕があったじゃない、アーネスト。と……憎さ百倍で思ってしまう。悄然としていたアーネストに騙された感は否めない。どんな物件を管理していたか知らないし興味もなかった。別にアパートをどうしたか語る必要は……ない…、うん確かにないのだが、これこそパートナーに対する態度!?とデイブに聞きたいくらいだった。
そんなことを思いながら、アパートのチャイムを押す。
外観は、なんてことない古い感じの煉瓦造りのものである。
苛々しながら待っていると、中からはアーネストが出てきた。初めてのことであった。今までは執事が迎えいれてくれていたのだ。つまり彼らはいないということなのだろう。
「やあ、待ちくたびれたよ、ハニー?」
しかも相変わらず涼やかな表情で、いけしゃあしゃあとそう告げる。
ショーティはむっとしたが取り敢えず、
「そう?でも手がかり一つ残さずに消えた人物を捜すには、当然の時間だと思うよ、ダーリン?」
その言葉に、アーネストは冷ややかに笑った。
やばい。それだけ思う。
「おや、君の当然はもっと短いものだと思っていたよ。愛は盲目と言うけれど、僕の目も曇ってしまったようだね」
忌々しいというのはこういうことかと思ってしまう。
普段ならば絶対に使わないだろう‟愛“の言葉を効率よく使い、あまつさえ遅いと嫌味を言うのだ。
「へえ、僕は愛されているわけ?じゃあ、これは何?」
そう言って、ショーティはポケットからプラチナリングを取り出した。
けれども、わかってはいたが…それくらいでアーネストの鉄壁の笑顔は崩れない。
「当然君への道標だよ。だから…ここに辿り着いただろう?」
どの面でそれを言うかっと、ショーティは牙を剝きそうになった。
「道標ってさぁ…何!?これは嵌めてないと意味ないよね?」
さっきまではやや怒鳴り気味の声音だったが、今は怒りを秘めているように普通の声音で告げていた。
ショーティらしく周囲に怒鳴り散らしている間はまだ安全圏なのだが、何というか、今はまさに噴火前の火山そのもの。冷静そうに見えるが、その内に秘める轟く激流の熱さは…触れなくてもわかった。
ショーティの柔らかな栗色の髪ややや丸みを帯びた瞳でさえ、一瞬にして切れ味の鋭いものへと変わる。………油断を誘う可愛らしい印象から一転して誰にも触れられそうにない孤高な存在となる。
「それに何?勝手にいなくなって、僕の資料持ち出して!?しかもスイといる?許されると思もうわけ!?」
「ミドリだけじゃないよ。カナンもいる。しかもあの二人には色眼鏡は通用しないだろ?」
「じゃあ僕一人が指輪を嵌めなきゃいけない理由もないよね?」
「——————」
だから君はダメなんだよ…。とアーネストは思う。
今も治安が悪い中東で。アーネストは営利目的での誘拐の確率は高いが、ショーティはその容姿だけでそうなのだと…自覚が全くないと思う。そういう輩は結婚していてもなくても変わらないが、チームで動く時に少なくとも指輪は一度目の防波堤にはなるだろう。
そうアーネストは喉まででかかったが、ただクスリと笑い返す。
その一瞬を捉えたショーティは、アーネストから繰り出される言葉に身構える。が。
「そう言えばショーティ、君の紙の資料にあった火星の情報、いくつか間違っていたよ」
「えっ!?」
思わず、正直に驚いてしまったショーティであった。
自分が命がけで取ってきた情報に間違いにあると指摘されたのだ。しかもアーネストはこういうことで絶対に嘘はつかず、正確な情報を捉えていることは、長い付き合いから否定しようがなかった。
しかし、いったん冷静になれと自身に告げる。
これは明らかにアーネストの誘導の一つだった。今回の件の理由も聞かされず、うやむやにされてはたまったものではない。けれども。結婚前に行った火星で命をかけて得た情報が、間違っていると言う。
いつ見たのか。いやそれは勿論書類を見たのだろうが、なぜそれが違うとアーネストが言えるのか。地球に、しかもニューヨークから動いていないはずなのに。
やられたっっ!!
