21 / 52
最終話:処女懐妊と双子の神子、あるいは世界の再接続 後編
事務所の全電源を投入し、アキラはVRゴーグルを装着した。
意識が吸い込まれ、辿り着いたのは、一面に黄金の書物が浮遊する無限の空間。
「……ようやく来たか。スペア・メシア」
待ち構えていたのは、あの黄金の目を持つ『未来のアキラ』だった。
「すでに無数のパラレルワールドが生まれている。……それを今さら無に帰すというのか? 何百億、何千億という命が紡いだ、新しい歴史を!」
「……理解してるさ」
アキラはアバターの剣を抜き、真っ直ぐに男を見据えた。
「だから俺がするのは、消滅じゃない。……すべてのパラレルワールドを、完全に『独立』した世界にすることだ。他の歴史に干渉せず、自分たちの足で歩めるように」
「さすがだな。……だが、俺はお前の思い通りにはさせない。……俺の名はアンフィス・バエナ・イポトリル。アカシックレコードの王。……お前の、双子の兄だ」
「……兄さん。やっぱり、あんたが……アンフィス教のメシアだったんだね……」
アンフィスは残酷な笑みを浮かべた。
「俺は死後の情報を再構築できる。……さあ、母さんにふさわしい相手を連れてきたぞ」
暗闇から現れたのは、アキラは知らないが、草詰はよく知っているエージェントだった。
「……久しぶりだね、アリス」
「レンジくん……!」
アバターとなってアキラの横に立つ草詰が、その名を呼び絶句する。
その男はどうやら、アンフィスや草詰が言っていたエージェント、秋月レンジのようだった。
「アリス、彼はもう、わたしたちの知っているレンジじゃないわ」
小久保の通信が入る。
「彼はアカシックレコードの一部。……倒すしかないのよ、アリス」
激しい戦いが始まった。
「弱い! 弱いなぁ、アリス! ぼくがかつて愛した君は、心から尊敬していた君は、こんなに弱かったのか?」
レンジの圧倒的な力に押される草詰。だが、彼女は不敵に笑った。
「……私は召喚師なの。アキラくん……あの二人の依頼をダレカノカワリで解決した報酬、今使うわ!」
光と共に、秩序王ステラと精霊人ピノアが現れる。二人の強力な合体魔法がレンジを包み込み、一瞬で彼を情報へと還元した。
「……バカな」
アンフィスが顔を歪める。
「俺は王だぞ! スペアのお前とは違う、絶対的な改竄権限を持っているんだ!」
アンフィスが指を鳴らす。
『雨野アキラの育ての親、雨野タカミ、マヨリの存在を歴史から抹消する。……小久保ハルミも、その存在を消滅させる』
「やめろ!!」
アキラの叫び虚しく、モニター越しに聞こえていたハルミの声が途切れた。
絶望が支配する空間。だが、そこに新たなアバターが現れた。
「……僕のゲームで、勝手に歴史改変されちゃ困るな」
現れたのは、雨野タカミ。アキラの育ての父だった。
「父さん……!?」
「アキラ。お前のお兄さんは確かにこの世界の王かもしれない。……でもな、この仮想世界『アカシックプレイヤーズ』を作ったのは、この僕なんだ。……システムの管理者権限は、僕が持っている!」
タカミの操作により、消滅したハルミたちの存在が次々と復元されていく。
「アキラ! 今だ! 奴と一つになれ! 主人格をお前として、アンフィスを統合するんだ!」
「……わかった!!」
アキラは自身の持つ『理を変える力』を全開にした。
『アンフィス・バエナ・イポトリルと、雨野アキラは一体化する。……主人格をアキラとし、アンフィスの悪意を封印する!』
巨大な光の渦。
アキラとアンフィスの魂が混ざり合い、新たな存在『アキランフィス』へと変貌を遂げた。
静寂が戻った空間に、一人の男が立っていた。
イスカリオテのユダ。
「……終わったんだね、アキラさん」
「……ユダさん……ごめん、あんたまで巻き込んで」
アキラは悟っていた。全ての歴史を独立させ、干渉を断ち切るためには、自分もこの『システム』の一部として消えなければならないことを。
「……ユダ。……俺から、メシアの力を剥奪してくれ。……それから、俺を『現在』に帰してほしい」
「……それが、私の真の裏切りなのですね」
ユダは優しく微笑み、アキラの胸に手を置いた。
「あなたは現在を生きるべき人。……待っている人が、たくさんいる。……さようなら、雨野アキラ。……あなたは、本物のメシアだった」
ユダの最後の『裏切り』――それは、神の計画に背き、アキラを人間に戻すという究極の救済だった。
目を開けると、そこは事務所の床だった。
周囲には、草詰、リカ、吉川、ハルミ……そして、現実の父・タカミ。
「おかえり、アキラくん」
リカが涙を拭いながら、アキラを抱きしめた。
「……ただいま、リカ。……ただいま、……母さん」
草詰は、もう何も隠す必要のない、本当の母の顔でアキラを抱きしめ返した。
数日後。
秋葉原のビルの屋上。アキラは一人、空を見上げていた。
影から、ひょっこりと一人の男が現れる。それは、憑き物が落ちたような顔をしたアンフィスだった。
「……ここにいたのか。兄さん」
「……ふん。ユダの仕業だな。俺をこの時代に、ただの人間として留まらせたのは」
アンフィスは少し不機嫌そうに空を睨んだ。
「……アキラ。……お前はこれから、どうするつもりだ」
「俺? 俺はこれまで通り、雨野アキラとして生きていくよ。……それから、草詰さん……母さんの手伝いもするし」
「……母さんとは俺が暮らす。お前には月に一度しか会わせないからな」
「何勝手に決めてんだよ! ブラコンか!」
アキラは笑った。
かつて迷子だった少年は、もういない。
誰かの「代わり」として始まった旅は、自分自身を見つけるための物語だった。
「アキラくーん! 仕事だよー!!」
階下から、草詰アリスの元気な声が響く。
「……了解、母さん! ……あ、違う、草詰所長!!」
アキラは屋上を駆け出した。
新しい歴史の、新しい一歩を踏み出すために。
意識が吸い込まれ、辿り着いたのは、一面に黄金の書物が浮遊する無限の空間。
「……ようやく来たか。スペア・メシア」
待ち構えていたのは、あの黄金の目を持つ『未来のアキラ』だった。
「すでに無数のパラレルワールドが生まれている。……それを今さら無に帰すというのか? 何百億、何千億という命が紡いだ、新しい歴史を!」
「……理解してるさ」
アキラはアバターの剣を抜き、真っ直ぐに男を見据えた。
「だから俺がするのは、消滅じゃない。……すべてのパラレルワールドを、完全に『独立』した世界にすることだ。他の歴史に干渉せず、自分たちの足で歩めるように」
「さすがだな。……だが、俺はお前の思い通りにはさせない。……俺の名はアンフィス・バエナ・イポトリル。アカシックレコードの王。……お前の、双子の兄だ」
「……兄さん。やっぱり、あんたが……アンフィス教のメシアだったんだね……」
アンフィスは残酷な笑みを浮かべた。
「俺は死後の情報を再構築できる。……さあ、母さんにふさわしい相手を連れてきたぞ」
暗闇から現れたのは、アキラは知らないが、草詰はよく知っているエージェントだった。
「……久しぶりだね、アリス」
「レンジくん……!」
アバターとなってアキラの横に立つ草詰が、その名を呼び絶句する。
その男はどうやら、アンフィスや草詰が言っていたエージェント、秋月レンジのようだった。
「アリス、彼はもう、わたしたちの知っているレンジじゃないわ」
小久保の通信が入る。
「彼はアカシックレコードの一部。……倒すしかないのよ、アリス」
激しい戦いが始まった。
「弱い! 弱いなぁ、アリス! ぼくがかつて愛した君は、心から尊敬していた君は、こんなに弱かったのか?」
レンジの圧倒的な力に押される草詰。だが、彼女は不敵に笑った。
「……私は召喚師なの。アキラくん……あの二人の依頼をダレカノカワリで解決した報酬、今使うわ!」
光と共に、秩序王ステラと精霊人ピノアが現れる。二人の強力な合体魔法がレンジを包み込み、一瞬で彼を情報へと還元した。
「……バカな」
アンフィスが顔を歪める。
「俺は王だぞ! スペアのお前とは違う、絶対的な改竄権限を持っているんだ!」
アンフィスが指を鳴らす。
『雨野アキラの育ての親、雨野タカミ、マヨリの存在を歴史から抹消する。……小久保ハルミも、その存在を消滅させる』
「やめろ!!」
アキラの叫び虚しく、モニター越しに聞こえていたハルミの声が途切れた。
絶望が支配する空間。だが、そこに新たなアバターが現れた。
「……僕のゲームで、勝手に歴史改変されちゃ困るな」
現れたのは、雨野タカミ。アキラの育ての父だった。
「父さん……!?」
「アキラ。お前のお兄さんは確かにこの世界の王かもしれない。……でもな、この仮想世界『アカシックプレイヤーズ』を作ったのは、この僕なんだ。……システムの管理者権限は、僕が持っている!」
