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しおりを挟む気がつけば俺は王宮にいた。何が起こったか分からない。いや違う、俺は思い出したくないだけだ。婚約破棄するつもりが、返されるという情けない事になった自分とアノマのことと。
しかし、現実逃避したくても許してくれない人は多かった。だからこそ、今は要人達に囲まれていた。その中にはオルド・エナジーや宰相のスイツ・マネーの姿が見えた。悲痛な顔をする者と怒りを顔に浮かべる者が見える……思っていたよりも大事になってしまった。これが恐怖ってやつなのか?
「殿下、息子から事の顛末は聞いておりますがなんということをなさったのです……事情を教えてだされ……」
オルドが狼狽した様子で俺に話しかけてくる。いつもなら鬱陶しいと感じるものだが、今は話を聞いてもらったほうがいいと思えてならなかった。気が重いけどな……
「実は――」
俺は不思議と全部話してしまっていた。アノマと仲良くなって、ロカリスの提案で婚約破棄を決意して、アノマと一緒にいたくてリリィに婚約破棄して、失敗したらリリィから婚約破棄されて……。
オルドや他の者達も話を聞いていたが、話し終えるとオルドはため息をついた。
「なんとういうことを……殿下、貴方は自分の意に沿わぬという理由でリリィ嬢を遠ざけようと婚約破棄をなさったわけですな」
「そのきっかけが男爵令嬢に気を取られてうつつを抜かしたこと……情けない限りですな。あれほど貴方をサポートしていたリリィ嬢に対して恩を仇で返すとは」
宰相のスイツが険しい顔で口を出した。……何が俺をサポートだよ。リリィは俺のことを馬鹿にしていただけだ。
「殿下、貴方がリリィ嬢に劣等感を抱いていたことは知っておりましたが、それで男爵令嬢に執心するのは呆れるばかりですな」
「な、何だと!?」
宰相、こいつは俺の気持ちを分かっていながら俺を蔑むのか!
「殿下! 貴方に口答えする資格などない! 己の気まぐれで他の女を侍らせて婚約者を遠ざけようとするなど王子の風上にも置けぬわ!」
「ひっ!」
しまった、将軍のコマンダ・ビストゾンがいたんだった……ミスター・バイオレンスの前では俺も迂闊に強気に出られない……最悪だ。
「マグーマ殿下、貴方がティレックス侯爵になるのはもう確定したようなものです。すぐにでも領の準備を始めなければなりませんな」
「はぁ……我々の仕事がまた増えてしまいましたな。ただでさえ貴方の苦情の対応をしていたのに……」
何がティレックス侯爵だよ。っていうかもうすでに確定事項かよ!
「それにしてもロカリス・メアナイト男爵か。最近悪い噂を聞くあの男が殿下をそそのかしたのか……」
「え?」
外務大臣のバード・アイスエージが考え込む。いや、何いってるんだ? ロカリスは立派な男爵だぞ?
「外務大臣どういうことです?」
「マグーマ殿下一人ではこのような事をしようとは思い至らないでしょう。ということはおそらく誰かが悪知恵を吹き込んだと思われます。先程殿下が口にしていたロカリス・メアナイト男爵が一番怪しい。ご令嬢共々詳しい話を聞かなければなりません」
「ッ!?」
そんな! 俺のせいでアノマとロカリスが疑われるなんて、あまりにも酷い! あの二人だけが俺の味方だったのに!
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