それしかなかった。
あの時、ケインは『アパートの契約は解除されていた』と言っていた。ショーティはそれを調べもせずに信じたわけであるが、まああの後実際そんな余裕はなかったといったところだろう。
しかし、だからこその盲点であった。
ニューヨークの物件は、今も昔も高額であるにも関わらず120%以上埋まっていることで有名であった。賃貸であったにせよ、契約解除をしたら新たな借主が即座に決まっていたであろうし、おそらく調べてもアーネストとは関係ない家主の名前が出てくるのだろう。
そんな細やかな工作ができるとは、随分と……余裕があったじゃない、アーネスト。と……憎さ百倍で思ってしまう。悄然としていたアーネストに騙された感は否めない。どんな物件を管理していたか知らないし興味もなかった。別にアパートをどうしたか語る必要は……ない…、うん確かにないのだが、これこそパートナーに対する態度!?とデイブに聞きたいくらいだった。
そんなことを思いながら、アパートのチャイムを押す。
外観は、なんてことない古い感じの煉瓦造りのものである。
苛々しながら待っていると、中からはアーネストが出てきた。初めてのことであった。今までは執事が迎えいれてくれていたのだ。つまり彼らはいないということなのだろう。
「やあ、待ちくたびれたよ、ハニー?」
しかも相変わらず涼やかな表情で、いけしゃあしゃあとそう告げる。
ショーティはむっとしたが取り敢えず、
「そう?でも手がかり一つ残さずに消えた人物を捜すには、当然の時間だと思うよ、ダーリン?」
その言葉に、アーネストは冷ややかに笑った。
やばい。それだけ思う。
「おや、君の当然はもっと短いものだと思っていたよ。愛は盲目と言うけれど、僕の目も曇ってしまったようだね」
忌々しいというのはこういうことかと思ってしまう。
普段ならば絶対に使わないだろう‟愛“の言葉を効率よく使い、あまつさえ遅いと嫌味を言うのだ。
「へえ、僕は愛されているわけ?じゃあ、これは何?」
そう言って、ショーティはポケットからプラチナリングを取り出した。
けれども、わかってはいたが…それくらいでアーネストの鉄壁の笑顔は崩れない。
「当然君への道標だよ。だから…ここに辿り着いただろう?」
どの面でそれを言うかっと、ショーティは牙を剝きそうになった。
「道標ってさぁ…何!?これは嵌めてないと意味ないよね?」
さっきまではやや怒鳴り気味の声音だったが、今は怒りを秘めているように普通の声音で告げていた。
ショーティらしく周囲に怒鳴り散らしている間はまだ安全圏なのだが、何というか、今はまさに噴火前の火山そのもの。冷静そうに見えるが、その内に秘める轟く激流の熱さは…触れなくてもわかった。
ショーティの柔らかな栗色の髪ややや丸みを帯びた瞳でさえ、一瞬にして切れ味の鋭いものへと変わる。………油断を誘う可愛らしい印象から一転して誰にも触れられそうにない孤高な存在となる。
「それに何?勝手にいなくなって、僕の資料持ち出して!?しかもスイといる?許されると思もうわけ!?」
「ミドリだけじゃないよ。カナンもいる。しかもあの二人には色眼鏡は通用しないだろ?」
「じゃあ僕一人が指輪を嵌めなきゃいけない理由もないよね?」
「——————」
だから君はダメなんだよ…。とアーネストは思う。
今も治安が悪い中東で。アーネストは営利目的での誘拐の確率は高いが、ショーティはその容姿だけでそうなのだと…自覚が全くないと思う。そういう輩は結婚していてもなくても変わらないが、チームで動く時に少なくとも指輪は一度目の防波堤にはなるだろう。
そうアーネストは喉まででかかったが、ただクスリと笑い返す。
その一瞬を捉えたショーティは、アーネストから繰り出される言葉に身構える。が。
「そう言えばショーティ、君の紙の資料にあった火星の情報、いくつか間違っていたよ」
「えっ!?」
思わず、正直に驚いてしまったショーティであった。
自分が命がけで取ってきた情報に間違いにあると指摘されたのだ。しかもアーネストはこういうことで絶対に嘘はつかず、正確な情報を捉えていることは、長い付き合いから否定しようがなかった。
しかし、いったん冷静になれと自身に告げる。
これは明らかにアーネストの誘導の一つだった。今回の件の理由も聞かされず、うやむやにされてはたまったものではない。けれども。結婚前に行った火星で命をかけて得た情報が、間違っていると言う。
いつ見たのか。いやそれは勿論書類を見たのだろうが、なぜそれが違うとアーネストが言えるのか。地球に、しかもニューヨークから動いていないはずなのに。
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