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射手の統領119 噴煙と大温泉と泥湯
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射手の統領
Zu-Y
№119 噴煙と大温泉と泥湯
昨日今日と連日で、北斗号を曳きながらサクラの火山島を越えて来た馬たちを、ゆっくり休ませるために、夕刻前ではあるが、ここグメオーリの漁村で、早々に野営することにした俺たちは、村長の許可を取って村の中央広場で行商を始めた。
三の島で仕入れた、宰府の柚子胡椒、クマモンの牛乳焼酎、クラキザの本枯節とリッチリ昆布、カゴンマのマサツ切子とアマダイ紬と芋焼酎は、地の物と言うこともあり、ほとんど売れなかった。
一方、商都仕入の簪や櫛などの装飾品、紅や白粉の化粧品は、なかなかグメオーリまでは流通して来ないので、村の女性陣がこぞって買ってくれた。とは言っても小さな村である。売れた量はたかが知れている。
まあでも、皆さん、珍しい品と言うことで喜んで買って行ってくれた。商都で仕入れた品々は、もうあと3割程度しか残っていない。
夕餉の食材として、グメオーリの漁師たちから、地魚をたくさん仕入れたので、それを叩いてつみれ汁に仕立てた。いろいろな地魚からいい出汁が出ている。俺はこうなることを見越して、つみれを鍋に投入する前は、リッチリ昆布だけで出汁を取っていた。本枯節は入れてない。地魚から出る出汁を味わうのに、本枯節を入れてしまったら、魚の出汁同士で喧嘩してしまう。その点、昆布となら上手く調和する。主役となる魚がいる料理には、本枯節は使うべきではないのだ。
赤味噌と生姜をたっぷり効かせたつみれ汁は、俺の大好物のひとつである。
飯とつみれ汁に、刺身と焼魚の地魚料理。野営飯とは思えないほど充実している。うちの嫁たちの料理スキルはかなり高い。俺はマイドラゴンだけでなく、胃袋もしっかり嫁たちに掴まれているのであった。
夕餉を終え、皆で寛いている。今宵は、村の端っこではなく、行商をさせてもらった中央広場で、そのまま野営することになった。これなら見張はなくして、北斗号のまわりに警戒の鈴を張り巡らせるだけでいいだろう。
北斗号のメイン車両のベッドで、すっかりご機嫌に寝入ったその夜半のこと。
ズズズズズ。妙に腹に響く、重低音と言うか振動と言うか、そんな得体の知れない音が響き渡って、俺はびっくりして飛び起きたのだ!
「なんだ?」横を見ると嫁たちはぐっすり眠っている。
取り敢えず様子見に外に出てみたのだが、辺りは真っ暗だ。月明かりも星明りもない。しかし辺りはと言うと、暗いだけで特に代わり映えはしていない。ただ、馬たちがやはり起きていて、脚を掻いたり、首を上下に振ったりとせわしなかった。なんか随分と苛立ってるな。
暗い中、俺は手探りで俺は馬たちの所に行って、ポンポンと首を叩いたのだが、ブファッと煙が散った。何これ?珍白景…。って寒くなるギャグはやめて、手を見ると手に付いてるこれは?…灰?
夜空を見上げるとすっかり曇っている。月も星も何も見えない。北斗号の御者台を見ると灰が積もっている。これって、ひょっとして、サクラの火山島から来た火山灰か!
サクラの火山島は、火も溶岩も噴石も飛ばさず、ひたすら煙を吐く山だと聞いたことがある。もっとも山頂付近では、小さな噴石はたまに降って来るそうだがな。
風の影響なのか、サクラの活火山の噴煙が、グメオーリまで流れて来たようだ。グメオーリの村民たちは静かに寝静まっているから、火山灰が降って来ることには慣れているのかもしれない。
しばらく様子を見てから俺は、大丈夫だろうと判断し、北斗号に戻って眠ることにした。
翌朝、「「うわーっ。」」と言うキョウちゃんズの歓声で目覚めた。どうした?と思って北斗号から出てみると、一面が灰色一色。
灰色の火山灰で辺り一面が覆われていたのだ。まじか?
「アタル兄、ちょっとこっち来てんか?」
「皆、セールイになっとるでー。」
セールイは、4頭の馬たちのうちの1頭で、鈍色、つまり濃い灰色の毛色をしている。振り注ぐ火山灰を纏った他の3頭も灰色だ。厳密にいうと、火山灰の灰色はセールイの鈍色よりちょっと白めの灰色だ。もちろんセールイも火山灰を被っているので、他の3頭と同じ色になっている。
ちなみに他の3頭の毛色は、ノアールが黒色、ヴァイスが白色、ダークが黒褐色だ。馬の毛色用語でいうと、ノアールは青毛、ヴァイスは白毛、ダークは黒鹿毛、そしてセールイは葦毛になる。葦毛と言うと白馬を連想する人が多いが、葦毛はもともと灰色で、うっすらと斑がある。成長するにしたがって色が落ち、灰色から白色に近付いて行くのだ。だから葦毛は、もとから真っ白な白毛とは、厳密に言うと違う。ちなみにセールイの毛色は、葦毛の中では濃い。
すっかり灰色に染まった4頭から、積もった火山灰を下ろしてもとの毛色を取り戻してやった。地面に積もった灰の上を歩くと足跡ができるから、一晩で結構降ったのだろう。今は風向きの関係で、空は晴れている。サクラの火山島を見ると、相変わらずモクモクと噴煙を上げていた。
この辺りの民は火山灰と同居しているのだな。生活の一部になってると言ってもいいか。
メイン車両の屋上の見張台に積もった火山灰も落とし、積もった火山灰の処理が一段落ついたところで、朝餉となった。
あ、そう言えば今日はサヤ姉の誕生日である。降灰騒ぎのせいで、朝イチでお祝いを言えなかった。ちくしょう。
「サヤ姉、お誕生日おめでとう。」
「あら、ありがと♪」
「なんか降灰騒ぎで、朝イチで言えなくてごめん。」
「あら、いいわよ。そんなの。」
皆も口々にお祝いを述べた。
朝餉の後、俺たちはグメオーリの漁村を出発した。
南の島南岸東のオーミス半島の西岸を、弓手にカゴンマ湾を見ながら北上する。湾の奥に近付くほど、進路は北北西から少しずつ西にずれつつあった。海岸線まで山がせり出して来たところで、何やら馬車が何台も停止している。どうやら立往生しているようだ。
見張の式神を飛ばしていたキョウちゃんズから報告が来る。
「アタル兄、崖崩れや。」「おっきな岩で道が塞がっとるで。」
立往生している馬車の横をすり抜け、街道を塞ぐ大岩の前に出た。
ふん、こんな大岩、他愛もないぜ。
メイン車両の屋上である見張台に仁王立ちした俺は、自慢の操龍弓を取り出し、通常矢を取り、射手の軽鎧の下に着込んでいる、鏑シャツの右腹に通常矢を当てた。
鏑シャツは次ノ宮殿下から下賜された逸品で、前面に7つのポケットがあり、金剛鏑を収納できる。馬手を宛がいやすい場所から金剛鏑を収納しており、胸にライ鏑、右胸にウズ鏑、右腹にシン鏑、臍にレイ鏑、鳩尾にエン鏑を収納している。左胸と左腹のポケットは、今のところ空きだ。
「シン、5倍。粉砕するぞ。」
『承知。』
シンの土属性を纏った通常矢は橙色に輝き出し震撃矢となった。その震撃矢を操龍弓に番え、呼吸を整えて縦線を意識する。丹田に気を込め、打ち起こして、弓手を開きつつ手の内を決める。そのまま両肘を開くように引き分ける。肘はひたすら左右に開くイメージ。決して下げるイメージは持たない。左右に開けば自ずと下がるからだ。そして会に入る。そのまま無限に左右に伸びるイメージで気の充実を待つ。
弓手の親指の腹でプチっと的を押す感覚。これで馬手が弦からするっと離れる。張っていた馬手が、反動で矢筋に伸びると、残身では体全体がきれいな大の字になる。
5倍の震撃矢が大岩の中心に命中して、大岩は木端微塵に粉砕され、まわりから「「「「「おおおー!」」」」」と盛大な歓声が上がった。
ここのところの戦闘では、矢継ぎ早に射ることになっていたから、八節をじっくりと気にして引くことはなかった。今回は据物の大岩だから、久しぶりにじっくり丁寧に引くことができた。なんか妙に満足である。
「「「かっこいい。」」」一緒に見張台にいたキョウちゃんズとアキナが、お祈りポーズをしつつ目ん玉をハートマークにしているではないか。ちょっと嬉しい。いや、結構嬉しい♪
そこら中の馬車から礼を言われたので、
「俺はアタル、パーティはセプトだ。」と、大いに宣伝しておいた。笑
街道は開通し、俺たちの北斗号が先頭になって街道を進んだ。なんだか俺たちが、馬車隊を率いているような感じだ。笑
海岸線に沿ってしばらく西北西へ進み、カゴンマ湾最奥東寄りの、ブコクの港町で転進し、北の山脈を目指す。山道をしばらく登ると、大温泉と泥湯で有名なキリシの温泉街である。距離的にはそんなに遠くはなかったので、昼過ぎには着いた。
今日の宿屋は、湧出する温泉が吹き上げる庭園大温泉と泥湯で有名な、キリシ温泉街屈指の温泉宿である。しかも庭園大温泉の泉質は白濁硫黄泉で、俺が一番好きな泉質だ。
庭園大温泉は吹き上げる温泉が打ち湯ともなるし、広大な大浴槽を満たして、大混浴場を形成している。混浴ではあるが、女性専用エリアもある。ちなみに男性専用エリアはない。笑
一画には泥湯コーナーがあり、泥湯は体に塗りたくってパックのように使う。湿った黒灰色の泥が、体に塗りたくって乾くと白灰色になり、パリパリと剝がれるのだが、この間に肌に潤いを与えるのだそうだ。
女性脱衣所から出て来た嫁たちは皆、混浴用の湯浴着を着ていた。あらら。微妙に期待していただけにちょっと残念。でもまぁ、他の男どもの目には晒したくないからいいか。
広大な大浴槽の中で嫁たちと合流した。大浴槽は大体胴の辺りの深さである。
白で薄手の湯浴着が透けないかなぁと期待して胸の辺りを見たのだが、湯にどっぷり浸かると、白濁硫黄泉のせいで見えない。
「アタル兄、どこ見てんねん?」「透けへんかなぁとか期待しとるのやろ?」キョウちゃんズからツッコミが入り、大人嫁たちは呆れ顔である。
ん?大人嫁?そう言えばキョウちゃんズは、さらに背が伸びて、背丈ではだいぶ大人嫁たちに追い付いて来てるな。
「うん、まぁな。ところで、ふたりはいつの間にか背が、皆に追い付いてないか?」
「そう言えばぁ、そうよねぇ。」
「最近…どんどん…伸びてる…。」
「「えっへん。」」と踏ん反り返るキョウちゃんズ。濁り湯の中で見えないが、おそらく両腰に手を当てているに違いない。ふたりが踏ん反り返ったおかげで、湯から上になった胸の先端のポチリが、湯浴着から透けて見えた。ラッキー♪
大浴槽の中程にある、湧出する温泉が吹き上げているところに移動し、吹き上げた温泉を頭から被るなどして、温泉を堪能した。
それから泥湯のコーナーに行き、泥パックを体験した。皆で互いに泥湯を塗りたくりっこして、頭のてっぺんから足の爪先まで全身泥だらけである。笑
しばらくベンチで休んでいると、泥が乾いてパリパリになった。掛け湯をして泥を落とすと、肌がつるつるになった気がする。
そんなこんなで温泉を堪能して部屋に戻る。
今夜の部屋割りは大部屋とデラックスダブルで、デラックスダブルは俺とサヤ姉。
夕餉は皆と一緒に大部屋で摂ったが、典型的な温泉宿の食事で旨かった。
その後は、サヤ姉とデラックスダブルに行き、ふたりで濃厚な夜を過ごした。カゴンマで買った俺の誕生日プレゼント、赤の透け透けランジェリーが場を大いに盛り上げ、誕生日のお祝いに俺が指と舌を駆使して大サービスしたのは言うまでもない。サヤ姉は何度も昇天した。
マイドラゴンだけが、俺も活躍の場を寄越せと文句を言っていた。苦笑
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
設定を更新しました。R4/9/25
更新は月水金の週3日ペースを予定しています。
2作品同時発表です。
「精霊の加護」も、合わせてよろしくお願いします。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/121143041/836586739
カクヨム様、小説家になろう様にも投稿します。
Zu-Y
№119 噴煙と大温泉と泥湯
昨日今日と連日で、北斗号を曳きながらサクラの火山島を越えて来た馬たちを、ゆっくり休ませるために、夕刻前ではあるが、ここグメオーリの漁村で、早々に野営することにした俺たちは、村長の許可を取って村の中央広場で行商を始めた。
三の島で仕入れた、宰府の柚子胡椒、クマモンの牛乳焼酎、クラキザの本枯節とリッチリ昆布、カゴンマのマサツ切子とアマダイ紬と芋焼酎は、地の物と言うこともあり、ほとんど売れなかった。
一方、商都仕入の簪や櫛などの装飾品、紅や白粉の化粧品は、なかなかグメオーリまでは流通して来ないので、村の女性陣がこぞって買ってくれた。とは言っても小さな村である。売れた量はたかが知れている。
まあでも、皆さん、珍しい品と言うことで喜んで買って行ってくれた。商都で仕入れた品々は、もうあと3割程度しか残っていない。
夕餉の食材として、グメオーリの漁師たちから、地魚をたくさん仕入れたので、それを叩いてつみれ汁に仕立てた。いろいろな地魚からいい出汁が出ている。俺はこうなることを見越して、つみれを鍋に投入する前は、リッチリ昆布だけで出汁を取っていた。本枯節は入れてない。地魚から出る出汁を味わうのに、本枯節を入れてしまったら、魚の出汁同士で喧嘩してしまう。その点、昆布となら上手く調和する。主役となる魚がいる料理には、本枯節は使うべきではないのだ。
赤味噌と生姜をたっぷり効かせたつみれ汁は、俺の大好物のひとつである。
飯とつみれ汁に、刺身と焼魚の地魚料理。野営飯とは思えないほど充実している。うちの嫁たちの料理スキルはかなり高い。俺はマイドラゴンだけでなく、胃袋もしっかり嫁たちに掴まれているのであった。
夕餉を終え、皆で寛いている。今宵は、村の端っこではなく、行商をさせてもらった中央広場で、そのまま野営することになった。これなら見張はなくして、北斗号のまわりに警戒の鈴を張り巡らせるだけでいいだろう。
北斗号のメイン車両のベッドで、すっかりご機嫌に寝入ったその夜半のこと。
ズズズズズ。妙に腹に響く、重低音と言うか振動と言うか、そんな得体の知れない音が響き渡って、俺はびっくりして飛び起きたのだ!
「なんだ?」横を見ると嫁たちはぐっすり眠っている。
取り敢えず様子見に外に出てみたのだが、辺りは真っ暗だ。月明かりも星明りもない。しかし辺りはと言うと、暗いだけで特に代わり映えはしていない。ただ、馬たちがやはり起きていて、脚を掻いたり、首を上下に振ったりとせわしなかった。なんか随分と苛立ってるな。
暗い中、俺は手探りで俺は馬たちの所に行って、ポンポンと首を叩いたのだが、ブファッと煙が散った。何これ?珍白景…。って寒くなるギャグはやめて、手を見ると手に付いてるこれは?…灰?
夜空を見上げるとすっかり曇っている。月も星も何も見えない。北斗号の御者台を見ると灰が積もっている。これって、ひょっとして、サクラの火山島から来た火山灰か!
サクラの火山島は、火も溶岩も噴石も飛ばさず、ひたすら煙を吐く山だと聞いたことがある。もっとも山頂付近では、小さな噴石はたまに降って来るそうだがな。
風の影響なのか、サクラの活火山の噴煙が、グメオーリまで流れて来たようだ。グメオーリの村民たちは静かに寝静まっているから、火山灰が降って来ることには慣れているのかもしれない。
しばらく様子を見てから俺は、大丈夫だろうと判断し、北斗号に戻って眠ることにした。
翌朝、「「うわーっ。」」と言うキョウちゃんズの歓声で目覚めた。どうした?と思って北斗号から出てみると、一面が灰色一色。
灰色の火山灰で辺り一面が覆われていたのだ。まじか?
「アタル兄、ちょっとこっち来てんか?」
「皆、セールイになっとるでー。」
セールイは、4頭の馬たちのうちの1頭で、鈍色、つまり濃い灰色の毛色をしている。振り注ぐ火山灰を纏った他の3頭も灰色だ。厳密にいうと、火山灰の灰色はセールイの鈍色よりちょっと白めの灰色だ。もちろんセールイも火山灰を被っているので、他の3頭と同じ色になっている。
ちなみに他の3頭の毛色は、ノアールが黒色、ヴァイスが白色、ダークが黒褐色だ。馬の毛色用語でいうと、ノアールは青毛、ヴァイスは白毛、ダークは黒鹿毛、そしてセールイは葦毛になる。葦毛と言うと白馬を連想する人が多いが、葦毛はもともと灰色で、うっすらと斑がある。成長するにしたがって色が落ち、灰色から白色に近付いて行くのだ。だから葦毛は、もとから真っ白な白毛とは、厳密に言うと違う。ちなみにセールイの毛色は、葦毛の中では濃い。
すっかり灰色に染まった4頭から、積もった火山灰を下ろしてもとの毛色を取り戻してやった。地面に積もった灰の上を歩くと足跡ができるから、一晩で結構降ったのだろう。今は風向きの関係で、空は晴れている。サクラの火山島を見ると、相変わらずモクモクと噴煙を上げていた。
この辺りの民は火山灰と同居しているのだな。生活の一部になってると言ってもいいか。
メイン車両の屋上の見張台に積もった火山灰も落とし、積もった火山灰の処理が一段落ついたところで、朝餉となった。
あ、そう言えば今日はサヤ姉の誕生日である。降灰騒ぎのせいで、朝イチでお祝いを言えなかった。ちくしょう。
「サヤ姉、お誕生日おめでとう。」
「あら、ありがと♪」
「なんか降灰騒ぎで、朝イチで言えなくてごめん。」
「あら、いいわよ。そんなの。」
皆も口々にお祝いを述べた。
朝餉の後、俺たちはグメオーリの漁村を出発した。
南の島南岸東のオーミス半島の西岸を、弓手にカゴンマ湾を見ながら北上する。湾の奥に近付くほど、進路は北北西から少しずつ西にずれつつあった。海岸線まで山がせり出して来たところで、何やら馬車が何台も停止している。どうやら立往生しているようだ。
見張の式神を飛ばしていたキョウちゃんズから報告が来る。
「アタル兄、崖崩れや。」「おっきな岩で道が塞がっとるで。」
立往生している馬車の横をすり抜け、街道を塞ぐ大岩の前に出た。
ふん、こんな大岩、他愛もないぜ。
メイン車両の屋上である見張台に仁王立ちした俺は、自慢の操龍弓を取り出し、通常矢を取り、射手の軽鎧の下に着込んでいる、鏑シャツの右腹に通常矢を当てた。
鏑シャツは次ノ宮殿下から下賜された逸品で、前面に7つのポケットがあり、金剛鏑を収納できる。馬手を宛がいやすい場所から金剛鏑を収納しており、胸にライ鏑、右胸にウズ鏑、右腹にシン鏑、臍にレイ鏑、鳩尾にエン鏑を収納している。左胸と左腹のポケットは、今のところ空きだ。
「シン、5倍。粉砕するぞ。」
『承知。』
シンの土属性を纏った通常矢は橙色に輝き出し震撃矢となった。その震撃矢を操龍弓に番え、呼吸を整えて縦線を意識する。丹田に気を込め、打ち起こして、弓手を開きつつ手の内を決める。そのまま両肘を開くように引き分ける。肘はひたすら左右に開くイメージ。決して下げるイメージは持たない。左右に開けば自ずと下がるからだ。そして会に入る。そのまま無限に左右に伸びるイメージで気の充実を待つ。
弓手の親指の腹でプチっと的を押す感覚。これで馬手が弦からするっと離れる。張っていた馬手が、反動で矢筋に伸びると、残身では体全体がきれいな大の字になる。
5倍の震撃矢が大岩の中心に命中して、大岩は木端微塵に粉砕され、まわりから「「「「「おおおー!」」」」」と盛大な歓声が上がった。
ここのところの戦闘では、矢継ぎ早に射ることになっていたから、八節をじっくりと気にして引くことはなかった。今回は据物の大岩だから、久しぶりにじっくり丁寧に引くことができた。なんか妙に満足である。
「「「かっこいい。」」」一緒に見張台にいたキョウちゃんズとアキナが、お祈りポーズをしつつ目ん玉をハートマークにしているではないか。ちょっと嬉しい。いや、結構嬉しい♪
そこら中の馬車から礼を言われたので、
「俺はアタル、パーティはセプトだ。」と、大いに宣伝しておいた。笑
街道は開通し、俺たちの北斗号が先頭になって街道を進んだ。なんだか俺たちが、馬車隊を率いているような感じだ。笑
海岸線に沿ってしばらく西北西へ進み、カゴンマ湾最奥東寄りの、ブコクの港町で転進し、北の山脈を目指す。山道をしばらく登ると、大温泉と泥湯で有名なキリシの温泉街である。距離的にはそんなに遠くはなかったので、昼過ぎには着いた。
今日の宿屋は、湧出する温泉が吹き上げる庭園大温泉と泥湯で有名な、キリシ温泉街屈指の温泉宿である。しかも庭園大温泉の泉質は白濁硫黄泉で、俺が一番好きな泉質だ。
庭園大温泉は吹き上げる温泉が打ち湯ともなるし、広大な大浴槽を満たして、大混浴場を形成している。混浴ではあるが、女性専用エリアもある。ちなみに男性専用エリアはない。笑
一画には泥湯コーナーがあり、泥湯は体に塗りたくってパックのように使う。湿った黒灰色の泥が、体に塗りたくって乾くと白灰色になり、パリパリと剝がれるのだが、この間に肌に潤いを与えるのだそうだ。
女性脱衣所から出て来た嫁たちは皆、混浴用の湯浴着を着ていた。あらら。微妙に期待していただけにちょっと残念。でもまぁ、他の男どもの目には晒したくないからいいか。
広大な大浴槽の中で嫁たちと合流した。大浴槽は大体胴の辺りの深さである。
白で薄手の湯浴着が透けないかなぁと期待して胸の辺りを見たのだが、湯にどっぷり浸かると、白濁硫黄泉のせいで見えない。
「アタル兄、どこ見てんねん?」「透けへんかなぁとか期待しとるのやろ?」キョウちゃんズからツッコミが入り、大人嫁たちは呆れ顔である。
ん?大人嫁?そう言えばキョウちゃんズは、さらに背が伸びて、背丈ではだいぶ大人嫁たちに追い付いて来てるな。
「うん、まぁな。ところで、ふたりはいつの間にか背が、皆に追い付いてないか?」
「そう言えばぁ、そうよねぇ。」
「最近…どんどん…伸びてる…。」
「「えっへん。」」と踏ん反り返るキョウちゃんズ。濁り湯の中で見えないが、おそらく両腰に手を当てているに違いない。ふたりが踏ん反り返ったおかげで、湯から上になった胸の先端のポチリが、湯浴着から透けて見えた。ラッキー♪
大浴槽の中程にある、湧出する温泉が吹き上げているところに移動し、吹き上げた温泉を頭から被るなどして、温泉を堪能した。
それから泥湯のコーナーに行き、泥パックを体験した。皆で互いに泥湯を塗りたくりっこして、頭のてっぺんから足の爪先まで全身泥だらけである。笑
しばらくベンチで休んでいると、泥が乾いてパリパリになった。掛け湯をして泥を落とすと、肌がつるつるになった気がする。
そんなこんなで温泉を堪能して部屋に戻る。
今夜の部屋割りは大部屋とデラックスダブルで、デラックスダブルは俺とサヤ姉。
夕餉は皆と一緒に大部屋で摂ったが、典型的な温泉宿の食事で旨かった。
その後は、サヤ姉とデラックスダブルに行き、ふたりで濃厚な夜を過ごした。カゴンマで買った俺の誕生日プレゼント、赤の透け透けランジェリーが場を大いに盛り上げ、誕生日のお祝いに俺が指と舌を駆使して大サービスしたのは言うまでもない。サヤ姉は何度も昇天した。
マイドラゴンだけが、俺も活躍の場を寄越せと文句を言っていた。苦笑
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設定を更新しました。R4/9/25
更新は月水金の週3日ペースを予定しています。
2作品同時発表です。
「精霊の加護」も、合わせてよろしくお願いします。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/121143041/836586739
カクヨム様、小説家になろう様にも投稿します。
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(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
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