公道オートマ最速伝説『アビス・シフト(深淵の自動変速) 〜左足を封印せし漆黒の疾走者〜』

あめの みかな

文字の大きさ
20 / 30

​第20話:300km/hの境界線

しおりを挟む
​「……。……バイタル・リンク、全リミッター解除。……心臓の鼓動を、すべて油圧に変換して」

​れいんの声が、ヘルメット越しに逢魔の耳に届く。
知多産業道路、深夜の静寂は、赤いレクサスLC500と白いミライースの咆哮によって無惨に引き裂かれた。

​「行くわよ、可愛いおもちゃたち。……ついてこられるかしら?」

​ルルワがダイレクト・シフト10速ATを電光石火で叩き込む。
レクサスの5リッターV8エンジンが、大気を震わせる重低音を響かせ、赤い車体は弾かれたように加速した。一速、二速、三速……変速のたびに路面を蹴り飛ばす凄まじいトルク。

​「……負けるかよっ!」

​逢魔がアクセルを底まで蹴飛ばす。
その瞬間、バイタル・リンクの波形が跳ね上がった。心拍数は180を突破。
ミライースのCVTは、れいんの「オメガ・ドライブ」をさらに進化させた超高圧制御により、無段変速の強みを最大限に活かしてレクサスのスリップストリームに飛び込んだ。

​「……。……逢魔、気を付けて。……時速250キロを超えた。……ここから先は、ミライースの『空力』の限界点よ」

​ミライースの車体が、激しい風圧に晒されて「ミシミシ」と悲鳴を上げる。
軽自動車という「箱」には、時速300キロに耐える設計などなされていない。

フロントが浮き上がりそうになるのを、れいんが走行中に動的に制御する「可変カナード(フロントのフィン)」が、無理やり地面に押し付けていた。

​一方、その背後ではロリコのアクアが、必死に食らいついていた。

​「……私だって……私だって、ここにいるんだからぁぁっ!」

​ロリコの叫びとともに、アクアのハイブリッドシステムが、バッテリーの全エネルギーをモーターに注ぎ込む。11話のドラッグレースをも上回る、文字通りの「全開」。だが、最高速域では空気抵抗の壁が厚い。アクアは次第に引き離されていく。

​「……ダメ、届かない……! あいつら、どこまで行くつもりなのよ……!」

​前方の二台は、すでに時速280キロの領域へ。
ルルワはミラー越しに、ピタリと背後に張り付くミライースを見て、初めてその瞳に驚愕を浮かべた。

​「……バカな。あの軽自動車、この速度域でまだ加速してくるの!? ……私の10速ATが、ただのCVTに押し切られるなんて……」

​「……ルルワ! 最高速は、パワーだけで決まるんじゃない! ……この子の『意志』と、俺の『鼓動』が、あんたのレクサスを越えてみせる!」

​時速295キロ。
ミライースの車内では、あらゆる計器がレッドゾーンを指していた。
れいんの顔も蒼白だ。彼女は逢魔の腕を、無意識にぎゅっと掴んでいた。

「……逢魔。……心拍数が200を超えたわ。……これ以上は、あなたの体が持たない。……ブレーキを、戻して……!」

​「……まだだ! ……まだ、見えるんだ。……深淵の向こう側が!」

​アドレナリンが逢魔の脳を焼き、恐怖を快楽へと塗り替えていく。
その瞬間、ミライースのCVTプーリーが、軍事用プーリーの「隠されたモード」を発動させた。
極圧流体が完全に「固体」へと相転移し、変速比が理論上の限界を超えて拡大する。

​――ドォォォォォン!
​衝撃波とともに、ミライースがレクサスを抜き去った。
時速302キロ。
軽自動車が、人類が公道で到達し得る「境界線」を突破した瞬間だった。

​突き当たりの旋回ポイント。
二台は猛烈な白煙を上げながら停止した。
ミライースのタイヤは溶け、カウルの一部は風圧で引きちぎられていた。

​ルルワが車から降り、ふらつく足取りで逢魔の元へ歩み寄る。
彼女のクールな仮面は、すでに剥がれ落ちていた。

​「……完敗ね。……時速300キロの世界で、あんなに熱い鼓動(リズム)を聞いたのは……初めてよ」

​ルルワはそう言うと、逢魔の胸にそっと手を当てた。
まだ激しく打ち鳴らされているその鼓動は、彼女が求めていた「生きている実感」そのものだった。

​「……阿波ルルワ。……あんたの10速、凄かったぜ」

​逢魔の言葉に、ルルワは微かに微笑み、銀髪をかき上げた。
だがその時、後方から遅れて到着したロリコが、涙目で叫んだ。

​「……ちょっとぉー! 勝手に感動してんじゃないわよ! 私の……私のアクア、バッテリーが空っぽになっちゃったじゃない!」


​夜明けの知多半島。
勝利の余韻に浸る彼らだったが、れいんのタブレットに、一通の不気味なメッセージが届いた。


​『――300km/hの観測データ、確かに受け取った。……次は、本物の『戦場』で会おう。』


​それは、ダイハツ本社に潜む特務機関「D-ラボ」からの、最終宣告だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...