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本編
33.トライアル ―証言―
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でも、反論されると予想できれば備えもあるものです。
「ベーリュを勢い込んでくれるところで悪いが日記が真実を書いていることは間違いない」
「な、何故ですか!?」
「この日記を見て、私達が何も調べなかったとでもいうつもりか?」
「っ!」
日記のことで王家の方々は第二王子レフトン殿下の強い要望で日記に記された事件を細かく調査しているのです。新たな証拠を見つけるほどに。
「そ、そんなことは……では……!」
「ああ、納得してもらえるように他の証拠を提示してやろう、宰相。例の物を」
「はい」
例の物、つまり発覚した証拠の数々のことですね。これはこれは随分と分厚い資料になってます。
「そ、それは?」
「ああ、あれは日記に記された事件の全てを徹底的に調べ直した結果をまとめた書類だ。二十年も前のことだが、あの頃より今の方が我が国の技術力が発達しているから、あの頃見落としたことがあれば今の時代なら調べ直しても見つけられるはずだと思わんか?」
「そ、そんなことを、わざわざ!?」
「わざわざ、だと? 原因は己自身にあるだろう?」
「……」
その通りですよ、いい加減本当に反省しなさいな。
「そういうことだ。さあ宰相よ。簡潔にまとめて結果を聞かせてくれ」
その通り、言ってやってください、クラマ宰相!
「……はい。日記に記された事件の全てを可能な限り調べ直した結果、そのほとんどが現ソノーザ公爵ベーリュ・ヴァン・ソノーザが関与していたことが事実である裏付けと証拠が出ました。他国から麻薬や毒物の購入は裏商人の自白、あるいは購入記録から確定しています。毒物の方は日記に記された過去の数々の毒殺事件及び、当時王太子であられたジンノ国王陛下が経験された毒殺未遂事件に使用されたものと一致しています。麻薬に関しても、過去の麻薬所持・取引事件の物と一致しています。それらの事件全ては、別人が犯人として逮捕されていますが、これを機に彼らは冤罪と判断されました。念のため、濡れ衣を着せられたと思われる方々に関しては、本人もしくは親族の方々を調べ直して九割が無実であることが確認できました。そういった方々はすでに王家側から謝罪をもって正式に釈放されました」
「「「「「……………………」」」」」
…………麻薬に毒物? 毒殺未遂? あれ? 私の思っていた以上に酷くない?
「長いぞ? 簡潔にまとめろと言ったはずだが?」
「まとめました。長いと思われるのは、それだけ罪が多くて深いのです。全く恐れ入りますよ。よくもまあ、出世のためにこれだけの罪を犯せるものですね。……全く反吐が出ますよ、ベーリュ・ヴァン・ソノーザ」
本当に反吐が出ますね。私たち親子だけでなく、もっと多くの人を巻き込んでるんですから。
「それにどうやら出世に関係なく気に入らない商店や下級貴族の家を潰したり、他国の貴族に賄賂を贈ったりしていますね。ああ、これは不自然に借金ができて没落した元貴族の方々の証言をもとに調べて判明したことなので、証拠もありますよ」
「……だそうだが?」
「あ、あ……」
……引くわー、典型的な悪徳貴族だよ。死刑確定でお願いします。
反論が止まったベーリュ。それと同時に周りから罵詈雑言の嵐が巻き起こる。衛兵に止められてもお構いなしに。
「今は裁判中です! 抑えて!」
ちょっ、ヤバいじゃん。衛兵の人まで駆けつけてきたよ。もう暴動が起こりそうな、ていうか起こってる? もう誰にも止められないんじゃ……と思ったら、
「皆、控えよっ!」
「「「「「っ!?」」」」」
「「「「「陛下っ!?」」」」」
「「「父上っ!」」」
えっ!? 誰!? いや国王陛下だ! いや何あれ? さっきみたいな嫌味なおじさん風な顔から威厳ってやつがこれでもかと言うほど見せつける王様の顔になってる! な、何で……?
