射手の統領

Zu-Y

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射手の統領169 秘湯ビーチク温泉郷

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射手の統領
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№169 秘湯ビーチク温泉郷

 タジャー湖の東湖畔で野営した。
 野営なので、夜は交代で見張りをしたが、何も出なかった。

 朝餉をちゃっちゃと済まして、タジャーの町の中心部の冒険者ギルドへ行き、昨日アタキで受けた、街道復旧クエストの達成報告をした。当然、受付嬢が、固まった。
「これ、共同クエストですよ。」
「そうだな。昨日、アタキで受注したときはまだ参加パーティを募集中だったからな。」
「昨日アタキで受注したって…、森林を切り開きながらで、アタキからタジャーまで1日では来られる訳ないでしょう?」
「そうは言っても来ちゃったからな。」

「アタル、受付の女の子を揶揄ってないで、とっとと報告済ませなさいよ。ビーチク温泉に行くんでしょう?」
「あ、そうだった。
 実はこの辺りで道が森に飲まれて道が塞がってたのな。そこで流邏石でアタキに飛んでさ、街道復旧クエストを受けたんだよ。で、戻ってさ、この辺からこの辺までの森に飲まれてたところを、風撃矢と風属性の陽の術で竜巻を起こして、竜巻の針路をコントロールしてさ、道を埋めてた樹々をなぎ倒して来たんだよ。」
 俺は地図を使って説明した。
「竜巻をコントロールしたんですか?」
「せやでー。」
「うちらの得意技やねん。」
「事実確認に時間が掛かるだろうから、評価と報酬は、本隊と連絡が取れてからでいいぜ。取り敢えず、報告だけ受けといてよ。」

 半信半疑の受付嬢を置いて、タジャーギルドを出発。北東に進んで目指すはビーチク温泉郷。タジャーの町から北東に山峡の道を進んて行く。1本道なので迷わない。
 道は緩やかな上りだが、うちの曳馬4頭は登りを得意としているから、グイグイと進んで行った。

 大して進まないうちにもう温泉街となった。まじで?ビーチク温泉に到着?と思ったら、ビーチク温泉はさらにこの先で、ここはタジャー湖高原温泉だった。ここで俺の眼を惹いたのが、『名物檜おがくず酵素風呂』の看板。何、これ?
 北斗号の見張台にいた俺は、伝声管で御者席に声を掛けた。
「あの看板にある『檜おがくず酵素風呂』って寄ってみようぜ。」
「やはりな。ちょうどな、アタルが寄ろうと言い出しそうだと、話しておったのだ。」伝声管の向こうでケラケラと笑い声が聞こえる。くっそ、まじかよ。苦笑

 酵素液を含ませた檜のおがくずに埋まって15分我慢する。これが、檜おがくず酵素風呂の正体だった。三の島のビュドヤの砂風呂のおがくずバージョンって言えばピンと来るだろうか?
 おがくずだから砂よりは軽いだろうと思っていたが、酵素液を浸みこませているので、思ったほど軽くはなかった。
 酵素液のせいでおがくずが発酵して熱が出る仕組みのようだ。
 こんなものか…と思っていられたのは10分まで。10分を過ぎると凄い汗が出て来て、結構、いや、かなりきつかった。
 15分経ってようやく出してもらうと、もう汗だくでへとへとである。いやあ、まじでいい汗掻いたわ。
 ついでに日帰り温泉にも入った。

 たっぷり水分を補給し、再び北斗号でビーチク温泉を目指しているが、嫁たちもたっぷり汗を掻いたようで、あれは美容にいいとか、デトックスが排出されたとか、もう、檜おがくず酵素風呂の話題で持ち切りだった。
 最初に寄ろうと言った俺を褒めておくれ。笑

 それからしばらく行くとビーチク温泉である。数件の湯宿が点在しているが、俺たちはそのうちのひとつに逗留することにした。囲炉裏付きの風情のある大部屋を取って、大露天風呂へ。
 この湯宿の源泉は4種類もあるそうだが、どれも白濁硫黄泉で、微妙に泉質が違う。
 大露天風呂は混浴で、広々としたぬる湯だった。他の客もいたので、嫁たちは湯浴着を着ての入浴であった。他の客がいなければ、何も着けずに入っていたので、ちょっと残念である。笑
「いい湯やなぁ。」「ほんまや。」
 温泉には眼がないキョウちゃんズがご満悦である。

 すると居合わせた爺さんが、キョウちゃんズに話し掛けて来た。
「おや、嬢ぢゃんたぢ、西の人でねだか?」
「せやでー。」
「おっちゃんは地元の人なん?」
「いんや、おらはリモーカだ。
 んだどもよぐ来だな。ごごんとご、翠樹龍が荒れで、木が道さ塞いで、道さ通れねもんで、旅の人が少ねんだ。」
「それやったら、もう大丈夫やで。」
「うちらが吹き飛ばして来たさかいな。」
「わっはっは。そいづあ、どうもなあ。皆、助がるべよお。」
 爺さん、信じてないっぽい。笑

「うちら、この後、リモーカに行くんやで。」
「そんでな、わんこそばの大食いチャレンジするんや。」おい、それ、いつの間に誰が決めた?
「んだか。んだかー。いやー、ここで会ったのも何かの縁だべな。おらはな、リモーカでわんこそばの店をやっでたんだ。」
「今はやってへんの?」
「もう隠居しだでな。店は息子が継いでら。そんだ、リモーカ来だらよ、うちの店に寄ってくなんしぇ。」

 この爺さん、リモーカのわんこそば屋の隠居だったのか。リモーカではきっと寄ると約束して、店の場所と名前を聞いた。『わんこそばリモーカ』って、そのまんまの店名だった。
 爺さん、ここでキョウちゃんズに声掛けたこと、きっと後悔するんだろうなぁ。笑

 夕餉は、芋煮鍋をメインに、山菜、イワナ、鹿肉、鳥肉など、郷土料理が何品も出て来て豪勢だった。特に、囲炉裏の火で串焼きにするイワナは格別だ。
 それとどぶろく。
 嫁たちの白い非難の眼を浴びつつも、男には引けないときがある。こんなに風情のある宿で、地酒のどぶろくがあると言うのに、これを呑まいでか。

 熱々のイワナを竹串に刺したままガブリのほふほふと来て、もっきりの冷のどぶろくをひと口含んで、ゴクリと行く。
 あー滲みる。イワナの塩味と、どぶろくの甘みのハーモニーと言ったら、また格別ではないの。
「旨いよ。皆もどう?」
「じゃあ…、ひと口…だけ…。」サジ姉が反応すると、他の嫁たちも反応して、
「あら、美味しいわ。」「美味でござる。」「これはぁ、ほんとにぃ、美味びみぃ。」と、もっきりが嫁たちのところをひと回りして、すっかり空になって帰って来たのだった。泣
 最初は白い眼で見たくせに、結局、嫁たちは皆、どぶろくのもっきりを頼んでたし。笑

 夕餉の後も夜の露天のぬる湯にゆったり浸かり、秘湯ビーチク温泉を満喫したのだった。

 俺たちが借りた大部屋は、離れの民家風の建物で、囲炉裏のある大広間の他、小部屋があった。
 小部屋は当然むふふ部屋となる。この日の晩は、サヤ姉とサジ姉と3人でしっぽり楽しんだのだった。

 翌日、昨日、混浴大露天風呂で知り合ったリモーカのわんこそば屋のご隠居が、供を連れて帰って行った。湯宿の仲居さんによると、爺さんはここの常連さんらしい。爺さんのわんこそば屋は、リモーカでも1・2を争う名店だとか。
 リモーカ行きの楽しみがひとつ増えた。

 俺たちはそのまま4連泊で湯治を楽んだ。数件あるビーチク温泉郷の湯宿は、湯巡りもやっていたので、当然この湯宿を起点に、日替わりで湯巡りもやった。°の湯宿も個性的で味わいがあった。
 夜、2泊目がホサキとシノブ、3泊目がキョウちゃんズ、4泊目がアキナとタヅナ、でそれぞれ楽しんだのだった。

 昼は湯巡り、夜は嫁巡りである。笑

 そうそう、3日目のキョウちゃんズのときだけどな、ニアからタジャーの街道の切り開きのときに「先っぽだけや。」とか「奥まで入れてへん。」とか、下ネタをかまして来やがったので、たっぷり奥までぶち込んでやった。笑

 5日目に湯宿を発つとき、しっかり流邏石を登録したのは言うまでもなかろう。この湯宿には必ずまた来る。
 結局チェックアウト時刻ギリギリまで湯宿にいて、混浴大露天風呂を楽しみ、南西に道を進んで、タジャーを目指す。途中、檜おがくず酵素風呂に寄り道するかと、嫁たちに尋ねたら、満場一致で、寄る!との返事だった。笑
 思い出して欲しい。最初にここに寄ろうと言ったのは誰だったかを。そして、『俺が寄ろうと言うだろうと思ったが、やっぱり言って来た。』と言ってけらけら笑っていたのは誰たちだったかを!
 まあでも心の広い俺はそんな些細なことは気にせず、檜おがくず酵素風呂でいい汗を流したのだった。

 タジャーの町に到着し、ギルドに入ると、アタキ・タジャー間の街道復旧共同クエストが終わっていた。他の冒険者たちが、俺たちセプトが切り開いた街道を固めて街道が復旧したのだ。
 受付嬢が、恐る恐る、
「参加パーティで均等割の報酬です。」と言うので、
「もちろんそれで十分だ。」と言ったら、あからさまにホッとしていた。
 俺が分け前を多く寄越せとか、無体なことを言うとでも思っていたのであろうか?実に心外である。

 この日はダジャーの町で宿を取って、明日のリモーカに向けての山越えに、英気を養うことにした。
 山髙屋タジャー支店に北斗号を預け、その近くの宿屋に宿泊にチェックインした。今日は嫁会議の日なので俺はシングル。嫁たちは大部屋を取った。どうせ嫁会議で、ピーチクパーチクとガールズトークに花を咲かせるのだろう。明日の行程もあるし、夜更かしだけはしないで欲しい。

 夕餉も宿屋の食堂でありきたりなもので済まし、嫁会議の日だったことと、町の宿屋だったこともあり、俺はシングル部屋で、早めに眠ったのだった。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 毎週月曜22時に投稿します。

 以下の2作品も合わせてよろしくお願いします。
「精霊の加護」https://www.alphapolis.co.jp/novel/121143041/836586739
「母娘丼W」https://www.alphapolis.co.jp/novel/121143041/265755073

 カクヨム様、小説家になろう様にも投稿します。
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