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第11話:知多半島、潮風のドラッグレース
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「……ダメね。完全に逝ってる」
れいんが地下のガレージで、分解したミライースの内部を見て溜息を吐いた。安倍右京との死闘。5800回転固定の代償は大きく、CVTベルトは熱でボロボロになり、プーリーには無数のクラックが入っていた。
「修理には、アッセンブリー交換と強化パーツで最低20万。……でも、私たちの部費は、昨日のハイオク代で底をついたわ」
逢魔は、動かない相棒のボンネットを拳で叩いた。自分が無理をさせた結果だ。しかし、悔やんでいる暇はない。
「……金なら、稼げる場所がある」
百鬼がセンチュリーの窓を下げ、煙草の煙を吐き出した。
「知多半島の臨海工業地帯。あそこの直線道路で、週末ごとに『賞金』を賭けたドラッグレースが行われている。……ミライースが動かないなら、代わりの馬が必要だがな」
「代わりの馬……」
逢魔がガレージを見渡す。甲斐のロードスターはタイヤが限界だ。
その時、ガレージの隅でピンク色の輝きを放つ、一台のコンパクトカーが視界に入った。
「……はあ!? ちょっと待ちなさいよ! 私のアクアをあんな男臭い場所に連れて行く気!?」
ロリコが叫ぶが、れいんの瞳はすでにアクアのECU(制御ユニット)を捉えていた。
「……いいかもしれない。アクアのTHS-II(ハイブリッドシステム)は、発進時のモーター出力だけならミライースを凌駕する。……私が制限(リミッター)を解除すれば、0-100mなら『怪物』になれるわ」
「……ロリコ、頼む! ミライースを直すために、力を貸してくれ!」
逢魔の必死の訴えに、ロリコは顔を赤くしながらも、
「……修理代、一割上乗せして返しなさいよ!」
とキーを投げ渡した。
週末。潮風が吹き荒れる知多の埋立地。
集まったのは1000馬力超のスープラや、ニトロを積んだシビック。その列に並ぶ「初心者マーク付きのピンクのアクア」を見て、会場中に爆笑が渦巻いた。
「……なんだあ? 迷子の買い物帰りかよ。ここはママゴトの場所じゃねえぞ」
ガムを噛みながら笑うのは、漆黒のテスラ・モデルS Plaidを操る男。
「電気の力は、変速のラグすら許さない。……お前らのガソリン臭い『自動変速』が、この瞬間加速に勝てると思ってるのか?」
「……逢魔、システム起動。……ハイブリッドの真価を見せてあげて」
スタートライン。テスラの不気味な静寂に対し、アクアもまた「無音」で構える。
だが、その内部では、れいんのプログラムによってバッテリーの全電力がモーターへとバイパスされていた。
合図の旗が振られた瞬間、ピンクの閃光が弾けた。
「なっ……!? アクアが、あのテスラと並んでいるだと!?」
テスラの怒涛の加速に対し、アクアはモーターの初速に、エンジンの全開出力を無理やり上乗せ(シンクロ)させて食らいつく。
1.5リッターの非力なエンジンが、電気のブーストを受けて咆哮を上げる。
「……燃費車だと思って、舐めるなあぁぁぁ!」
逢魔がアクセルを床まで踏み抜く。
ゴール直前、モーターが過熱で悲鳴を上げる中、アクアは鼻差でテスラを抑え込んだ。
「……勝利。……賞金30万、確保したわ」
れいんが淡々とスマホで振込を確認する。会場のどよめきは止まらない。
だが、その様子を遠くから見つめる青白いLEDの影があった。安倍薫だ。
「……アクア、か。……ふん、あんな不浄な車に我がレプリカントのデータが汚されるとは。……徹底的に『掃除』が必要だね」
安倍の冷たい指先が、タブレットを叩く。その画面には、今走り終えたばかりのアクアの車両IDがロックオンされていた。
それは安倍の宣戦布告だった。
れいんが地下のガレージで、分解したミライースの内部を見て溜息を吐いた。安倍右京との死闘。5800回転固定の代償は大きく、CVTベルトは熱でボロボロになり、プーリーには無数のクラックが入っていた。
「修理には、アッセンブリー交換と強化パーツで最低20万。……でも、私たちの部費は、昨日のハイオク代で底をついたわ」
逢魔は、動かない相棒のボンネットを拳で叩いた。自分が無理をさせた結果だ。しかし、悔やんでいる暇はない。
「……金なら、稼げる場所がある」
百鬼がセンチュリーの窓を下げ、煙草の煙を吐き出した。
「知多半島の臨海工業地帯。あそこの直線道路で、週末ごとに『賞金』を賭けたドラッグレースが行われている。……ミライースが動かないなら、代わりの馬が必要だがな」
「代わりの馬……」
逢魔がガレージを見渡す。甲斐のロードスターはタイヤが限界だ。
その時、ガレージの隅でピンク色の輝きを放つ、一台のコンパクトカーが視界に入った。
「……はあ!? ちょっと待ちなさいよ! 私のアクアをあんな男臭い場所に連れて行く気!?」
ロリコが叫ぶが、れいんの瞳はすでにアクアのECU(制御ユニット)を捉えていた。
「……いいかもしれない。アクアのTHS-II(ハイブリッドシステム)は、発進時のモーター出力だけならミライースを凌駕する。……私が制限(リミッター)を解除すれば、0-100mなら『怪物』になれるわ」
「……ロリコ、頼む! ミライースを直すために、力を貸してくれ!」
逢魔の必死の訴えに、ロリコは顔を赤くしながらも、
「……修理代、一割上乗せして返しなさいよ!」
とキーを投げ渡した。
週末。潮風が吹き荒れる知多の埋立地。
集まったのは1000馬力超のスープラや、ニトロを積んだシビック。その列に並ぶ「初心者マーク付きのピンクのアクア」を見て、会場中に爆笑が渦巻いた。
「……なんだあ? 迷子の買い物帰りかよ。ここはママゴトの場所じゃねえぞ」
ガムを噛みながら笑うのは、漆黒のテスラ・モデルS Plaidを操る男。
「電気の力は、変速のラグすら許さない。……お前らのガソリン臭い『自動変速』が、この瞬間加速に勝てると思ってるのか?」
「……逢魔、システム起動。……ハイブリッドの真価を見せてあげて」
スタートライン。テスラの不気味な静寂に対し、アクアもまた「無音」で構える。
だが、その内部では、れいんのプログラムによってバッテリーの全電力がモーターへとバイパスされていた。
合図の旗が振られた瞬間、ピンクの閃光が弾けた。
「なっ……!? アクアが、あのテスラと並んでいるだと!?」
テスラの怒涛の加速に対し、アクアはモーターの初速に、エンジンの全開出力を無理やり上乗せ(シンクロ)させて食らいつく。
1.5リッターの非力なエンジンが、電気のブーストを受けて咆哮を上げる。
「……燃費車だと思って、舐めるなあぁぁぁ!」
逢魔がアクセルを床まで踏み抜く。
ゴール直前、モーターが過熱で悲鳴を上げる中、アクアは鼻差でテスラを抑え込んだ。
「……勝利。……賞金30万、確保したわ」
れいんが淡々とスマホで振込を確認する。会場のどよめきは止まらない。
だが、その様子を遠くから見つめる青白いLEDの影があった。安倍薫だ。
「……アクア、か。……ふん、あんな不浄な車に我がレプリカントのデータが汚されるとは。……徹底的に『掃除』が必要だね」
安倍の冷たい指先が、タブレットを叩く。その画面には、今走り終えたばかりのアクアの車両IDがロックオンされていた。
それは安倍の宣戦布告だった。
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