公道オートマ最速伝説『アビス・シフト(深淵の自動変速) 〜左足を封印せし漆黒の疾走者〜』

あめの みかな

文字の大きさ
26 / 30

​第26話:深淵の自動変速(アビス・トランスミッション)

しおりを挟む
​鈴鹿峠。
かつて多くの旅人が足を止め、その険しさに絶望したという東海道の要衝は、今、現代の「怪物」たちが命を削り合う最後の祭壇と化していた。

​「……逢魔、バイタル・リンク、最終フェーズへ移行。……心拍数、血圧、脳波……私の全神経も、あなたとこの子に同期(シンクロ)させるわ。……私たちの『生命』を、全てミッションの油圧に注ぎ込んで!」

​「……ああ、準備はいい。……行くぜ、ミライース!」

​――ドォォォォォン!!

​天城星哉の『ステラ・ディヴォアラー』が、アフターバーナーに火を入れ、闇を切り裂く「紫の降着円盤」となって加速した。ガスタービンの高周波が鼓膜を突き刺し、空気が焦げる匂いが山を埋め尽くす。
対するミライースは、バイタル・リンクによる「超反応」で食らいついた。逢魔の血管を流れるアドレナリンが、軍事用プーリーを限界を超えて締め上げ、エンジンパワーを一点の曇りもなく路面へ叩きつける。

​「……ハッ! 愚かな。……変速比を弄ったところで、ジェットの純粋な『推力』に勝てるはずがない!」

​天城がパドルを弾くと、ステラ・ディヴォアラーは九十九折りのコーナーを、重力を無視した旋回でクリアしていく。左右のジェット噴射によるトルクベクタリング。それはもはや、自動車の動きではない。

​「……逢魔! 焦っちゃダメ! ……コーナーの立ち上がり、相手のジェットが再始動するコンマ2秒の『空白』……そこだけが、私たちの勝機よ!」

​助手席のれいんが、逢魔の左手を強く握りしめる。
彼女の眼にも、逢魔と同じ「深淵」の光が宿っていた。
後方では、ヒロコのタントとロリコのアクアが、必死に後続の追跡部隊をブロックしていた。

​「……行きなさい、逢魔! ……あんたの『自動変速』を見せてやりなさい!」

​「……あんたが勝たなきゃ、私、一生自分を許さないんだからっ!」

​家族と仲間の叫びが、ミライースのキャビンに響く。
逢魔の視界が一点に収束し、流れる景色が止まって見え始めた。
心拍数210。
バイタル・リンクが臨界点を超え、ミライースのCVT内部では、かつて父・タダアキが夢見た「理想の変速」が具現化しようとしていた。

​「……見えた。……ここだぁぁぁっ!」

​鈴鹿峠、最大の難所「ヘアピンの連続」。
天城のステラ・ディヴォアラーが、ジェットの推力で強引にインを突こうとした瞬間、ミライースは、変速機を「ゼロ」でも「多段」でもない、連続的な『脈動(パルス)』へと変えた。極圧流体がエンジンの振動に完全共鳴し、トルクの「波」がタイヤを蹴り上げる。
​ミライースは、ガードレールの内側、わずか数センチの「溝」を走行ラインとして選択した。
溝落としではない。変速によって車体の姿勢をミリ単位で制御し、遠心力を加速力へと変換する『深淵変速(アビス・シフト)』。

​「……何だと!? 加速している……コーナーの中で、さらに加速しているというのか!」

​天城が驚愕に目を見開く。
ステラ・ディヴォアラーの紫のテールランプが、ミライースの白銀のボディに追い抜かれた。
音を置き去りにし、光を切り裂き、ミライースは霧の中から朝焼けの空へと飛び出した。

​ゴール地点、亀山側のトンネル出口。
ミライースは、全てのプーリーが砕け、真っ赤に熱を帯びたオイルを噴き出しながら、静かに停車した。
エンジンは二度と回ることはないだろう。だが、その鼻先は、天城のマシンよりも確実に前にあった。
​深い静寂が峠を包む。

遅れて到着したステラ・ディヴォアラーから、天城星哉が力なく降りてきた。
彼は、蒸気を上げるミライースのボロボロのボンネットを見つめ、乾いた笑いを漏らした。

​「……負けたよ、タダアキ。……君の息子は、君が辿り着けなかった『深淵の底』を、確かに掴んでいた……」

​朝日が昇り始める。
逢魔とれいんは、動かなくなった相棒から降り、肩を寄せ合って東の空を見つめていた。
ロリコが駆け寄り、泣き笑いの顔で逢魔の背中を叩く。ヒロコは、遠くで優しく微笑んでいた。

​「……終わったのね、逢魔」

​「……ああ。……でも、これは終わりじゃない」

​逢魔は、手の中に残った小さな変速機のパーツを見つめた。

公道オートマ最速伝説。

それは、機械と人間が一つになり、明日へと加速し続けるための、終わらない物語。


​数ヶ月後。
名古屋の街を、一台の「新しく生まれ変わった」白いミライースが走っていた。
助手席には、少しだけ髪を伸ばしたれいん。
その後ろを、ピンクのアクアと、買い物袋を積んだタントが続く。
​信号が青に変わる。
逢魔がアクセルを静かに踏み込むと、新しいCVTは、かつてないほど滑らかに、そして力強く、未来へと変速(シフト)していった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...