射手の統領

Zu-Y

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射手の統領072 初行商と泥棒逮捕

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射手の統領
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№72 初行商と泥棒逮捕

 目覚めると左右からキョウちゃんズが抱き付いていた。えへへと笑ってもう大丈夫だと言う。精一杯気を張ってるな。まだ子供なんだから無理しないでいいのに。

 朝餉を摂って、西都営業所で北斗号に乗り込み、西都を出発。
 トリトまでは、計画通りに進みたいので、特にクエストを受けずに、遭遇したら狩るってスタンスにした。

 山越えを避けて、西都から街道沿いに一旦西南西に進んだ後、西北西に進むと、カメオという町がある。小高い山を迂回したから、西都からはちょうど西だ。
 宿屋で用意してもらった弁当で、交代交代に昼餉を摂りつつ、カメオの町を素通りして川沿いを北西に進んだ。
 カメオを越えてからは、いくつか農村が点在していた。カメオから続く盆地の最奥にある、山の麓の農村に着いたのは夕方前。ここが今夜の宿泊予定地、ノーベソの農村だ。

 俺は、商人のアキナと、西の出のキョウちゃんズを連れて、村長宅に挨拶に出向いた。アキナは商人装備のフルバージョンだ。普段は掛けていない鑑定の眼鏡を掛けている。
 メガネっ娘…いいではないか。次はアキナの輪番だよな。メガネっ娘でお願いしようかな。
「アタル、何か変なことを考えてませんか?」アキナが覗き込んで来る。か、かわいい。でも鋭すぎないか?
「考えてない。」俺はその場を取り繕ったが、眼を逸らしてしまったので、完全に疑われてしまった。汗

 村長宅では、最初にアキナが切り出す。
「こんにちは。旅の者ですが、村長さんはいらっしゃいますか?」
「わしが村長や。姉ちゃん、けったいな話し方やな。東のお人かえ?」
「そうです。行商の旅をしてまして、村の広場に馬車を止めて行商することと、1泊することを許可してもらえませんか?」
「何を扱うとるんや?」

「こちらでなかなか手に入らないものとしては、東都の職人の手による精巧な簪や櫛や指輪、東都で流行している紅や白粉、東都名物の珍味佃煮、名府名物の八丁味噌ですね。
 あとは西都の西都織の反物や千枚漬もありますが、こちらでは珍しくないでしょう?」
「出店許可に金貨1枚や。」え?そんなに払うのか?
「随分足元を見ますね。そんなに吹っ掛けたら行商は寄り付かないでしょう?」
「いやならええんやで。」

「それなら結構です。行商はやめて、村の外で野宿します。」
「荷はどうするんや。」
「トリトまで行きますから、途中どこでも捌けます。」おお、さすがアキナ。強気の交渉だ。
「大銀貨5枚に負けたるわ。」
「いえ、もう結構です。」
「おっちゃん、アホやなぁ。欲掻いて、みすみすええチャンスを逃してもたでー。」ウキョウが突っ込み…、
「逃がした魚は大きい言うやろ。うちら、山髙屋の移動店舗やで。商品は折り紙付きやったのになぁ。」サキョウが畳み掛けると…、
「分かった!大銀貨1枚でええ。」
「「おっちゃん、この期に及んでセコ過ぎや。」」ふたりで容赦なく村長を攻め立てている。笑

「私たちが行商と分かってるんでしょうね。馬車にはもう村の皆さんが集まり出してますけど、村長さんの許可が得られなかったからと申し上げて、お引き取り頂きますね。」おっと、アキナが勝負に出ましたよっと。笑
「くっ、あー、分かった分かった、もう好きにせいや。」
「はい。そのつもりです。ここから1里先まで行きますので、そこまで買いに来た方にはお売りします。それと、村に泊めて頂けない以上、割引もしませんからね。」強気だねぇ。惚れ惚れするぜ。
「そのことも、村人に伝えたるからな。」「おっちゃん、皆に恨まれるんとちゃう?」おおっと、キョウちゃんズの援護射撃!地味にえげつないぞー。笑

