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第26話:深淵の自動変速(アビス・トランスミッション)
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鈴鹿峠。
かつて多くの旅人が足を止め、その険しさに絶望したという東海道の要衝は、今、現代の「怪物」たちが命を削り合う最後の祭壇と化していた。
「……逢魔、バイタル・リンク、最終フェーズへ移行。……心拍数、血圧、脳波……私の全神経も、あなたとこの子に同期(シンクロ)させるわ。……私たちの『生命』を、全てミッションの油圧に注ぎ込んで!」
「……ああ、準備はいい。……行くぜ、ミライース!」
――ドォォォォォン!!
天城星哉の『ステラ・ディヴォアラー』が、アフターバーナーに火を入れ、闇を切り裂く「紫の降着円盤」となって加速した。ガスタービンの高周波が鼓膜を突き刺し、空気が焦げる匂いが山を埋め尽くす。
対するミライースは、バイタル・リンクによる「超反応」で食らいついた。逢魔の血管を流れるアドレナリンが、軍事用プーリーを限界を超えて締め上げ、エンジンパワーを一点の曇りもなく路面へ叩きつける。
「……ハッ! 愚かな。……変速比を弄ったところで、ジェットの純粋な『推力』に勝てるはずがない!」
天城がパドルを弾くと、ステラ・ディヴォアラーは九十九折りのコーナーを、重力を無視した旋回でクリアしていく。左右のジェット噴射によるトルクベクタリング。それはもはや、自動車の動きではない。
「……逢魔! 焦っちゃダメ! ……コーナーの立ち上がり、相手のジェットが再始動するコンマ2秒の『空白』……そこだけが、私たちの勝機よ!」
助手席のれいんが、逢魔の左手を強く握りしめる。
彼女の眼にも、逢魔と同じ「深淵」の光が宿っていた。
後方では、ヒロコのタントとロリコのアクアが、必死に後続の追跡部隊をブロックしていた。
「……行きなさい、逢魔! ……あんたの『自動変速』を見せてやりなさい!」
「……あんたが勝たなきゃ、私、一生自分を許さないんだからっ!」
家族と仲間の叫びが、ミライースのキャビンに響く。
逢魔の視界が一点に収束し、流れる景色が止まって見え始めた。
心拍数210。
バイタル・リンクが臨界点を超え、ミライースのCVT内部では、かつて父・タダアキが夢見た「理想の変速」が具現化しようとしていた。
「……見えた。……ここだぁぁぁっ!」
鈴鹿峠、最大の難所「ヘアピンの連続」。
天城のステラ・ディヴォアラーが、ジェットの推力で強引にインを突こうとした瞬間、ミライースは、変速機を「ゼロ」でも「多段」でもない、連続的な『脈動(パルス)』へと変えた。極圧流体がエンジンの振動に完全共鳴し、トルクの「波」がタイヤを蹴り上げる。
ミライースは、ガードレールの内側、わずか数センチの「溝」を走行ラインとして選択した。
溝落としではない。変速によって車体の姿勢をミリ単位で制御し、遠心力を加速力へと変換する『深淵変速(アビス・シフト)』。
「……何だと!? 加速している……コーナーの中で、さらに加速しているというのか!」
天城が驚愕に目を見開く。
ステラ・ディヴォアラーの紫のテールランプが、ミライースの白銀のボディに追い抜かれた。
音を置き去りにし、光を切り裂き、ミライースは霧の中から朝焼けの空へと飛び出した。
ゴール地点、亀山側のトンネル出口。
ミライースは、全てのプーリーが砕け、真っ赤に熱を帯びたオイルを噴き出しながら、静かに停車した。
エンジンは二度と回ることはないだろう。だが、その鼻先は、天城のマシンよりも確実に前にあった。
深い静寂が峠を包む。
遅れて到着したステラ・ディヴォアラーから、天城星哉が力なく降りてきた。
彼は、蒸気を上げるミライースのボロボロのボンネットを見つめ、乾いた笑いを漏らした。
「……負けたよ、タダアキ。……君の息子は、君が辿り着けなかった『深淵の底』を、確かに掴んでいた……」
朝日が昇り始める。
逢魔とれいんは、動かなくなった相棒から降り、肩を寄せ合って東の空を見つめていた。
ロリコが駆け寄り、泣き笑いの顔で逢魔の背中を叩く。ヒロコは、遠くで優しく微笑んでいた。
「……終わったのね、逢魔」
「……ああ。……でも、これは終わりじゃない」
逢魔は、手の中に残った小さな変速機のパーツを見つめた。
公道オートマ最速伝説。
それは、機械と人間が一つになり、明日へと加速し続けるための、終わらない物語。
数ヶ月後。
名古屋の街を、一台の「新しく生まれ変わった」白いミライースが走っていた。
助手席には、少しだけ髪を伸ばしたれいん。
その後ろを、ピンクのアクアと、買い物袋を積んだタントが続く。
信号が青に変わる。
逢魔がアクセルを静かに踏み込むと、新しいCVTは、かつてないほど滑らかに、そして力強く、未来へと変速(シフト)していった。
かつて多くの旅人が足を止め、その険しさに絶望したという東海道の要衝は、今、現代の「怪物」たちが命を削り合う最後の祭壇と化していた。
「……逢魔、バイタル・リンク、最終フェーズへ移行。……心拍数、血圧、脳波……私の全神経も、あなたとこの子に同期(シンクロ)させるわ。……私たちの『生命』を、全てミッションの油圧に注ぎ込んで!」
「……ああ、準備はいい。……行くぜ、ミライース!」
――ドォォォォォン!!
天城星哉の『ステラ・ディヴォアラー』が、アフターバーナーに火を入れ、闇を切り裂く「紫の降着円盤」となって加速した。ガスタービンの高周波が鼓膜を突き刺し、空気が焦げる匂いが山を埋め尽くす。
対するミライースは、バイタル・リンクによる「超反応」で食らいついた。逢魔の血管を流れるアドレナリンが、軍事用プーリーを限界を超えて締め上げ、エンジンパワーを一点の曇りもなく路面へ叩きつける。
「……ハッ! 愚かな。……変速比を弄ったところで、ジェットの純粋な『推力』に勝てるはずがない!」
天城がパドルを弾くと、ステラ・ディヴォアラーは九十九折りのコーナーを、重力を無視した旋回でクリアしていく。左右のジェット噴射によるトルクベクタリング。それはもはや、自動車の動きではない。
「……逢魔! 焦っちゃダメ! ……コーナーの立ち上がり、相手のジェットが再始動するコンマ2秒の『空白』……そこだけが、私たちの勝機よ!」
助手席のれいんが、逢魔の左手を強く握りしめる。
彼女の眼にも、逢魔と同じ「深淵」の光が宿っていた。
後方では、ヒロコのタントとロリコのアクアが、必死に後続の追跡部隊をブロックしていた。
「……行きなさい、逢魔! ……あんたの『自動変速』を見せてやりなさい!」
「……あんたが勝たなきゃ、私、一生自分を許さないんだからっ!」
家族と仲間の叫びが、ミライースのキャビンに響く。
逢魔の視界が一点に収束し、流れる景色が止まって見え始めた。
心拍数210。
バイタル・リンクが臨界点を超え、ミライースのCVT内部では、かつて父・タダアキが夢見た「理想の変速」が具現化しようとしていた。
「……見えた。……ここだぁぁぁっ!」
鈴鹿峠、最大の難所「ヘアピンの連続」。
天城のステラ・ディヴォアラーが、ジェットの推力で強引にインを突こうとした瞬間、ミライースは、変速機を「ゼロ」でも「多段」でもない、連続的な『脈動(パルス)』へと変えた。極圧流体がエンジンの振動に完全共鳴し、トルクの「波」がタイヤを蹴り上げる。
ミライースは、ガードレールの内側、わずか数センチの「溝」を走行ラインとして選択した。
溝落としではない。変速によって車体の姿勢をミリ単位で制御し、遠心力を加速力へと変換する『深淵変速(アビス・シフト)』。
「……何だと!? 加速している……コーナーの中で、さらに加速しているというのか!」
天城が驚愕に目を見開く。
ステラ・ディヴォアラーの紫のテールランプが、ミライースの白銀のボディに追い抜かれた。
音を置き去りにし、光を切り裂き、ミライースは霧の中から朝焼けの空へと飛び出した。
ゴール地点、亀山側のトンネル出口。
ミライースは、全てのプーリーが砕け、真っ赤に熱を帯びたオイルを噴き出しながら、静かに停車した。
エンジンは二度と回ることはないだろう。だが、その鼻先は、天城のマシンよりも確実に前にあった。
深い静寂が峠を包む。
遅れて到着したステラ・ディヴォアラーから、天城星哉が力なく降りてきた。
彼は、蒸気を上げるミライースのボロボロのボンネットを見つめ、乾いた笑いを漏らした。
「……負けたよ、タダアキ。……君の息子は、君が辿り着けなかった『深淵の底』を、確かに掴んでいた……」
朝日が昇り始める。
逢魔とれいんは、動かなくなった相棒から降り、肩を寄せ合って東の空を見つめていた。
ロリコが駆け寄り、泣き笑いの顔で逢魔の背中を叩く。ヒロコは、遠くで優しく微笑んでいた。
「……終わったのね、逢魔」
「……ああ。……でも、これは終わりじゃない」
逢魔は、手の中に残った小さな変速機のパーツを見つめた。
公道オートマ最速伝説。
それは、機械と人間が一つになり、明日へと加速し続けるための、終わらない物語。
数ヶ月後。
名古屋の街を、一台の「新しく生まれ変わった」白いミライースが走っていた。
助手席には、少しだけ髪を伸ばしたれいん。
その後ろを、ピンクのアクアと、買い物袋を積んだタントが続く。
信号が青に変わる。
逢魔がアクセルを静かに踏み込むと、新しいCVTは、かつてないほど滑らかに、そして力強く、未来へと変速(シフト)していった。
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