「……皆、今は裁判ぞ。不要な私語は控えよ」
「「「「「………………………」」」」」
気が付けば皆静かにしてるし。ああ、皆を鎮めるためにそんなことをしたのですね。納得。
「裁判長、進めよ」
「は、はい! それでは、」
「待ってください。私からまだ言いたいことがあります」
クラマ宰相、今度はどんな有力情報を?
「宰相。構わん、申してみよ」
「はい。ソノーザ公爵、私の友人たちに貴方に会って文句を言いたいという方々がいます。どうぞ」
クラマ宰相の呼びかけに応じて、一人の男が現れました。え? 禿げ頭のサンタクロース……じゃなくて商人の人ですね。
「久しいな、ベーリュ・ヴァン・ソノーザ。私はザンタ・メイ・ミークだが覚えてるか?」
「そ、その名は………!」
え!? メイ・ミークって、ヒロインのマリナ様と同じ姓じゃないですか。もしや彼女の父親?
「ほ、本当にあのザンタなのか? まだ、生きていたのか!? 妹のように死んだのではなかったのか!?」
妹? ベーリュの方も彼を知っているのは確定ですね。何者でしょうか?
「妹は死んだよ、家が取り潰された後に『私のせいだ』と言って首をつって自殺してしまったさ。両親も十年前に他界したよ。その様子だと、私が商売に成功して貴族に戻ったことを知らなかったのか? いや、この場合は『商売に成功して貴族に戻れた男』が私だと知らなかった、と言うのが正しいな」
「くっ!」
あっ! 確か日記にも問題を起こした少女の話があったけど、それが妹か。その兄があのザンタさんという……これは有力な証人が現れましたね。
「ふむ、その様子だと実は私の顔も名前も忘れてしまったのではないか? お前の頭の中では死んだと思われていたようだしな。何しろ、我が家名ミークの名をもつ娘がカーズ殿下に絡まれても何の動きもなかったのだからな」
「か、家名? ……ああっ!? まさか!?」
あー、そうでしたね。あの人の娘さんが馬鹿王子に絡まれた挙句、サエナリアお嬢様が……これはすごい偶然ですね。
「陛下! 我が娘サエナリアが行方不明になった原因がわかりました! それはこの男ザンタ・メイ・ミークによる誘拐です! この男は私に恨みを抱いていました。それで貴族に戻ったのをいいことに、己の娘を使ってカーズ殿下を誘惑しサエナリアを騙して友人に成りすました。この男は私を裁判にかけるためにカーズ殿下を惑わしサエナリアを誘拐したに違いありません! この男は罪人です。サエナリアの誘拐容疑で捕らえるべきです!」
はあー!? 何言ってんだあのくそ野郎が! ここぞとばかりに他人を陥れようとするなんて! お嬢さまは誘拐されていなければマリナ様も悪意などない! ふざけんな!
「くっ、くっふふふふっふ! な、何を言い出すかと思えば、今になっても罪を押し付けようとするとはな……こ、ここまで往生際が悪いとは………………よくそんなことが言えたものだ!」
「うっ!?」
おお! ここで国王陛下がお怒りに! いいぞ! 思いっきりお怒りください!
「いいか! ザンタがサエナリアの誘拐? そんなことは不可能だ! ザンタは今も貴族でもあり商人でもあるのだぞ! 商人とは周りからの信頼を重視する。そんな男が商人として信頼を失うような真似をするはずがなかろう! それにミーク家には今も借金があるのだ。誘拐などという行為に使う金が無いほどにな! それにこの裁判のことも伝えた時にザンタ本人に『自分の家のことを調べて冤罪であることを証明してほしい』と希望したから過去のことも今のことも調べ直したのだ。その結果は白! つまり、お前の言うような策略など存在せん! 見苦しいにもほどがあるぞ! 貴族としての尊厳すら失ったか、ベーリュ・ヴァン・ソノーザ!」
「…………」
「父上……」
「親父……」
「……」
気力を無くして項垂れるベーリュ。いい気味ですね、ざまあ。
「はぁ……こんな男に我が家が一度潰されたと思うと情けない限りです。怒りよりも呆れと言う気持ちが強い。少なくとも、私だけは。他の者は知らないがな」
ザンタさんの気持ちは痛いほどわかります。実際、私は恨み憎んで生きてきました。そして今、復讐の最中です。
「そうですね。では、次の方どうぞ」
今度は、修道服を着た女性が現れました。
「そ、その女は………?」
「彼女は貴方のせいで人生を狂わされた平民の方ですよ。貴方の弟に命を救われましたがね」
「っ!? ………そうか、あの時の!」
貴方の弟に救われた? そういえば日記にも持ち主の方が平民の少女を助けたとありましたが、今度はその人が現れたわけですか。良く来てくださいましたね。
「彼女にも証言していただくことになっています。貴方の罪をね。言っておきますが他にも証言したい方がいますのでよく聞いてくださいね」
この後、クラマ宰相の言う通り多くの人々が証言してくれました。それらの証言の全てにベーリュは面白いくらいに吠えるのですが、そのたびに正論をもって反論されるのでした。本当に面白かったです。
◇
「ベーリュよ。もはや反論する気も失せたようだな。面白いくらい顔色が悪いではないか」
「…………」
ベーリュ・ヴァン・ソノーザにはもう反論する力もないようです。あれだけ証言されて証拠もそろえられては逆転どころか罪を軽くもできないですよねえ。
「書類上の証拠の他に、これだけ多くの証人が証言してくれた以上、もう何一つ言い逃れはできんな」
「わ、私は………俺は、ここで終わるのか………今まで、ずっと、家を大きくしてきたというのに………」
「ああ、お前はここで終わる。因果応報にして自業自得というやつだ」
「………………そうか。今まで頑張ってきたのにな」
頑張ってきた? 間違っても口にしていい言葉じゃないです。それは正しいことに一生懸命努力した人が言うべき言葉。自身の私利利欲のためだけに多くの人々を犠牲にしてきた男が口にしていい言葉ではありませんよ。
「何が今まで頑張ったよ! 出世のためにっていう口実で悪事を行ってきただけじゃない! どうしてそのために私たちが巻き込まれなければならないのよ!? 何の罪もない私や娘たちが何でこんな目に!」
おや? 奥様がそれを言いますかね? 言える立場じゃないでしょう。娘二人の教育を間違ったくせに。それに、罪ならあるじゃないですか。
「おや? ソノーザ公爵夫人よ、よもや自分も被害者だと言わんばかりだな。そなたとて罪はあるぞ。育児放棄という罪がな」
「そ、そんな………!」
「我が国では育児放棄及び極端な格差教育は罪に該当する。つまり、そなたの場合は姉妹格差。つまり娘の教育のことでこの二つの罪を重ねておる。夫のことをとやかく言う資格はないぞ」
「あ、ああ………………」
本当に愚かな女ですねえ。この国の法律をよく勉強してこなかった証拠ですね。
「この場において、裁判長として判決を下す」
! 遂にこの時が!
「ベーリュ・ヴァン・ソノーザを今日明かされた数え切れぬほどの多くの罪状により、今すぐ公爵の爵位と領地と財産を取り上げ、翌日のうちに公開処刑を行うものとする」
処刑! すなわち死刑! しかも多くの人々に公開される形で!
「更にネフーミ・ヴァン・ソノーザを育児放棄及び極端な格差教育の罪により親権の剥奪及び貴族籍の剥奪とグレイブ修道院送りを決定する」
修道院! しかもグレイブ修道院! あの自殺者大量生産所とも言われたあの場所に!
…………や、やった……あの忌まわしいソノーザ公爵夫妻が今、裁かれたんだ! 私は父と母の敵を討てたんだ!
「………………」
「そ、そんなぁぁぁぁぁ…………嘘よ、嘘よぉぉぉぉぉ…………」
◇
ソノーザ公爵、いや『元』公爵夫妻は生気を失って絶望します。その惨めな姿を見たくて、私は今日まで生きてきました。その過程で、使用人学校でいろんなことを率先して挑戦し、学び習得してきました。すべてはこの日の、この瞬間のために!
「……これで奴らは終わりましたよ。お父様、お母様……」
「ミルナ……」
……もはや『ざまあ』と言ってやることもないでしょう。目に涙すら浮かんでしまいます。傍にいるエンジ様の言葉すらうまく聞き取れないです。何だか、肩の荷が下りた気分ですが、サエナリアお嬢様に私が見聞きしたことをお伝えするという仕事がまだ残っている以上……いいえ、今日くらいは今だけはいいですよね……。
……そう思って自分に甘えてしまっていたら、いつの間にかワカナの処遇が決まっていました。見損ねた自分が少し悔しいです。
「ベーリュを勢い込んでくれるところで悪いが日記が真実を書いていることは間違いない」
「な、何故ですか!?」
「この日記を見て、私達が何も調べなかったとでもいうつもりか?」
「っ!」
日記のことで王家の方々は第二王子レフトン殿下の強い要望で日記に記された事件を細かく調査しているのです。新たな証拠を見つけるほどに。
「そ、そんなことは……では……!」
「ああ、納得してもらえるように他の証拠を提示してやろう、宰相。例の物を」
「はい」
例の物、つまり発覚した証拠の数々のことですね。これはこれは随分と分厚い資料になってます。
「そ、それは?」
「ああ、あれは日記に記された事件の全てを徹底的に調べ直した結果をまとめた書類だ。二十年も前のことだが、あの頃より今の方が我が国の技術力が発達しているから、あの頃見落としたことがあれば今の時代なら調べ直しても見つけられるはずだと思わんか?」
「そ、そんなことを、わざわざ!?」
「わざわざ、だと? 原因は己自身にあるだろう?」
「……」
その通りですよ、いい加減本当に反省しなさいな。
「そういうことだ。さあ宰相よ。簡潔にまとめて結果を聞かせてくれ」
その通り、言ってやってください、クラマ宰相!
「……はい。日記に記された事件の全てを可能な限り調べ直した結果、そのほとんどが現ソノーザ公爵ベーリュ・ヴァン・ソノーザが関与していたことが事実である裏付けと証拠が出ました。他国から麻薬や毒物の購入は裏商人の自白、あるいは購入記録から確定しています。毒物の方は日記に記された過去の数々の毒殺事件及び、当時王太子であられたジンノ国王陛下が経験された毒殺未遂事件に使用されたものと一致しています。麻薬に関しても、過去の麻薬所持・取引事件の物と一致しています。それらの事件全ては、別人が犯人として逮捕されていますが、これを機に彼らは冤罪と判断されました。念のため、濡れ衣を着せられたと思われる方々に関しては、本人もしくは親族の方々を調べ直して九割が無実であることが確認できました。そういった方々はすでに王家側から謝罪をもって正式に釈放されました」
「「「「「……………………」」」」」
…………麻薬に毒物? 毒殺未遂? あれ? 私の思っていた以上に酷くない?
「長いぞ? 簡潔にまとめろと言ったはずだが?」
「まとめました。長いと思われるのは、それだけ罪が多くて深いのです。全く恐れ入りますよ。よくもまあ、出世のためにこれだけの罪を犯せるものですね。……全く反吐が出ますよ、ベーリュ・ヴァン・ソノーザ」
本当に反吐が出ますね。私たち親子だけでなく、もっと多くの人を巻き込んでるんですから。
「それにどうやら出世に関係なく気に入らない商店や下級貴族の家を潰したり、他国の貴族に賄賂を贈ったりしていますね。ああ、これは不自然に借金ができて没落した元貴族の方々の証言をもとに調べて判明したことなので、証拠もありますよ」
「……だそうだが?」
「あ、あ……」
……引くわー、典型的な悪徳貴族だよ。死刑確定でお願いします。
反論が止まったベーリュ。それと同時に周りから罵詈雑言の嵐が巻き起こる。衛兵に止められてもお構いなしに。
「今は裁判中です! 抑えて!」
ちょっ、ヤバいじゃん。衛兵の人まで駆けつけてきたよ。もう暴動が起こりそうな、ていうか起こってる? もう誰にも止められないんじゃ……と思ったら、
「皆、控えよっ!」
「「「「「っ!?」」」」」
「「「「「陛下っ!?」」」」」
「「「父上っ!」」」
えっ!? 誰!? いや国王陛下だ! いや何あれ? さっきみたいな嫌味なおじさん風な顔から威厳ってやつがこれでもかと言うほど見せつける王様の顔になってる! な、何で……?
「……皆、今は裁判ぞ。不要な私語は控えよ」
「「「「「………………………」」」」」
気が付けば皆静かにしてるし。ああ、皆を鎮めるためにそんなことをしたのですね。納得。
「裁判長、進めよ」
「は、はい! それでは、」
「待ってください。私からまだ言いたいことがあります」
クラマ宰相、今度はどんな有力情報を?
「宰相。構わん、申してみよ」
「はい。ソノーザ公爵、私の友人たちに貴方に会って文句を言いたいという方々がいます。どうぞ」
クラマ宰相の呼びかけに応じて、一人の男が現れました。え? 禿げ頭のサンタクロース……じゃなくて商人の人ですね。
「久しいな、ベーリュ・ヴァン・ソノーザ。私はザンタ・メイ・ミークだが覚えてるか?」
「そ、その名は………!」
え!? メイ・ミークって、ヒロインのマリナ様と同じ姓じゃないですか。もしや彼女の父親?
「ほ、本当にあのザンタなのか? まだ、生きていたのか!? 妹のように死んだのではなかったのか!?」
妹? ベーリュの方も彼を知っているのは確定ですね。何者でしょうか?
「妹は死んだよ、家が取り潰された後に『私のせいだ』と言って首をつって自殺してしまったさ。両親も十年前に他界したよ。その様子だと、私が商売に成功して貴族に戻ったことを知らなかったのか? いや、この場合は『商売に成功して貴族に戻れた男』が私だと知らなかった、と言うのが正しいな」
「くっ!」
あっ! 確か日記にも問題を起こした少女の話があったけど、それが妹か。その兄があのザンタさんという……これは有力な証人が現れましたね。
「ふむ、その様子だと実は私の顔も名前も忘れてしまったのではないか? お前の頭の中では死んだと思われていたようだしな。何しろ、我が家名ミークの名をもつ娘がカーズ殿下に絡まれても何の動きもなかったのだからな」
「か、家名? ……ああっ!? まさか!?」
あー、そうでしたね。あの人の娘さんが馬鹿王子に絡まれた挙句、サエナリアお嬢様が……これはすごい偶然ですね。
「陛下! 我が娘サエナリアが行方不明になった原因がわかりました! それはこの男ザンタ・メイ・ミークによる誘拐です! この男は私に恨みを抱いていました。それで貴族に戻ったのをいいことに、己の娘を使ってカーズ殿下を誘惑しサエナリアを騙して友人に成りすました。この男は私を裁判にかけるためにカーズ殿下を惑わしサエナリアを誘拐したに違いありません! この男は罪人です。サエナリアの誘拐容疑で捕らえるべきです!」
はあー!? 何言ってんだあのくそ野郎が! ここぞとばかりに他人を陥れようとするなんて! お嬢さまは誘拐されていなければマリナ様も悪意などない! ふざけんな!
「くっ、くっふふふふっふ! な、何を言い出すかと思えば、今になっても罪を押し付けようとするとはな……こ、ここまで往生際が悪いとは………………よくそんなことが言えたものだ!」
「うっ!?」
おお! ここで国王陛下がお怒りに! いいぞ! 思いっきりお怒りください!
「いいか! ザンタがサエナリアの誘拐? そんなことは不可能だ! ザンタは今も貴族でもあり商人でもあるのだぞ! 商人とは周りからの信頼を重視する。そんな男が商人として信頼を失うような真似をするはずがなかろう! それにミーク家には今も借金があるのだ。誘拐などという行為に使う金が無いほどにな! それにこの裁判のことも伝えた時にザンタ本人に『自分の家のことを調べて冤罪であることを証明してほしい』と希望したから過去のことも今のことも調べ直したのだ。その結果は白! つまり、お前の言うような策略など存在せん! 見苦しいにもほどがあるぞ! 貴族としての尊厳すら失ったか、ベーリュ・ヴァン・ソノーザ!」
「…………」
「父上……」
「親父……」
「……」
気力を無くして項垂れるベーリュ。いい気味ですね、ざまあ。
「はぁ……こんな男に我が家が一度潰されたと思うと情けない限りです。怒りよりも呆れと言う気持ちが強い。少なくとも、私だけは。他の者は知らないがな」
ザンタさんの気持ちは痛いほどわかります。実際、私は恨み憎んで生きてきました。そして今、復讐の最中です。
「そうですね。では、次の方どうぞ」
今度は、修道服を着た女性が現れました。
「そ、その女は………?」
「彼女は貴方のせいで人生を狂わされた平民の方ですよ。貴方の弟に命を救われましたがね」
「っ!? ………そうか、あの時の!」
貴方の弟に救われた? そういえば日記にも持ち主の方が平民の少女を助けたとありましたが、今度はその人が現れたわけですか。良く来てくださいましたね。
「彼女にも証言していただくことになっています。貴方の罪をね。言っておきますが他にも証言したい方がいますのでよく聞いてくださいね」
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「ベーリュよ。もはや反論する気も失せたようだな。面白いくらい顔色が悪いではないか」
「…………」
ベーリュ・ヴァン・ソノーザにはもう反論する力もないようです。あれだけ証言されて証拠もそろえられては逆転どころか罪を軽くもできないですよねえ。
「書類上の証拠の他に、これだけ多くの証人が証言してくれた以上、もう何一つ言い逃れはできんな」
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「我が国では育児放棄及び極端な格差教育は罪に該当する。つまり、そなたの場合は姉妹格差。つまり娘の教育のことでこの二つの罪を重ねておる。夫のことをとやかく言う資格はないぞ」
「あ、ああ………………」
本当に愚かな女ですねえ。この国の法律をよく勉強してこなかった証拠ですね。
「この場において、裁判長として判決を下す」
! 遂にこの時が!
「ベーリュ・ヴァン・ソノーザを今日明かされた数え切れぬほどの多くの罪状により、今すぐ公爵の爵位と領地と財産を取り上げ、翌日のうちに公開処刑を行うものとする」
処刑! すなわち死刑! しかも多くの人々に公開される形で!
「更にネフーミ・ヴァン・ソノーザを育児放棄及び極端な格差教育の罪により親権の剥奪及び貴族籍の剥奪とグレイブ修道院送りを決定する」
修道院! しかもグレイブ修道院! あの自殺者大量生産所とも言われたあの場所に!
…………や、やった……あの忌まわしいソノーザ公爵夫妻が今、裁かれたんだ! 私は父と母の敵を討てたんだ!
「………………」
「そ、そんなぁぁぁぁぁ…………嘘よ、嘘よぉぉぉぉぉ…………」
◇
ソノーザ公爵、いや『元』公爵夫妻は生気を失って絶望します。その惨めな姿を見たくて、私は今日まで生きてきました。その過程で、使用人学校でいろんなことを率先して挑戦し、学び習得してきました。すべてはこの日の、この瞬間のために!
「……これで奴らは終わりましたよ。お父様、お母様……」
「ミルナ……」
……もはや『ざまあ』と言ってやることもないでしょう。目に涙すら浮かんでしまいます。傍にいるエンジ様の言葉すらうまく聞き取れないです。何だか、肩の荷が下りた気分ですが、サエナリアお嬢様に私が見聞きしたことをお伝えするという仕事がまだ残っている以上……いいえ、今日くらいは今だけはいいですよね……。
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公爵家の長女エルゼは、放蕩者の父や無能な弟に代わり、寝る間も惜しんで領地経営と外交を支えてきた。しかし家族は彼女の功績を奪った挙句、政治犯の濡れ衣を着せて彼女を処刑した。
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目覚めると、そこは処刑の二年前。 再び「仕事」を押し付けようとする厚顔無恥な家族に対し、エルゼは優雅に微笑んだ。
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資産を奪い尽くして亡命した令嬢と、彼女を溺愛する皇太子。 一方、すべてを失った公爵家が泣きついてくるが、もう遅い。 あなたの家の金庫も、土地も、働く人間も――すべて私のものですから。
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