「どうすりゃええんや?」村長が折れた。笑
「そうですね。金貨1枚頂ければ、村に泊まって出店して差し上げてもいいですよ。」え?マジか!それはいくら何でもアコギなんじゃね?
「そんな無茶な!」
「無茶なもんですか。そちらが最初に金貨1枚って仰ったんですよ。」
「後生や。少し負けてんか?」
「大銀貨5枚までなら負けましょう。これ以上は負けません。どうします?」
「分かったわ。それでええ。その代わり割引もしたってや。」
「村の広場に泊めて頂けるんでしたら、そのつもりですよ。」
「あー、もうなんちゅーこっちゃ。踏んだり蹴ったりやがな。」
 アキナは村長から大銀貨5枚を容赦なくせしめた。…凄い。

 俺たちは村長宅を出た。
「アキナ、容赦ないのな。」
「あれくらいでいいんですよ。これで懲りれば他の行商人に無理を言わなくなります。それに調度品を見る限り、村長はかなり裕福ですからね。」
「え?そんなとこまで見てたの?」
「うふふ。当然ですよ。」
「アキ姉、流石や。」「アキ姉、凄いなぁ。」

「ふたりの援護射撃も心強かったですよ。」
「あの…役立たずですみません。」俺は交渉に加わらなかったことを詫びた。
「いいえ、アタルがいてくれただけで頼もしかったですよ。女だけだと、あの村長のような方は舐めて来ますからね。」
「そうなの?」
「そうなんです。女商人はそれなりに大変なんですよ。」にっこり笑うアキナ。流石に余裕だなぁ。

 店を開けると、村人が寄って来て、簪、櫛、指輪、紅、白粉が、女性陣に飛ぶように売れた。老いも若きも女性の美に対する欲求は変わらない。アキナはもちろんだが、キョウちゃんズの客あしらいは見事だった。

「あら、お兄さん、随分別嬪さん連れとるやないのぉ。」
「そうやね、別嬪の彼女さんにはこの簪なんか似合いそうやねぇ。」
「まいどー。」

「ちょっとそこのイケメンのお兄さん。」
「そないイケメンやったら随分モテモテやろ?意中の彼女にこの紅なんかどうやろ?」
「そうやね、紅をプレゼントして、ちょっとずつ返してもろたらええやん。」
「きゃー、恥ずかし。ウキョウ、何言うてんのー。」
「まいどー。」
てな感じの軽妙な掛け合いでどんどん売りまくっている。

 姐御系のサヤ姉は若い女の子、ほんわか癒し系のタヅナはオジサンが寄って来るので、なかなかの売り上げを上げていた。
 口数の少ないサジ姉や、固い口調のホサキは苦戦するかと思ったが、意外や意外、そういう系統が好みの、いわゆる特殊な男たちにモテモテで、ガンガン売り捌いていた。

 男たちは酒のつまみに佃煮を買ってゆく。
 東都では相当量を仕入れたが、仕入品の1/6くらいが売れて、売上は大金貨1枚に届きそうだった。人口の少ない農村でこんなに売れたのだから、町ではもっと売れるだろう。
 ところで、遠目に見ているだけの買いに来ない村人も結構いた。別に買わなくたって、商品を直接見に来るだけもいいのにな。

 日が暮れる前にはもう店終いをし、夕餉の支度を始めた。冬は焚火をして大鍋だ。
 八丁味噌で味付けをして、肉、魚介、野菜、芋などを手あたり次第ぶち込んで、ガンガンに生姜を効かせた。寒い夜に熱々の鍋で体の芯から温めるのだ。

 夜は北斗号での初めての野営だ。村の中なので見張りは立てずに寝た。もちろん、万が一に備えて、北斗号のまわりを取り巻くように、警戒する紐を張って鈴を仕掛けておいたがな。ちなみに二重にしたのがミソだ。

 チリン、チリン…。え?敵襲?村の中なのに?
「おい、敵襲だ。起きろ。」皆を起こして屋上の見張台に上がる。
 人影が3人サブ車両の取り付いている。泥棒か?
 ウキョウが皆にバフの術を掛けると同時に、サキョウが泥棒3人にデバフの術を掛けた。
 サジ姉が賊どもに麻痺の術を掛け、動けなくなったところを皆で取り囲んだ。サヤ姉が剣舞で3人の覆面を切り落とした後、ホサキが槍の柄、タヅナが薙刀の柄で、首根っこを打ち据え、3人を昏倒させ縛り上げた。

 この騒ぎに村人たちが出て来ると3人の正体はすぐに判明した。
 3人は村の厄介者、いわゆる不良グループだったのだ。
 農家の仕事が嫌で村を飛び出し、あちこちで盗みや、カツアゲ、畑荒らしなどを働いており、村人はほとほと手を焼いていると言う。3人のひとりは村長の息子だった。
「おい、わいは村長の息子や。早く縄を解かんかい。」
 不貞腐れた態度に、サヤ姉とサジ姉がかなりご機嫌斜めになっていた。俺はふたりを怒らせたときの怖さを知ってる。こいつら、コネハの盗賊の二の前にならなきゃいいが。
「旅のお方、どうしようもない息子やが、堪忍したってんか。」村長が頭を下げ、村人は溜息をついている。なるほどな、バカ息子が調子に乗る訳だ。
「村長、他のふたりはどうする?」
「それぞれに親がいるよって、わしからは何とも言いようがありまへんな。」自分の息子だけ助けりゃいいってか。このアホ村長、救いようがねぇな。

「おい、お前は村長の息子だからって、自分だけ助けてもらうつもりか?」
「早く縄を解け言うとるやろ?」
「お前、自分の立場が分かってんの?俺はこの村の者じゃねぇからな、村長に従う義務はないんだぜ。このまま盗賊としてどこかの町の衛兵に引き渡してやろうか?」
「親父ぃ。こいつら、親父を舐めとるで。」
「旅のお方、もうこの辺で納めてくれんと、わしも引けなくなりますがな。」虚勢を張って来やがった。少し締めるか。

「ほぅ。面白れぇことを言うじゃねぇか。ライ、3倍。」
 俺は村長宅に3倍雷撃矢を射込んだ。雷撃矢による轟音に、集まっていた村人は地面に全員ひれ伏し、村長宅はと言うと、落雷の直撃を受けたように半壊している。
 村長は腰を抜かしていた。

「村長、よく聞こえなかった。『もうこの辺で納めてくれんと、』の後、何て言ったかもう一遍言ってくれないか。」
「か、か、堪忍しとくれやす。」村長は這い蹲って俺を拝んでいる。
「よく考えて答えろよ。バカ息子をどうしたらいい?」
「もう、どうぞご存分に。」
「だとよ。小僧、言いたいことはあるか?」あれ?失禁しやがった。言葉にならねぇか。
「なぁ、あんたら、何でこんな奴を村長にしてるんだ?」村人全員が項垂れた。何かあるな。まぁ、余所者の俺の知ったこっちゃないがな。

 俺は村人に指示して、縛ったままの3人を、村の木に吊るさせた。一晩頭を冷やさせて、明日はアベヤの町の衛兵に引き渡そう。しばらく強制労働でもさせた方がいいだろう。
「さあ、皆、朝まで間がある。家に帰ってもうひと眠りしようぜ。それから、こいつらには一切構うなよ。」

 あのバカ息子を、サヤ姉とサジ姉の拷問から救ってやったぜ。俺、グッジョブ!人助けの後は、気持ちよく眠れる。
 俺たちも北斗号でもうひと眠りした。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

設定を更新しました。R4/6/5

更新は月水金の週3日ペースを予定しています。

2作品同時発表です。
「精霊の加護」も、合わせてよろしくお願いします。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/121143041/836586739

カクヨム様、小説家になろう様にも投稿します。
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