タカミの操作により、消滅したハルミたちの存在が次々と復元されていく。
「アキラ! 今だ! 奴と一つになれ! 主人格をお前として、アンフィスを統合するんだ!」
「……わかった!!」
アキラは自身の持つ『理を変える力』を全開にした。
『アンフィス・バエナ・イポトリルと、雨野アキラは一体化する。……主人格をアキラとし、アンフィスの悪意を封印する!』
巨大な光の渦。
アキラとアンフィスの魂が混ざり合い、新たな存在『アキランフィス』へと変貌を遂げた。
静寂が戻った空間に、一人の男が立っていた。
イスカリオテのユダ。
「……終わったんだね、アキラさん」
「……ユダさん……ごめん、あんたまで巻き込んで」
アキラは悟っていた。全ての歴史を独立させ、干渉を断ち切るためには、自分もこの『システム』の一部として消えなければならないことを。
「……ユダ。……俺から、メシアの力を剥奪してくれ。……それから、俺を『現在』に帰してほしい」
「……それが、私の真の裏切りなのですね」
ユダは優しく微笑み、アキラの胸に手を置いた。
「あなたは現在を生きるべき人。……待っている人が、たくさんいる。……さようなら、雨野アキラ。……あなたは、本物のメシアだった」
ユダの最後の『裏切り』――それは、神の計画に背き、アキラを人間に戻すという究極の救済だった。
目を開けると、そこは事務所の床だった。
周囲には、草詰、リカ、吉川、ハルミ……そして、現実の父・タカミ。
「おかえり、アキラくん」
リカが涙を拭いながら、アキラを抱きしめた。
「……ただいま、リカ。……ただいま、……母さん」
草詰は、もう何も隠す必要のない、本当の母の顔でアキラを抱きしめ返した。
数日後。
秋葉原のビルの屋上。アキラは一人、空を見上げていた。
影から、ひょっこりと一人の男が現れる。それは、憑き物が落ちたような顔をしたアンフィスだった。
「……ここにいたのか。兄さん」
「……ふん。ユダの仕業だな。俺をこの時代に、ただの人間として留まらせたのは」
アンフィスは少し不機嫌そうに空を睨んだ。
「……アキラ。……お前はこれから、どうするつもりだ」
「俺? 俺はこれまで通り、雨野アキラとして生きていくよ。……それから、草詰さん……母さんの手伝いもするし」
「……母さんとは俺が暮らす。お前には月に一度しか会わせないからな」
「何勝手に決めてんだよ! ブラコンか!」
アキラは笑った。
かつて迷子だった少年は、もういない。
誰かの「代わり」として始まった旅は、自分自身を見つけるための物語だった。
「アキラくーん! 仕事だよー!!」
階下から、草詰アリスの元気な声が響く。
「……了解、母さん! ……あ、違う、草詰所長!!」
アキラは屋上を駆け出した。
新しい歴史の、新しい一歩を踏み出すために。
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
世間に秘された名門男子校・平坂学園体育科
空手の名選手であった高尾雄一は、新任教師として赴任する
高潔な人格と鋼のように鍛えられた肉体
それは、学園にとって最高の生贄の候補に他ならなかった
至高の筋肉を持つ、精神を削られ意志をなくした青年を太古の神に捧げるため、“水”、“風”、“土”の信奉者達が暗躍する
意志をなくし筋肉の操り人形と化した“デク”
消える教師
山奥の男子校で繰り広げられるダークファンタジー
ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~
桂
ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。
そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。
そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
触手エイリアンの交配実験〜研究者、被験体になる〜
桜井ベアトリクス
恋愛
異星で触手エイリアンを研究する科学者アヴァ。 唯一観察できていなかったのは、彼らの交配儀式。
上司の制止を振り切り、禁断の儀式を覗き見たアヴァは―― 交わる触手に、抑えきれない欲望を覚える。
「私も……私も交配したい」
太く長い触手が、体の奥深くまで侵入してくる。 研究者が、快楽の実験体になる夜。