147 / 149
147.一年後?
しおりを挟む
公爵令嬢行方不明事件から約一年後。王都から離れたとある町の墓所。そこにライト・サイクロスが一人で父親の墓参りに来ていた。学園を卒業した後で約一年ぶりに墓参りに来たのだ。
「………父さん、遅くなってごめんね。まず、ソノーザ家が一年前に終わったんだよ。父さんを追い詰めたあの家は確実に滅んだよ。一人を除いてるけどね」
ライトの父親の墓には『フィリップス』とだけ刻まれていた。後に続く家名は無かった。ライトの『サイクロス』は母からもらったのだ。
「でも、おそらくサエナリア様は父さんと似たようなような立場だったんだ。そんな彼女なら、父さんを追い詰めたあの男のようにようにならないし、平民として生きていてもきっと幸せになれると思うんだ。父さんの妹さんにはまだ会ってないけどね」
ライトの父は病気で亡くなった。だが、他界する直前に息子であるライトに貴族だった頃のことを全て話したのだ。ソノーザ家と兄の凶行のことも。己の本名が『フィリップス・ヴァン・ソノーザ』であることも。そして、己の日記のことも。
「あの日記は役に立ったよ。おかげで国王陛下まで動いてくれたんだ。まさか、こうなるように日記を残していたのかな? だとしたら父さんはすごいよ。とんだ策士だね……というのは考えすぎかな?」
ライトは父親に思いをはせる。頭脳明晰で努力家で妻子を心から愛する心優しい父親の姿を。病で死んだ直前まで自分たちを心配してくれた父フィリップスの姿を。
「父さん。僕はもう行くよ。明後日から友達の結婚式があるんだ。それを見届けたらまた来るよ」
ライトは王都に戻った。同じ王子の側近になった親友の結婚式に出席するために。
◇
公爵令嬢行方不明事件から約一年後。貴族の格好のミルナは王都の喫茶店でくつろいでいた。一人で、と言うわけではなく、ある人物と雑談している。相手は、友人でもあり平民でありこの店の店員でもあるアリナと呼ばれる女性だった。
「………ということが一年前にあったのですよね。まったく、あの女には腹が立ちました。反省してくれれば良かったのに、私が黒幕だと思い込んで殺そうとするなんて、どういう思考回路なのでしょうね」
ミルナは自分がワカナと取り巻きに襲撃された事件について愚痴をこぼす。アリナはうんうんと頷いて聞いている。
「………いえ、よくたどり着いたと言う方が正しいでしょうか。多くの方々が動いていましたが私もその中の一人でした。礎と言う意味なら、当たっているのでしょうね。私も貴女も」
はきはきと愚痴を語る様子から一転して、静かに淡々と語るミルナ。彼女の言葉にアリナも黙って静かに頷く。
「ああ、処遇といえば、彼女は修道院にもいけなくなって終身刑でしたね。一生牢から出られなくなりました。貴女が聞けば刑が重いと思われるかもしれませんが、王家をはじめ多くの人たちの怒りを買ったのです。特に王家の方々のですね。死刑にならなかったのは、『気性荒い性格だから一生牢で暮らすほうが酷だろう』ということらしいです。まあ、生きているうちに更正できれば軽くなるかもしれませんが、その可能性は薄いです」
アリナとしてもワカナの処遇には別に不満はない。むしろ妥当だとアリナは思うが、心の片隅で複雑な気持ちもあった。まるでワカナのことを生まれたときから知っているかのように。そう、家族だったかのように。
「ああ、失礼しました。もう一年以上も前の話はこれでいいでしょう。話が逸れて申し訳ありません。それでは明日のこの時間と場所に来てください。大丈夫です。分かるのは間違いなく私とマリナ様くらいしか分かりませんので」
マリナと聞いて顔が笑みで綻ぶアリナを見ると、ミルナもつられて笑顔になる。
「それでは、アリナさん。明日の私達の結婚式でお待ちしておりますので!」
アリナと呼ばれた店員は満天の笑顔を返した。彼女の顔は、一年以上前に行方不明になった元公爵令嬢の似顔絵と少し似ていた。髪型は全く違うが、髪と瞳の色も同じだった。ただ、その明るい性格からとても同じ人物とは誰も思わないだろう。
「………父さん、遅くなってごめんね。まず、ソノーザ家が一年前に終わったんだよ。父さんを追い詰めたあの家は確実に滅んだよ。一人を除いてるけどね」
ライトの父親の墓には『フィリップス』とだけ刻まれていた。後に続く家名は無かった。ライトの『サイクロス』は母からもらったのだ。
「でも、おそらくサエナリア様は父さんと似たようなような立場だったんだ。そんな彼女なら、父さんを追い詰めたあの男のようにようにならないし、平民として生きていてもきっと幸せになれると思うんだ。父さんの妹さんにはまだ会ってないけどね」
ライトの父は病気で亡くなった。だが、他界する直前に息子であるライトに貴族だった頃のことを全て話したのだ。ソノーザ家と兄の凶行のことも。己の本名が『フィリップス・ヴァン・ソノーザ』であることも。そして、己の日記のことも。
「あの日記は役に立ったよ。おかげで国王陛下まで動いてくれたんだ。まさか、こうなるように日記を残していたのかな? だとしたら父さんはすごいよ。とんだ策士だね……というのは考えすぎかな?」
ライトは父親に思いをはせる。頭脳明晰で努力家で妻子を心から愛する心優しい父親の姿を。病で死んだ直前まで自分たちを心配してくれた父フィリップスの姿を。
「父さん。僕はもう行くよ。明後日から友達の結婚式があるんだ。それを見届けたらまた来るよ」
ライトは王都に戻った。同じ王子の側近になった親友の結婚式に出席するために。
◇
公爵令嬢行方不明事件から約一年後。貴族の格好のミルナは王都の喫茶店でくつろいでいた。一人で、と言うわけではなく、ある人物と雑談している。相手は、友人でもあり平民でありこの店の店員でもあるアリナと呼ばれる女性だった。
「………ということが一年前にあったのですよね。まったく、あの女には腹が立ちました。反省してくれれば良かったのに、私が黒幕だと思い込んで殺そうとするなんて、どういう思考回路なのでしょうね」
ミルナは自分がワカナと取り巻きに襲撃された事件について愚痴をこぼす。アリナはうんうんと頷いて聞いている。
「………いえ、よくたどり着いたと言う方が正しいでしょうか。多くの方々が動いていましたが私もその中の一人でした。礎と言う意味なら、当たっているのでしょうね。私も貴女も」
はきはきと愚痴を語る様子から一転して、静かに淡々と語るミルナ。彼女の言葉にアリナも黙って静かに頷く。
「ああ、処遇といえば、彼女は修道院にもいけなくなって終身刑でしたね。一生牢から出られなくなりました。貴女が聞けば刑が重いと思われるかもしれませんが、王家をはじめ多くの人たちの怒りを買ったのです。特に王家の方々のですね。死刑にならなかったのは、『気性荒い性格だから一生牢で暮らすほうが酷だろう』ということらしいです。まあ、生きているうちに更正できれば軽くなるかもしれませんが、その可能性は薄いです」
アリナとしてもワカナの処遇には別に不満はない。むしろ妥当だとアリナは思うが、心の片隅で複雑な気持ちもあった。まるでワカナのことを生まれたときから知っているかのように。そう、家族だったかのように。
「ああ、失礼しました。もう一年以上も前の話はこれでいいでしょう。話が逸れて申し訳ありません。それでは明日のこの時間と場所に来てください。大丈夫です。分かるのは間違いなく私とマリナ様くらいしか分かりませんので」
マリナと聞いて顔が笑みで綻ぶアリナを見ると、ミルナもつられて笑顔になる。
「それでは、アリナさん。明日の私達の結婚式でお待ちしておりますので!」
アリナと呼ばれた店員は満天の笑顔を返した。彼女の顔は、一年以上前に行方不明になった元公爵令嬢の似顔絵と少し似ていた。髪型は全く違うが、髪と瞳の色も同じだった。ただ、その明るい性格からとても同じ人物とは誰も思わないだろう。
65
あなたにおすすめの小説
婚約者様への逆襲です。
有栖川灯里
恋愛
王太子との婚約を、一方的な断罪と共に破棄された令嬢・アンネリーゼ=フォン=アイゼナッハ。
理由は“聖女を妬んだ悪役”という、ありふれた台本。
だが彼女は涙ひとつ見せずに微笑み、ただ静かに言い残した。
――「さようなら、婚約者様。二度と戻りませんわ」
すべてを捨て、王宮を去った“悪役令嬢”が辿り着いたのは、沈黙と再生の修道院。
そこで出会ったのは、聖女の奇跡に疑問を抱く神官、情報を操る傭兵、そしてかつて見逃された“真実”。
これは、少女が嘘を暴き、誇りを取り戻し、自らの手で未来を選び取る物語。
断罪は終わりではなく、始まりだった。
“信仰”に支配された王国を、静かに揺るがす――悪役令嬢の逆襲。
悪役令嬢は永眠しました
詩海猫(8/29書籍発売)
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」
長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。
だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。
ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」
*思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m
婚約破棄を望むなら〜私の愛した人はあなたじゃありません〜
みおな
恋愛
王家主催のパーティーにて、私の婚約者がやらかした。
「お前との婚約を破棄する!!」
私はこの馬鹿何言っているんだと思いながらも、婚約破棄を受け入れてやった。
だって、私は何ひとつ困らない。
困るのは目の前でふんぞり返っている元婚約者なのだから。
縁の鎖
T T
恋愛
姉と妹
切れる事のない鎖
縁と言うには悲しく残酷な、姉妹の物語
公爵家の敷地内に佇む小さな離れの屋敷で母と私は捨て置かれるように、公爵家の母屋には義妹と義母が優雅に暮らす。
正妻の母は寂しそうに毎夜、父の肖像画を見つめ
「私の罪は私まで。」
と私が眠りに着くと語りかける。
妾の義母も義妹も気にする事なく暮らしていたが、母の死で一変。
父は義母に心酔し、義母は義妹を溺愛し、義妹は私の婚約者を懸想している家に私の居場所など無い。
全てを奪われる。
宝石もドレスもお人形も婚約者も地位も母の命も、何もかも・・・。
全てをあげるから、私の心だけは奪わないで!!
勝手に勘違いして、婚約破棄したあなたが悪い
猿喰 森繁
恋愛
「アリシア。婚約破棄をしてほしい」
「婚約破棄…ですか」
「君と僕とでは、やはり身分が違いすぎるんだ」
「やっぱり上流階級の人間は、上流階級同士でくっつくべきだと思うの。あなたもそう思わない?」
「はぁ…」
なんと返したら良いのか。
私の家は、一代貴族と言われている。いわゆる平民からの成り上がりである。
そんなわけで、没落貴族の息子と政略結婚ならぬ政略婚約をしていたが、その相手から婚約破棄をされてしまった。
理由は、私の家が事業に失敗して、莫大な借金を抱えてしまったからというものだった。
もちろん、そんなのは誰かが飛ばした噂でしかない。
それを律儀に信じてしまったというわけだ。
金の切れ目が縁の切れ目って、本当なのね。
【完結】その溺愛は聞いてない! ~やり直しの二度目の人生は悪役令嬢なんてごめんです~
Rohdea
恋愛
私が最期に聞いた言葉、それは……「お前のような奴はまさに悪役令嬢だ!」でした。
第1王子、スチュアート殿下の婚約者として過ごしていた、
公爵令嬢のリーツェはある日、スチュアートから突然婚約破棄を告げられる。
その傍らには、最近スチュアートとの距離を縮めて彼と噂になっていた平民、ミリアンヌの姿が……
そして身に覚えのあるような無いような罪で投獄されたリーツェに待っていたのは、まさかの処刑処分で──
そうして死んだはずのリーツェが目を覚ますと1年前に時が戻っていた!
理由は分からないけれど、やり直せるというのなら……
同じ道を歩まず“悪役令嬢”と呼ばれる存在にならなければいい!
そう決意し、過去の記憶を頼りに以前とは違う行動を取ろうとするリーツェ。
だけど、何故か過去と違う行動をする人が他にもいて───
あれ?
知らないわよ、こんなの……聞いてない!
病弱を演じる妹に婚約者を奪われましたが、大嫌いだったので大助かりです
克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」「ノベルバ」に同時投稿しています。
『病弱を演じて私から全てを奪う妹よ、全て奪った後で梯子を外してあげます』
メイトランド公爵家の長女キャメロンはずっと不当な扱いを受け続けていた。天性の悪女である妹のブリトニーが病弱を演じて、両親や周りの者を味方につけて、姉キャメロンが受けるはずのモノを全て奪っていた。それはメイトランド公爵家のなかだけでなく、社交界でも同じような状況だった。生まれて直ぐにキャメロンはオーガスト第一王子と婚約していたが、ブリトニーがオーガスト第一王子を誘惑してキャメロンとの婚約を破棄させようとしたいた。だがキャメロンはその機会を捉えて復讐を断行した。
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる