上 下
8 / 10

(08) 約束

しおりを挟む
「もう、おじさん! おじさんの番だよ!」

アラタは、ハッとした目を開けた。
手にはトランプの札。
目の前のユウキは、目をキラキラとさせている。

そうだ、ユウキが遊びに来てトランプをしていたんだな。

アラタは、その事実を思い出した。

「お、おう! じゃ、これな」

アラタは、手にしていた一枚のトランプを場に出した。
すると、ユウキは大声を上げた。

「ドボン! ははは。僕の勝ち!」

ユウキの上がり札を確認して、アラタは頭を抱えた。

「また、負けた!」
「おじさん、弱いよ!」

ユウキは得意気に言った。
アラタは時計の針を見た。

「さぁ、ユウキ、風呂に入って寝ようか?」
「うん!」



「フンフンフン!」

ユウキは湯船につかると、直ぐに鼻歌を歌い始めた。
とてもご機嫌な様子。
アラタはそんなユウキを微笑ましく眺める。

「楽しそうだな、ユウキ。何かいい事でもあったか?」
「うん! 今、図工の授業でね、紙粘土でお父さんお母さんの像を作るんだけど、おじさんをモデルに作っているんだ!」

「ぶっ! 俺をモデルにか?」
「そう、おじさん! すごくうまく作れているんだ! だから楽しみにしててよ! あははは!」

「ははは! 了解!」

アラタは心から笑った。
何が嬉しいって、ユウキがこんなに楽しそうな笑顔をしている。
アラタはそれが只々嬉しいのだった。




「暗くするぞ」
「うん」

部屋の灯りが消えた。

二人同じ布団の中。
触れた所から互いの体温が伝わる。

言葉に出来ない心地よい気持ち。
安心……。

二人はそれを感じ取っていた。



しばらくして、ユウキはボソッと言った。

「ねぇ、おじさん。僕、おじさんのうちの子だったらよかったな」
「ん? ここにいる時はそう思っていいぞ」

「なら、おじさん。キスして?」
「いいよ。ほら、おいで」

アラタはユウキの体を引き寄せると、唇にチュッと軽くキスをした。

「おやすみのキスだ。ゆっくり眠るんだぞ」

ばっ!

ユウキは返事をする代わりに、突然、跳ね起き、二人の上掛け布団をはがした。
そして、アラタの体を跨いで乗っかると、力いっぱいのハグをした。

アラタは、どうしたんだ、とユウキを引きはがそうとしたが、ユウキはガッチリと抱き付いて離れようとしない。

ユウキはアラタのシャツに顔を埋めて言った。

「おじさん、あのラブホテルに行った男の人と付き合っているの?」
「ん? どうかな」

「ねぇ、おじさん。僕にも同じ事して? あの男の人と同じ事」
「バカ! そんな事、出来るかよ!」

アラタは怒り口調で言った。
ユウキは構わずに訴え続ける。

「子供になれないなら恋人になりたいんだ。お願い。僕、ひとりぼっちは嫌なんだ。おじさんとの絆が欲しい。家族になりたい」
「そんな事……」

「おじさん、男の人を好きなんでしょ! 僕だって男なんです! お願い……」

最後のユウキの言葉は涙交じりだった。
咳き込み、すすり泣く声に変わる。


アラタは、ミノリの言葉を思い出していた。

『抱いてあげて下さい』

こういう事か。あいつにも同じような経験があったのかな?

アラタは、冷静に言った。

「ユウキ、いいから離れなさい」
「おじさん! お願い! 僕を抱いて下さい!」

必死に懇願するユウキ。

アラタの胸に突き刺さる。
ユウキの境遇を考えれば、そんな考えに行きついても仕方がない事なのだ。
だからといって、ダメなものはダメだ。

アラタは、心を鬼にして叱る。

「バカ!」
「だって……うっうう」

アラタは、一転して優しい口調で言った。

「ごめん。ユウキ。俺は、お前を抱くことは出来ない」
「うっ、うわぁん」

ユウキは再び大泣きを始めた。
アラタはユウキの頭を優しくなでる。

「でも、ユウキ。俺とお前は今から家族だ。約束しよう」
「約束?」

「ああ、約束だ。俺は今日からずっとユウキの事を家族だと思う事にする。そうだな、義理の息子。どうだ?」

ユウキは、腑に落ちずアラタに聞き返す。

「おじさんの恋人にはなれない?」
「いいや。なれるよ。お前が大きくなった時、まだ、おじさんと恋人になりたかったらその時は契りを交わそう」

「ほんと?」
「本当だよ」

アラタの言葉に、ユウキは目を輝かす。
その瞳には、強い意志が宿っている。

「じゃあ、僕は、おじさんが大好きになるような男になる!」
「ははは。無理をしなくていいよ」

ユウキはアラタの体から離れると、アラタを引っ張り起こした。
そして、アラタに言った。

「じゃあ、おじさん。指切りしよう! これは婚約と同じだからね!」
「婚約って……ずいぶん難しい言葉を知っているな」

「そんなの当たり前だよ。今の子はませているんだ!」
「自分で言うなよ! あはは。まぁ、いいか」

二人、小指を出し合った。
そして、歌を歌いだす。

「ゆびきりげんまん嘘ついたら……」




ユウキは満足そうに布団に入った。
アラタは、ユウキに声を掛けた。

「さぁ、今度こそ、ちゃんと寝るんだぞ!」
「はい、お父さん! 大好き!」

「ああ、ユウキ。父さんもお前の事が大好きだよ」
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

屋烏の愛

BL / 完結 24h.ポイント:163pt お気に入り:11

【R18】歪んだ家族の幸せ

BL / 連載中 24h.ポイント:227pt お気に入り:273

だから女装はしたくない

BL / 完結 24h.ポイント:120pt お気に入り:5

黒猫館 〜愛欲の狂宴〜

ホラー / 完結 24h.ポイント:170pt お気に入り:28

ダンジョン美食倶楽部

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:134pt お気に入り:507

蒼い海 ~女装男子の冒険~

キャラ文芸 / 完結 24h.ポイント:404pt お気に入り:36

俺が恋したオッサンは、元ヒロインの皇子様。

BL / 連載中 24h.ポイント:28pt お気に入り:33

悪役令息の義姉となりました

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:22,682pt お気に入り:1,370

顔の良い灰勿くんに着てほしい服があるの

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:92pt お気に入り:0

処理中です...