8 / 33
8.
しおりを挟む
学園で過ごすうちに俺は多くを学び、多くの遊びを覚えた。取り巻き共と一緒に街で買食いしたり、平民の商人から安く品物を仕入れたり、変な店で女を侍らせたり、たくさんの遊びを楽しんだ。
学びよりも遊ぶことのほうが多くなった気がするが、それで俺の心が癒されるので、それはそれで良いことだ。そうでもしない限り、リリィとの差を見せつける苦痛が少しも癒えないのだから。いや、それでも不十分だった。
一歳年下の弟が編入した頃になる。俺が運命の出会いをしたのは。それは成績が最下位になって落ち込んで気晴らしに学園の花園を眺めていたときだった。
「あの、見間違いでなければマグーマ殿下ですよね?」
不意に背後から声がかかったので振り返る。そこに立っていたのは一人の令嬢であった。制服から俺よりも一歳年下のようだ。
「……」
華奢で白い肌が印象的な、ガラス細工のような繊細な女性だった。言っては何だが、令嬢として完璧すぎて美しすぎて可愛げがないリリィと違って、彼女のことを可愛いと思ってしまった。
「そうだが、お前は?」
「アノマ・メアナイトです」
「ふうん……親の爵位は?」
「男爵です」
「そうか」
メアナイト男爵。聞いたことがない貴族の名前。いや、俺は貴族の家名なんて上級貴族の名前しか覚えていないから知らなくて当然だった。だが、男爵家の令嬢に声をかけられて俺は驚いた。リリィとの事があってろくに令嬢に声をかけられることがなくなっていたのだから。
そういうわけだから、女の子に声をかけられて俺は少しいい気になった。男爵令嬢アノマ・メアナイトとの関係はそこから始まった。
◇
気晴らしにアノマにリリィに対する愚痴を聞いてもらった。我ながら初対面の女の子にあまり激しい愚痴をぶつけるのは格好悪い、と思っていたのだが心の中で不満が相当溜まっていたようだ。気がつくと止まらなくなっていた。
「――ということが今まであったんだ。だから俺はリリィが嫌いだ!」
最後の方は恥も外聞もなく心からの叫びを口に出してしまっていた。我ながら本当に恥ずかしい。
「わりーな。いきなりこんな話を聞かせちまって。忘れてくれ」
「そのようなことをおっしゃらないでください!」
だが、話を終えるとアノマは真剣な顔で言い放った。
「殿下の何が悪いんですか!?」
「ああ? こんな話を聞かせちまって、」
「そんなのは元はと言えばリリィさん達のせいじゃないですか!」
「ん? ああ、そうだな」
「周りに見せつけるかのように助言や手助けをするリリィさんのせいで殿下が悪く言われているんでしょう!? そんな性悪女ってムカつきますよ! きっと殿下の気分が晴れないのもリリィさんがわざとそうしてるからに違いありません!」
「っ!」
アノマはそう断言した。
学びよりも遊ぶことのほうが多くなった気がするが、それで俺の心が癒されるので、それはそれで良いことだ。そうでもしない限り、リリィとの差を見せつける苦痛が少しも癒えないのだから。いや、それでも不十分だった。
一歳年下の弟が編入した頃になる。俺が運命の出会いをしたのは。それは成績が最下位になって落ち込んで気晴らしに学園の花園を眺めていたときだった。
「あの、見間違いでなければマグーマ殿下ですよね?」
不意に背後から声がかかったので振り返る。そこに立っていたのは一人の令嬢であった。制服から俺よりも一歳年下のようだ。
「……」
華奢で白い肌が印象的な、ガラス細工のような繊細な女性だった。言っては何だが、令嬢として完璧すぎて美しすぎて可愛げがないリリィと違って、彼女のことを可愛いと思ってしまった。
「そうだが、お前は?」
「アノマ・メアナイトです」
「ふうん……親の爵位は?」
「男爵です」
「そうか」
メアナイト男爵。聞いたことがない貴族の名前。いや、俺は貴族の家名なんて上級貴族の名前しか覚えていないから知らなくて当然だった。だが、男爵家の令嬢に声をかけられて俺は驚いた。リリィとの事があってろくに令嬢に声をかけられることがなくなっていたのだから。
そういうわけだから、女の子に声をかけられて俺は少しいい気になった。男爵令嬢アノマ・メアナイトとの関係はそこから始まった。
◇
気晴らしにアノマにリリィに対する愚痴を聞いてもらった。我ながら初対面の女の子にあまり激しい愚痴をぶつけるのは格好悪い、と思っていたのだが心の中で不満が相当溜まっていたようだ。気がつくと止まらなくなっていた。
「――ということが今まであったんだ。だから俺はリリィが嫌いだ!」
最後の方は恥も外聞もなく心からの叫びを口に出してしまっていた。我ながら本当に恥ずかしい。
「わりーな。いきなりこんな話を聞かせちまって。忘れてくれ」
「そのようなことをおっしゃらないでください!」
だが、話を終えるとアノマは真剣な顔で言い放った。
「殿下の何が悪いんですか!?」
「ああ? こんな話を聞かせちまって、」
「そんなのは元はと言えばリリィさん達のせいじゃないですか!」
「ん? ああ、そうだな」
「周りに見せつけるかのように助言や手助けをするリリィさんのせいで殿下が悪く言われているんでしょう!? そんな性悪女ってムカつきますよ! きっと殿下の気分が晴れないのもリリィさんがわざとそうしてるからに違いありません!」
「っ!」
アノマはそう断言した。
37
あなたにおすすめの小説
断罪の準備は完璧です!国外追放が楽しみすぎてボロが出る
黒猫かの
恋愛
「ミモリ・フォン・ラングレイ! 貴様との婚約を破棄し、国外追放に処す!」
パルマ王国の卒業パーティー。第一王子アリオスから突きつけられた非情な断罪に、公爵令嬢ミモリは……内心でガッツポーズを決めていた。
(ついにきたわ! これで堅苦しい王妃教育も、無能な婚約者の世話も、全部おさらばですわ!)
その断罪、本当に正しいですか? ――一度死んだ悪女は、冷酷騎士にだけ恋をする
くろねこ
恋愛
公爵令嬢リリアーネ・アルフェルトは、
聖女と王国第一王子に嵌められ、
悪女として公開断罪され、処刑された。
弁明は許されず、真実を知る者は沈黙し、
彼女は石を投げられ、罵られ、
罪人として命を奪われた――はずだった。
しかし、彼女は教会の地下で目を覚ます。
死を代償に得たのは.........
赦しは選ばない。
和解もしない。
名乗るつもりもない。
彼女が選んだのは、
自分を裁いた者たちを、
同じ法と断罪で裁き返すこと。
最初に落ちるのは、
彼女を裏切った小さな歯車。
次に崩れるのは、
聖女の“奇跡”と信仰。
やがて王子は、
自ら築いた裁判台へと引きずり出される。
かつて正義を振りかざした者たちは、
自分が断罪される未来を想像すらしていなかった。
悪女は表舞台に立たない。
だがその裏側で、
嘘は暴かれ、
罪は積み上がり、
裁きは逃げ場なく迫っていく。
これは、
一度死んだ悪女が、
“ざまぁ”のために暴れる物語ではない。
――逃げ場のない断罪を、
一人ずつ成立させていく物語だ。
転生令嬢は捨てられた元婚約者に微笑む~悪役にされたけど、今さら愛されてももう遅い~
exdonuts
恋愛
前世で酷く裏切られ、婚約破棄された伯爵令嬢リリアーナ。涙の最期を迎えたはずが、気づけば婚約破棄より三年前の自分に転生していた。
今度こそもう誰にも傷つけられない——そう誓ったリリアーナは、静かに運命を書き換えていく。かつて彼女を見下し利用した人々が、ひとり、またひとりと破滅していく中……。
「リリアーナ、君だけを愛している」
元婚約者が涙ながらに悔やんでも、彼女の心はもう戻らない。
傷ついた令嬢が笑顔で世界を制す、ざまぁ&溺愛の王道転生ロマンス!
婚約破棄された悪役令嬢、放浪先で最強公爵に溺愛される
鍛高譚
恋愛
「スカーレット・ヨーク、お前との婚約は破棄する!」
王太子アルバートの突然の宣言により、伯爵令嬢スカーレットの人生は一変した。
すべては“聖女”を名乗る平民アメリアの企み。でっち上げられた罪で糾弾され、名誉を失い、実家からも追放されてしまう。
頼る宛もなく王都をさまよった彼女は、行き倒れ寸前のところを隣国ルーヴェル王国の公爵、ゼイン・ファーガスに救われる。
「……しばらく俺のもとで休め。安全は保証する」
冷徹な印象とは裏腹に、ゼインはスカーレットを庇護し、“形だけの婚約者”として身を守ってくれることに。
公爵家で静かな日々を過ごすうちに、スカーレットの聡明さや誇り高さは次第に評価され、彼女自身もゼインに心惹かれていく。
だがその裏で、王太子とアメリアの暴走は止まらず、スカーレットの両親までもが処刑の危機に――!
「無能」と切り捨てられた令嬢、覚醒したら皆が土下座してきました
ゆっこ
恋愛
「リリアーヌ。君には……もう、婚約者としての役目はない」
静まり返った大広間に、元婚約者である王太子アランの冷たい声だけが響く。
私はただ、淡々とその言葉を受け止めていた。
驚き? 悲しみ?
……そんなもの、とっくの昔に捨てた。
なぜなら、この人は——私をずっと“無能”と笑ってきた男だからだ。
冷遇された公爵令嬢は、敵国最恐の「氷の軍神」に契約で嫁ぎました。偽りの結婚のはずが、なぜか彼に溺愛され、実家が没落するまで寵愛されています
メルファン
恋愛
侯爵令嬢エリアーナは、幼い頃から妹の才能を引き立てるための『地味な引き立て役』として冷遇されてきました。その冷遇は、妹が「光の魔力」を開花させたことでさらに加速し、ついに長年の婚約者である王太子からも、一方的な婚約破棄を告げられます。
「お前のような華のない女は、王妃にふさわしくない」
失意のエリアーナに与えられた次の役割は、敵国アースガルドとの『政略結婚の駒』。嫁ぎ先は、わずか五年で辺境の魔物を制圧した、冷酷非情な英雄「氷の軍神」こと、カイン・フォン・ヴィンター公爵でした。
カイン公爵は、王家を軽蔑し、感情を持たない冷徹な仮面を被った、恐ろしい男だと噂されています。エリアーナは、これは五年間の「偽りの契約結婚」であり、役目を終えれば解放されると、諦めにも似た覚悟を決めていました。
しかし、嫁いだ敵国で待っていたのは、想像とは全く違う生活でした。
「華がない」と蔑まれたエリアーナに、公爵はアースガルドの最高の仕立て屋を呼び、豪華なドレスと宝石を惜しみなく贈呈。
「不要な引き立て役」だったエリアーナを、公爵は公の場で「我が愛する妻」と呼び、侮辱する者を許しません。
冷酷非情だと噂された公爵は、夜、エリアーナを優しく抱きしめ、彼女が眠るまで離れない、極度の愛妻家へと変貌します。
実はカイン公爵は、エリアーナが幼い頃に偶然助けた命の恩人であり、長年、彼女を密かに想い続けていたのです。彼は、エリアーナを冷遇した実家への復讐の炎を胸に秘め、彼女を愛と寵愛で包み込みます。
一方、エリアーナを価値がないと捨てた実家や王太子は、彼女が敵国で女王のような寵愛を受けていることを知り、慌てて連れ戻そうと画策しますが、時すでに遅し。
「我が妻に手を出す者は、国一つ滅ぼす覚悟を持て」
これは、冷遇された花嫁が、敵国の最恐公爵に深く愛され、真の価値を取り戻し、実家と王都に「ざまぁ」を食らわせる、王道溺愛ファンタジーです。
【完結】婚約破棄された令嬢ですが、冷たい官僚様に溺愛されています
深山きらら
恋愛
婚約を破棄され、すべてを失った貴族令嬢イザベラ。
絶望の夜、彼女は“香り”の才能に気づき、香水商として第二の人生を歩み始める。
そんな彼女の前に現れたのは、冷静な官僚カイル。
無表情の奥に秘めた情熱が、少しずつイザベラの心を解きほぐしていく。
しかし、香水を巡る陰謀と権力の罠が二人を襲う――。
香りが記憶を呼び起こし、愛が未来を選び取る。
再生と恋のロマンス・ファンタジー。
婚約破棄されたので辺境でスローライフします……のはずが、氷の公爵様の溺愛が止まりません!』
鍛高譚
恋愛
王都の華と称されながら、婚約者である第二王子から一方的に婚約破棄された公爵令嬢エリシア。
理由は――「君は完璧すぎて可愛げがない」。
失意……かと思いきや。
「……これで、やっと毎日お昼まで寝られますわ!」
即日荷造りし、誰も寄りつかない“氷霧の辺境”へ隠居を決める。
ところが、その地を治める“氷の公爵”アークライトは、王都では冷酷無比と恐れられる人物だった。
---
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる