102 / 149
102.一か月?(アクセイル子爵)
しおりを挟む
公爵令嬢サエナリア・ヴァン・ソノーザが行方不明になってから約一か月。王家からソノーザ家に対して裁判を起こすことが決まった。サエナリアが行方不明になった原因とソノーザ公爵の過去の罪の追及が主な内容となる。裁判は近日中に行われる。
「……ということで君にも裁判に来てほしいということなんだ、ミルナ」
アクセイル子爵家の屋敷の一室。屋敷の嫡男エンジ・リュー・アクセイルは幼馴染の少女と相談していた。相談の内容は裁判への出席だった。
「分かりましたエンジ様。むしろお礼を申し上げたいくらいです。サエナリアお嬢様を虐げた者たちが断罪されることは決定事項でしょうから」
「そうか。そうだな……」
幼馴染の少女のミルナは元貴族令嬢。元の名前はミルナ・ウィン・コキア。ソノーザ家に蹴落とされて没落したコキア子爵の娘だ。そして、サエナリアの専属侍女でもあった。
「ソノーザ家の……ベーリュ・ヴァン・ソノーザの断罪。ここまでくるのに長い時間がかかりました。後は裁判の結果に任せるだけです」
「ミルナ……」
一か月ほど前に、ミルナはソノーザ家を後にしてエンジに連れられてアクセイル子爵家の屋敷にやってきた。エンジの実家であるため、彼の幼馴染のミルナは歓迎された。何しろちょうどエンジの両親が屋敷にいたため、この二人にも泣いて喜ばれたからだ。『無事だったんだね!』とか『こんなに綺麗になって!』と感極まった両親の顔をエンジは忘れられない。
その後のミルナの話も。
「(ミルナにとって一番望んだ日がやっと来たということか)」
ミルナは屋敷で少し休んでから、エンジとその両親にこれまでのことをある程度話した。コキア夫妻の死、父の部下の手引きで侍女になったこと、サエナリアの専属侍女として働いたこと、そしてサエナリアのことも。
「(ミルナの過去。貴族令嬢から平民になって、侍女になって仇の家で働いて、サエナリア様に忠誠を誓って……そして今日にまでたどり着くには大変な思いがあったんだろうな……)」
ミルナはサエナリアに忠誠を誓ったという。その思いに嘘偽りはエンジも両親も感じなかった。おそらく本当のことなのだろうが、ソノーザ家は親の敵と言ってもいいはずだ。そんな家の娘に忠誠を誓っているということは彼女たちの間には身分や立場の違いを超えた絆があるのだろう。エンジにはそう思えてならなかった。
「(サエナリア様か。彼女に比べて俺はミルナのことを幼馴染の姿しか知らないのだろうな。コキア家が没落してからの間、ミルナの力になってやれなかったことが本当に悔しい)」
コキア子爵は没落してから行方が分からなかった。エンジの父アクセイル子爵は心配して行方を必死に探していたが結局ミルナがやってくるまで分からなかった。コキア子爵夫妻の死を知ったアクセイル子爵は深く悲しんだがミルナが生き残ってくれたことを『君だけでも生きててくれてよかった』と言った。
「(父さんはコキア子爵とは仲が良かったからな。俺達と同じか)」
ミルナがやってきた翌日に歓迎会を開いた。アクセイル夫妻とその家臣の全員も参加するほど盛り上がることになった。当のミルナはそこまでしなくていいと言っていたが、アクセイル夫妻に押し切られた。
「(あの時は、昔を思い出させてくれたな)」
歓迎会ではミルナは涙をこぼすほど喜んでいた。その涙にエンジも両親ももらい泣きしてしまった。だからこそ、エンジはある決心を決めた。
「(レフトンに相談して手はずを整えられてよかった。あえてミルナに内緒にすると言ったらやる気出してくれるのはどうかと思ったがな)」
この一か月、エンジはミルナのために裁判が終わった後のことも考えていた。彼女の幸せを思って。
※今日から二日に一度の投稿のペースでやっていきます。
「……ということで君にも裁判に来てほしいということなんだ、ミルナ」
アクセイル子爵家の屋敷の一室。屋敷の嫡男エンジ・リュー・アクセイルは幼馴染の少女と相談していた。相談の内容は裁判への出席だった。
「分かりましたエンジ様。むしろお礼を申し上げたいくらいです。サエナリアお嬢様を虐げた者たちが断罪されることは決定事項でしょうから」
「そうか。そうだな……」
幼馴染の少女のミルナは元貴族令嬢。元の名前はミルナ・ウィン・コキア。ソノーザ家に蹴落とされて没落したコキア子爵の娘だ。そして、サエナリアの専属侍女でもあった。
「ソノーザ家の……ベーリュ・ヴァン・ソノーザの断罪。ここまでくるのに長い時間がかかりました。後は裁判の結果に任せるだけです」
「ミルナ……」
一か月ほど前に、ミルナはソノーザ家を後にしてエンジに連れられてアクセイル子爵家の屋敷にやってきた。エンジの実家であるため、彼の幼馴染のミルナは歓迎された。何しろちょうどエンジの両親が屋敷にいたため、この二人にも泣いて喜ばれたからだ。『無事だったんだね!』とか『こんなに綺麗になって!』と感極まった両親の顔をエンジは忘れられない。
その後のミルナの話も。
「(ミルナにとって一番望んだ日がやっと来たということか)」
ミルナは屋敷で少し休んでから、エンジとその両親にこれまでのことをある程度話した。コキア夫妻の死、父の部下の手引きで侍女になったこと、サエナリアの専属侍女として働いたこと、そしてサエナリアのことも。
「(ミルナの過去。貴族令嬢から平民になって、侍女になって仇の家で働いて、サエナリア様に忠誠を誓って……そして今日にまでたどり着くには大変な思いがあったんだろうな……)」
ミルナはサエナリアに忠誠を誓ったという。その思いに嘘偽りはエンジも両親も感じなかった。おそらく本当のことなのだろうが、ソノーザ家は親の敵と言ってもいいはずだ。そんな家の娘に忠誠を誓っているということは彼女たちの間には身分や立場の違いを超えた絆があるのだろう。エンジにはそう思えてならなかった。
「(サエナリア様か。彼女に比べて俺はミルナのことを幼馴染の姿しか知らないのだろうな。コキア家が没落してからの間、ミルナの力になってやれなかったことが本当に悔しい)」
コキア子爵は没落してから行方が分からなかった。エンジの父アクセイル子爵は心配して行方を必死に探していたが結局ミルナがやってくるまで分からなかった。コキア子爵夫妻の死を知ったアクセイル子爵は深く悲しんだがミルナが生き残ってくれたことを『君だけでも生きててくれてよかった』と言った。
「(父さんはコキア子爵とは仲が良かったからな。俺達と同じか)」
ミルナがやってきた翌日に歓迎会を開いた。アクセイル夫妻とその家臣の全員も参加するほど盛り上がることになった。当のミルナはそこまでしなくていいと言っていたが、アクセイル夫妻に押し切られた。
「(あの時は、昔を思い出させてくれたな)」
歓迎会ではミルナは涙をこぼすほど喜んでいた。その涙にエンジも両親ももらい泣きしてしまった。だからこそ、エンジはある決心を決めた。
「(レフトンに相談して手はずを整えられてよかった。あえてミルナに内緒にすると言ったらやる気出してくれるのはどうかと思ったがな)」
この一か月、エンジはミルナのために裁判が終わった後のことも考えていた。彼女の幸せを思って。
※今日から二日に一度の投稿のペースでやっていきます。
23
あなたにおすすめの小説
従姉妹に婚約者を奪われました。どうやら玉の輿婚がゆるせないようです
hikari
恋愛
公爵ご令息アルフレッドに婚約破棄を言い渡された男爵令嬢カトリーヌ。なんと、アルフレッドは従姉のルイーズと婚約していたのだ。
ルイーズは伯爵家。
「お前に侯爵夫人なんて分不相応だわ。お前なんか平民と結婚すればいいんだ!」
と言われてしまう。
その出来事に学園時代の同級生でラーマ王国の第五王子オスカルが心を痛める。
そしてオスカルはカトリーヌに惚れていく。
【完結】悪役令嬢の反撃の日々
ほーみ
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。
「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。
お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。
「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。
【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。
くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」
「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」
いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。
「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と……
私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。
「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」
「はい、お父様、お母様」
「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」
「……はい」
「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」
「はい、わかりました」
パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、
兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。
誰も私の言葉を聞いてくれない。
誰も私を見てくれない。
そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。
ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。
「……なんか、馬鹿みたいだわ!」
もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる!
ふるゆわ設定です。
※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい!
※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ!
追加文
番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。
【12月末日公開終了】これは裏切りですか?
たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。
だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。
そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?
なんで私だけ我慢しなくちゃならないわけ?
ワールド
恋愛
私、フォン・クラインハートは、由緒正しき家柄に生まれ、常に家族の期待に応えるべく振る舞ってまいりましたわ。恋愛、趣味、さらには私の将来に至るまで、すべては家名と伝統のため。しかし、これ以上、我慢するのは終わりにしようと決意いたしましたわ。
だってなんで私だけ我慢しなくちゃいけないと思ったんですもの。
これからは好き勝手やらせてもらいますわ。
【完結】愛され令嬢は、死に戻りに気付かない
かまり
恋愛
公爵令嬢エレナは、婚約者の王子と聖女に嵌められて処刑され、死に戻るが、
それを夢だと思い込んだエレナは考えなしに2度目を始めてしまう。
しかし、なぜかループ前とは違うことが起きるため、エレナはやはり夢だったと確信していたが、
結局2度目も王子と聖女に嵌められる最後を迎えてしまった。
3度目の死に戻りでエレナは聖女に勝てるのか?
聖女と婚約しようとした王子の目に、涙が見えた気がしたのはなぜなのか?
そもそも、なぜ死に戻ることになったのか?
そして、エレナを助けたいと思っているのは誰なのか…
色んな謎に包まれながらも、王子と幸せになるために諦めない、
そんなエレナの逆転勝利物語。
婚約者様への逆襲です。
有栖川灯里
恋愛
王太子との婚約を、一方的な断罪と共に破棄された令嬢・アンネリーゼ=フォン=アイゼナッハ。
理由は“聖女を妬んだ悪役”という、ありふれた台本。
だが彼女は涙ひとつ見せずに微笑み、ただ静かに言い残した。
――「さようなら、婚約者様。二度と戻りませんわ」
すべてを捨て、王宮を去った“悪役令嬢”が辿り着いたのは、沈黙と再生の修道院。
そこで出会ったのは、聖女の奇跡に疑問を抱く神官、情報を操る傭兵、そしてかつて見逃された“真実”。
これは、少女が嘘を暴き、誇りを取り戻し、自らの手で未来を選び取る物語。
断罪は終わりではなく、始まりだった。
“信仰”に支配された王国を、静かに揺るがす――悪役令嬢の逆襲。
【完結160万pt】王太子妃に決定している公爵令嬢の婚約者はまだ決まっておりません。王位継承権放棄を狙う王子はついでに側近を叩き直したい
宇水涼麻
恋愛
ピンク髪ピンク瞳の少女が王城の食堂で叫んだ。
「エーティル様っ! ラオルド様の自由にしてあげてくださいっ!」
呼び止められたエーティルは未来の王太子妃に決定している公爵令嬢である。
王太子と王太子妃となる令嬢の婚約は簡単に解消できるとは思えないが、エーティルはラオルドと婚姻しないことを軽く了承する。
その意味することとは?
慌てて現れたラオルド第一王子との関係は?
なぜこのような状況になったのだろうか?
ご指摘いただき一部変更いたしました。
みなさまのご指摘、誤字脱字修正で読みやすい小説になっていっております。
今後ともよろしくお願いします。
たくさんのお気に入り嬉しいです!
大変励みになります。
ありがとうございます。
おかげさまで160万pt達成!
↓これよりネタバレあらすじ
第一王子の婚約解消を高らかに願い出たピンクさんはムーガの部下であった。
親類から王太子になることを強要され辟易しているが非情になれないラオルドにエーティルとムーガが手を差し伸べて王太子権放棄をするために仕組んだのだ。
ただの作戦だと思っていたムーガであったがいつの間にかラオルドとピンクさんは心を通わせていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる