31 / 40
本編
31.アクセル ―裁判―
しおりを挟む
アクセイル子爵領地に来てから今日まで本当に心地よい時間を過ごしました。ですが、いつまでもアクセイル子爵夫妻やエンジ様のご厚意に甘えていてはいけないと思って、これから私自身の身の振り方を考えようとしていた矢先、ソノーザ公爵家の断罪する時が来ました。
……え? もうそんな頃合いに!? エンジ様から『それ』聞かされた時は、時間が一気に加速したと錯覚しました。私の気付かぬうちに、サエナリアお嬢様が行方不明になってから約一か月がたっていたのです。
そんなことに気付かなかったなんて、私の馬鹿!
◇
アクセイル子爵家の屋敷の一室。私はエンジ様に裁判に出席するように相談されます。もちろん、答えは決まっています。
「……ということで君にも裁判に来てほしいということなんだ、ミルナ」
「分かりましたエンジ様。むしろお礼を申し上げたいくらいです。サエナリアお嬢様を虐げた者たちが断罪されることは決定事項でしょうから」
それをこの目で拝めるのですから、出席しないわけにはいきません。この裁判の黒幕のうちの一人はこの私なのですからね。
「そうか。そうだな……」
「ソノーザ家の……ベーリュ・ヴァン・ソノーザの断罪。ここまでくるのに長い時間がかかりました。後は裁判の結果に任せるだけです」
「ミルナ……」
◇
サエナリアお嬢様が行方不明になってから約一ヶ月後。貴族裁判所で長女サエナリアの虐待とソノーザ家当主ベーリュの過去の罪状、ついでに次女ワカナの不敬罪に対する裁判が始まろうとしています。
多くの人々が見守る裁判、いいえ、私がこれまで願っていた裁判です。被告人の席に座るソノーザ一家のあの惨めな姿をこの目で見ることをどれだけ楽しみにしたことか……。しかも、ワカナは猿轡を、ぷっ。ざまあ!
「皆さん、大変お待たせしました。国王陛下、準備ができました」
初老の裁判長がやってきました。これから本格的に始まるのですね。
「静粛に。これより裁きを始める」
そんな言葉だけで気が引き締められ、緊張感が一気に引き上げられました。空気が変わるというのはこういうことですね。
「それではこれよりサエナリア・ヴァン・ソノーザ令嬢の行方不明事件及び、その過程により発覚したベーリュ・ヴァン・ソノーザの過去の多くの罪に対する裁判を行います。まずは、第一王子カーズ・フォン・ウィンドウ殿下。今回の経緯をご説明ください」
げっ! よりにもよって最初に発言するのはカーズか。っていうか、だいぶやつれてません? 体が痩せて目はギラギラしてるし、別人じゃね?
「はい。私、カーズ・フォン・ウィンドウより説明させていただきます。私は一か月前に元婚約者のサエナリア嬢が一人の令嬢を苛めていると誤解して罵倒しました。そのせいで彼女の心を傷つけてしまいました。誤解だと分かった後日、私はサエナリア嬢に謝罪するためにソノーザ公爵家を訪れました。迎えた公爵に謝罪する理由を正直に説明していました。その最中にそこにいるワカナ嬢が乱入してきたのです」
ああ、この声はカーズだ。間違いない。でも、しゃべり方が変わったのでしょうか? 以前のような無自覚に傲慢な口調がだいぶ丁寧になっている気がします。ああ、裁判だからか。
「その時のワカナ嬢の言動は、はっきり言って貴族の令嬢らしからぬ無礼極まりない言葉でしたが、その言葉の中でサエナリア嬢が姿を消したというようなことを口にしていました。嫌な予感がした私は、ワカナ嬢が部屋を後にした後で公爵に事情を聞きだしました。……サエナリア嬢が置手紙を残して行方をくらましたことを」
「……サエナリア……」
「…………」
「っ!? …………!」
ソノーザ公爵夫妻、ベーリュとネフーミ。貴方方が今更悲痛な表情になっても何も変わりませんよ。償う気があるのならば正当な裁きを受けてください。今。
ワカナだけは変わりません、というか狂気に満ちた目でカーズを、両親を睨んでいるようにも見えます。むしろ前よりひどくなってない?
「公爵から詳しい話を聞いて、更に私が無断でサエナリア嬢の部屋を目にしたことで、彼女が家庭環境の中でとても不遇な思いをしていることを知りました。妹のワカナ嬢を優先され彼女自身の意思は無視される。しかも、自室を物置と併用されていたのです。とても貴族令嬢の扱いとは思えぬほどの雑な扱いでした。あれでは家族の扱いですらあり得ません」
「も、物置? 殿下、それは真ですか?」
「はい。事実です」
「なんと………」
裁判長の質問にカーズが事実だと答えると裁判長は言葉を失いました。当然ですね。
「……公爵夫妻。殿下の語ったことは事実ですか?」
「「………………」」
黙らないで答えろよ。
「正直に話してください」
「はい………殿下の言う通りです………私が、あの娘を顧みなかったのです……」
「私も………家庭を省みませんでした………」
「……そうですか」
裁判長の夫妻を見る目が冷たくなっていく。分かりますよ、その気持ち。娘を駒としか見ていないことがまるわかりですよね。ですが、これは序の口にすぎません。奴の過去は更に酷いのですから。
「ソノーザ公爵の屋敷を出た後、私はすぐにサエナリア嬢の状況を国王陛下に知らせ捜索を願い出ました。ただ、私はサエナリア嬢の心を傷つけたことや勝手にソノーザ公爵のもとに向かったこと等に陛下は大変お怒りになり、私は部屋で謹慎と言う処分を言い渡されました」
謹慎処分と言う言葉に私の心がざわつくのを感じます。カーズが謹慎にされたことに対する喜び、もしくは謹慎程度になっていたという憤りに心がざわついています。……ふっ、どっちなんでしょうね。
「愚息カーズの言うことは間違いはない」
「陛下」
「「「「「っ!」」」」」
ここで国王陛下が口を挟みます。私も現実で初めてお目に掛かりました。あれがジンノ・フォン・ウィンドウ国王陛下ですか。なるほど、ゲーム通りのおじさま風の男性ですね。
「あの時のカーズは王太子としての覚悟と自覚が足りなかった。王太子とは次期国王候補。それほどの立場にいるにもかかわらず、あまりにも考え無しに振舞っておった。己の行動に周囲がどれだけ影響を受けるのか深く考えていなかったのだ。それゆえの謹慎処分だ。……更に王太子の身分も剥奪した。王位継承権とともにな」
「……陛下の私への処分は適切……温情をかけてくださった処分です……」
国王陛下が口を挟んできたことで、周りが静かになりました。流石は国王です。こういう時は威厳に満ちてますね。ゲームでは意外な一面があったりするのですが、こっちではどうでしょうか?
「……サエナリア嬢のことは我ら王家にも責任があるゆえ、王家による大捜索を行った。第二・第三王子たちも独自に捜索に出てくれた。独自の伝手でな」
「その後のことは先に言った通り、私は謹慎中でした。サエナリア嬢の捜索は弟たちに伝えられるだけという形になるので、ここからは弟たちに引き継ぎます」
弟。つまり、レフトン殿下とナシュカ殿下のことですね。あの二人なら話が進むでしょう。
「はい。ここからは兄カーズに代わり、私ナシュカ・フォン・ウィンドウと次兄レフトン・フォン・ウィンドウが説明させていただきます」
「陛下の言う通り、我々二人もサエナリア様の捜索のために行動した。ただ、王家の捜索が始まる前に独自の行動を起こした。ナシュカは学園を調べ、私はソノーザ公爵家を調べるという形だ」
……不思議。レフトン殿下が王族に見えます。あ、最初から王族でしたね。
「次兄レフトンの言う通り、私は学園を中心にサエナリア様の手掛かりを探しました。最初に目をつけたのは、一時期に長兄カーズが懇意にしていたと噂されていたマリナ・メイ・ミーク様でした。彼女はサエナリア様とも親友だと聞いていたのでサエナリア様の行方について何か知っているのではと考えて詳しい話を聞かせてもらいました。残念ながら、マリナ様からサエナリア様の手掛かりを掴むことはできませんでした。しかし、決して無駄ではありませんでした。マリナ様のおかげで兄カーズがサエナリア様を蔑ろにしていたという証言を聞けました。それにマリナ様自身は兄カーズに何の情も抱いていないことも嘘偽りない本心として聞かせてもらいました。マリナ様はただサエナリア様と一緒にいたいだけで、兄カーズに付きまとわれていただけでした。兄カーズの愚行は聞くだけで耳が痛くなるようなことでした。後で調べて確かなことだと判明し、私は王家の者としてマリナ様には深くお詫びしました」
ナシュカ殿下、ありがとうございます。容赦なくカーズの愚行を語ってくださって。
「マリナ嬢。事実ですか?」
マリナ様! 言ってやってくださいな! カーズの悪行を!
「はい。ナシュカ殿下のおっしゃることは全て事実でございます。カーズ殿下とわたくしの間には、カーズ殿下の一方的な思いでしかありません。……わたくしの力不足でサエナリア様の手掛かりは見つけられなかったことに関しては悔しい限りです」
……ま、まあ、マリナ様ですし、悪口は口にできませんよね。
「カーズ殿下。事実ですか?」
「……はい。弟ナシュカとマリナ嬢の言っていることはすべて事実です。すべては私の思い込みでした……」
「……そうですか」
最低最悪の王子だ。もうどれほどそう思ったか分かりませんが、今多くの方々が同じ思いを抱いていると思います。カーズ、今更ですが『ざまあ見ろ』です。
「ナシュカが学園に向かった後、私、レフトン・フォン・ウィンドウはソノーザ公爵の屋敷に向かった。理由はもちろんサエナリア様の手掛かりを求めてのことだ。そのために屋敷の執事に無理を言って調査させてもらった。その過程でサエナリア様の部屋を案内させてもらったのだが、そこは物置だった」
レフトン殿下の言っていることは概ね合っています。侍女の存在の有無を除けばね。
「物置……先ほどカーズ殿下からもそう聞いておりましたが、その物置をサエナリア嬢の部屋として確認できる決め手は何かあったのでしょうか?」
ありますよ。今も机の上にあるかもしれません。部屋がそのままなら。
「私も最初はすぐには理解できなかった。だが、案内してくれた執事の説明を聞いて、やっと理解できた。物置として使われる部屋には簡易な椅子と机にベッドがあり、その机の上にはかつて兄カーズがサエナリア様にプレゼントした髪飾りが置いて……飾ってあったのだ……」
「………カーズ殿下の贈り物ですか?」
「確か覚えがあったから事実だ。それにあの髪飾りは王族のために作られる使用でもあったからな。この場で私が嘘をつく理由はない。そもそも我が兄もその目で見ている」
「………っ!」
カーズに視線が移ります。覚えていますよね? 無能王子?
「弟の言っていることは事実です。私もこの目で見ました。サエナリア嬢の部屋の机になったのは、確かに私が送ったものでした」
「………そうですか」
お嬢様の部屋の話。ここまで聞かされると、半信半疑だった方々も盛った話ではないと理解されたようですね。周囲が騒がしくなりました。
まあ、私としてはサエナリアお嬢様が婚約者だったカーズのプレゼントを置いていったという事実が大きいのですがね。置いていったということは、カーズに何の未練もないことを意味するのですから。カーズがそれを見ても、お嬢様が置いていった意味に気付かなかったのですから呆れる話です。
「静粛に、静粛に! 私語は慎んでください」
「裁判長の言う通りだ。事実確認がいるならソノーザ公爵夫妻に確認をとればいい」
「「…………っ!?」」
流石はレフトン殿下。その注目をソノーザ公爵夫妻に向けさせました。裁判は一気に加速していきます。
「ソノーザ公爵よ、我が息子二人が口にしたことは真か?」
「「…………っ!?」」
……え? もうそんな頃合いに!? エンジ様から『それ』聞かされた時は、時間が一気に加速したと錯覚しました。私の気付かぬうちに、サエナリアお嬢様が行方不明になってから約一か月がたっていたのです。
そんなことに気付かなかったなんて、私の馬鹿!
◇
アクセイル子爵家の屋敷の一室。私はエンジ様に裁判に出席するように相談されます。もちろん、答えは決まっています。
「……ということで君にも裁判に来てほしいということなんだ、ミルナ」
「分かりましたエンジ様。むしろお礼を申し上げたいくらいです。サエナリアお嬢様を虐げた者たちが断罪されることは決定事項でしょうから」
それをこの目で拝めるのですから、出席しないわけにはいきません。この裁判の黒幕のうちの一人はこの私なのですからね。
「そうか。そうだな……」
「ソノーザ家の……ベーリュ・ヴァン・ソノーザの断罪。ここまでくるのに長い時間がかかりました。後は裁判の結果に任せるだけです」
「ミルナ……」
◇
サエナリアお嬢様が行方不明になってから約一ヶ月後。貴族裁判所で長女サエナリアの虐待とソノーザ家当主ベーリュの過去の罪状、ついでに次女ワカナの不敬罪に対する裁判が始まろうとしています。
多くの人々が見守る裁判、いいえ、私がこれまで願っていた裁判です。被告人の席に座るソノーザ一家のあの惨めな姿をこの目で見ることをどれだけ楽しみにしたことか……。しかも、ワカナは猿轡を、ぷっ。ざまあ!
「皆さん、大変お待たせしました。国王陛下、準備ができました」
初老の裁判長がやってきました。これから本格的に始まるのですね。
「静粛に。これより裁きを始める」
そんな言葉だけで気が引き締められ、緊張感が一気に引き上げられました。空気が変わるというのはこういうことですね。
「それではこれよりサエナリア・ヴァン・ソノーザ令嬢の行方不明事件及び、その過程により発覚したベーリュ・ヴァン・ソノーザの過去の多くの罪に対する裁判を行います。まずは、第一王子カーズ・フォン・ウィンドウ殿下。今回の経緯をご説明ください」
げっ! よりにもよって最初に発言するのはカーズか。っていうか、だいぶやつれてません? 体が痩せて目はギラギラしてるし、別人じゃね?
「はい。私、カーズ・フォン・ウィンドウより説明させていただきます。私は一か月前に元婚約者のサエナリア嬢が一人の令嬢を苛めていると誤解して罵倒しました。そのせいで彼女の心を傷つけてしまいました。誤解だと分かった後日、私はサエナリア嬢に謝罪するためにソノーザ公爵家を訪れました。迎えた公爵に謝罪する理由を正直に説明していました。その最中にそこにいるワカナ嬢が乱入してきたのです」
ああ、この声はカーズだ。間違いない。でも、しゃべり方が変わったのでしょうか? 以前のような無自覚に傲慢な口調がだいぶ丁寧になっている気がします。ああ、裁判だからか。
「その時のワカナ嬢の言動は、はっきり言って貴族の令嬢らしからぬ無礼極まりない言葉でしたが、その言葉の中でサエナリア嬢が姿を消したというようなことを口にしていました。嫌な予感がした私は、ワカナ嬢が部屋を後にした後で公爵に事情を聞きだしました。……サエナリア嬢が置手紙を残して行方をくらましたことを」
「……サエナリア……」
「…………」
「っ!? …………!」
ソノーザ公爵夫妻、ベーリュとネフーミ。貴方方が今更悲痛な表情になっても何も変わりませんよ。償う気があるのならば正当な裁きを受けてください。今。
ワカナだけは変わりません、というか狂気に満ちた目でカーズを、両親を睨んでいるようにも見えます。むしろ前よりひどくなってない?
「公爵から詳しい話を聞いて、更に私が無断でサエナリア嬢の部屋を目にしたことで、彼女が家庭環境の中でとても不遇な思いをしていることを知りました。妹のワカナ嬢を優先され彼女自身の意思は無視される。しかも、自室を物置と併用されていたのです。とても貴族令嬢の扱いとは思えぬほどの雑な扱いでした。あれでは家族の扱いですらあり得ません」
「も、物置? 殿下、それは真ですか?」
「はい。事実です」
「なんと………」
裁判長の質問にカーズが事実だと答えると裁判長は言葉を失いました。当然ですね。
「……公爵夫妻。殿下の語ったことは事実ですか?」
「「………………」」
黙らないで答えろよ。
「正直に話してください」
「はい………殿下の言う通りです………私が、あの娘を顧みなかったのです……」
「私も………家庭を省みませんでした………」
「……そうですか」
裁判長の夫妻を見る目が冷たくなっていく。分かりますよ、その気持ち。娘を駒としか見ていないことがまるわかりですよね。ですが、これは序の口にすぎません。奴の過去は更に酷いのですから。
「ソノーザ公爵の屋敷を出た後、私はすぐにサエナリア嬢の状況を国王陛下に知らせ捜索を願い出ました。ただ、私はサエナリア嬢の心を傷つけたことや勝手にソノーザ公爵のもとに向かったこと等に陛下は大変お怒りになり、私は部屋で謹慎と言う処分を言い渡されました」
謹慎処分と言う言葉に私の心がざわつくのを感じます。カーズが謹慎にされたことに対する喜び、もしくは謹慎程度になっていたという憤りに心がざわついています。……ふっ、どっちなんでしょうね。
「愚息カーズの言うことは間違いはない」
「陛下」
「「「「「っ!」」」」」
ここで国王陛下が口を挟みます。私も現実で初めてお目に掛かりました。あれがジンノ・フォン・ウィンドウ国王陛下ですか。なるほど、ゲーム通りのおじさま風の男性ですね。
「あの時のカーズは王太子としての覚悟と自覚が足りなかった。王太子とは次期国王候補。それほどの立場にいるにもかかわらず、あまりにも考え無しに振舞っておった。己の行動に周囲がどれだけ影響を受けるのか深く考えていなかったのだ。それゆえの謹慎処分だ。……更に王太子の身分も剥奪した。王位継承権とともにな」
「……陛下の私への処分は適切……温情をかけてくださった処分です……」
国王陛下が口を挟んできたことで、周りが静かになりました。流石は国王です。こういう時は威厳に満ちてますね。ゲームでは意外な一面があったりするのですが、こっちではどうでしょうか?
「……サエナリア嬢のことは我ら王家にも責任があるゆえ、王家による大捜索を行った。第二・第三王子たちも独自に捜索に出てくれた。独自の伝手でな」
「その後のことは先に言った通り、私は謹慎中でした。サエナリア嬢の捜索は弟たちに伝えられるだけという形になるので、ここからは弟たちに引き継ぎます」
弟。つまり、レフトン殿下とナシュカ殿下のことですね。あの二人なら話が進むでしょう。
「はい。ここからは兄カーズに代わり、私ナシュカ・フォン・ウィンドウと次兄レフトン・フォン・ウィンドウが説明させていただきます」
「陛下の言う通り、我々二人もサエナリア様の捜索のために行動した。ただ、王家の捜索が始まる前に独自の行動を起こした。ナシュカは学園を調べ、私はソノーザ公爵家を調べるという形だ」
……不思議。レフトン殿下が王族に見えます。あ、最初から王族でしたね。
「次兄レフトンの言う通り、私は学園を中心にサエナリア様の手掛かりを探しました。最初に目をつけたのは、一時期に長兄カーズが懇意にしていたと噂されていたマリナ・メイ・ミーク様でした。彼女はサエナリア様とも親友だと聞いていたのでサエナリア様の行方について何か知っているのではと考えて詳しい話を聞かせてもらいました。残念ながら、マリナ様からサエナリア様の手掛かりを掴むことはできませんでした。しかし、決して無駄ではありませんでした。マリナ様のおかげで兄カーズがサエナリア様を蔑ろにしていたという証言を聞けました。それにマリナ様自身は兄カーズに何の情も抱いていないことも嘘偽りない本心として聞かせてもらいました。マリナ様はただサエナリア様と一緒にいたいだけで、兄カーズに付きまとわれていただけでした。兄カーズの愚行は聞くだけで耳が痛くなるようなことでした。後で調べて確かなことだと判明し、私は王家の者としてマリナ様には深くお詫びしました」
ナシュカ殿下、ありがとうございます。容赦なくカーズの愚行を語ってくださって。
「マリナ嬢。事実ですか?」
マリナ様! 言ってやってくださいな! カーズの悪行を!
「はい。ナシュカ殿下のおっしゃることは全て事実でございます。カーズ殿下とわたくしの間には、カーズ殿下の一方的な思いでしかありません。……わたくしの力不足でサエナリア様の手掛かりは見つけられなかったことに関しては悔しい限りです」
……ま、まあ、マリナ様ですし、悪口は口にできませんよね。
「カーズ殿下。事実ですか?」
「……はい。弟ナシュカとマリナ嬢の言っていることはすべて事実です。すべては私の思い込みでした……」
「……そうですか」
最低最悪の王子だ。もうどれほどそう思ったか分かりませんが、今多くの方々が同じ思いを抱いていると思います。カーズ、今更ですが『ざまあ見ろ』です。
「ナシュカが学園に向かった後、私、レフトン・フォン・ウィンドウはソノーザ公爵の屋敷に向かった。理由はもちろんサエナリア様の手掛かりを求めてのことだ。そのために屋敷の執事に無理を言って調査させてもらった。その過程でサエナリア様の部屋を案内させてもらったのだが、そこは物置だった」
レフトン殿下の言っていることは概ね合っています。侍女の存在の有無を除けばね。
「物置……先ほどカーズ殿下からもそう聞いておりましたが、その物置をサエナリア嬢の部屋として確認できる決め手は何かあったのでしょうか?」
ありますよ。今も机の上にあるかもしれません。部屋がそのままなら。
「私も最初はすぐには理解できなかった。だが、案内してくれた執事の説明を聞いて、やっと理解できた。物置として使われる部屋には簡易な椅子と机にベッドがあり、その机の上にはかつて兄カーズがサエナリア様にプレゼントした髪飾りが置いて……飾ってあったのだ……」
「………カーズ殿下の贈り物ですか?」
「確か覚えがあったから事実だ。それにあの髪飾りは王族のために作られる使用でもあったからな。この場で私が嘘をつく理由はない。そもそも我が兄もその目で見ている」
「………っ!」
カーズに視線が移ります。覚えていますよね? 無能王子?
「弟の言っていることは事実です。私もこの目で見ました。サエナリア嬢の部屋の机になったのは、確かに私が送ったものでした」
「………そうですか」
お嬢様の部屋の話。ここまで聞かされると、半信半疑だった方々も盛った話ではないと理解されたようですね。周囲が騒がしくなりました。
まあ、私としてはサエナリアお嬢様が婚約者だったカーズのプレゼントを置いていったという事実が大きいのですがね。置いていったということは、カーズに何の未練もないことを意味するのですから。カーズがそれを見ても、お嬢様が置いていった意味に気付かなかったのですから呆れる話です。
「静粛に、静粛に! 私語は慎んでください」
「裁判長の言う通りだ。事実確認がいるならソノーザ公爵夫妻に確認をとればいい」
「「…………っ!?」」
流石はレフトン殿下。その注目をソノーザ公爵夫妻に向けさせました。裁判は一気に加速していきます。
「ソノーザ公爵よ、我が息子二人が口にしたことは真か?」
「「…………っ!?」」
0
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢はモブ化した
F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。
しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す!
領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。
「……なんなのこれは。意味がわからないわ」
乙女ゲームのシナリオはこわい。
*注*誰にも前世の記憶はありません。
ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。
性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。
作者の趣味100%でダンジョンが出ました。
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
転生した子供部屋悪役令嬢は、悠々快適溺愛ライフを満喫したい!
木風
恋愛
婚約者に裏切られ、成金伯爵令嬢の仕掛けに嵌められた私は、あっけなく「悪役令嬢」として婚約を破棄された。
胸に広がるのは、悔しさと戸惑いと、まるで物語の中に迷い込んだような不思議な感覚。
けれど、この身に宿るのは、かつて過労に倒れた29歳の女医の記憶。
勉強も社交も面倒で、ただ静かに部屋に籠もっていたかったのに……
『神に愛された強運チート』という名の不思議な加護が、私を思いもよらぬ未来へと連れ出していく。
子供部屋の安らぎを夢見たはずが、待っていたのは次期国王……王太子殿下のまなざし。
逃れられない運命と、抗いようのない溺愛に、私の物語は静かに色を変えていく。
時に笑い、時に泣き、時に振り回されながらも、私は今日を生きている。
これは、婚約破棄から始まる、転生令嬢のちぐはぐで胸の騒がしい物語。
※本作は「小説家になろう」「アルファポリス」にて同時掲載しております。
表紙イラストは、Wednesday (Xアカウント:@wednesday1029)さんに描いていただきました。
※イラストは描き下ろし作品です。無断転載・無断使用・AI学習等は一切禁止しております。
©︎子供部屋悪役令嬢 / 木風 Wednesday
悪役令嬢ってもっとハイスペックだと思ってた
nionea
恋愛
ブラック企業勤めの日本人女性ミキ、享年二十五歳は、
死んだ
と、思ったら目が覚めて、
悪役令嬢に転生してざまぁされる方向まっしぐらだった。
ぽっちゃり(控えめな表現です)
うっかり (婉曲的な表現です)
マイペース(モノはいいようです)
略してPUMな侯爵令嬢ファランに転生してしまったミキは、
「デブでバカでワガママって救いようねぇわ」
と、落ち込んでばかりもいられない。
今後の人生がかかっている。
果たして彼女は身に覚えはないが散々やらかしちゃった今までの人生を精算し、生き抜く事はできるのか。
※恋愛のスタートまでがだいぶ長いです。
’20.3.17 追記
更新ミスがありました。
3.16公開の77の本文が78の内容になっていました。
本日78を公開するにあたって気付きましたので、77を正規の内容に変え、78を公開しました。
大変失礼いたしました。77から再度お読みいただくと話がちゃんとつながります。
ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。
【完結】ヒロインに転生しましたが、モブのイケオジが好きなので、悪役令嬢の婚約破棄を回避させたつもりが、やっぱり婚約破棄されている。
樹結理(きゆり)
恋愛
「アイリーン、貴女との婚約は破棄させてもらう」
大勢が集まるパーティの場で、この国の第一王子セルディ殿下がそう宣言した。
はぁぁあ!? なんでどうしてそうなった!!
私の必死の努力を返してー!!
乙女ゲーム『ラベルシアの乙女』の世界に転生してしまった日本人のアラサー女子。
気付けば物語が始まる学園への入学式の日。
私ってヒロインなの!?攻略対象のイケメンたちに囲まれる日々。でも!私が好きなのは攻略対象たちじゃないのよー!!
私が好きなのは攻略対象でもなんでもない、物語にたった二回しか出てこないイケオジ!
所謂モブと言っても過言ではないほど、関わることが少ないイケオジ。
でもでも!せっかくこの世界に転生出来たのなら何度も見たイケメンたちよりも、レアなイケオジを!!
攻略対象たちや悪役令嬢と友好的な関係を築きつつ、悪役令嬢の婚約破棄を回避しつつ、イケオジを狙う十六歳、侯爵令嬢!
必死に悪役令嬢の婚約破棄イベントを回避してきたつもりが、なんでどうしてそうなった!!
やっぱり婚約破棄されてるじゃないのー!!
必死に努力したのは無駄足だったのか!?ヒロインは一体誰と結ばれるのか……。
※この物語は作者の世界観から成り立っております。正式な貴族社会をお望みの方はご遠慮ください。
※この作品は小説家になろう、カクヨムで完結済み。
魔法学園の悪役令嬢、破局の未来を知って推し変したら捨てた王子が溺愛に目覚めたようで!?
朱音ゆうひ@11/5受賞作が発売されます
恋愛
『完璧な王太子』アトレインの婚約者パメラは、自分が小説の悪役令嬢に転生していると気づく。
このままでは破滅まっしぐら。アトレインとは破局する。でも最推しは別にいる!
それは、悪役教授ネクロセフ。
顔が良くて、知性紳士で、献身的で愛情深い人物だ。
「アトレイン殿下とは円満に別れて、推し活して幸せになります!」
……のはずが。
「夢小説とは何だ?」
「殿下、私の夢小説を読まないでください!」
完璧を演じ続けてきた王太子×悪役を押し付けられた推し活令嬢。
破滅回避から始まる、魔法学園・溺愛・逆転ラブコメディ!
小説家になろうでも同時更新しています(https://ncode.syosetu.com/n5963lh/)。
【完結】転生したら悪役令嬢だった腐女子、推し課金金策してたら無双でざまぁで愛されキャラ?いえいえ私は見守りたいだけですわ
鏑木 うりこ
恋愛
毒親から逃げ出してブラック企業で働いていた私の箱推し乙女ゲーム「トランプる!」超重課金兵だった私はどうやらその世界に転生してしまったらしい。
圧倒的ご褒美かつ感謝なのだが、如何せん推しに課金するお金がない!推しがいるのに課金が出来ないなんてトラ畜(トランプる重課金者の総称)として失格も良い所だわ!
なりふり構わず、我が道を邁進していると……おや?キング達の様子が?……おや?クイーン達も??
「クラブ・クイーン」マリエル・クラブの廃オタク課金生活が始まったのですわ。
*ハイパーご都合主義&ネット用語、オタ用語が飛び交う大変に頭の悪い作品となっております。
*ご照覧いただけたら幸いです。
*深く考えないでいただけるともっと幸いです。
*作者阿呆やな~楽しいだけで書いとるやろ、しょーがねーなーと思っていただけるともっと幸いです。
*あと、なんだろう……怒らないでね……(*‘ω‘ *)えへへ……。
マリエルが腐女子ですが、腐女子っぽい発言はあまりしないようにしています。BLは起こりません(笑)
2022年1月2日から公開して3月16日で本編が終了致しました。長い間たくさん見ていただいて本当にありがとうございました(*‘ω‘ *)
恋愛大賞は35位と健闘させて頂きました!応援、感想、お気に入りなどたくさんありがとうございました!
悪役令嬢はSランク冒険者の弟子になりヒロインから逃げ切りたい
鍋
恋愛
王太子の婚約者として、常に控えめに振る舞ってきたロッテルマリア。
尽くしていたにも関わらず、悪役令嬢として婚約者破棄、国外追放の憂き目に合う。
でも、実は転生者であるロッテルマリアはチートな魔法を武器に、ギルドに登録して旅に出掛けた。
新米冒険者として日々奮闘中。
のんびり冒険をしていたいのに、ヒロインは私を逃がしてくれない。
自身の目的のためにロッテルマリアを狙ってくる。
王太子はあげるから、私をほっといて~
(旧)悪役令嬢は年下Sランク冒険者の弟子になるを手直ししました。
26話で完結
後日談も書いてます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる